イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第22話『鬼が哭いた雪中花』感想

時代を超えた鋼鉄のサムライの挽歌、今週は幾度目かの第三種接近遭遇。
枢石を励起し敵本隊を呼びこむべく、黒田は封鎖され季節外れの雪が降る。
ゼルは仮面を外して父との思い出を語り、ミラーサと由希奈は不確かな記憶にお互いの涙を交じり合わせる。
こちらの玉に詰めろをかけられている状況ではあるんですが、焦らずキャラクターの心を通わせていくどっしりした話運びは、非常にクロムクロらしかったです。

敵の本丸がこちらの本丸と融合し、『平和な現代』の象徴だった学校が緊急避難所として機能している今回は、2つの文化圏が接触する様子が多数描かれました。
岳人とゼルの心あたたまる交流が回想されたり、雪姫顔の二人が雪山で自分百合したり、エフィドルグが攫った人を雑に扱ったり、その形は様々ですが、ともあれ異質な存在との距離感が描かれたお話でした。
同じ状況を描くことで人間と異星人の違いを強調したり、それを乗り越えて共存できる可能性示したり、重ね合わせの多い回でしたね。

一番目を引いたモティーフとしては、タイトルになっている『雪』でして、岳人は雪山遭難で死に、ミラーサと由希奈は雪山で死にかけ、枢石の発動に巻き込まれた人たちはゴミのようにバタバタと倒れる。
出会いと別れは『雪』の中で展開し、そこでお互い何を差し出し、どう歩み寄るのか(もしくはそうしないか)を見せることで、人間とエフィドルグを分けるものがはっきりと見えてきます。
ほんとエフィドルグの人間扱いが雑でなぁ……危険な工事させてるのに、一切メットとかかぶらせてないのがうまい演出だった。


お話の半分くらいは鬼のおじさんの思い出話と、あざといムーブを楽しむ場面でした。
仮面を外し、冗談も交えながら岳人という共通の縁を語り合うことで、ゼルと白羽家、ゼルと人間の距離が一気に縮まる展開で、非常に良かったです。
レトルトのビーフシチューを一緒に食う姿を見て、このアニメにおいて『』温かいものを一緒に食べる』という演出が何を意味するかを思い出し、『すまんゼル……疑ったりして……』という気になりました。
仮面を外して素顔を見せたり、身体に繋がる表現で関係の変化を解らせるのは、相変わらずの得意技ですね。

ゼルの口から語られる岳人おじさんは、学者肌のトンチキなオッサンではあるものの、偏見を持たず真実を見通し、家族の危機を救うために偏見と戦う覚悟を決める、良い父親でした。
由希奈の物語は『戦場』に慣れていく物語であると同時に、不在の父親を取り戻していく話でもあるので、ここで岳人の真実が明かされ、『ああ、惜しい人だった』という気持ちになれるのは、骨太で良い。
第8話で由希奈が父親と夢うつつに出会い、父を許し、父を許せなかった自分を許す成長をしたのも、ゼルが助けてくれたおかげですからね……ゼル周りの話は縁と善因善果で回っている印象だな、好きだ。

岳人の鬼捕獲大作戦のトンチキっぷりも楽しくて良いんですが、己を害しようとした岳人をゼルが思わず止めてしまう所、その後のおどけたやり取りも、凄く好きです。
このお話って常に『人を助けるために、体を張れる奴』には価値が有ると描かれ続けてきて、剣之助やソフィー、赤城が含まれる価値観の中にゼルが入る意味でも、あそこで体が動いちゃうのは非常に良い。
敵であるはずのムエッタを『放っておけないですよ!』と探してしまう由希奈もそうなんだけど、『戦場』では常に失われてしまう『命』に対する柔らかな感性を失わず、人を殺すだけの機械にならずに戦えるかどうかが大事なのだ。
岳人がゼルのために動こうとしたのも、『家族を守るため』だし、そこら辺は人類側に残った人たちには全員共通なのだなぁ。
……さんざんサイコな部分を見せておいて、怪我人を前には『医者の時間』を生きるハウゼン博士も、同じ文脈の演出か。

今ある『命』だけではなく、喪われた『命』に敬意を払えるか否かも、キャラクターの価値を高める大事なポイント。
岳人が残したノートと遺品を菩提にして、和尚が執り行う法要。
避難所にたむけられた華と、茂住さんの遺影を前に感情を絞りだすパイロットたち。
今回は『戦場』でどうしても失われしまうものをどう扱うべきかも、くり返し描かれていたと思います。
そういう部分への想像力がないから、茅原はエイリアンより異質な存在として扱われるのかもね……今週もアバンから飛ばしてたなぁ、アイツ。


ゼルとの距離が縮まった後は、ムエッタと地球人、由希奈とムエッタの間合いが詰まるお話。
父の命を奪った雪に惑わされつつ、エフィドルグにも地球にも居場所がない、己が何者なのかわからないムエッタを追いかけて、文字通り裸の付き合いが展開されてました。
将来の夢がないところから始まって、突然『戦場』をつきつけられ、父への思いをどうして良いか解らず彷徨ったのは由希奈も同じだったしね……そういう意味でも、由希奈とムエッタは鏡合わせなのだ。

ゼルが岳人の自傷を止めることで接触が始まったように、ムエッタも由希奈に迫る死を身を挺して遠ざけることで、お互いを理解していきます。
これまで『敵』としてしか認識していなかった相手が、同じ涙をながすのだと認識する相当いいシーンなんだけど、肌色濃くて目が滑ったよ……まぁサービスは大事だな。
非常に堅牢な関係を気づいた由希奈と剣之助も、思い返してみれば異邦人同士として出会い、ぶつかりながら分かり合ってきたわけで、そういう境を乗り越える勇気と優しさも、このアニメで幾度も描かれるべき大事なテーマなのでしょう。

とは言うものの、ボーデンさんが言うとおりムエッタが人類ぶっ殺しまくっていたのも事実。
血も涙もない『敵』として認識していた相手を、体温も涙もある自分の同類として認識してしまったムエッタが、どういう始末をつけるかはなかなか難しいところでしょう。
『戦場』で命を燃やすことで取り返すのか、はたまた生き延びて別の償いにたどり着くかは今後次第ですが、作品が『命』をどう扱うかが出る大事なところだと思うので、丁寧にやって欲しいところです。
グラハム司令がいろいろ言いつつ温情のある対処してくれている辺り、ソフトに決着しそうな気配もあるけど、どうかなぁ。


そんなムエッタから情報が流れたことで、黒部スノードームの裏に潜む危機的状況も明らかになりました。
敵母艦で見た総攻撃のビジョンと枢石がつながって、どうあっても止めなきゃいけない危機が認識されたことで、話は大きく転がりそうです。
感情や共感をやり取りするだけではなく、情報を繋げて状況を転がす仕事もするってのは、ゼルとの接触とおんなじですね。

人類サイドがエイリアンと温もりのある接触しているのに対し、エフィドルグ側は相変わらずのブラック対応で使い潰し、季節外れの雪までふらしました。
奴らの非人間的な冷たさが現れているし、妙にSFチックなスケールの大きさがあって幻想的で、黒部スノードームの演出は僕好きですね。
現場でぶっ倒れている人たち、凍死ではなくて昏倒であって欲しい所なんだが……ほんとエフィドルグは、その構成員含めて『命』の扱いが雑だ。

バリアーの堅牢さ、圧倒的な兵力と技術力の差、決め手のなさ。
状況は人類に絶対的に不利ですが、ワープゲートの情報がオープンになった以上、盤面は待ったなしです。
今回はじっくりと感情と情報を地ならしする回でしたが、来週以降はまたドンパチドンパチ派手になることでしょう。
またロボ殺陣が見れると思うと楽しみではあるんですが、『戦場』では人が死ぬからなぁ……諸手を上げて大喜びとはいえないのは、キャラが好きになっているってことなんで良いことだと思います。


そんな感じで、触れ合う心の暖かさと、踏みにじる悪意の冷たさが交錯する、狂い咲きの雪中花でございました。
じわじわ距離を詰めてたゼルおじさんがついに『メシを食った』ことで、作品を貫通する演出を味方につけて、一気に味方になった印象を強く受けましたね。
ムエッタはまだ『温かいものを一緒に食べる』シーンがなくて、心底から心を一つにはしていないんだなって感じですが、まぁある意味優樹菜と一緒に食べたからな!!(最悪の下ネタ)

枢石の励起により黒部には雪が降り、人類には一切の余裕がなくなりました。
しかし『戦場』でも人間で在り続けるために必要な絆は、今回たっぷりと貯めこんだのであり、まぁなんか逆転の秘策がドドンと出てきていい塩梅に大逆転だろ。(ロボアニメのお約束にどっしり腰を下ろすマン)
合戦の機運が高まってきましたね……っていって公式行ってみたら、なんか剣ちゃんが野球のユニフォーム着てた……。
変化球でも直球でもストライクが取れるロボアニメが、次に投げる球をどっしり待ちたいと思います。