イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チア男子:第1話『幕が上がる』感想

オトメの夏の異色作!! "桐島、部活やめるってよ"の原作者と"Dance with Devils"の監督がタッグを組んだ、『大学生』で『男子チア』という、相当な変化球スポ根の第一話。
主人公が柔道を諦め、親友に新しい道を示され、チアという競技の魅力にノックアウトされ、分かり易く圧をかけてくる嫌なライバルに反発心を抱き、トンチキなニューカマーと出会うところまで一話にしっかりまとめてきましたね。
こっからどう転がしていくかは未知数なれど、結構好きな味付けだな……地味で。

高校生ではなく大学生、女子ではなく男子チアと、『まっすぐ』を外してきたネタ選びなんですが、中身の方は非常にオーソドックスなスポ根。
コンプレックスと挫折、親友の有り難みと再起、新しい光との出会いという、スポーツを通して人生を輝かせる素材は、しっかり用意してある感じです。
観客席での応援、病院のテレビの中、主将の早食いの応援。
挫折の前段階である柔道部時代から既に『応援』を映像の中にみっしり埋めて、今後の展開を暗示させるのはなかなか良かったですね。

柔道ではぱっとしない主人公も、『応援』というジャンルでは才能があるかも……という予感は巧みに醸造されていて、誰も立ち上がらない応援席で一人気を吐く出だしは今後の活躍を巧く予感させていた。
『気持ちを前に出せる』というのは、日常生活ではこっ恥ずかしいものでも、感情の温度で人を動かすチアー競技においては利点になるわけで、主人公がこれを秘めている(と、第1話の段階でしっかり見せた)のは、なかなか良いことです。
同時に主人公はその才能に開き直れていなくて、自分の秘めた力の使い所を見つけられていない。
この把握しきれていない感じが、『彼がチアーと出会うことで、青春の『何か』を見つけていくんだろうなぁ』という期待を巧く生んでいて、なかなかよい距離感だと思いました。

そんな主人公を支えるメインキャラクター二人も、早速お目見え。
周囲を気にせず自分のやりたいことが出来る橋本くんは、物語の牽引役としていい仕事をしていました。
『チアってなんだか恥ずかしい』ってのはパブリックイメージとして確かにあるもので、主人公がその偏見を背負い、サブがチアに対するモチベーションを担当する住み分けは、スムーズな物語進行と一般生の獲得を両立させる、良い手筋だね。
杉田声がビシっとハマってる変人眼鏡、溝口くんもトンチキなキャラで結構好きです。
OP見る限りとにかくキャラが多いんで、フォーカスするキャラを絞って密度を上げていくのか、多人数だから出来る群像劇的盛り上げで温度を作っていくのか、キャラの捌き方も気になるところですね。


チアー競技のシーンは露骨に作画レベルが跳ね上がっていて、スムーズな重心移動と停止が織りなすチアの華やかさが、巧くアニメになっていたと思います。
あのシーンがズバッと刺さらないと、主人公がチアーをわざわざ選択する運命性が薄れちゃうわけで、きっちりメリハリ付けて良い作画回したのはとても良かった。
ダメ押しで『チアナメんじゃねぇぞ素人』と踏みつけに来て、反発でモチベを上げてくれるライバル君は良い奴だなぁ……こういう仕事がはっきりしてる脇役、僕は好き。

第一話ではまだ、ド素人三人がとりあえずチアに飛び込んできた状況であり、チアーという競技が具体的にどのような特徴と困難を持っているのか、それを説明するのは次回以降でしょう。
チアー(特に競技チアー)は身体の限界に挑む技術性、それを表に出してはいけない採点競技としてのストイックさ、競技だけに落ち着いてはいけないエンターテインメント性、危険なチームスポーツが持つ一体感と、様々な要素を含んだディープな競技です。
『チア男子』という目新しさ(もしくはイロモノっぷり)だけを全面に出すのではなく、チアーという競技が持つ魅力と難しさをしっかり表現(説明ではなく)し、それを視聴者にうまく伝えてほしいなぁと思います。
とりあえず、技術と安全についてしっかり教えてくれる経験者かコーチが早々に欲しいな……ボンクラ三人だけだと危なすぎるだろ。

青春モノとしてみると、ちと心情を台詞で説明し過ぎかなぁ、と思わなくもない。
せっかくド定番である『中高思春期時代』ではなく、そこからちょっとはみ出した『大学生』という年代を選んでいるのだから、大学生にしか出来ない心の交流を、詩情豊かに描いて欲しい。
それは欲張りにすぎるにしても、もうちっとこう絵に喋らせるシーンを多めにして、きゃrカウターの心情の変化をじわっと感じ取らせる演出にしてくれると、個人的な好みには会います。
起こってる事自体は定番かつ大事なことだし、丁寧に必要なイベント展開しているとは思うけどね。

しかし主人公と橋本くんのナイーブな関係は結構好きで、ここ今後膨らませてくれるとありがたい感じ。
故障で挫折した主人公といっしょに柔道やめちゃう橋本くんは、単純に『優しい』とは言い切れない歪みを感じさせるので、そういうところに突っ込んでいくのかいないのか、今後が楽しみですね。
Aパートで『応援』を暗示したようなクッションかけた演出が今後冴えてくると、よりいっそう作品を好きになれる予感がする。


というわけで、道半ばでくじけた主人公の柔道ロードがチアーにジャンクションする、出会いの第一話でした。
全体的な演出プランやテーマ性がズバッと伝わる、問答無用でパワフルな出だし……とはいきませんが、変則的な素材選びは面白いし、お話が飛躍する足場はしっかり整えてくれている印象です。
丁寧で勘所を抑えた劇作はとても良いので、横っ面を張り倒すようなパワーを秘めたシーンが一つ出ると、グッと面白くなる気がする。
せっかく『男子チア』という変則的な題材選んでるんだから、もうちっとトンチキに攻めてもいいのよ……でもトンチキな題材を丁寧に料理することで見えるモノも、まぁあるわよね。

増えるだろう仲間、チアーという競技との付き合い方、友情の描き方。
どういう方向に舵を切っていくにせよ、描くべきもの、描けるものがたくさんある座組だと思います。
チア男子の未来ががどう膨らんでいくのか(もしくは膨らまないのか)、見守りたいと思います。