イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第13話『祭囃子に呼ばれて』感想

クール折り返しの富山ロボット神話、前回ラストのヒキからロボット戦闘だ!!
と思ったらそれはわりとアッサリ目に終わって、その後は学園祭で延々イチャコライチャコラ、剣之介と由希奈がイチャコラしくさり倒す甘酸っぱい展開に。
と思っていたら姫に似てる奴が舞台に乱入し、浅沼稲次郎暗殺事件バリの修羅場が展開して来週にヒくという、『戦場』で、学園祭という『平和な現代』を挟み込む造りでした。

富山がいかに呑気とはいえ、エフィドルグの襲撃はもはや日常であり、『平和な現代』は次第に『戦場』と隣接しつつあります。
アバンの戦闘でぶっ壊されるショッピングモールや、戦車と並列して描写される乗用車なんかはここら辺の越境を強調するもので、段々と富山の日常は『戦場』と交わりつつある。
由希奈が率先して取り組んでいた『平和な現代』から『戦場』への習熟訓練を、富山自身が背負いつつある状況、といえるのかなぁ。

そんな中催される学園祭は、宇波先生が言葉にしている通り『非常時だからこそ日常を大事にするべき』という祈りの象徴であり、平和ボケのフェティッシュとも言える。
かつて剣之介と由希奈がイチャコラしてたモールが破壊されたように、そんな祈りも姫じゃない奴が刃物持ってぶっ壊しに来るわけですが、だからといって学園祭に意味が無いわけではない。
クラス一丸となって一つのものを完成させるワクワク感、何かが積み上がって一つの成果につながっていく達成感は巧く描写されていて、『日常ってやつも、なかなか良いもんだな』と視聴者に実感させるのに十分でした。
そういう気持ちがあればこそ、それが無残にぶっ壊された時の衝撃や反感は強くなるわけで、そういう意味でも過去大事なエピソードの舞台となったモールを破壊したのは、もしかすると『現代の日常』が『戦場』に同化されていく結節点であるこの話に、なかなか相応しい演出だと思いました。


最初に描写される『戦場』はいつもの発進シーケンスを全てかっ飛ばし、いきなり戦闘開始という変則的な演出。
ロボット物なら大事にされるワンダバ感をあえて蹴っ飛ばす演出は、僕はスパイスが効いててとても好きですね。
OPのサビの部分でロボットではなく振り返る人々が映されているところを見ても、やっぱこの作品ってロボットという異物を主役に据える一般的ロボアニメとは、違う視点から話作ってる気がするね。

とは言うものの戦闘自体は相変わらず気合の入ったもので、長柄+四足という戦術を使いこなすスパイダーと、エフィドルグ対応に慣れてきた人類の連携プレーが巧く咬み合って、非常に面白かったです。
合宿を経てパイロット同士の絆も深まったのか、はたまた技術開発の成果が出てきているのか、全体的に人類優勢で進むのが面白い。
こっちの女幹部はフラッシュ・バンを使って逃げたわけだけど、傷を癒やした後もう一度襲ってくるのかねぇ。
まるで虎子の間のように寂しくなった軌道鬼ヶ島を見てると、そろそろ誇りだの抜け駆けだの言ってないで大真面目に侵略したほうが良いように思うけど……まぁそういうメンタリティの生き物なのだろう。


『戦場』に一段落つけてからの『平和な現代』描写は、由希奈と剣之介がずーっとイチャコラしつつ、学生としてのソフィー描写やら仕事に忙しい大人描写やらが挟まる感じ。
ケンちゃんと由希奈はじっくり時間を使って感情の変化を活写してきたので、文化祭というイベントでお互いを意識するようになる流れが非常に素直に受け止められますね。
縮まった距離を描写するために『食い物』を巧く使っているのがこのアニメらしくて、一つの皿から焼きそば食うとか、わたあめが巧く作れなくて分けてあげる所とか、『同じ釜の飯を食う』所から一歩踏み込んだ距離になっているのが、非常によく伝わる。
美夏のセクシーコスプレ話に割り込んだり、由希奈が剣之介をオスとして認識している感じが強まっていて、今回も良かったですねえ。

第1クールはどちらかと言えば由希奈が『戦場』に馴染んでいく様子に時間を使っていた印象ですが、今回は剣之介の悩みに強いフォーカスが当てられていました。
否応なく時間を飛び越えてしまった戸惑い、なかなか振りきれない過去、強く見えてもまだ10代の剣之介には悩みがたくさんあって、それは第1話で由希奈が悩んでいた『進路調査票』とも重なりあう。
合成コスプレで和服を着込んだ由希奈に雪姫の面影を見るところとかは、彼が『平和な現代』に馴染み愛着を感じつつも、まだまだ過去への未練を断ち切りきれない、複雑な心境をよく表していました。
これまでも描写されてきた現在への愛着描写の一貫とおもいきや、最後抵抗もできず呆然とぶっ刺される展開の伏線になってるから、あのシーンは上手いよね。

発言自体は多くないんだけど、今回はソフィーもよく映りました。
感情が表に出にくい彼女ですが、猫耳つけたりイベント実施に向けて走り回ったり、学生生活をそれなりに楽しんでいる様子が見て取れて、ちょっと視聴者との距離が近づいた印象。
柳田国男の『ハレ/ケ』論理を持ち出している辺り、民俗学的興味からジャポニズムに接近してきた感じなのかなぁ……先週も新渡戸武士道の本読んでたしな。
彼女が剣之介の近くに立ち続けるのは、一つには『サムライ』へのエキゾチックな興味があるわけだけど、そこに人間としてオスとしての興味があるのかないのか……下世話ながらやっぱ気になるね。

他のクラスメイトもそれなりに目立っており、茅原が相変わらずのゴミクズYouTuberだったり、赤城に親父さんと同じ現場作業員としての適性があることが分かったり、平和な感じだった。
しかしコスプレに代表される『平和な現代』の緩みがあればこそ、姫じゃない奴がヤッパ構えて学校に入る素地が生まれてもいるわけで、やっぱり今回は2つの日常の危うい境界線が強調される話だった気がする。
思い返すとこのアニメで『学校』というのは常に聖域で、戦闘のダメージをけして受けない『戦場』から隔離された場所なんだけど、その境界線が侵犯される終わり方でしたね。
『祭り』という非日常的祝祭(≒ハレ)を足がかりにして『戦場』という非日常が侵入し、聖域に血が流れる話だったのだな、今回。


学生が『平和な現代』を謳歌する中、大人たちは最早日常となってしまった『戦場』に真面目に向き合っていて、子供にかまっている余裕はありませんでした。
学生視点だと、出だしの戦闘と学園祭は切り離されているように見えるけど、実はその境界線は薄い。
その『戦場』に隣接した『平和な現代』を守るべく奮戦しているからこそ、大人は聖域に入る資格が無い、というところかなぁ。
兵士としてのアイデンティティを保ちつつ学園祭をエンジョイしているソフィーは、非常にいい形で『子供』と『大人』の境界線上を行ったり来たりしてるのでしょうね。
……『子供』として守られていることを最大限悪用し、レンズ越しに無遠慮に『戦場』を茶化してる茅原の邪悪さが目立つな、この構図。

基地で一生懸命働くにしろ、学園祭という贅沢をなんとか実行した教師にしろ、大人たちが守ろうとした世界は姫じゃない奴の侵入でぶっ壊されてしまいます。
いろんな伏線を合わせて考えると、やっぱりエフィドルグは精神寄生体で、地球人の皮を被ることで現実に干渉する能力を手に入れてる、ッて感じなのかね。
今回襲ってきた姫じゃない奴が姫本人である、ってルートもないわけじゃないけど、そこら辺の謎解きは来週以降かな?


と言うわけで、『戦場』と『平和な現代』を分ける境界線は、思いの外あやふやで曖昧だということが剣之介の血で証明される話でした。
剣之介自身が抱える『過去』と『現在』との板挟みや、『大人』と『子供』の境界線なんかも描写されて、各々の立場がよく見えるエピソードだったんじゃないでしょうか。
境界線はすなわち断絶を引き寄せるものなんですが、剣之介も由希奈も境目を超えて歩み寄る姿勢をこれまでしっかり見せてきたわけで、今回強調された境目もゆっくり楽しく乗り越えていくんじゃないかなぁと、僕は期待しています。

聖域として守られていた学校で血が流れたことで、由希奈の背負ってきた『戦場』はクラスメイト全員の問題になるのでしょう。
既に疎開という形で『戦場』から距離を取る選択肢も出てきてはいますが、『平和な現代』に守られてきた子供たちがどういう反応をするのか。
つーか刺された剣之介は大丈夫なのか。
いろいろ気になるクール折り返しでした。