イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第36話『約束の夜へ』感想

◇はじめに
希望が絶望へ、絶望が希望へと相転移する瞬間のカタルシス、うしとら大逆襲のクライマックスですが、その裏では一人の復讐者が命を燃やしているのでした……。
先週の『うおっしゃー!! これで底打ったろ大逆転よ!』という空気を引き継ぎ、みんなが出来ることやって白面をどんどん追い込んでいく展開……なんだけどさすがラスボスまだまだ強くて、ここで紅蓮が来たら大ピンチ!!
という盛り上げを巧く活かして、ヒョウさんが復讐を完遂して本来の自分に戻り、家に帰る展開に大きな意味を作る構成でした。
本筋を展開させつつ、キャラクター個人の物語をしっかり閉じさせるバランスが良いよなぁ。


◇Revenge For All
記憶を奪い武器を壊し憎悪に暴走させ、白面がたっぷり圧力をかけてくれたおかげで、今週の反撃ムードは非常に盛り上がりました。
やっぱ『奪うためにはまず与えるべし。開けるためにはまず閉ざすべし』というシグルイ理論は、物語性性において正しいね。
逆転ムードなんだけど、潮は赤い布を切り取って帰れぬ戦いに赴き、小夜は命をかけて冥界の門を開くという、代償を支払ってぎりぎりイーブンに持ち込んでる描写を忘れず挟むのが、緊張感を維持する秘訣なんだろうな。

この話は個人的エゴの怪物である白面と、人間妖怪の垣根を超えた団結の戦いでもあるわけで、ただ潮が自分を取り戻したから勝てる! とはしないバランスも良い。
小夜にしろHAMMERにしろ妖怪にしろ坊主にしろ、全員が力を結集して決戦のリング(和羅様結構ナウい言葉使いますね)を整える展開は、誰も手を抜いていない必死さがしっかり出るし、これまでのお話が束になって意味を成すカタルシスもあるしで、本当にうまい。
砕けることで『みんな』を助けた槍が潮のもとに戻るとき、『みんな』の思いが潮に伝わる運動も、主人公が一人で戦っていない感じが強く出ていて非常にグッドでした。
槍が復活する流れは正直ロジック無視の力押しだが、なんかそれが許される空気もしっかり生まれてるんで全く問題ないのだ。

前回一人でバトルシーンをもたせていたとらちゃんはお姫様よろしく気絶し、潮に抱えられて気絶してる間に告白され、一人復活の時を待つ展開。
ここまで書いて、うんでぃーねで旅立つ時の潮と麻子とのやり取りそのまんまであることに気づき、やはりとらちゃんはヒロインだなぁという気持ちを強くする。
『腕の一本もくれてやりてぇけど、これでかんべんしてくれ』と己の血を与えるシーンは、潮ととらが積み上げてきた絆の太さをつくづく思い知らされる名シーンであり、同時にこの後とらちゃんが復活する理由を整備するシーンでもあるのよねぇ。
とらちゃんはあくまで人食いのバケモノなので、潮の血肉を受け取ってパワーを取り戻すのは非常に彼『らしい』復活劇なのだ。
潮が『お前の過去をのぞき見ちまったッ!』と告白するのは、人の尊厳を常に重んじていた彼らしいこくはくであり、生き死にの場所ですら触れちゃいけない魂の柔らかい場所に気を配れるからこそ、潮はこの話の主人公なのだね。

色んなアツさを結集して『白面を追い込む説得力』を積み重ねる展開ですが、白面の抵抗も当然激しく、毛筋一つ戦力バランスが崩れればヤバい、という緊迫した状況をうまく作っています。
これがあればこそ紅蓮を呼ぶ白面の叫びに『ヤバいッ!』とも思えるし、その叫びが虚しくなる安心感、それを実現させたヒョウさんの奮戦の意味も強くなる。
遠く離れた場所での戦いを上手く結びつける描写で、すげー巧いなぁと何度目か判んない関心をしてしまいました。


◇Revenge For One、Revenge For Someone
Bパートはヒョウさん最後の独壇場でして、復讐鬼の凄みと哀しさ、守るものの強さを全て込めた激戦が展開されました。
修羅の表情で血を吐くようなセリフを演じるのも、気のいい親父の明るい演技をするのも同じ人間だってところに、役者という職業の凄みを感じた。
悪辣極まる紅蓮を演じきった若本さんも素晴らしくて、圧力のある絵作りをする作画スタッフも、それが生きる画面を作る演出スタッフも、参加する人皆が全力なこのアニメはやっぱ凄いなぁと思います。

物語が始まった時から復讐者だったヒョウさんは、槍や一時期の潮が囚われていた『白面の力となる負の感情で戦っても、白面には勝てない』という問題をキャラクターの主題にした存在といえます。
憎悪と恨みが複雑に絡み合ったこの問題を乗り越えるべく、今回のお話(と、その足場になるこれまでの描写の積み重ね)にはいろいろな仕込みがしてあります。
憎悪だけで戦ってきたヒョウさんが潮と出会い、やり場のない気持ちを叩きつけることで変わる切っ掛けを手に入れたこと。
悲劇がなければ、小さな幸せを守り育んでいけばいい普通の暮らしが可能な、ただのお父さんだという描写が鮮烈なこと。
凄惨な復讐鬼として描かれがちだったヒョウさんですが、実はただそれだけではなく色々な傷を背負い、それを乗り越えて紅蓮と対峙しているのだという描写は、これまでも今回もとてもうまく行っていました。

今回守るべき親子を背中に背負うことで、かつて守れなかった妻と娘を守り切るという過去の精算、復讐のためだけではなく守護のためにも戦うという新しい価値観、両方がしっかり描けていました。
もちろんあの親子はハイフォンとレイシャではないんだけども、ヒョウさんを復讐鬼から親父に戻すためにはどっかで身を切るような後悔を昇華して上げなきゃいけなくて、そういう意味でも最後に守ったのが『母娘』であるのは大事なのだ。
ヒョウさんが復讐の修羅になったのはもともと残忍だったからではなく、奪われたものがあんまり大きすぎて、それが無くなった後の穴に憎悪を貯めこむしかなかったからで、それはもう一人の復讐鬼であるギリョウさんや字伏なんかとも同じなのよね。
その憎しみを乗り越え、守るべく戦い守り切って死んでいく姿は、ある意味これからの白面戦の予言であり、希望でもあるのだな。
でもやっぱ、ヒョウさんが死んじまってオレは寂しいよ……帰るべき場所が喪われている以上、こうなるしかねぇんだけどさ。

前向きな価値を称揚すると同時に、復讐それ自体を否定はしないのもヒョウさん絡みの展開の良いところで、他人の痛みを貪ることしかしないド外道は殺すしか無いという、シンプルな答えの気持ちよさがある。
ここら辺は紅蓮の悪辣さがよーく効いてるところで、ヒョウさんと親子を嬲り、煽り、思い上がって罠にハマるクソ悪役をえげつなく描いているから、納得がいく死に様なのだ。
無様に『しにたくねぇえええ!!』と吠えながらで死んでいく辺り、ホント救いようがないクソ外道過ぎて素晴らしい。

他人を無条件に傷つける暴力を止めるために行使するとき、暴力は暴力でありつつ正義の様相を帯びるし、同時に凄く哀しい暴力それ自体でもあり続けるっていう二面性が、紅蓮とヒョウさんの話には上手く練りこまれていると思う。
紅蓮の暴力で家族が奪われなければ、ヒョウさんも暴力を行使する復讐鬼にはならなかったわけだし、自分の人生をねじ曲げた暴力に自分自身も傷つきつつ、自分のように人生を捻じ曲げられる哀しみを遠ざけていたヒョウさんの生き様は、痛くて寂しくて、強くてかっこいいものだった。
そうやって傷つくことでしか自分を表現できない『戦士』の生き方は流にもとらにも通じていて、誰かの傷ついた生き方を直せる潮の生き方とはまた違う価値を、このお話に生み出していると思いました。


◇まとめ
というわけで、未来の為に戦うモノ達と、過去を取り戻すために戦った戦士の物語でした。
ヒョウさんが守り切った現在の希望を、潮たちはどう受け取り白面に叩きつけるのか。
潮と入れ替わりで昏睡主人公になったとらちゃんは、どんな大復活を見せるのか。
クリアマックスが止まらないうしとらアニメ終盤戦、来週もヤバいッスよマジ。