イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第174話『私のMove on now!』感想

無数の星たちの物語が集約する特異点、ついにスターライトクイーンカップ開幕! な第174回。
先頭を切ったのは四年目のニューカマーとして短い物語を走り切った白樺リサと、四人目の二年生として時に道化を、時に才女を演じてくれた紅林珠璃でした。
第168話を踏まえ、これまで徹底的にコンビとして描写されてきたリサっぺをののと切り離し、神崎美月へのあこがれと緊張を珠璃が母親に感じるそれと重ね合わせるそれは、なかなかよいまとめでした。

北海道からやってきた二人を常にセットで扱い、その強い絆で駆け足のアイドル活動に説得力を持たせていく四年目の話運びは、基本的に正解だったと思います。
ルミナスのジャパン・ツアーに時間がとられる中で、ののとリサは北海道でアイドルに出会い、スターライトにやってきて、輝きを見つけられてCMに出て衣装をもらい、自分たちなりのアイドル活動を走ってきた。
他のキャラクターに比べ早足で圧縮気味ではあったけど、濃厚な関係性の描写をうまく活かして、ののリサはかなり分かりやすいガッツストーリーを走ってきました。

しかし同時に、常に束で扱われることは白樺りさ個人のキャラクター性や願いを掘り下げにくいことを意味し、セルフ・プロデュースを旨とし、どれだけ大事な人がいたとしてもその手を話すことを肯定してきたアイカツ世界の中で、どこか不健全な空気をまとってもいました。
そこを切り離し個人としての白樺りさを取り上げていくのが第168話だったのでしょうが、どうにも踏み込みが甘く、きっぱりとした答えを出しきれなかった印象を受けました。
しかし今回、あえてののではなく珠璃と美月という先輩世代を壁に選ぶことで、ギリギリ白樺りさ個人のアイカツに説得力を加える形で、彼女の物語が終われる気配を感じることが出来た。
とても良かったと思います。

リサが震えるほどに焦がれ、愛するが故の重圧を感じる相手が神崎美月なのは、アイカツを古い時代から見続けた視聴者ほど、頷ける選択でしょう。
悪意が存在できないアイカツ世界を一人で背負い込み、非人間的な強さでアイカツの象徴をやってきた彼女ほど、誰かが追いかける背中に相応しい存在はいない。
神崎美月が背負っていた物語の説得力を知っていればこそ、ぶっちゃけいきなり出てきたリサッペの美月マニアックには納得がいきます。

リサ-美月の個人的な関係性だけではなく、『誰かの背中を追いかけて、重圧に震えつつ走る姿』というのは、アイカツで何度も繰り返されたモチーフです。
星宮いちごのポーザーとして学園に飛び込んだあかりにしても、偶然を味方につけて運命的な出会いをしたいちごにしても、アイカツの主役たちは皆、誰かの背中に憧れ、そこからバトンを託されて走ってきた。
第1話、一番最初の3Dステージで使われた"Move on now"が、三年半続いた物語の終局になるSLQCの始まりを告げる曲になったのも含め、今回のリサの悩みにはこれまでの三年半がさり気なく盛り込まれています。


しかしそういう歴史を踏まえつつ、アイカツはいつもの様に少女の個人的な物語を大事にしており、プレッシャーに震えるリサに助け舟を出すのはのの……ではなく珠璃です。
作中でも振り返られていますが、彼女が物語に登場した第109話は非常に完成度が高く、野心的なエピソードでした。
いちご世代が持っていなかった『マザー・コンプレックス』という深い人間的陰影を乗り越え、自分自身を認められるようになった一少女の成長と完成を、一話にギュッと濃縮したお話でした。
ぶっちゃけ紅林珠璃のキャラクター的な変化というのはあの1話で大体終わっていて、そこからは三パン作画を駆使したオモシロキャラと、情熱が迸る天才性を使い分ける、安定したサブキャラクターという立場に落ち着きます。
その上で、例えば第115話で普通の女の子の幸せを噛み締めたり、第132話でずっと自分を認められないひなきの可能性を受け止め(もしくは、ひなきに自分の天才性を受け止めてもらっ)たり、安定しつつも発展性のあるエピソードを展開できるのが、アイカツの強いところですが。

今回リサが振り回される『愛していればこそ気にかかる』『誰かの背中に憧れ、方向性を見失ってでも走る』という、アイカツ世界で許されるギリギリのネガティブさを、珠璃はその登場で非常に見事な形で表現し、突破し、完成させています。
そんな彼女が同じ問題を乗り越えた先輩として、リサのメンター役になるのはベストなチョイスだし、お話が収まろうというこの局面で、紅林珠璃がどんな女の子だったか思い出す意味でも、リサの問題共有は妙手でした。
母への複雑な感情を乗り越え前に進んだからこそ、珠璃は思う存分賑やかでうるさく、常に面白いアイカツの太陽だった。
自分だけの輝きを信じればこそ、他人がついていけないほど感性を迸らせ、それを凡人中の凡人・ひなきに翻訳してもらうことで社会性を獲得できた。
今回展開されたリサと珠璃の語り合いは、リサとののの幼い癒着の季節を健全に終わらせると同時に、一年半アイカツを盛り上げてくれた紅林珠璃を振り返る、凄く良い対話でもあったと、僕は思うのです。

半年間走ってようやく一人の自分を見つけたリサと、最初の物語で揺らぐことのない自分を見つけて一年半安定していた珠璃。
二人のアイドルが期せずして同じセクシー属性で、どちらも華やかさと艶やかさのあるステージを展開しつつしっかり紙一重の優劣がつく展開も、SLQCの出だしとしてはとても良かったです。
人生の迷い路を導く助言者でありながら、しのぎを削りお互いを高め合うライバルでもある。
二年目のアイカツはこの関係を正面に据えつつも掘り下げきれなかった感覚があり、どこかで取り返して欲しいとずっと願っていました。
四年目終盤の展開は、その望みを叶えてくれるシビアな勝負論を、しっかり作り上げています。

遠景としてはさくらが戴冠した第124話から、近景としてはルミナスジャパン・ツアーを終えた第166話から、失われた『アイカツの天井』神崎美月の代わりに、SLQCこそが『アイカツの天井』であり目指す場所なのだという説得力を、このお話は積み上げてきました。
そこで交わされる勝敗『だけ』が価値なのではなく、そこを目指し本気で闘う姿勢そのもの、そこを突き抜けて手に入れる未来もまた、全て価値なのだという綺麗事が素直に受け入れられるよう、丁寧にロジックを組んできた。
『戦うなら勝ちたい』と明言するルーキーの野心、競い合うライバルの言葉で迷妄を抜ける矛盾と止揚、必死に走り切った先で託される憧れのバトン。
今回のお話は、おそらく製作者が優しい世界の中に込めた真摯さとか、戦いの意味とかが凄く健全に発露し、闘争の物語だけが持つ熱をしっかり宿していたように思うのです。

珠璃が勝ちリサが負ける説得力を、3Dステージの中に様々な形で組み込んでいたことも、非常に良かったです。
エンシエロ篤渾身の新作ドレスは、凝ったライティングとカメラアングルの助けもあって最高に扇情的かつ鮮烈だったし、オーラが出るタイミングでアイドルとしての経験値の差、『格』の違いを出していたのも、台詞のないステージ表現で物語を語ろうというアイカツの努力を、強く感じました。
同じ『セクシーなステージ』という方向性を共有しつつも、表情付けや仕草、ライティングなどを完全に切り替えて、『神崎美月のコピー』『紅林珠璃のものまね』で終わっていない『白樺りさのMove on now』をしっかり表現していたのは、彼女の半年間に最大限の敬意を払った、立派な表現でした。
バックモニターでのシルエットのダンスが、リサっぺとシンクロしているのが凄く気持ちいい。


白樺リサの自立の話としても、紅林珠璃の総決算としても、ようやく一アイドルになった神崎美月がバトンを託す話としても、ライバルにして仲間という理想の関係性の体現としても。
非常に良くまとまり、メッセージ性とテーマ性のある、見事なエピソードだったと思います。
戦うこと、勝つことの意味をしっかり捉えつつも、それだけに終わらない優しい関係をちゃんと描く。
もしくは、優しい関係がもつ腐敗から距離を取り、健全で風通しの良い生き方を続けるために、競い合う場所の意味を再定義する。
これまでのアイカツが語り続けてきたことを、珠璃とリサに託してもう一度語り直すことで、SLQCが持っている意味、あかりジェネレーションが終わることの意味、アイカツが三年半語ってきたことの意味を確認する、良い話でした。

しばらく続くであろうアイドルたちの超新星爆発を走り切った後、アイカツも終わります。
その時何が語りきられているのか、強く期待できるということ。
その時何かが語りきられているということを、強く信頼できるということ。
その二つを確信できるお話が、その出だしにやって来るSLQC。
来週以降が、とても楽しみです。