イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チア男子:第9話『太陽の涙』感想

男たちの汗と涙が夢を輝かせる直球スポ根アニメ、今週はお話の中心が崩れる時。
先週伏線を張っておいたカズの不審な振る舞いを一気に掘り下げ、チア部結成に秘められたエゴイズム、完璧人間の奥にある脆さ、人間の陰りも照らし輝かすチアの強さを、しっかり描くお話でした。
話数を積み上げてお話の背骨としてカズを機能させてきたので、それが折れた時の切迫感、ハルが取り戻しに行った時の頼もしさともに、非常に見応えがありましたね。
やっぱこー、物事の裏が見える瞬間にはカタルシスがあるな。

今回のお話は一種の解答編といいますか、あまりにも完璧にチア部の太陽を務めてきたカズが本当は何を狙い、何を考えて動き始めたのか、明らかになる話です。
カズの言動はすごく的確で公平で、物語信仰的には凄くありがたいんだけれども、綺麗すぎて人間味がない部分も確かにあった。
『祖母に自分を思い出して欲しかった』『父母と同じ演技をすれば、家族が取り戻せると思った』という本音には、そこを補うエゴイズムというか、欠けていたカズ個人が納得できる形で詰まっていて、足りないピースが埋まった感覚を覚えました。
そういう部分が剥き出しになる、ロビーでの邂逅シーンの表情作画は、凄みと凄惨さがちゃんとあってショッキングで良かったですね。

やっぱ人間というのはただただ綺麗な題目だけでは動けないもので、行動には個人的な欲望が必ずつきまとい、身勝手な部分は絶対存在します。
そういうエゴイズムがあればこそ、苦境でも歯を食いしばり目的を達成する努力ができるわけで、キレイ事だけ掲げられても、そのキャラクターが頑張る説得力はなかなか生まれない。
カズはBREAKERSのために徹底的にやるべきことをやってくれる、頼れるリーダーで在り続けたわけで、そのエンジンにどういう燃料が入ったか判ることで、苦労と努力に納得が行く作りになっていました。

カズは『結局、自分のためだ』と言っていましたが、彼の原動力は『お祖母さん』という他者の心に繋がるために湧き出てくるもので、けして身勝手なものではありません。
『他人のために自分が』というクッションの効いた身勝手さは、誰かを応援する競技であるチアーにも繋がる部分があり、カズが見せていた利他性を裏切らない、きれいなエゴイズムだったと思います。
ココら辺のよどみのなさというか、爽やかな感じを崩さないのは、作風だなぁと思います。


カズのエゴイズムを受けてハルとBREAKERSが見せた対応も僕は好きで、カズの複雑な事情をちゃんと理解し、どうにか恩返しをしようとする連中は暖かで良かったです。
弱さを見れることだけが人間味の証明というわけではなく、これまでカズがBREAKERSを支えていた強さもまた、人間が人間であればこそ出来る、立派な行い。
真相が明らかになったからといって、カズがBREAKERSを作り、仲間を集め、鍛え上げてきた事実は消えないし、その価値もなくなりはしないわけで、そこを大事にしながら話が進んだのは、非常に良かった。

カズが身勝手な部分を見せたことで、主人公であるハルがその穴を埋めなければいけなくなり、カズが担当していた公平なリーダーシップを自発的に取り始める展開は、これまでハルがカズの影に隠れていた分、グッと胸に迫るものがありました。
ハルが『人を励ます』チアー競技者として天賦の才があるのはこれまでもチマチマ描写されていたわけですが、一番身近で一番大事な相手が崩れた時、真正面から心を受け止めるシーンを照れずに描写することで、その才能がよりはっきり見えた。
あの瞬間、これまで描かれてきた『カズ>ハル』の構図が崩れて、キャラクターはそうは受け取らない言動をするんだけど、『カズに勝て!』というハルの課題が攻略されているわけです。
そうすることで、主人公のさらなる成長とそれを足場にした物語の飛躍が約束されるわけで、透明感のある勝ち負けのカタルシスをしっかり演出できていたと思います。
こういう直球勝負の『良い話』をしっかりやれるのは、王道スポ根の強みだと思うね、やっぱ。

カズという柱を立ち直らせるために、チアーという作品の根本をしっかり全面に押し出し、自分たちがやっていることに誇りを持って答えとする姿勢も、非常に良かったです。
『チアーって何が出来るんですか? 何が凄いんですか?』という問いに、チアーをテーマにした創作物たる今作は絶対答えなければいけなくて、それを問いただすために支柱が折れるのも、柱を立て直すために主人公が迷わず『チアーをやるんだ。苦しがってる人を勇気づける競技なんだ』と正解を出してくることも、力のある直球で素晴らしかった。
お話も終盤に差し掛かるこのタイミングで、作品全体のテーマを骨太に再確認する話があるのは、非常に強いなと思います。
やっぱ作品の真ん中に座っているモノは、それがテーマでも競技でも設定でもなんでも良いんだけど、いざ一大事って時は問題解決の最前線に立って、己の価値をしっかり示して欲しいなと思いますね。
それをしっかり描くことで、作品がなぜ『それ』を選んだのかという独自性が、視聴者にクリアに伝わるので。

そういうド直球の骨太な展開を支えるべく、細かい仕事がしっかりしていたのも良かった。
なんかソワソワしているBREAKERSを掘り下げて、二回ほど大したことないフェイントを入れてから本命のカズに切り込んでいく展開もいいし、看護婦さんがBREAKERSのチアを承認している要素を入れて、社会的な地ならしを済ませているのもグッド。
せっかく物語が最高に盛り上がるタイミングで、『え、でも病院に迷惑じゃね?』という疑問が脳内に湧き上がるの、まじダイナシだからな……パワーでそういう細かいの押し切る作りも好きだけど、ちゃんとロジックを組み上げて整地する作りも好きですね。


BREAKERSの設立者であり最大の功労者でもある男が人間の弱さを見せ、それを主人公が受け止め立ち上がらせる、オーソドックス故に太い展開でした。
やっぱなー、きっちり関係と人格を積み上げた上で、それを大きく崩して補う展開というのは、濃厚なカタルシスがあって最高。
カズの良いやつ加減を損なうことなく、むしろそれを高める方向に真相を隠していたのも、彼が大好きな視聴者としては最高に有りがたかったな……ええ話やった。

そんなカズが今回巧妙にトス上げしてくれた、ハルの恋愛話もじわじわ積み上げてきた伏線
です。
そこら辺と、お姉ちゃんとの確執、SPARKSとの対決あたりを次回炸裂させる感じかなぁ。
いよいよ終盤戦という感じですが、王道スポ根街道をどこまで真っ直ぐ走りきってくれるのか、期待大です。