イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

初恋モンスター:第12話『ラブノーマル×アブノーマル』感想

年齢という裂け目が愛と欲望とネタを加速させすぎた狂暴なラブ・コメディ、ついに最終回であります。
見ながら思わず『長ッげーよ!!』と突っ込んだ白昼夢で時間を使い、相変わらず気の迷いのド下らない別れ話にほっさんが本気でツッコみ、終わってないけど終わった感じで綺麗に終わりました。
『最終回だからなんか感動的なエピソードでも挟むと思ったか? 俺達は最後までやりきる。シモネタも当社比三倍でぶっ込むし、小学生レベルのうんこちんこ展開も大盛りにするし、カップルのラブコメもちゃんとやる』という、下らなさへのプライドみたいなものがしっかり感じ取れて、俺は大好きな最終回でした。

今週は夏歩の妄想から始まり、話の半分以上それが垂れ流しにされます。
80年台の少女漫画とトレンディードラマにあったようななかったような、極端なおしゃれ系恋愛劇のパロディをいじり倒しつつ、そこには夏帆の深層心理が思いっきり反映されている。
というか、良い子ちゃんの仮面を取り外した後の、剥き出しの欲望が露出している。

イケメンどもが自分の価値を高く認め、トロフィーのように己を取り合いつつ、誰もが自分に夢中で自分を愛してくれる世界。
かなでは自分と同い年の『普通の青年』で、しかも社会的に認められたアイドルで、耳障りの良い寝言を垂れ流しながら、自分だけをまっすぐ見つめて恋愛してくれる世界。
意味わかんない小学生ネタで本気をスカされることもないし、暴力的にならない程度に性欲を滾らせてくれるし、でも世界中の男はみんな紳士的で私をチヤホヤしてくれる世界。
腐れ変態やイジワル人間やウジウジヘタレも、みーんな話が通じる爽やかイケメンになって、自分勝手にネタ垂れ流しになんてしない世界。
まぁあの腐れトンチキ状況に置かれたら都合のいい世界も夢想したくなるだろうが、それにしたってド直球にリビドー全開すぎて、この主人公ほんといい性格しているなと感心すらした。

回想シーンがパロディしている恋愛フィクションそれ自体が、身勝手な欲望を全面的に是認し、世界律を捻じ曲げながら欲望に奉仕するジャンルではあるので、あの話は夏帆の深層心理だけが表面化しているわけではない。
最近だと"Dance with Devils"とかも、『世界で一番お姫様、そんな私を紳士的かつちょっとだけワイルドでイジワルに激しく求めて! 恋愛というバトルフィールドで奪い合う価値があると証明して!! 激しく求めつつ拒絶されたら素直に引き下がって!!!』という剥き出しの欲望を加速する構造していたので、そこら辺を茶化してはいるのだろう。
ちなみにそういう欲望に奉仕することもフィクションの立派な仕事だと思うし、そういうフィクションが戯画化してくれる欲望の構図を見守るのも好きなので、来期そういうアニメねぇかなって気持ちはムンムンです。
妄想の形で示された『ノーマル』でありたいという剥き出しの欲求と、『アブノーマル』な現実とのギャップに向かい合い、夏歩が自分の本音と対話し始めたら面白そうなんだが、アニメはそこまでおいきれないのが惜しいね。


夏歩の都合の良い妄想の中で展開されていた世界と、夢から覚めて突きつけられた世界は全く違っています。
小学生どもは話し聞かずに大暴れだし、変態たちは自分の欲望のままにノーブレーキで走り回るし、まともそうに思える連中も性格ひねくれまくりだし、夏歩が望む少女漫画のようなキラキラな要素は、まったくもって存在しない。
では夏歩は"初恋モンスター"の世界全てが消え去って、妄想していた世界が現実になればいいと思っているかと言えば、必ずしもそうではないと思うわけです。

大塚明夫の声優力でネタとして押し切っているものの、どんちき騒がしいコメディ世界を夏歩は結構楽しんでいて、それはそれで良いものだと、やっぱちゃんと思っている。
最後に作品全体を肯定するモノローグが入るのは、なんとなーく収まりが良いのでお約束ではあるのだけれども、お話をまとめるポーズの要素は含みつつ、夏歩の心情に寄せたシーンでもあったかなと、僕は思った。
まぁ真っ正面から夏歩の気持ちを扱って、奏がそれを受け取っちゃうとお話終わっちゃうからな……茶化せる間は全開で茶化さないと世界が壊れちゃうってのは、ラブコメの難しいところだ。

夢の世界で自分の本音と向き合ったのか、これまでヒロインっ面で本音を隠していた夏歩が、作品全体に延々ツッコミを入れまくるシーンも、いい具合の横殴りで気持ちが良かった。
まぁこのアニメ根本的にボケっぱなしだったからな……夏歩が本音を言わないことで笑いの形が成立していた部分があるので、剥き出しのツッコミを叩きつけ、視聴者の気持ちを言葉にしてくれたのは最終話だから許される、ってのはあるだろう。
しかし己を隠さず叩きつけることで、奏とのデコボコした関係も良くなっていくはずなので、ネタでもなんでも本音を吐露したのは良かったと思う……もう最終回じゃんッ!!

前回も言ったけれども、色々積み上げた要素が花を咲かせる前に放送期間が終わってしまうのは本当にもったいなくて、奏相手に我慢するのを止めた夏歩がどう変化し、それを受けて奏がどう変わっていくかは見たかった。
トンチキ人間は周囲の変化に反応せず、己を貫くからこそ極端な環境はギャグたり得てるわけだけど、同時にこのお話はストーリーが蓄積してキャラが変わっていくことにそれなりに素直で、作品を成り立たせる変化と固着の微妙なバランス取り自体を楽しんでいた感じもあった。
それが行き着く先を見たかったわけだが、アニメではそれは描ききれないわけで、アニメ見てこのお話が好きになった視聴者としては原作読もうと思わされました。


そんなわけで、作品世界はまだまだ続くけれども、視聴者がアニメという形で覗き見れるのはここまでッ! という終わり方でした。
話数が決まっている以上終わりは必ずやってくるわけで、最後までアホバカトンチキラブコメとしての火力を失うこと無く、お行儀悪く全開で終わってくれたのは、非常に良かったです。
ローラースケートの絶妙な古臭い感じと、何の中身もないフワッとしたジャンプ対決(お菓子付き)の頭の悪さとか、ホント最高だった。

キチで走り抜けるスピードを緩めること無く、『小学生男子と高校生の恋愛』というもう一つの軸も大事にして、夏歩の欲望と奏の無垢の衝突もちゃんと描いていたのも、とても良かった。
16歳の世界と10歳の世界はぜんぜん違うもので、そこがすれ違うことで生まれる軋みを、ネタ交えつつちゃんと掘っていたこと、軋みが二人に与える痛みも描いていたのは、好きになれるポイントでした。
トンチキ世界を楽しく描きつつも、そこでうごめく感情がかなりリアルだったのは、お話の緩急という意味でもキャラクターを記号にしないという意味でも、凄く好きなスタンスでした。

これから彼女たちの恋がどこに向かっていくのか、興味は尽きないところですが、一旦は幕引きです。
ネタの火力と不思議な誠実さを両立させた、面白いアニメだったなぁ。
初恋モンスター、とても面白かったです、ありがとうございました。