イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第2話『いつわりの幻影』感想

仇でありこれからアヴィリオが生活する日常でもある『家族』がどういう事情なのか見せつつ、そこに溶け込んでいく過程を丁寧に描いた話……とおもいきや、ラスト30秒で物語は急旋回。
丁寧な話運びから生まれる叙情性と、視聴者を油断させない見事な牽引力が両立した、緊迫の第二話でした。

躊躇いなく振るわれる暴力、酒と煙草とSM、紙切れのように燃える人の命。
このアニメの全ては非常にろくでもない方向を指しているわけですが、ソドムの市にも人の情はあり、マフィアだろうがいろんな事情を抱えている。
今回ヴァンノをエピソードの主役に据えて、じっくり彼の周囲を掘り下げていった動きには、第1話では見えきれなかった『復讐される側』の人間味を出そうと言う意図を感じました。

アヴィリオは主人公として視聴者の欲望を背負い、話の真ん中に立って走る特権を許されているわけですが、だからと言って彼だけが事情を背負っているわけではないし、感情を持っているわけでもない。
人の命は等しく尊く等しくゴミ以下で、あらゆる存在がかけがえのない理由を背負って生きているけども、ジャズ・エイジはそういう大事な物語を喰らい尽くして先に進む。
そういう乾いた構図を強調するべく、今回は『仇』であるヴァンノの復讐譚を話の真ん中に据えて展開していきます。

殺された『家族』のために暴走し、聖なる『復讐』を成し遂げるヴァンノと、そのヴァンノを殺すアヴィリオの『復讐』は、一体何が異なるのか。
ヴァネッティ・ファミリーという犯罪結社に身を置き、『家族』を殺されたのなら銃を取って『復讐』をやり遂げるヴァンノの物語は、何気ない食事風景や兄貴分のネロとの関係性の中でその肌理を高め、気付けばアヴィリオが背負う復讐譚と同じ重たさを、視聴者に感じさせる。
『家族』や『復讐』や『子供』といった、アヴィリオが背負う属性を意図的にヴァンノにも重ねあわせて、二人の復讐者が交錯する瞬間で話を閉じた鮮烈さは、彼らが生きる世界の残酷さと美しさを、同時に描くことに成功していました。


この構図を成り立たせるためには、ヴァンノが背負っている人生の重さ、人間的温もりをしっかり描写して、視聴者に彼を好きになってもらわなければいけません。
このアニメらしい非常に細やかな描写力と、気の利いたシーンの作り方、台詞の選び方がここら辺の仕事をしっかり担当していて、たった1話と短い時間ながら、彼の幼さや真っ直ぐさ、敬虔さや暴力性などが、ちゃんと伝わってきました。
『家族』を奪われ帰るところのないアヴィリオが『酒』や『煙草』といった『大人の象徴』をくわえ込んで見せるのに対し、ヴァネッティ・ファミリーという『家』がまだ残っているヴァンのは『ケーキ』をかっこみ。姉貴分の結婚に納得出来ない子供っぽさを維持してるって対比も、お互いを際立たせていてすごく良い演出でしたね。

『家族』のためにチョッピーノを造り、守るべき暖かな日々をちゃんと持っているヴァンノは、それ故『家族』が殺される姿を見ているしかなかった己の無力さに震え、それを取り戻そうと『復讐』に身をやつす。
その愚かしくも人間的な姿は、第1話でアンジェロと彼の『家族』が見せた温もり、クローゼットの中から虐殺を見つめるしかなかった無力な目線と、強く響き合っています。
人間以下の『仇』としてぶっ殺さなきゃいけない相手は、自分と共通する部分を持つ『家族』になれるかもしれない存在であり、しかしそういう『もうひとりの自分』を切り捨て殺す道を、アヴォリオはすでに選択しているわけです。

ヴァンノが仇でなければ『巧くやれた』かも知れない可能性をしっかり感させ、『もしかしたら……』という期待感を視聴者に抱かせつつ、華麗にそれを裏切って主人公の抱えた影を見せる足場に使う話運びは、非常に見事でした。
燃やされた『我が家』にはもはや帰れず、『仇』の死体をいくら積み上げても『家族』は蘇らなくても、そうせざるを得ない銃弾のカルマ。
ヴァンノという『もうひとりの自分』の人間性(そしてそれゆえ生まれてくる、殺人という非人間性)を手抜かりなく描くことで、アヴィリオが、そしてこの作品が背負っている逃げ出し得ない業を視聴者に強調した今回は、まさに匠の逸品でした。


ヴァンノを丁寧に追いかけるカメラは彼の人間性だけではなく、彼が所属するヴァネッティ・ファミリーの状況も分かりやすく見せてくれました。
国境沿いの小さな町を縄張りに、仇敵と殺し合いを続けつつ大樹の陰によらなければ存在できない、小さな小さな『家族』
現実解った病身のドンと、若く無軌道な暴力を振り回す息子、その柔弱な弟という『家族』の三角形が、不安定なファミリーを支えています。
そらー、復讐者の一人も放り込んで盤面荒らしたくもなるよねという不安定さで、なかなか油断できません。

アヴィリオが身を寄せたネロ一派は、ファンゴが所属するオルコ・ファミリーをぶっ殺す気満々の武力路線でして、いけ好かない婿であるロナルドが所属するガラッシア・ファミリーの介入も煙たく思っている側。
その弟であるフラテは父親の意向を汲んでいるのか、はたまた精神的にマフィアに向いていないのか、親ガラッシア派ッて感じでした。
そして身内殺しで今の地位を手に入れたヴィンセントの権力基盤は弱く、その余命も長くはない。
ここら辺の家庭事情を薄暗い喫煙室の中で見せるシーンは、この話のドンヨリとした血まみれのムードが非常によく出ていて、好きな場面でしたね。
やっぱジャズ・エイジが舞台だもの、スカして気の利いた台詞の一つや二つ、ビシっと差しこんでくれないと嘘だわな。

ここら辺の面倒くさい事情の隙間をぬって、アヴィリオはファミリーに入り込むわけですが、その的は他ならぬヴァンノ・ファミリーそれ自体です。
獅子身中の虫が入り込むことで、不安定なヴァンノ・ファミリーがどう動揺するかってのもこのアニメの楽しみの一つだと思いますが、実はそこら辺の事情はアヴィリオには直接関係なかったりします。
なので、ファンゴはぶっ殺さなくても良いし、巻き添え食らったSM嬢は撃たない。
アヴィリオは『復讐のためなら誰だろうと殺す』と思いきれない、甘い部分がある男だってのが、迷わずぶっ放して血まみれにするファンごとの対比でよく見えて、あそこらへんも良かったですね。
何しろ本名『アンジェロ』だもんなぁ……優しいママンに天使として育てられた少年が、復讐鬼になっちゃう残酷さがウリとはいえ、あの子あんま殺し向いていない気がする。

アンジェロがアヴィリオになる契機になった手紙も、あまりに都合が良すぎて怪しく、その裏を勘ぐりたくなります。
『一定誰が、手紙を出したのか?』というフーダニットが物語の中に組み込まれ、ストーリーを引っ張る複数建てのエンジンの一つを担当しているわけですね。
文面通り『復讐』のためってことはあんまない気がするので、ヴァンノ・ファミリーが動揺して得をする人間が手紙の差出人だとは思うんだけど……ガラッシアの誰かなのかなぁ。
『仇はこいつだよ』って親切に教えてくれる手紙だけど、なんの力もないガキとして、クローゼットの奥から事態を見るしかなかったアンジェロは、その真偽を確かめる手段がないってのが悩ましいところですね。
手紙に書かれた情報が意図的に操作されてると考えると、『仇』であるネロ(とその家族)との勘違いもどんどん加速しそうで、より悲惨なことになりそうだなぁ……まぁ復讐譚だから、どう考えても悲劇にはなるけどさ。


というわけで、気のいい男が復讐鬼になるまでをもう一度追いかけるお話でした。
『仇』の人間性を丁寧に描写することで、『もうひとりの自分』は撃てても女は殺せない、甘さと非情を背負ったアヴィリオの姿もよく見えてきて、非常に良いエピソードだったと思います。
シーンの情報密度が高く、雰囲気も良いので、結構複雑な情勢がすっと入ってくるのも非常にグッド。

うまい言い訳を付けて『仇』を取ったはずでのアヴィリオですが、殺したはずの死体は消え、せっかく足場を作ったファミリーからも弾き飛ばされそうです。
この状況をどう切り抜けるのか、そしてこの状況を誰が、なんのために作ったのか。
沢山の疑問符が視聴者を物語に引き込むパワーを生んでいて、いやはや、来週がすごく楽しみです。
上手いし面白いなぁ、91Days