イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第10話『今日という一日を迷うコト』感想

伊豆はいいとこ一度はおいで! 海は綺麗で豚汁は旨い!! という底抜けネアカにはちと遠い、青春迷い路くねくねダイビングアニメの10話目。
仲良しぴかてこバディが姉ちゃん先輩を誘い、買い物したり海行ったり、思う存分青春を堪能……する原作要素にプラスして、第6話で完遂ならなかったプール講習を無事クリアしたり、もやもやした胸の内を思いっきりぶつけてみたり、水着を試着するシーンを追加してみたり、色々太ったお話でした。
原作を大胆に再構築して『てこが海と出会い、海に潜るまで』の地道な成長物語という芯を入れたの、やっぱ正解だった気がするな、うん。

今回のお話は姉ちゃん先輩の一人称で始まって、女の子のピュアなキャイキャイを横から見る三人称的視点を経由し、ナイーブなてこの一人称的内面をほり込んで終わる、結構凝った歩き方をしています。
もともと群像劇的要素が強いアニメなんですが、『年上が年下から誘われる』ありがたさを最初において、その後てこ主眼で『頼れる先輩・優しい相棒』の姿を切り取り直すのは、キャラクターが持っているいろんな側面を一話で切り取れていて、なかなか贅沢な楽しみ方でした。
第8話Aパートでもそうでしたけども、姉ちゃん先輩は頼れるけれども完璧ではなく、色んな人に助けられながら自分も他人を助けられる、人間くさいバランスが魅力的なキャラですよね。

そんな風にしてんが移り変わる中、お話しの真ん中を貫いているのは『悩むこと・迷うこと』でして、『後輩と出かけるか、否か』『どのログブックを買うか』『ぴかりに内面を吐露するか』などなど、みんな色々悩む。
一般的にはあまりポジティブな意味で語られない『悩みや迷い』ですが、今回は悩むこと自体の楽しさ、その先に待っているものを前向きに捉えて、日常の新しい捉え方を見つける構成になっていました。
一般に流通している見識に待ったをかけて、足を止めて別角度から考えなおし新しい価値を見つけるってのは、あまんちゅ全体に通じる基本的な姿勢ですね。

かといって無条件に『悩むこと・迷うこと』を肯定しているわけではなく、あくまで人間の本堂に戻ってくること前提の肯定といいますか、決断と隣り合わせの『悩みや迷い』に価値を見出している感じです。
ログブックや水着もちゃんと買うし、『海で泳ぐ!』と決めたら徹底的に泳ぐし、自分が迷いの中にいることは、真っ正面からぴかりに伝える。
『おいおい、告白かよ。つーかここまでのモヤモヤはマリッジブルーかよ』とツッコみたくなる、あまりにもピュアな心情の吐露でしたが、自分の気持をド直球で伝えられるのも、迷って悩んでいろいろ考えたからなわけです。
迷う姿と並列して、絶対に受かると心に決め、努力を積み重ねてきたプール講習合格をちゃんと描いて、『迷わない』ことの価値も同時に描いているのが、非常にアニメあまんちゅ!らしい。(この構成は再構築されたものなので、アニメスタッフ(多分赤尾さん)の手柄)


『迷い』を価値あるものにするためには、付き従い見守って、深い淵に入ろうとしたら止めてくれる仲間が必要になります。
それはウジウジした無為な休日から連れ出してくれたてこぴか後輩コンビだったり、第1話で出会った時と同じように豚汁を出してくれるオババだったり、面倒くさスレンダー黒髪のくっそ長くて重い告白を大真面目に聞いてくれるグラマラス金髪だったりします。
普段はうぴょうぴょうっせーぴかりが、てこが『迷い』の果てに口に出した言葉は黙って聞いてるの、『ホントこいつ、人間性能高いな……伊豆特産の天使かな……』って感じだった。

ぴかりはバカでポジティブで、常に正解を掴む直感性に優れた、てこの導き手です。
今回姉ちゃん先輩とてこは一人称的視点を担当しても、ぴかりの内面が直接描写されないのも、導き手として精神的に優越/特権化されなければいけないぴかりの、一段上の立場がそうさせるのでしょう。
変化や決断を必要とする人間的内面を描くと、ノータイムで答えに導いてくれる天使性が薄れちゃうもんね。

しかしぴかりはあくまでただの高校一年生であり、『悩みや迷い』を一切感じないわけではなく、己が選びとった人生哲学に準じて、意識して『悩みや迷い』に留まらないだけ。
そこにはてこや姉ちゃん先輩と同じような柔らかさが確かにあって、それを感じることで『ああ、この子も仲間なんだな』という安心感が生まれてくる。
ココら辺の主体と客体の塩梅が今回はすごく巧くて、間に三人デートをとにかく楽しく、底抜けに明るく描くことで、垣根も遠慮もないフラットな繋がりが強調されてたりする。
原作より肌色率を上げたあそこは確かにファンサービスでもあるんだけど、同時に導き手たるてこを高い場所に置きすぎず、『部活の仲間/導くべき後輩/最高のバディ』として維持するための大事な足場としても機能してます。
一つのシーンに2つ以上の効果を持たせる見せ方は劇作の基本であり、お話しの圧縮率を上げ密度を高める大事な技法ですが、あまんちゅアニメは特に巧いね。


第1話の構図をリフレインして、てことぴかりが出会ってから流れた時間、重ねた話数、生まれた変化を強調しつつ、変わらず見守ってくれるオババを浮かび上がらせる対話シーンは、シリーズアニメだからこそ出来るリッチな場面でした。
オババが長尺で語る『ひかり』は、ポジティブな要素にネガティブな性根を持った子供がどう向かい合うかという一般論であり、同時にてこがぴかり(本名・小日向光)にどう向かい合うかという個別論でもあります。
てこが内面にジメジメした『悩み』を抱え込んでいると見て取ったからこそ、『アタイも一端のポエトリーなんだよ?』とばかりに良いセリフぶっ込んで、背中を押してくれたのだろう……孫もそうだが、祖母も人間力たけぇわ。

つーかオババ孫好き過ぎだよなぁ……あんなド直球で褒めねぇよフツー、とか斜に見たくなるけど、実際ぴかりさんがてこさんにしてくれたことを考えると、アレくらい褒めてもまだ足りない、多分。
ぴかりは頑張って世界をポジティブに捉え、吸収し、それを貯めこむのではなくどんどん他人に明け渡せる、稀有な才能を持ってます。
そのありがたさが無視されずに、祖母によってしっかり言葉で褒められ、てこの告白でも感謝されている優しさの輪廻、俺マジ良いと思う、マジ。

オババのサポートを受けて絞り出したてこの告白は、ぴかりへの感謝が濃厚に詰まっていて、かつこれまでのお話を綺麗に総括もしていて、何度目かの『良い最終回だった……』感を生んでくれた。
石の上という『てこの領地』と、水の中という『ぴかりの領地』が凄く意図的に配置されていて、物理的なポジションを見ることで二人がお互いをどれだけ大事に思っていて、どれだけ歩み寄っているのか判る、そしてそれが固定されたものではなく『迷い』と『決断』を伴う『運動』なのだと無言で判る辺り、動きと色がついてくるアニメってすげぇ表現手段だなと思い知らされた。
普段の『動』から告白を受ける時の『静』、そして飛び石を渡って『てこの領地』に近づいていく『動』と、ぴかりの『運動』が内面を反映してアニメートされてるのが、すげぇ切れ味なのよね……演出ってすげーわ、ホント。

あと女体な女体!!(急速なIQ低下によりショック発症)
今週は女体表現がマジすげー感じで、三者三様のグラマラスがコレでもかッ!! とばかりに叩きつけられ最高でした。
『二枚重ね』で対応せにゃならん姉ちゃん先輩の圧力、ちびっ子だがメリハリの有るぴかりボディ、そして高身長スレンダーなてこボディ。
エロい視線でももちろん嬉しいサービスだったんだけど、身体的差異というのは個人が誇るべき違いでもあるわけで、そこを油っぽくない視線で妥協なく掻き分けて、小日向光が小日向光である、大木双葉が大木双葉である、二宮愛が二宮愛である証明を、胸を張って描いていることが俺は嬉しいし好きなのね。
やっぱあまんちゅ!の身体描写は好きだなぁ……正しくスケベで、プライドがある。


というわけで、緩やかな夏の一幕を追いかけつつ、『迷い』と『決断』の価値を確認し直すエピソードでした。
一見ダラっと日常を追いかけているように見えて、積み重ねた時間をまとめて思い返し、お話しの重層性を視聴者にちゃんと見せる話に仕上げるのは、歯ごたえあって巧い作りだなぁと、ただただ唸る。
ラストにプール講習合格を持ってきて、具体的な成果とシリーズ全体を通した努力を形にするところとか、最高に収まり良かったです。
あと姉ちゃん先輩のおっぱい描写に一切の妥協がなかったところな……マジ穏やかなる暴力。

泣き虫マーメイドの内面的冒険をしっかり取りまとめた所で、来週は天野先生といえば! なねこ話。
まぁこの話やらないと、『EDに出てくる謎の生物は、一体何なんだ……』って気持ちになるしな。
ナイーブでタフな少女たちが、白いい生物から一体何を学ぶのか。
来週もとっても楽しみです。