イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ラブライブ!サンシャイン!!:第7話『TOKYO』感想

少女の夢がスーパーシティを舞い上がらせるアニメ、今週はオラ東京さ行くだ。
前回のPVが評判となってライブの前座に呼ばれたAqoursは、どこに出しても恥ずかしいイナカモノズとして吹き上がりまくり、上に下にの大騒ぎ。
しかし本番を前にステージアクターとしての落ち着きを取り戻し、いざ勝負……となったところで、ライバルっ面全開で邂逅していた"SaintSnow"が先手を取ってきた……というお話。
アホバカ仲良し六人組として団体旅行を楽しむAqoursの姿あり、期待と信頼と心配を寄せる年長者の姿あり、ひとしきり騒いだ後シリアスな姿勢を取り戻す安心感あり、色んなモノが盛り込まれた話でした。

今回の話はいわば前後編の前編で、"SaintSnow"のステージと対決、そして多分敗北を受けてどう来週話を捌いていくかを見ないと、ちょっと評価を定めるのが難しい話です。
前半の超絶浮かれポンチモードも、女の子たちが元気に幸せに暮らしている様子を見せて俺たちをハッピーハードコアに追い込むサービスというだけではなく、『悔しくないの?』と言われるだろう次回の下げ調子と対比をなす、影を前提にした光なんじゃないかな、と思えますし。
一種のカウンターウェイトとして機能するのなら、もう一方に乗る演出や展開を見ないことには単純に感想を述べかねる感じですが、要所要所でいろいろ暗示されているものもありました。


一つはAqoursが今どこにいるのか、その定位です。
前座とはいえ大きなイベントに呼ばれ、ステージアクトを望まれるくらいにはメジャーになったAqoursは、同級生に餞別を渡され、鞠莉にかつて自分たちが乗り越えられなかった壁の突破を望まれる、99位のアイドルになりました。
同時に、ダイヤお姉ちゃんからも志満お姉ちゃんからも先行きを心配され、アキバについてからも行動はバラバラ、実績一切なしの前座アイドルでもある。
可能性と不安に満ちた彼女たちが、初めてスクールアイドル『業界』と接触し、ネットのランキング以外の形で内浦外の人間に評価されるプロローグが、今回切り取られていた映像になります。

『期待』に対するメンバーそれぞれの反応は、今回色濃く描かれていた部分です。
非常に面倒くさいダイヤの反応も、自分たちと同じような傷を受けて欲しくないから、そしてその奥に大きな期待を秘めているからでしょう。
そんな姉のややこしい気持ちを敏感に感じ取っているから、ルビィは何かと姉の本心を確認しようとして逃げられ、言葉にされない優しさと期待を前に一歩を踏み込めずにいる。
中学時代の成功ゆえにピアノの道でつまずいた梨子も、『普通怪獣』だったから期待され慣れていない千歌も、飛び込みの天才児として期待と緊張に慣れている曜も、それぞれの形で『期待』に向き合っている。

廃校阻止のため、自分たちが自分たちらしく輝くため、Aqoursはある程度の結果を出し、それが内浦の期待を集め、結果として東京という異界に足を運び流れが生まれました。
しかし巧く行きつつある流れは非常に足元が怪しいもので、これを制御しきれるかどうかは全くわからない。
千歌が過剰にはしゃいでいたのも、慣れない期待に怯え、お道化ることで不安を打ち消していた結果かもしれません……半分くらいはただのバカだと思うけど。


憧れの東京航路に大はしゃぎするAqoursは非常に危うくて、中盤はただのまとまりのない観光客になっています。
各々見ている方向はバラバラで、行動もまとまらず、都会の派手な部分に浅はかに引きつけられ、自分たちがアクターであることも忘れている。
それが神田明神でSaintSnowと出会ったあたりから風向きが変わり始め、スクールアイドルの戦闘服と言い得るトレーニング・ジャージに着替えた辺りから、段々とうわっ付いた空気が抜けていきます。

前作でさんざん見た馴染みのある光景、表面的な華やかさではなく、ホームとしてのあたたかみを兼ね備えた秋葉原を走っていくことで、千歌はだんだんと期待からの不安を落ち着かせ、ステージに上がるのに相応しいコンディションを作っていきます。
表面から内部へ、浅はかさから真理へという『潜る』運動はこれまでサンシャインで幾度も強調された運動であり、末っ子型主人公・高海千歌に固有の物語的波形とも言えます。
内浦の魅力を探したPVと同じように、物質的で外形的な魅力に踊らされた後、夜の語り合いを経て精神的かつ家族的な落ち着きを秋葉原でも発見し、アキバを二つ目のホームに変える運動が、あのランニングには込められているわけです。
地域性を活力に変えているサンシャインにおいて、アキバをホームと感じることは、次回SaintSnowに『勝つ』にしろ『負ける』にしろ、ステージに立つために必要な最低限の準備だったといえるでしょう。

東京にたどり着く前段階を濃厚に描写したのも、これまで6話展開されてきた内浦の光景を確認し、彼女たちがどれだけの期待と優しさを寄せられているのか、いわば内浦の地勢(ゲニウス・ロキ)を確認する意味合いが強かったと思います。
顔のない人々の期待だけではなく、クラスメートや姉たちもAqoursメンバーを心底心配し、内浦のローカルな優しさではなく、東京の厳しい他者性に審判される彼女たちの未来を案じています。
ここでAqoursが東京に打って出ることは、Aqoursが背負う内浦の美質がより広い場所で通用すると確認することであり、同時にそれは身内びいきや地縁が通用しない、厳しい世界に飛び込んでいくことでもあります。
ダイヤお姉ちゃんが異常に過保護で過警戒なのは、『東京』が代表する公平なジャッジに一度打ちのめされ、スクールアイドルであるということは常に他者に評価される(鞠莉の言葉を借りれば『努力の量と評価が一致しない』)世界に身をおくことだと、痛みを持って記憶しているからかもしれません。

走ること、戦闘服に着替えること、スクールアイドル的身体を取り戻すことで、千歌はアキバの地勢(ゲニウス・ロキ)を味方に付け、期待される不安を前向きな強さに変えることが出来ました。
リーダーにして主役の変化に引っ張られる形で、Aqoursメンバーも練習着を着こみ、同じように体を温めて、同じ方向を向き直す。
この前段階として、旅館で同じ浴衣を着るシーンを挟んだ(そして善子だけヨハネでいるシーンが長い)ことで、集団としてのAqoursが未だ不安定であり、同時に特別な舞台を踏めるほどにはアイドルユニットとしての結束を深めてきたことが段階的に示されます。
少なくとも、今のAqoursにはステージ前の緊張を解し合うだけの優しさと相互理解があり、ステージを真剣なものとして捉え直すだけの誠実さがあり、前座でも人を引き付ける魅力があるわけです。
そこにたどり着くまでに、ひどく浅はかで元気で幸せな助走が必要であること含めて、今回のお話は今のAqoursをよく切り取っているように思えます。


もう一つは対抗心メラメラのライバル・アイドル、SaintSnowとの邂逅を果たすことです。
μ'sが生まれるきっかけともいえるA-RISEが(少なくとも一期では)『見上げる』目線で描かれていたのに対し、SaintSnowの二人は同じステージに立ち、同じ目線でラブライブ!に挑む『水平』目線のライバルと言えます。
A-RISEがモニター上の存在から競い合う相手になったのは二期第三話からですから、明確に『運命のライバル』として演出されたSaintSnowとこのタイミングで出会うことは、サンシャインが無印の物語ラインから大きく外れ、独特の方向に舵を切ったことを意味します。

追いかけるべき高い目標ではなく、『水平』目線の平等なライバルにふさわしく、SaintSnowは競争心をむき出しにしてAqoursにぶつかってきます。
神田明神でのアカペラ奉納(あまりに武道的な光景に、ラブライブ決勝が甲子園レベルの巨大行事になっていることを確認)したり、『お前はスペイン忍者か』とツッコみたくなるような謎のジャンプを見せたり、Aqoursの先を行って『実力を見せてやる!』と言わんばかりのステージ入りを果たしたり。
ちょっと意地悪で、それ故実力を秘めていそうなSaintSnowは、スクールアイドルとしてのAqoursを(おそらくは敗北という形で)定位する、もう一つの指針となりそうです。

今回は顔見世ということで、『なんかメラメラギラギラした、ライバルっぽい奴ら』としかわからなかった彼女たちですが、もし彼女たちと競い合うことでAqoursの物語が前進する重要なエンジンであるなら、彼女たちが何を大事にしているか、その内面を見たくなります。
『鹿角』という苗字、ユニット名に入ってる"Snow"の文字から、勝手に秋田のアイドルかなぁとか考えているわけですが、個人的な希望としてはただ高圧的なだけのライバルではなく、A-RISEのように尊敬できる部分を持った、誇り高いスクールアイドルであって欲しいなと思います。

彼女たちの内面はまず、今回ド派手に引いたステージがどのようなものになるかで、強く感じられると思います。
なんだかんだ彼女たちはステージアクターであり、そこで説得力を出さなければこのアニメがスクールアイドルをテーマに選んでいる理由は薄れてしまうでしょうし。
それに加えて、例えばスクールアイドルをやっている理由とか、個人的な好みとか、人となりがわかるシーンが来週入ってくれると嬉しい感じですが、そこら辺は放送待たんと分からんか。
ライバルのお値段はそのまま主役のお値段に繋がるものなので、気持ちのいい奴らだと良いなぁ。


のんきに、そして真剣に東京で頑張るAqoursメンバーに対し、三年組は相変わらず湿度の高いやり取りを繰り返していました。
いやー、引っ張るなー……そこに秘められている物語への期待値が高いだけに、早く本腰で取り込んで欲しい気持ちがグイグイ高くなる。
ダイヤと鞠莉の描写がどんどん増える中、一番面倒くさそうな果南ちゃんの出番が少ないのが、パズルを完成させるピースを見事に欠落させていて、飢餓感つのるつのる。

ダイヤお姉ちゃんはすげー面倒くさい表情してて、妹は可愛し、自分の道を歩かせてやりたいし、でも自分は過去の失敗と壊れてしまった人間関係を前に立ちすくんでしまうし、それでも妹の背中は押してやりたいし、ジレンマを黒髪美少女の形に押し込めたような動きでした。
後輩を焚きつける悪い学園長を問い詰めに、思わずホテルにも深夜侵入しちゃうくらいですが、壁ドンやりやすいようにさり気なく移動して、ダイヤの激情を誘う鞠莉が怖い。
この感情のタメっぷり(そして細かい開放っぷり。ダイヤの本心に踏み込みかけて止めるシーン、ほんと多い)を見ると濃厚な感情を匂わせる三年生に何があったのか判るときは、一気に話が進むときなんでしょうね。
次回SaintSnowと対峙して受けた衝撃を、内浦に持ち帰った時三年がどう対応するかが、一つの大きな起点になる気がします。


そんなわけで、これまで積んだ内浦の土着性を確認しつつ、異質な場所へ一歩踏み出すお話でした。
その先に何が待っているかは、キメッキメでステージに先乗りしたSaintSnowのアクティングを見ないと、なんともいえません。
『東京』で出会った尖った女の子たちからAqoursは何を手に入れ、内浦に帰ってくるのか。
来週がとても楽しみです。