イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第9話『岩屋に鬼が嗤う』感想

しかめっ面で悩まなくてもロボットに乗れるゆったりロボアニメ、今週は二人目の敵。
心の置き所を見失っていた由希奈がお父さんロボに助けられ、剣之介に素直になってもらい、それなりに前向きにクロムクロに乗れるようになるまでのお話でした。
赤城が哀しいまでの噛ませ犬を担当してくれたおかげで、剣之介の度量と覚悟もはっきりと見え、俺やっぱこの二人好きだなぁと思い知らされる展開に大満足。
異形の殺陣含めた戦闘の組み立てもナイスで、見応え充分のお話となりました。


そもそも由希奈がなんで山中を彷徨うことになったかと言えば、前回の美夏の言葉を借りれば『ちょっと拗ねているだけ』ではある。
しかしその根底には、上手く距離感を掴めないまま失踪してしまった父親への不満と慕情があるわけで、青いカクタスに連れ込まれた、夢とも現とも付かない場所で父親の真意を知ることで事態全てが好転していくのは、結構納得がいく流れです。
いきなりヒューマノイドを殺し自分も命を狙われる『戦場』に放り込まれ、お母さんに優しくしてもらおうと思ったらビンタされ、自分自身も、本心の一部ではあっても全てではありえない父への悪態などついてしまう。
混乱した状況が流れ流れてあの山に行き着いたこの状況、その根本にある父へのコンプレックスに一つの答えが出れば、母の気持ちもわかってくるし、自分が置かれた状況を見つめなおすことも出来ると。
あの血まみれのノートは、由希奈の迷い路に終止符を打つ物語的要石だったわけです。

『戦場』のシビアさに人格全てを飲み込まれるわけではなく、『ちょっと拗ねている』程度の混乱で収まってしまう由希奈に、一種の真剣味のなさを感じる人もいると思います。
僕個人としては、混乱する状況に揺らぎつつも自分を保ち、剣之介や小春を思いやる優しさを捨て去らない彼女の中途半端さは、とても好きです。(なのでその象徴たる『餃子』を、剣之介が褒めてくれたことは最高にグッドナイス)
剣ちゃんが『なんにもないし、鬼に勝ったら自殺する』と言い続けることにこだわるのも、やっぱ彼女が優しい子だからで、僕はポヤポヤしてるけど優しい子が、とても好きなんです。

その感情には彼女個人への好感ももちろん含まれているんだけど、中途半端な(言い換えれば、極端な感情表現に逃げない)彼女を主人公に据えることで、新しい地平が見えてくることへの好感があると思います。
『日常が破壊され、非日常に全てが取り込まれる』というのはロボアニメにおける強烈な物語類型であり、何度も繰り返されてきましたが、このアニメは富山への徹底的なロケーションも含めて、『戦場』を『非日常』ではなく『もう一つの日常』として描こうとしています。
拒絶し、もしくは飲み込まれてしまうあまりに大きなものではなく、対話し対立し、なんとか心地よい距離を探るべき異質な場所。
『戦場』を背負う剣之介もまた、由希奈に代表される『平和な現代』に対し、難しいしかめ面ではなく、あくまで自然な好感と歩み寄りの気持ちで対応する、穏やかで焦らないロボアニメ。
この作品全体のペーソスはやっぱり、新しいものに戸惑い時に感情を爆発させつつも、否定してもやって来てしまうんだからなんとか慣れるしか無い『日常』との間合いを探りあう、二人の主人公が醸しだすものだと思っています。
そして僕にとって、そのペーソスは妙に懐かしくも新しくて、凄く楽しいものなのです。

あの青いカクタスが父・白羽岳人であることはかなり明確に示唆されていると思いますが、エフィドルグと接触したあと生身の体を失ってカクタスに意識を写したのか、はたまたカクタスが人間の意識を使って動いているのか。
後者だとすると、エフィドルグが人をさらう理由もつくわけですが、ここら辺は今後明かされていくんでしょうね。
持ち前の優しさで父の真意を理解したとはいえ、由希奈にとって喪われた父は大きい存在ですし、それがメカメカしくなっちゃてればなおのこと。
そこら辺の謎も、今後うまく解明していってほしいものです。


父の言葉で心の地ならしをしたものの、逃げ出した場所に戻ってくるためには切っ掛けが必要になります。
先週からずーっと必死に由希奈を探していた剣之介との言い争いは、お互いの心を収め合うために必要な儀式であり、(痴話?)喧嘩を通してお互いの望みを知り合う対話でもありました。
今回の言い合いもまた、和尚の導きでひとつ屋根の下共同生活を始めたように、一緒にモールに行って買い物をしたように、小さな小さなまいんちを積み重ねていくことで450年の時間を飛び越え、人と人が分かり合っていく過程の一つなわけです。
その一つの成果として、お揃いのパイロットスーツが新調されるのも、博士がどう見てもマッドサイエンティストな早口で喋りすぎるもの、両方良かったなあ。

剣之介もまた優しいやつで、一人生き延びてしまった不甲斐なさや虚無感に苛まれつつも、由希奈を探すべく駆けずり回り、『お前の死に場所探しに、白羽を巻き込むんじゃねえ!』という赤城の言葉にグサッと来たりする。
由希奈の自由意志を奪って傀儡に変え、鬼への恨みを晴らす道もあったんでしょうが、剣之介は一人で死ぬ道を選び、由希奈はそれに納得出来ないから一緒に乗ることを選ぶ。
お互いの優しさの衝突とすり合わせは、とてもテンポよくコミカルに描かれ、見ていて楽しいものでした。
言い合いの理由が相手を拒絶するためではなく、相手をより良く受け入れるという優しさベースなのが、俺があの二人を大好きな理由なのだ。

剣之介と由希奈がお互いを思いやり、それぞれの意思を大事にしたいと願っている関係なのは、これまでの話で丁寧に追いかけた交流からも自然なことです。
しかしそういう優しさだけではなく、由希奈には戦場への怯えや父への不満、母への反発があり、剣之介は時代に取り残された孤独、死ぬべきとこに死ねなかった後悔がある。
三話にわたって続いた由希奈と剣之介の小さな迷走は、これらの感情が落ち着きどころを見つけ、それぞれ適切な距離を見つけるまでの旅路として受け取ることが出来ます。
他人を思いやるプラスの心と、と吹き溜まるマイナスの感情、両方を等価に『人間らしさ』として受け止め、その変化や爆発をじっくりと描いていくこのアニメの筆は、やっぱ僕には凄く好ましいですね。

由希奈がクロムクロに乗る最終的な切っ掛けが『言い方』なのも、すごくこのアニメらしいと思いました。
『戦う意味』は由希奈にはまだ遠いけど、少なくとも自分がクロムクロに乗る限り剣之介は自殺しないし、オペレーターとして世界を救うヒーローとして必要とされる。
父の時のように、一人取り残されて『ずっとモヤモヤして、嫌な気分になる』こともない。
そういう身勝手でコンパクトな願いを状況とすりあわせ、自分の気持の落ち着きどころを用意する上で、『言い方』が大事なのは僕には腑に落ちる表現でした。
そういう『些細』な事で『ロボットに乗る/乗らない』っていう一大事が決まる雰囲気ってやっぱ、独特だけど魅力的なのよね。

感情をどのような形で表現するかで、人が傷つくか癒やされるか変わってしまうというのは、例えば洋海ママンを見ていても分かります。
あの人は娘を大切に思っていて、でもその方言の仕方(『親らしいこと』の上手いやり方)がわからない、すげー不器用な人です。(ここら辺は『由希奈も嘘つき呼ばわりされないかもしれない』と直接言えなかったパパンも同じ。似たもの家族だ)
そういう母の不器用さを由希奈も分かっていて、仕事で家にいない間の家事を担当したように、クロムクロに乗ることを自分の意志で選択し、母の暴走した庇護欲を拒絶する/もしくは受け入れる。
それはやっぱ、剣之介が自分から頭を下げ、由希奈の感情を受け止める姿勢を示したから可能な行動だと思います。


由希奈の当惑を真っ直ぐ見つめ、自分の真心を差し出すことでより良いコミュニケーションにたどり着いた剣之介に比べ、赤城は終始空回っていました。
『二人で逃げよう』『本当は乗るのが怖いんだろ?』
赤城の言葉は、『フツーのロボアニメの定番展開』なら、『戦場から逃げ出したパイロット』である由希奈に刺さっていたと思います。
しかし由希奈はそこまでシビアにクロムクロを拒絶しているわけではないし、オペレーターという形で特別になり、世界と剣之介に必要とされることに喜びも感じている。
喜びと戸惑い、恐怖と使命感両方を本物として受け取り、そのバランスを取る由希奈の小さな心の揺らぎに時間を使ったこのアニメにおいて、赤城の薄っぺらいヒロイズムは自意識過剰の空回りでしかないわけです。

大事なのは富山力に満ちた実感のある言葉であって、親父さん曰く『何事もやり通せない、何者にもなれない』王子様もどきの言葉では、由希奈の心は動かないし、過去行った疎外の事実が消え去るわけでもない。(ここら辺も『言い方』かな)
赤城と剣之介の差異は戦場への慣れ、覚悟の総量……つまり『強さ』であり、同時に由希奈が何に戸惑い、何を大事にしているのか真摯に受け取り、自分の気持を振り回すだけではない『優ししさ』でもあるわけです。
『強さ』と『優しさ』が『人間らしさ』の中で同居しているってことはつまりハードボイルドであるってことで、『オレが白羽を守る!』と噴き上がった瞬間、銃やミサイルという『戦場』の現実にビビり倒す赤城では、日本刀を刺したフィリップ・マーロウには太刀打ち出来ないよね……少なくとも現状じゃ。

剣之介は姫という一番大事なものを既に失っていて、そんな彼から出てくる『命に変えてもお前を守る』という言葉は、『フツーのロボアニメの定番展開』をなぞる赤城の言葉とは、重みが違います。
命や後悔と向かい合い、それ故『優しく』て『強い』剣之介が由希奈に選ばれる今回の展開は、ポップで捻ったスタンスでロボアニメを描きつつも、このアニメが一番大事なものをないがしろにしていない証明だった気もします。
クロムクロに乗ってください』という剣之介からの提案を飲む代わりに、由希奈が提示した条件が『勝手に死なないこと』だったのも、このアニメが命を話しのど真ん中に据えて展開しているからこそでしょう。

赤城や茅原は『戦場』という新しい日常に『平和な学園生活』というこれまでの日常のルールを勝手に持ち込み、結果として自分の命も軽んじている存在です。
剣之介を前に空回りをすることで、未熟さと補うべき欠損が見えた赤城には成長の余地がありますが、自分の命すら気にした様子がない茅原は、何か薄ら寒い欠落を感じてしまいます。
赤城は今回見せた無様さを一歩ずつ克服していくドラマが見えたんだけど、茅原はなんというか……思考形態が異質なエイリアンにしか見えない。
逆に言うと彼の異質さを際だたせることには見事に成功していると思うので、どういう使い方をしてくるか、今後が楽しみでもあります。


んで、本物のエイリアンとはロボットに乗って正面からバトルし、前回のようにハラキリ自爆するかとおもいきや投降してきた。
ロングアーム戦は四臂を活かした二刀+長刀の異質な殺陣が無茶苦茶かっこ良く、クロムクロの重量が射出レールに負荷をかけすぎGAUS隊が遅れる展開も上手くピンチを作っていて、とても良かったです。
『敵のBOSSを相手取れるのはクロムクロだけだが、数で押されると不利』という描写は散々やってきたので、後詰が遅れるだけでピンチとチャンスを両方しっかり作れるのはいいよなぁ。

このアニメの戦闘描写は選ばれた主人公の特別性をしっかり確保しつつ、周囲の人々の役割も重視し、脇役や顔のないモブにもやることがしっかりあるのが、とても良いと思っています。
今回もトラクタービームの隙を突いての弾道ミサイル攻撃あり、きときと空港決戦で露呈した火力不足を補う新兵器ありで、見せ場のバランスが気持ちよく維持されていました。
弾道ミサイル攻撃はママンが過剰な保護欲との付き合い方を見つけて、子離れの第一歩を踏み出す描写としてもなかなか良かったですね。

アクションの中でのドラマ描写といえば、由希奈がオペレーターとして処理できる情報が増えていたこと、剣之介に作戦の提案をし理由なく実行する信頼関係が出来ていたのも、とても良かったです。
『日常パートで描写されていた要素が、戦場の潮目を変えるポイントになる』ていうのもロボアニメでよくある演出ですが、由希奈の地学マニアっぷりが生きる切り崩し方は、先週紅斑の山描写とも上手く咬み合って素晴らしかった。
アクションパート単品の完成度を追い求めるあまり、巧かったり興奮したりすんだけどドラマに貢献していない『タダウマ』なロボバトルも結構ある中で、血の通ったアクションが展開されるのもこのアニメの好きなところだね。

かなりあっさりと降伏した新手のエフィドルグは、今後の展開の軸になりそうな気配がムンムンします。
フィドルグ側の動機や事情を知ることでお話しの視野もより広がるし、姫やパパンといった『鬼の側に近い人間』の状況も推測しやすくなるしね。
このアニメは『交流可能な他者』として剣之介を配置しているわけですが、エフィドルグの捕虜が同じように交流可能なのか、はたまた交流を拒絶する(もしくは悪用する)存在なのかってのが、今後気になるところですね。
剣之介の立場を強化する意味でも、敵と戦う状況を維持する意味でも、そうそう簡単には『優しさ』を示してはくれない気もするけど、どうかなぁ。


というわけで、このアニメらしい独特のテンポで迷った魂が、このアニメらしい強さと優しさに落ち着くお話でした。
細かい心の機微と人情に重点し、ロボアニメの定番描写を時に反駁し時に踏襲する闊達な話運びは、やっぱり見てて気持ちがいい。
何よりもやっぱり、自分のエゴに振り回されつつも、自分以外の誰かのために頑張る、凄くフレッシュな意味で『人間らしい』主人公二人の描き方が、僕はやっぱ好きだなぁ。

父へのコンプレックスも、周囲に振り回される状況も、変化に戸惑う心にも一段落ついたクロムクロ
落ち着く暇もなくエフィドルグからの投降者がやって来ましたが、話はどう流れて行くのか。
大体1/3が終わり、独特のペーソスと丁寧な心理描写が心地よいこのお話も、更に加速していきそうです。
ふーむ、楽しみ楽しみ。