イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第5話『通信障害 -システム・ダウン-』感想

義体少女とガイノイドがちょっとずつ自分を見つけていくサイバージュブナイル、今回は生身じゃないから恥ずかしくないもん!
機械化された身体と能力に対し、福音くんが感じる『申し訳無さ』にクローズアップしつつ、無垢なる機械クラリオンの支えで自分を認めていくという、非常にストレートな青春の話だった。
地元群所属のいい人も顔を見せ、諏訪部声がブエルをいじり倒す悪影響も描写され、色々あった回でした。

『べにいろモザイク』『普通の女子高生が"ウィザード級ハッカー"やってみた』などなど呼ばれ、ゆるーい日常的側面が強調されがちなこのアニメ。
しかし今回取り上げた『義体は偶有的に獲得した肉体ではないため、その拡張された能力を自分のものだと思えない』『機械的に拡張されていく身体感覚を、自分の力だと誇るために必要な足場』という問題は、かなり真正面から思弁的だったと思います。
福音くんは両親への想いも強いので、脳以外に生物的・遺伝的フェティッシュを失ってしまった現状を、全面的に肯定する『理由のなさ』がない状態なんだろうな。
いろいろ考え過ぎちゃうというか。

一人で考えてたら袋小路に陥りそうなんですが、福音くんにはクラリオンがいる。
『人間は生来の身体のみで構成されるわけではなく、技術も社会も人間関係も、健全な自己の延長である』『目的は手段をある意味で正当化する』という福音理論へのカウンターは、なかなか素直かつクレバーな答えになっていて、機械生命故の知恵と無垢さを活かしていたと思います。
冒頭のシャワーシーンにしても、福音くんに知らないおじさんが近づくなり『フシャー!』ってなるところといい、ジワジワと距離が詰まってきた描写が上手く挟み込まれていて、クラリオンの正論を受け止めやすくなってるのが良い。
受け止めて欲しい相手にちゃんと受け止めてもらえたら、そら『あなたは一人じゃない』って綺麗事も、自分のものとして納得できるよねっていう。

やっぱ福音くんとクラリオンの関係性描写は僕凄く好きで、人類以上と機械生命がお互い相補いながら大事なことを学んでいく、ゆったりとしたペースが良い。
福音くんは能力的にも人格的にも超人で、しかし同時に等身大の16歳でもあって、杓子定規すぎて人倫をよく知らないクラリオンと二人三脚で青春を歩いて行く姿勢が、凄く好ましいんだよね。
どっちか転びそうになると、どっちかが手を差し伸べる関係というか。
この古典的とも言えるジュブナイルに巧くSF設定を組み合わせて、人格的成長物語と仮想世界を掘り下げる楽しみが咬み合って進むところが、このアニメの好きなところだ。

SF要素といえば、何かと要素がかぶる"Dimension W"と同一タイミングでシャワーシーンが描写されて、同じ絵面で強調したいものが間逆だったのは、個人的に凄く面白い。
ミナのムッチリとした肉体描写は、その前後に来る恐怖の反応と合わせて『彼女は機械だけど人間ですよ!』ということを強調するのに対し、謎の光も入らず乳首も描写されないこっちの子たちは『彼女は人間だけど機械ですよ!』というメッセージが入っているように思うのだ。
防水シールを貼らなければシャワーも浴びられない彼女たちはしかし、過剰なくらいに元気よく女の子しており、『機械であること』と『機械に見えること』の差異はどこにあって、どう対応してくべきなのか、凄く価値観がグネグネした。
この『価値観グネグネ』はよく出来たSF(にかぎらずファンタジー)を読む時の、最大の快楽の一つなわけで、ゆるーい外見に似合わわずSFマインドのある話だと思う。


そんな二人は今日も世界に飛び出し、ブエルをイジった結果全島的に発生している通信障害に巻き込まれる。
彼女らは世界に愛された特権的な主人公なんだけど、そうではない人たちの厄介事にどんどん首を突っ込んで、『ぶっ殺す』以外の方法……飯作るとか、救急救命するとかで世の中を良くしていく。
光学迷彩による早着替え(下腹部に手を突っ込むオマケ付き)』というヴィジュアル面だけではなく、魔法少女モノの良きエッセンスをしっかり再現しているのも、好きなポイントです。

今回助けたお婆さんは片手がサイボーグであり、世代を飛び越えて機械化に適合している福音くんの、いわばプロトタイプ。
その上で、福音くんが悩んでいる人生の問題に関しては当然先輩であり、特権的な電脳能力だけでは全てが解決しないよう配置したのは、ジュブナイルとしてうまい作りだ。
『借り物の力』であるパンドーラデバイスを肯定的に使いこなすことで、人命の危機を救うポジティブな結果にたどり着くこと含めて、今回のお話はサイボーグ少女の青春としてよく出来ていたと思う。
お婆さんが昏倒するシーンと、福音くんが発見するシーンの間におじさんとの接触を挟んだため、ちっと緊迫感が削がれたのは残念だったけども……どんだけしぶといんだよと感じてしまった。

軍のおじさんは根本的に良い人っぽく、諏訪部声が代表する『サイバーパンクのイヤな部分』に大人サイドからカウンターを当ててくれそうな予感がする。
魔法少女モノとジュブナイルの類型を丁寧になぞりつつも、『サイバーパンクのイヤな部分』をけして排除はしていないこの作品で、主人公達の無垢さを超えた先でなお、綺麗な信念を維持している存在がいるってのは頼もしい。
主役二人のイノセントな前向きさは大事なんだけど、それだけだと思春期的特権性だけで話が終わっちゃうからね。
この話非常にポジティブなので、『世の中捨てたもんじゃないぞ!』と動きで証明してくれる大人がいると、ビシっと安定感が増す気がするのよね。
シロマサ世界の『サイバーパンクのイヤな部分』は尋常ではないので、対応も大変だと思うけど……諏訪部声、マジ性格最悪っぽいからなぁ。

そんなわけで、福音くんとクラリオンが人生に出会うお話でした。
このお話、実はずーっと二人の人生的冒険のお話からカメラがぶれていなくて、百合的表現があるにしても、彼女らの人生とちゃんと繋がって描写されてるところが好きなんね。
『今後もこの子たちに色んな人や事件と出会って、色んな事を学んで欲しい。それを見守りたい』と思えるキュートさが作品にあるのは、凄く強いことだと思います。
ぶっちゃけ作画はヘロヘロしてきたが、やっぱ楽しい紅殻のパンドラでした。