イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第10話『不遜な虜』感想

時にすれ違い時に歩み寄るコミュニケーション・ワルツ、色んな言葉が飛び交う第10話。
捕虜になったエフィドルグのパイロット・フスナーニがのらりくらりと尋問をやり過ごし、"Xファイル"の二人組そっくりな研究員に剣之介が怪しまれ、敵の仕込んだ言葉の毒がじわじわと聞いてくる展開でした。
序盤のシーンと意図的に重ねあわせることで、フスナーニと剣之介の類似と差異が良く見えるエピソードでしたね。

フスナーニは虜囚だった時の剣之介と同じように囚人衣を着て、時代がかった言葉で喋るわけですが、その認識と行動には大きな差異があります。
周囲の状況を確認し自分の混乱を収めたかった剣之介は、『敵』と認識した相手も気絶させたりおっぱい触って隙を作ったりするに留め、不慣れなりに自分の心情や状況を素直に話、歩み寄りの姿勢を見せていました。
そういう姿勢が由希奈との同居、カレーや餃子を一緒に食い、小春の頭を撫で、背中を預け合う今の関係につながっているわけです。

一方フスナーニは二人組の尋問を受け流し、問いに答えているふりをしながら『エフィドルグとは何か』『どのような狙いを持っているのか』という真実は隠しぬく。
不器用で一本気な剣之介とは違い、フスナーニは非常に知性が高いのですが、それは捕虜を装って剣之介への疑心を煽り、人間側の状況を探って逃げ出す、悪しき目的にしか使われません。
情け容赦なく国連兵士の首をへし折ったフスナーニの振る舞いには、尋問で見せていた差別意識がより強く出ていて、エフィドルグとのコミュニケーション不可能性(とは言わないまでも、困難性)を感じさせます。

剣之介がどれだけ真っ直ぐで良い奴か、約二ヶ月見守り続けた視聴者の立場からすれば、フスナーニと剣之介の差異は明白です。
しかし落ち着いて考えて見れば、異星由来の技術であるクロムクロを操縦できる剣之介、現代にとっては450年前の遺物でしかない剣之介を怪しむ視点があるのも、無理はありません。
この視点を代表させるために、既に剣之介と幾度も戦いをともにして、半ば家族的なムードが出来てしまっている基地の人間ではなく、国連地球外生命体研究局という外部の視座を用意したのは、なかなか面白い運びだと思いました。
ここで基地の人間が剣之介を疑いだすと『今までのアットホームなやり取りは、何も生み出してないんかい?』と思ってしまうわけで、しかしこういうツッコミをちゃんとやっておかないと、物語を見つめる視線の公平性は担保されない。
新キャラのクレバーな使い方だなぁと思います。

二人組の尋問があるおかげで、これまで不透明で断片的だった剣之介の過去を、まとまり良く聞くことも出来ます。
とは言うものの、何も分からぬ一兵卒から姫に引き上げられ、クロムクロパイロットに選ばれた剣之介の記憶は断片的で、彼自身にもわからないことが多いわけですが。
一見繋がっているように見える記憶が意識喪失や『死』で分断されているという、ある種のミステリ的情報操作はこれまでの演出の中でもチラホラと示されてきたところです。
剣之介の体に付いた致命傷、何度も繰り返される『死んでてもおかしくない』状況、ナノマシンを自在に操り身体組成まで書き換えてしまうクロムクロの技術。
人間の同一性をも操作可能な超技術が仄めかされていることを考慮にいれると、『足軽の剣之介』『姫に選ばれた剣之介』『自爆後450年経って解凍された剣之介』が同一人物なのか、その体験に同一性があるのかというのは、ちょっと気になるところです。
そこからさらに踏み出すと、『高嶺の花だった雪姫』と『クロムクロを手に入れた雪姫』との同一性も疑わしいんだよなぁ……ナノマシーンによる記憶含めたクローンコピーが、一種のトリックとして用意されてんじゃないかなぁと。

二人組による尋問に極力素直に答えていた剣之介ですが、答えに窮するシーンもちらほらありました。
これが何かを隠している結果なのか、はたまた(どのような原因にせよ)同一性の損壊によるものなのかは、今後を待たないと見えないところです。
しかしそこにはフスナーニが持っていたような奸智や悪意はなく、あくまで混乱とそこから抜けだそうとする意思、歩み寄りの姿勢が感じられる。
その差異もまた、似た形式を対比することで見えてくる、リフレインの面白さだといえます。


内通者扱いされて当惑する剣之介に対し、もう一人の主人公は結構落ち着いた態度でした。
結構長い尺で迷いを見せるシーンをもらった分、今度は剣之介の迷いを引き受けるのが、今の由希奈の仕事ということかなぁ。
電車の中で自然と剣之介の悩みに気づき、それを引き受けようとする歩み寄りが見れたのは、小さな成長を感じられて、好きなシーンでしたね。
『都合のいいやつ』という意味合いではなく、その言葉の根本的な意味で『善人』よね、剣之介も由希奈も。
だから好きよ、ホント。

そんな二人とも茉莉那のズレたアドバイスをズレてるなりに受け取り、なんとなく前向きな方向に歩いて行く道標にしているのは、なかなか面白いところでした。
茉莉那は二人が抱えた問題をまったく認識していないのに、『魚心あれば水心あり』『ため息のたびに幸せは逃げていく』というアドバイスは不思議とそこに響きあって、結果として良い方向に転がっていく。
偶然が持っている不思議な力が茉莉那に味方しているのか、彼女なりの真心が生徒に伝わっているのか、判別は難しいところですが、優しい気持ちが無駄にならないのは善い事です。

一方全力で空回っているのが赤城であり、『パイロット』という目標を見定めたと思いきや、それは手短にヒーロー願望を満たすためのうわっ付いた目標、第1話で由希奈が書いていた『火星に行きたい』とおんなじ絵空事です。
由希奈はクロムクロに選ばれることで、(いろいろ厄介なことも沢山ありつつも)特別な存在になる第一歩を踏み出しましたが、主役でも天才でもない赤城が同じルートで特別になろうとしても、先生が指摘する通り『ルートが違う』わけです。
ゲーセンでの『偽物の戦争』でハイスコアを出して浮かれ、それをすぐさまソフィーという『天才パイロット』に上回られてしまう辺り、彼の無様な勘違いも絶好調という感じですが、実は由希奈と赤城にはそこまで差異はないと思います。

『学校』という日常に保護されつつ、特別な誰かになろうと願う思春期の心象自体は、二人(というかこのアニメの10代全員)に共通なのであり、偶然か宿命かクロムクロに選ばれ、剣之介という良きパートナーを手に入れて自己実現を果たしつつある由希奈のように、赤城もまた『何者か』になれる可能性を秘めているのではないか。
思春期のイタさを全開にした赤城を単なるイタい奴として描くか、はたまた由希奈や剣之介とは違った形で自己を実現する可能性の一つとして描くかは、今後期になるところです。
全て順当に展開するより、要所でタメた方が物語が面白くなることは事実なので、赤城の無様さは上手く使って欲しいところですね。
……茅原に関してはさっぱりわかんねぇけどな!


そんなわけで、言葉がすれ違ったりネジ曲がったり空回りしたり、思わずいい結果を産んだりするエピソードでした。
こういう話が来ると、やっぱこのアニメロボアニメでありSFであると同時に、コミュニケーションの物語なのだなぁと判る気がします。
OPサビでクロムクロがガキンガキン戦う場面ではなく、キャラクターたちが視線をこちらに向けてコミュニケーションを取ろうとするシーンを集めているのも、何を描きたいかの表れな気がしますね。

そしてコミュニケーションがすれ違い、その果てに衝突がある以上、武力で相手を押さえつけることもまた交流の一つの形です。
邪悪な意図を秘めて脱出を果たしたフスナーニは、二度目の接触にて由希奈と剣之介に何を伝えてくるのか。
さてはて、楽しみですね。