イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第11話『闇に臥したる真』感想

時間旅行者とほのぼのコミュニケーションするけど血潮は飛び交うアニメ、血戦と山デートの第11話。
すわ四度目のロボ戦かと思いきや、白刃が頬に迫り返り血の熱さが分かるような間合いでの、生々しい殺し合いでフスナーニ戦は決着しました。
戦いそれ自体よりも死を目前にした由希奈の震えや、初めて生身の相手を殺した剣之介の戸惑い、その後の二人の交流に重きをおいている辺り、クロムクロだなぁと思う。

思い返してみると、このアニメ生身の死体があまり映らないアニメです。
不意打ち気味だった最初の戦闘や、クロムクロがいない海外は相当酷いことになってるはずなんだけど、そこで死者が映ることはない。
主役周辺でも死に隣接しつつ直接の死者はいなかったわけですが、それを取り戻す如く今回はバッタバッタと生々しく死にました。
これまで生々しい死体描写を避けておいて今回強調したのは、はじめて生身の死を実感してショックを受ける主役二人の心境に、視聴者を近づけるための操作だったのかもしれません。

生身の死に直面する一人目は、普通の女子高生・白羽由希奈です。
救世の英雄としてロボットに乗ること自体は受け入れても、自分が死に誰かが殺される恐怖は彼女にとって重たすぎ、目の前で行われる殺戮を最初は止めることすら出来ない。
カルロスの親父さんを標的にした二度目の殺害に対しても、由希奈は足をすくめて動くことが出来ませんでしたが、これは幸運によって回避される。
そして三度目、クロムムロハンガー前での決戦において、彼女は勇気を振り絞って剣之介が殺される窮地を止めます。

丁寧に段階を踏んだ描写がクロムクロらしいですが、彼女が三度目の決断に踏み込めた理由は、剣之介への信頼でしょう。
同じ釜の飯を食い、自分のために命を使うと宣言してくれた剣之介のために恐怖を乗り越える描写は、見ず知らずの国連職員のためには足がすくんでしまう臆病と背中合わせです。
エゴイスティックとも取れる描写ですが、由希奈はあくまで普通の高校生であり、ソフィーやボーデンのように戦士としての訓練を受けてはいません。
むしろいきなり白刃を突きつけられ、目の前で人が殺されるハードな試練を受けることで、由希奈は戦士(もしくはサムライ)の側に一歩近づくことが出来た、というべきかもしれません。

クロムクロが一人では動かせない以上、剣之介への信頼は由希奈が『戦場』に踏みとどまる上で、一番大事なものです。
それは『戦場』で死の恐怖に直面するだけではなく、戦場を離れた『平和な現代』の中で心に整理を付け、共有する時間があってこそ強まり、頼れるものに変わる。
緊迫するシーンではなく、そこで感じたストレスをケアし共有する山登りを最後に持ってくる構成は、ステロタイプな悩める主人公を据えて『戦場のリアル』を出そうとする諸作品とは、また違うアプローチを感じます。
極限状態でのコミュニケーション不全ではなく、その状況でも機能するコミュニケーション、それを生み出す人間の情を軸に据えてる感じというか……どっちにしても好みなのよ、このアニメ。


由希奈の信頼を裏切ることなく、きっちり登場してきっちり守り切った剣之介ですが、普段は『敵』『鬼』とうそぶくフスナーニを殺した感触に震えてもいました。
クロムクロで戦う行為と血の通った殺し合いは別の体験だったのか、はたまた血潮飛び交う修羅場のリアリティに気圧されたのか。
どちらにしても、剣之介もまた由希奈と同じように、殺し殺される状況に立ちすくむ、弱い側面を持っている、ということです。
由希奈が震える剣之介を抱きしめたのは、弱さを乗り越えて自分を守るための決断を果たした、もうひとりの自分に強い共感を覚えた結果だといえます。

この震えこそが大事なのだということは、かつてボーデンさんが言っていたとおりです。
自分の死、自分に近い存在の死を想像できる柔らかさがなければ、人間は『人を殺すだけの装置』になってしまう。
『宇宙人』の死を見て塞ぎこむ由希奈を糾弾するのではなく、むしろその心境に寄り添う意見を、彼は既に第7話で紡いでいます。
一見ガッチンガッチンの職業軍人に見えるボーデンさんがこういう価値観を持っているところが、僕がクロムクロで好きなところですが、それはさておき、一見サムライにして復讐者として覚悟を決めきっているように見える剣之介も、赤い血を流した『鬼』の死を己に近いものだと感じる柔らかさを持っていました。
『二人の命が最優先』と言い切ったグラハム司令含めて、このアニメのキャラクターたちは死を前に立ちすくむ感覚を疎かにせず、『人間』が『鬼』や『宇宙人』にならないよう踏みとどまる決意を大事にしているようです。
それは絵空事の生き死にを扱うロボットアニメには、凄く大事な感覚だと思うのです。


死を前に立ちすくむ感覚への共感は二人を山に連れ出して、飾り気のない心を通わせることに繋がります。
今回の話地下ハンガーとかゲームセンターとか夜の縁側とか、全体的に閉塞的で重苦しいセッティングで進むわけですが、舞台が山に写った途端明るく開放的な景色が広がります。
死の恐怖』という難問に立ち向かう前半から、それを二人で共有し、お互いの心を確認する後半へと段階が変わったことを、絵の変化で上手く見せていました。
気合の入った富山の風景がただ綺麗なだけではなく、物語全体の中で機能しているのを見るのは、やっぱり気分がいい。
剣之介が山ウェアを着こみ、由希奈と同じ服装をし同じおにぎりを食べることで共感を見せるところもそうですが、やっぱこのアニメ、ムードを絵で伝えるのが巧いね。
あと携帯電話やカレーといった、印象的なアイテムを使いこなして剣之介が現代に歩み寄っている様子の描写ね。(クロムクロ褒めだすとスーパー早口マン)

死の恐怖を乗り越え……てはいませんが、『戦場』というもう一つの日常との付き合い方を少し学習した由希奈は、剣之介に今の気持ちを素直に伝えます。
まぁ死ぬ寸前のところに颯爽登場して守ってもらったんだから、素直になるのも当然っちゃあ当然ですが、この時の由希奈は未来のことを考えています。
剣之介と今後どうなっていくのか、どうなっていきたいのか考えればこそ、由希奈はありがとうと言葉で伝え、自分が過去何を思い、今何を考えているのかを預けた。
剣之介もそれを受け取り、茶化すことなく真剣に答えた。

その姿はフスナーニに白刃を突きつけられ立ちすくんでいた時とも、フスナーニを殺して震えていた時とも、さらに言えば生きる意味を見失って死を望んでいた時とも違う、未来に繋がる表情です。
そしてそれは、由希奈と和尚と小春にせっつかれるまでは苔地蔵だった剣之介を見れば判るように、一人ではけして到達できない境地です。
剣之介がいたから由希奈は命を繋ぎ、父との関係を整理できたし、由希奈がいたから剣之介は流されてきた現代に生きる意味を見つけ、殺して自分も死ぬ『戦争の機械』以外の生き方に近づくことが出来た。
同じ服を着て、同じ場所に立ち、同じ飯を食う彼らの姿を見ていると、その有り難みをつくづく感じます。


由希奈は『戦場』や『死』との距離をうまく調整できていましたが、そこに実感が無い人はたくさんいます。
死ぬ寸前までノンキだったカルロスの親父さんとか、この期に及んでゲーセンでゲームしてる赤城とか、『平和な現代』の方法論に居着いてしまっているノンキな人たちが、今回ちょくちょく写っていました。
クロムクロが戦っているのは、そういう呑気な世界を守るためだって部分もあるので、一概に判断はできかねますけどね。

由希奈と剣之介がお互い歩み寄り、ぶっとい絆を作ってキマくっているのに対し、赤城は今週も余裕の空回りでした。
『親父さんがガウス技術者なんだから、本気でパイロット目指してんならアドバイス貰えばいいのに……』とか思わなくもないが、由希奈が健全に思春期を飼いならす中で、生臭い懊悩を担当するキャラ……ってことなのかしら。
主役たちが距離を縮め、より迷いのない自分に近づいていく運動に、赤城が一切関わっていないので、現状赤城パートの意味が掴みにくいのは、なかなか困ったものだ……由希奈の道がスムーズなだけに、空回りが目立つ。
これだけ時間使って描写しているということは、何らかの物語的意味を持たせるつもりがあるってことなんだろうけど……パイロットという『戦場』に直接繋がる以外の立場から『何者か』になっていくサブプロット担当かねぇ。

迷妄という意味では、国連監察官が疑った『剣之介=エフィドルグ説』はうやむやのまま『藪の中』に入ってしまいました。
この作品のテクノロジーではナノマシンによる人間再生が可能なので、芥川の小説よろしく語り手が信用出来ないんだよな……。
フスナーニが鷲羽の家来にそっくりだったというのは、エフィドルグが人間の形を略奪し成り代わる手段を持っていると示してる気もするけど……そう考えると『剣之介にクロムクロを与えた姫様』と、『剣之介が見知っている姫様』の間にズレが生じるのか。
『剣之介=エフィドルグ説』はひっくり返せば『エフィドルグ=人間説』なんで、人間とエフィドルグの間を行き来できるトリックが、何らかの形で存在してはいそうです。
偽モルダー&偽スカリーが疑念抱いたまんま帰ったんで、今後もう一回掘り下げる部分だと思いますけどね。


というわけで、命の紅い飛沫を受けて立ちすくみつつ、お互い支えあって前に進む若人を描くエピソードでした。
由希奈の大きな課題だった『戦う理由』に一つの答えが出つつ、剣之介とエフィドルグの関係には更に疑問が増えるという、前後に伸びるお話だったなぁ。
由希奈が『戦場』との付き合い方を学ぶだけじゃなくて、すっかり携帯電話使いこなしてる剣ちゃんの現代への歩み寄り加減とか、二人の共通の思い出としてのカレーとか、色々巧いなぁと思います。
絆を深めた二人がどこに行くのか、来週も楽しみ……なんですが、タイトルに『地獄』て入ってるのが、つくづく不穏ですね……。