イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第20話『山岸由花子はシンデレラに憧れる』感想


日常の影に悪魔が潜むアニメーション、今週はどう考えてもシンデレラって柄じゃない女のラブ・ロマンス。
第8-9話で壮絶な印象を遺した超ヤンデレ女、山岸由花子が開運エステティシャンの魔力を借り、康一くんとの恋仲を無事成就させるシンデレラ・ストーリー……だったのは前半まで。
後半は契約の履行とその代償、真実の愛にまつわる闇の濃いお話が展開され、康一くんのぶっちぎり主人公力でどうにかまとめ上げるサスペンスフルなお話となりました。

色んなジャンルの物語が同居する四部らしく、今回は愛と真実のラブ・ロマンス……なんだけども、ジョジョらしく一筋縄ではいかないお話。
単純に顔が良ければ恋が成就するというロジックはそこでは成り立たず、そこで試されるのは他のバトルと同じく『魂』の色なわけです。
自分の視力を愛の為に捧げる康一くんの決断が一番わかり易いけど、試練と難問を課して人格を試してくる彩とか、誠実さと身勝手さの間で揺れ動く由花子とか、『エステ』というモチーフにもかかわらず、試されているのは常に内面。
考えて見れば、"シンデレラ"は『魅力的な顔を作り変える』スタンドではなくて、『肉体のイメージを変換して、運を呼びこむ』スタンドなわけで、最初から問題にされてるのは内面なのよね。
外的・社会的なあり方よりも内面的・個人的なあり方を重視し、そういう価値観をキャラクターに体験させつつ語るという意味で、この話は聖人訓や説話的な意味合いを強く感じます。

なので、今回のお話は根性ドブゲロ腐れビッチである由花子がどうエゴイズムを乗り越え、自分を他人に押し付けるのではなく、他人の見た自分を受け入れる『魂』を手に入れる物語になる。
話の最初では『見ているだけでは我慢できない!』と欲をたぎらせていた由花子ですが、愛の大暴走を経て康一くんと恋仲になり、隠していたかった真実を知られた後も愛を貫く康一くんの姿を見ることで、『どんな顔でも受け入れる』姿勢を手に入れる。
ジョジョらしい圧倒的な勢いとパワーで進んでいくお話だけども、今回のお話は凄く倫理的というか、一人の女性が『尊いのは常に心の中身』というジョジョ的な真実に気づくまでのお話になっとるわけです。

契約を守らなかったことによって崩れた顔貌も、見た目の醜さというよりは他人との約束を軽んじた由花子の精神を反映しているのであり、その奥にある輝きを既に知っている康一くんにとっては、一切問題ないものだったりする。
醜い顔を恥じて一度康一くんを否むのも、エゴと愛のバランスを見失った精神を『恥ずかしい』『醜い』と思う由花子の精神が、強く反映されたものだと思います。
彩の最後の決断も、世界が定めた『本当の山岸由花子』よりももっと大切な『本当の山岸由花子』を康一くんが選びとり、それを由花子が受け入れたからこそ行なわれた目溢しなのでしょう。


ファーストエピソードでは袖にされてた康一くんに、なぜ由花子の恋が届いたのか。
考えてみると、もちろん"シンデレラ"の魔力もあるんでしょうが、過去やり過ぎなくらいにやり過ぎた反省を踏まえ、強引にお茶を飲ませるのではなく相手の好みを聞き、康一の自由意志を尊重する姿勢をしっかり見せたのが報われたんだと思います。
そういう意味では、"エコーズ"との激闘を経て由花子は既に変わっていたわけで、"シンデレラ"の魔力と試練は康一くんが救った由花子の魂を、より強い形で定着させただけといえるかもしれんね。

そういう由花子の内面的変化を写してか、今回は直球勝負のロマンティックな演出が非常に冴えていて、少女漫画みたいなキラキラ感がありました。
トンチキ女の狂った恋愛とはいえ、恋は恋として尊いものであり、由花子と康一がお互い思いやる気持ちがハッピーエンドに繋がる以上、恋の輝きをちゃんと視聴者に届けるのは大事。
そこを一切恥ずかしがらず、生まれ変わった由花子の美しさ(そしてエゴにとらわれている時の醜さ)をまっすぐ演出したのは、エピソードの趣旨をしっかり握ったいい演出だったと思います。
合間合間に挟まれるミュシャ風の一枚絵が普段とは違ったロマンスに良く合っていて、ジョジョのビザールな雰囲気を崩さないまま、ゴージャスでガーリィな展開を上手く演出できていました。

演出という意味では、『エステ』という素裸の自分を預けるモチーフが有効活用されていて、性的な妖しさが上手く醸しさ出されていたと思います。
由花子と彩の距離も相当に近くて、ちょっと百合っぽいオーラがムンムン出ることで、『日常』を飛び越える"シンデレラ"の魔力が映像に宿り、不思議でエロティックなムードがよく出ていました。
直接的にセックスを扱うことは少ないけど、エロティシズムとセクシーさを有効活用して感情を乗っけるのは、ジョジョ本当に上手いからな。

ちょこっとの出番なんですが、康一の恋を羨みつつ喜び、『恋はお前の勇気の領分』と祝福しながら送り出すバカ高校生共も、俺は大好きで。
人目はばからず号泣する億泰も好きだし、いつものクールさを演じつつ激しく動揺している仗助も可愛いしで、コンパクトながら良い見せ方だなと思いました。
あそこで友達に祝福されたからこそ、康一も疑いを突っ切って真実に向かい合うことが出来たのだと考えると、ほんといい友達だなアイツら。


24分に凝縮され、大原さんの演技が付いた状態で彩の行動を見なおしてみると、非常に『悪魔的』だなと思いました。
これは悪事を働くとか人智を超えて邪悪だとかいう意味ではなく、『善』の対立存在として生を受け、揺らぎやすい倫理を試すことで真実を明らかにする役割を背負った、キリスト教的世界観の中での『悪魔』という意味です。
由花子が抱えた愛というエゴイズムを煽り、リスクのある契約を結ばせ、意地悪な設問を用意し、それを遥かに超える真実の愛を目にして膝を屈する。
彩の行動はまさに聖人に対峙する悪魔のそれで、願望機であり試練でもある彼女の存在が、このお話の訓話的色合いをより強めている気がします。

彩はその奇っ怪な能力から悪人のようにも見えますが、その実自分なりの『覚悟』をしっかり持った、一本スジの通ったスタンド使いです。
『他人を幸せにする魔法が使いたい』という利他的な動機、『特別な力には相応の制限があるべき』という倫理を兼ね備えた彼女は、主人公たちとはまた別角度からスタンドを使いこなすヒーローなわけです。
こういう『主人公の直接の仲間というわけではないが、独特の倫理観と世界観を持った存在』が杜王町という舞台一つにまとまって、相互に影響しあうところが、四部独特の魅力な気がするね。

由花子のねじ曲がった根性を受け止め、愛と覚悟で運命さえ変えてしまう王子様が我らが康一くん。
今週もクソホモ漫画家にちょっかい出されていましたが、それも納得のイケメンっぷりでした。
私服もバリッバリにキメキメってわけじゃなくて、ちょっと内側に入ってダサい感じなのが逆に魂の尊さを強調していて、すげー良かったです。
スーパークールでキメキメの仗助だけではなく、泥臭く体を張って真実を掴み取る康一くんを主人公格として用意出来てるのは、杜王町という舞台の広さ、そこで展開されるエピソードの画角の広さにも、確実に繋がっているよな。


そんなわけで、由花子と康一の愛を結びつけ、試し、その真実を磨き上げる魔法使いの物語でした。
訓話的な話運びを見事に演出し、原作の魅力をさらに引き出すアニメマジックを見せつけてくれた今回、非常に満足です。
ホラーにしてもロマンスにしても、四部アニメはジャンル的演出を巧みに使いぬいて、エピソードに説得力を載せるパワーがホントパないね。

いいムードで終わった後は『非日常』の闇が顔を出してくるもので、来週はついに! あの男が本格登場。
これまで的確に行なわれたチラ見せでも十分な迫力を持っていましたが、表舞台に立つことでどれだけの異常さと邪悪さが牙を剥くのか。
恐れると同時に待ちきれない、そんな気持ちでございます。
いやー、楽しみ。