イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第8話感想

真っ直ぐ見つめるにはまぶしすぎる青春の影絵芝居、仲間が増えてく第八話。
菜穂がラブコメラノベの鈍感主人公みたいな動きをしつつ、仲良しメンバー全員が『手紙』を受け取ってたことが解ったり、そこから離れた行動をとってみようと頑張ったり、相変わらずの一進一退でした。
あれだけ支えてくれる仲間がいても、手を繋ぐの繋がないのでドン曇りになる翔の攻略難易度が高すぎて、『一体どこに、何個地雷が埋まっているんだ……』という気になる。
攻略本にはない『みんなでリレールート』に入ったのは、妙手なのか悪手なのか、そこら辺はさっぱり見えません。

という訳で、前回諏訪くんという頼もしい仲間を手に入れ、告白もすんで一件落着ッ! 死亡フラグ解除ゲームクリアー!! という流れかと思いきや、翔がまためんどくさい子と言い始めました。
菜穂と恋人関係になるのを拒んでいるのは、おそらく極度の罪悪感というか、お母さんとそうなってしまったように、自分の愛が人を破滅させることを恐れているからか。
そういう認識で世界を見ているのなら、あくまでうじうじ女子高生のレベルで普通に悩んでいる菜穂が、翔の心に踏み込んでいけないのも、納得は行く。
翔は『死』を常に顔面になすりつけられる世界にいて、菜穂は『死』をリアルに想像できない平和な現実認識を持っているわけだから、これはすれ違うよなぁ。

高校生らしい平和な現実認識の結果、『みんなでリレーを走る』というのんきな解決策が出てきたけれども、精神強度がスペランカーレベルにまで落ちている翔にとって、それがどこまで刺さるか。
視聴者という神の視点から見ればバカらしいことでも、当事者にとっては精一杯ってのはこれまでも描かれてきたことなわけで、効くかどうかはさておき切れる札は全部切っていく必死さが高校生たちにあるのは、僕は好きです。
最善手なんて考える余裕もないし、それをアタマでわかっていても実行できない時だってあるけども、少しでも良い結末を引っ張りあげるべく、等身大の自分に出来ることをやり続ける。
思い返せばはじめからこのアニメはそういう話で、同時に『今の自分に出来ること』から半歩踏み出す勇気の積み重ねで、少しは状況が良くなってもいる気がします。
そういう『半歩ずつの積み重ね』を丁寧に、誠実に描けているからこそ、このアニメの青春の切れ味は瑞々さを失わないのだとも言える。

どっちにしても、母親を殺してしまった(と思い込み、そこからどうやっても脱出できずこのままだと死ぬ)少年の気持ちには、いかに親しい立場でもそうそう踏み込めるものではないです。
心を開いてくれたと思ったらまた閉ざし、手を繋ぐことが出来たと思ったら拒絶される繰り返しの中で、それでも諦めず輝く日常を積み重ね、親友として恋人として共有している(はずの)『生』の岸に翔を引き寄せていく。
ちょっと子供っぽくも感じるリレーは、そんな高校生たちの精一杯が詰まった手筋でして、巧く行って欲しいなぁと願えるものでした。
……ただマジ翔面倒くせぇからなぁ、届くのかなぁ……『手紙』という秘密でつながった五人に、逆に疎外感感じそうなオーラすら漂っているからな、あの思春期モンスター。


そんなわけで、大筋としては大きなイベントに向けて道筋を整える回でしたが、グループ全員が『手紙』を貰っていると判明したり、『手紙』から離れた行動を重視してみたり、色々変化もありました。
最初は自分事と捉えていなかった『手紙』に次第に共感し、行動を通じて身近な存在として捉え、その結果運命が切り替わって『手紙』が頼りにならなくなる。
こうして見てみると『手紙』はSFガジェットであると同時に、典型的な親/指導者/年長者であり、『手紙』との関係が移り変わることがすなわち、菜穂の人格的成長を映し出しているのだと分かりますね。
魅力的なガジェットをただの物品で終わらせずに、作品のテーマを反映させるフェティッシュとして機能させられているのは、やっぱ強いな。

『手紙』を信じて行動すればするほど、『手紙』に頼ることができなくなるというジレンマは、なかなか面白いところです。
『手紙』はあくまで運命を帰るきっかけでしかなく、翔の自死を回避する結末は、結局『現在』の菜穂達が当事者性を持ってもぎ取るしかない。
しかし『手紙』がなければ運命は変わらなかったわけで、ただ頼れば良いのでも、ただ拒絶すれば良いわけでもない不思議な『手紙』との距離感が、ここに来て顕在化してきた気がします。
逆に言うと『手紙』だけに頼る孤独な戦いが終わったからこそ、同じ『手紙』を受け取った『現在』の仲間たちと協力する段階に入ったといえるのか。
『手紙』にしても『仲間』にしても、この物語でより良い結果を連れてくるのは常に『信頼』なので、翔を腫れ物のように扱うのではなく、『信頼』を込めて適切に踏み込むことが最終的には大事になるんだろうな。

後今回は、これまでスパイス的な使われ方をしてきた萩田の出番が増えてて面白かったです。
つかみどころのないぬるっとした性格ながら、やっぱこいつもいい奴で、その不器用でヘンテコな情をあずさとやり取りするシーンは、とても良かった。
菜穂-翔-須和くんは青春力が高い直球勝負で見せてくれるけど、メインにいないあずさ-貴子-萩田はちょっとズラした角度で青春の良さを見せてくれるよね。
ちょっと毛色が違う萩田がグループにいることで、ある種の換気の良さというか、内向きの閉じていく感じが薄れている部分が強くあるわけで、そんな萩田くんの魅力がどっさり出るシーンが多かった今回、凄く良かったです。
あずちゃんと良い雰囲気になっておるが、あずちゃん超いい子なんで付き合うのは許せん……いや萩田くんもナイスガイだから許す……いや許さん……どうしよう……。(キャラに入れ込むキモいおじさん)


そんなわけで、これまで菜穂を導いてくれた『手紙』に発達的な別れを告げ、『リレー』という選択肢に踏み出す回でした。
だいたい察してがいたけども、気持ちのいい奴らが『手紙』でつながった仲間であることも解って、話は全別の方向を舵を切り出した感じがあります。
この決断が、『翔の自死』という重たい結末を避ける道に繋がっているか、否か。

そこら辺は実際にやってみるまで判りませんが、ともかく彼らは勇気を出して決断し、真心を込めて踏み込んだのです。
それが報われることを祈りながら、今後も見守りたいと思います。
……この『こいつらいいヤツだから、マジ報われてくれよな』って気持ちになれるかどうかは、創作物が人を引き付ける上でマジ大事だなぁ……それを出すために、日常の空気を出す演出全力で頑張ってるわけだしな、このアニメ。