イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

バッテリー:第3話『いさかい』感想

白球に自意識を込めた所で青春なて終わりゃしないアニメ、今週は部活の空気が最悪です。
クソみたいな思春期を尖らせまくった結果、家でも部活でも片っ端から突き刺さりまくる主人公・巧。
先生に刺さり先輩に刺さり、『中学校という新しい秩序への適応は失敗です! でもお前はキャッチャーで女房役だし俺の味方だよな!!』って甘えたら、『ふざけんなカス』って突き放されるお話し。
『流行りのストレスコントロールがなんぼのもんじゃい、これがオールド・スクール・ジュブナイルの本道じゃ!!』と言わんばかりのゴツゴツした展開で、ワクワクするやらお腹痛いやら。
登場人物全員大人じゃない、優しくない巧の優しくない世界の明日はどっちだ。


ギザギザに尖って思春期と戦いつつ、その奥にある柔らかい部分を強調していたこれまでのお話と異なり、中学校という異界に飛び込んでいく今回はずーっと刺々しい調子で進みました。
他人を一切自分の領域に入れようとしない巧は当然として、子供の態度に突っかかって結局入部届にサインしてくれないお母さんも、『大人で先生』という立場を盾に子どもを操作しようとする戸村先生も、全員問題アリアリです。
ここら辺のギクシャクが野球に打ち込む内に純化されて、自然とより良い関係に……とは簡単にならないのがあさのあつこ作品の『らしさ』でして、大人も子どもも人格的成長の速度はゆっくりです。

巧く世界と折り合えない不器用な個性と、その衝突を恐れないゴツゴツした展開。
ここら辺の『優しくない世界』の描き方はガチンコにジュブナイルであり、自我のままならなさを描きつつも直接衝突を避けるようになった『優しい世界』がフィクションを席巻している現状とは、大きく異なるなと感じます。
物分りが良くて正しく心地よい展開を睨みつけつつも、キャラの個性を妥協できない、むしろ構成を思う存分暴走させ衝突させて、そこから生まれてくるものでしかキャラを変えない硬質さこそが、原作が青春の季節を真実切り開いている大きな武器。
だから、ゴツゴツとぶつかり続けて一切クッションがない今回の展開は、原作のテイストをよく拾ったと感じました。

今回の衝突は、経験不足で自分の身の丈を知らない巧の『俺はこんなに凄い!』という背伸びを、『お前はそんなに凄くない』とぶっ叩いてくる世界との戦いなわけです。
この状況から『おお、確かにお前は凄い』と自分を認めさせたり、ぶっ叩かれて『ああ、俺は確かにそんなに凄くない』と世間を認めたりしながら、一歩ずつリアルな自意識ってのを手に入れていく運動が、この作品にはみっしりと詰まっています。
それは僕も、そして多分あなたも経験してきた普遍的な青春のあり方で、大概の人がこういう面倒くさい場所を通り、いろいろ痛い思いをして歳を重ねていくのだと思います。(その結果が善いものだったか否かは、個々人の青春の問題として)

背伸びのし過ぎで世界とぶつかるしかない巧の個性と、その裏が庭にある臆病さは『腕』を守ろうとする仕草によく表れていました。
天才ピッチャーであることにアイデンティティを大きく背負う巧にとって、『腕』は自分をわかろうとしない世界と戦う武器であり、同時に自分の立場を守る防具でもあります。
『これでお前ら世界をぶん殴ってやる!』という気負いと、『これがなくなったら俺は俺じゃない』という怯えが共存しているからこそ、巧は過剰に『腕』を他人に触られることを嫌がるんだろうなぁ。
仕草一つ一つに生々しい青春の背伸びを入れ込み、加減なく全力でキャラクターと世界をぶつけさせる本気っぷりは、ジュブナイルの王道をしっかり歩いている感じがして、やっぱり好きです。


しかいまぁ、アタリが強すぎてお腹が痛いのも事実なんだがな!
そら『優しい世界』のほうが支持受けるわ!
この辺りの巧のクソガキっぷりマジハンパなくて、そら豪もキレるわっていうくらい思い上がってるのがヤバい。

描写が繊細なのでただ不快なだけではなく、その裏にある情が漏れてくるので『思春期の子どもってあんな感じの、屈折と理由のない自身と他人への思いやりの無さを兼ね備えたクソみたいな生き物だよなぁ』というなんとも言えない苦酸っぱい感想が浮かぶのよね。
黙って見過ごせない程度には天才なんだけど、ピッチング一本で全てを黙らせるほど才能に溢れてるわけじゃないハンパっぷりも、生々しさを加速している感じですな。
巧のクソっぷりも容赦なく描いているので、母親の『もう少し頭を低くして生きろ』とか先生の『磨かない才能はクソ以下』という言葉にも一縷の説得力が出てきて、ただ巧を甘やかすだけではない公平さが出てるのよね。

もちろん、大人世代も壮大にクソだがな!!
子どもに『歩み寄れよ、感謝しろよ』というわりに、自分たちは歩み寄りも感謝もしないダブルスタンダードっぷりは、第1話からずっと共通して描かれているよね。
一貫性がないから尊敬できず、尊敬できないから正論を素直に受け止められなくて、姿勢を正すことも出来ない出口のない檻が、巧を取り巻いているのだね。
そして巧自身も、その檻に真正面からぶつかるばかりで、一歩引いて檻の構造を見たり、自分の姿勢を確認したりする余裕が一切ないというね……思春期、マジ面倒くさい!!


そんなわけで、青波みたいな素直な人格者がいないと巧はどれだけ世界と衝突するか、これ以上なく見せる回でした。
巧の青春力に共感しつつも、同時に『ああ、そら嫌われるわ』と納得できる、なかなか難しいラインを攻めた回だったと思います。
クソガキを懐広く受け入れてくれる大人はいないし、頼みの豪も受け止めきれないし、中学という新しい社会に、巧の居場所はなかなか作れません。

ギクシャクした状況のまま来週は一つの衝突が描かれるわけですが、そこへの必然性を積むためにも容赦なくクソっぷりを描いたのかなぁ、今週は。
ショッキングな展開と、その先にある一つの変化をどう描いてくれるのか。
今から楽しみですね。