イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け! ユーフォニアム2:第1話『まなつのファンファーレ』感想

特別の証明を金管楽器と女の唇に求めるアニメ、一時間スペシャルで帰ってきました!!
描かれているものの図抜けた質量に気圧され、感想の足が止まったりもしましたが、美麗な描画と濃厚な感情、あまりにも美しく残忍な瞬間を切り取るカメラの良さは健在通り越していや増しております。
一期の物語を経て変わったもの、これから変わっていくもの、新しく出会うもの。
様々なものを描ききって、冒頭の冬に至るまでのドラマが乗っかる土台を作る第一話であります。

というわけで京アニ気合十分の本作、通常よりも二倍の時間を使った特別な形式となりました。
『24分を二回やる』のではなく、傘木先輩の訪問を契機にグッと色合いが変わる『48分のドラマ』としてしっかり仕上げてきていて、重たく、美しく、楽しい第一話でした。
長尺故にじっくりと、北宇治吹奏楽部の『今』と『これから』を切り取り、そこに込められれた少女たち(少年もいるけどさ)の青春の息吹を感じ取れる描写をたっぷり詰め込んで、このアニメが持っている画角の鋭さ、画素の細やかさを強く感じ取れる出だしだったと思います。

大掛かりな部活モノなので群像劇的な色合いが強いこの作品ですが、やはり主軸となるのは主人公・黄前久美子と、引力で惹かれ合う高坂麗奈の二名。
彼女たちがブラスバンドへの姿勢もお互いの印象もすれ違っているところから、音楽を通じて向かい合い、青臭く凶暴な『特別』への衝動を共有しながら『特別』な関係になっていく過程が、一期では重点的に描かれていました。
二期はそこを通り越した地点から描写が始まるわけですが、久美子と麗奈の閉じた関係の強さにすがるのではなく、かと言って作品最大の魅力と言える二人の引力を無視するでもなく、いいバランスで描写できていたと思います。

麗奈も久美子も性格的には結構クセのある子たちで、一筋では行かない苦味がいいアクセントになっているキャラクターです。
そんな彼女たちも、滝顧問に引っ張られる形でブラスバンドと向かい合い、部活という集団生活に身を投じる中で、否応なく人とふれあい変化してきている。
一期冒頭ではぼんやりとユーフォを構えていた久美子は、麗奈と惹かれ合う中で『上手くなりたい』と涙をながすほどに音楽に本気になり、麗奈も楽器と滝顧問以外興味がなかった世界を久美子tのふれあいや、先輩とのオーディションの中で変化させています。
今回かなりの時間を使って、一年組四人の関係や、ちょっと他人に無頓着な部分がある久美子より、人間関係に繊細な麗奈の描写を入れ込んできたのは、そこら辺の変化を見せる意味合いがあるのでしょう。

その上で。
どれだけ葉月や緑輝との関係が『いい友人』であっても、久美子と麗奈の間にある『引力』はどうしようもないほどに特別な間柄であり、性欲や友情やライバル心や同志愛ともいい難い、複雑な色合いを持っています。
『四人』で一緒にいる瞬間の後に必ず『二人』でいるシーンを入れて空気の変化を見せたり、人のいない朝の校舎や帰り道の電車など、引力に満ちた空間を多数入れ込んできたのは、一期の物語を経て激烈な繋がりを手に入れてしまった二人の『特別』が、物語を支える大きな土台なのだと確認する意味合いが、かなり強い気がします。
『二人』を描く時に目のアップが非常に多く、お互いの目にお互いしか入らないような、恋すらも生ぬるいような『特別』な間柄を、お互いの視界を切り取ることで巧く表現していたと感じました。


この『特別』さがピークに達するのは、やはり最終盤の見せ場である花火大会でして、一期第八話の圧倒的な湿度と重力を引き継ぐかのように、少女たちは誘いに戯れ、特別な衣装を着込み、あまりにも美しい場所に飛び込んでいく。
あの花日が美しいのは、もちろん京アニが磨きに磨いた光のアニメーション技術の成果なんですが、同時に秀一なんぞヘでもない程に強く結びついた『引力』が世界を『二人』に切断しているからだと思います。
花日のように消えてしまうと分かっていても、それでも永遠であることを望まざるをえない、あまりにも『特別』で美しい、『特別』な相手との時間。
花日を照り返す水の上というセッティングも非常に詩的で、彼女たちの夏がどれだけ綺麗なのかを、しっかり描けていたと思います。

二人のデートは一期で積み上げた感情だけが許す『特別』な変化の結果なわけですが、同時に麗奈の中に強く根を張った、一種の歪みも描写されます。
傘木先輩を『逃げた』『特別ではない』と切り捨てることが出来る麗奈は、ダメ金取って悔し涙を流した時から変わらず、『特別』であることに強いこだわりを持っています。
それは『特別』であることの恐怖に耐えきれなかったもの、吹奏楽部室に背中を向けた存在を指弾することでのみ強調される、非常に排他的で攻撃的な、麗奈の個性です。
それを受け入れ、己の特性として取り込んだからこそ、久美子は『休めない夏休み』を歓迎するほどにブラスバンドにのめり込めたし、『上手くなりたい』『特別になりたい』という欲望に正面から向かい合う気になれた。
あそこで語られる言葉は、『特別』であることを望み、実現するべく手を握った二人の共犯声明であり、その繋がりが消え去らないことを狡猾に確認していく、特別な儀式でもあるわけです。

かくして主人公たちはかなり『特別』な絆で結び付けられ、堅牢な意欲を込めて『特別』を目指しているわけですが、ではそれ以外の立場が全て切り捨てられているかと言えば、そうではない。
あの『特別』な花火は峻厳な覚悟を固めた『二人』だけではなく、彼女たちの友人である一年生にも、複雑な心模様を抱えた二年生にも、それぞれの道をゆく三年生にも、すべての人に対して開かれているわけです。
僕はこのアニメでいっとう斎藤葵ちゃんが好きなんですが、それは部活をやめる『敗者』である彼女が見ている世界にも尊厳と優しさを込めてしっかり描き、多様な選択肢が許されている場所として作品を仕上げるスタンスが、彼女から感じ取れたからです。
『引力』に結び付けられた『特別』な主役たちだけではなく、そこから外れた様々な人々のあまりにも美しい瞬間を、横幅広く切り取った花火大会の見せ方は、青春群像劇としても、多人数バンドを扱う作品としても、誠実で表現力豊かな描写だったと思います。

そういう意味では、チームモナカの"学園天国"は『特別』ではない彼女たちの至誠が強く伝わってきて、凄く好きだなぁ……。
一期番外編もそうなんだけども、『特別』であることを真実描くためには、『特別』にはなれなかった存在に侮蔑ではなく尊敬の目線を送り、切り取らないと始まらないと思う。
麗奈曰く『逃げた』傘木先輩と彼女の周辺をどう切り取ってくるかは、『特別』と向かい合うこのアニメにおいては大きな勝負どころになるんだろうなぁ。

花火大会は『二人』を切り取る縦深、多様性を映し出す横幅だけではなく、シリーズ全体を予見する時間的縦幅も、なかなかに広かった気がします。
二期の物語は前半24分で北宇治の現状を切り取りつつ、笠木先輩という『過去が蘇る』ことで幕を開けました。
これに重ね合わせるように、花火大会も『源氏物語が現在に蘇る』花火でスタートし、そして『二人』(が代表する、美しい青春を今まさに輝かせている全てのキャラクターたち)が『永遠』を望んだ瞬間、花火大会もまた『永遠』を語りながら終焉する。
絵的に圧倒的なパワーを持っている花火大会の場で、『過去が蘇る』物語をこれから展開すること、そしてどのような過程と結果を経るにしても、これから描かれる物語は『消えていく永遠』にまつわる物語として、とても綺麗なものになることを予告できたのは、凄く詩的な暗喩に満ちた良いスタートだったと思います。


久美子と麗奈、『二人』の物語は一期である意味既に終わっているので、その生々しい麗しさを存分に描きつつも、物語には別のエンジンが必要になります。
そこで選ばれたのが、一期で匂わせつつ触ることがなかった『一年前の事件』であり、二年生が織りなす複雑怪奇な四角形が、今後しばらく展開を引っ張るであろうことを、強く感じ取ることが出来ました。
傘木先輩の復帰がもたらす波紋、道半ばで離れていった友人を支えたい中川の目線、物静かな鎧塚先輩が隠した重力、中世古先輩に向けるのとはまた違う表情を見せたデカリボン古川。
『二人』にも負けない湿度と重さで南中の四角形は切り取られていて、非常に面白かったです。

構図として面白いのは、南中の面々が『失敗した主人公』として描かれていることで、久美子と麗奈が巧く乗りこなした『特別であることへの恐怖と痛み』に押し流され、あまり幸せな関係にたどり着けなかった存在として、あの四人がいることです。
敗北を噛み締め決意を新たに走るバスは、久美子と麗奈がすれ違った予選会場の別の顕れなのであり、主役たちがかつて立ち向かい、今も立ち向かっている『特別』との戦いを、二年生たちも共有している。

このことが一つのテーマを作中のキャラクターが深く、広く共有している視聴感覚に繋がるし、あまり人間に興味がない久美子が、見ず知らずの傘木先輩に切り込んでいく物語の主因にもなっています。
主人公がズカズカ踏み込んでいかなければ、話のエンジンはエンジンとして機能しないわけで、こういう形でスムーズに久美子に興味を抱かせるのは、巧いなぁと思います。
滝顧問と出会ったことで偶然に(もしくは運命的に)、己が『特別』であることを証明するチャンスを手に入れた久美子と、クソみたいな環境で『逃げ』る形になり、波紋を覚悟で部に帰ろうとする傘木先輩。
二人は歪んだ鏡に写った鏡像であり、一部似通った、しかし決定的に異なったシャドウ同士なわけですね。

構図の妙だけではなく、各キャラクターの繊細な心理描写もやはり冴えていて、『京アニ、自分たちの武器を忘れていないな』という気持ちになりました。
一期でほぼ描写のなかった鎧塚先輩を立たせるべく、狂犬っぷりが印象深いデカリボン古川の意外な側面を巧く使って、『あのマッドドッグが自然に『いい友人』してる! コイツ何者ッ!!』という気持ちにさせられたのは、凄いなぁと思う。
色んな個性を持った色んな人間がいて、それぞれがぶつかり触れ合うことで様々な表情が見えてくる面白さというのもこのアニメの大きな魅力なので、古川の意外な表情を引き出せることで、物静かな鎧塚先輩が結構『面白い』キャラだと思えるのは、なかなかグッドでした。

吐き気を催すほど傘木先輩のフルートにダメージ受けていた鎧塚先輩ですが、麗奈のように『逃げた』と感じての義憤なのか、はたまた『希美が好きすぎて生きているのが辛い……』という愛ゆえの反応なのか、どっちにしても重たい感情が横たわっているのは間違いなさそうです。
二人の間にある『特別』な関係を強調するべく、泰然自若として人間関係の波風に無頓着な様子を、「三人は仲悪いの?」という爆弾のようなセリフで事前に印象づけておいたのも、巧いキャラ表現ですよね。
人形めいた無感情が第一印象としてあるからこそ、古川の対応とか、百合性実存的嘔吐とかが刺さるんだと思います。


しかし傘木先輩についてるのはポニテ一号中川だし、ナシを通したいのは田中先輩だし、どーも傘木-鎧塚ラインに流れている感情は、アンバランスな感じを受けますね。
ここを久美子を窓にして掘り下げていくことも、二期の展開の太い背骨になっていくと思うので、今後の表現が楽しみです。
Wポニテが夏祭りに来ているのを見咎めて、ギュッと拳に力が入る古川の描写がね、爆弾のごとくヤバい。

傘木からラインが伸びているあすかは、一期で見せたブラスバンドロボっぷりを全開にして、なかなかつれない返事でした。
人情の機微をあえて切り離し、とにかく『自分がユーフォをやる』ことを最重要視しているあすかの砦は、二期でもなかなか崩れない感じです。
あの子、『人当たりのいい捌けた先輩』を演じつつ(妙に恋バナを強調したがる道化っぷりとか、そこら辺巧く見せてましたが)、その実『他人はどうでも良いユーフォ・エゴイスト』であり、しかしその裏には人一倍感受性と傷つきやすさを隠した『人情家』ってのが、非常に面倒だし複雑だし魅力的だなと思います。
感情の量がアンバランスという意味では、傘木-鎧塚ラインは田中-小笠原ラインともよく似てるんだな。

あすかの血の通わないロボっぷりは、二年の問題が落ち着いた後に引っ張り上げる大ネタなのかなぁって予感が、結構してます。
ただの『クセのある先輩』として描くにしては、久美子にとって近い距離にいすぎるし、存在感もありすぎるんですよね……まぁこの見方は、自分好みの歪み方と鎧い方をしているあすかが、話の中で目立って欲しいという個人的希望でもあるんですが。
そういう目配せとしては、姉であり『特別』であることから『逃げた』存在である麻美子と、今まさに『特別』であろうとする久美子との距離感も今回強調されていて、二期は姉妹の問題にも踏み込むのかなぁって電波を受けた。
これも、家の中の久美子の演技が不躾で好きなので、部室や麗奈との『聖域』で見れるドラマ以外にも切り込んで欲しいという、個人的希望の反映やね。
このアニメの演技ディレクションは本当に良くて、アニメ的あざとさを要所に残しつつ、抑制と生々しさをしっかり付けたいい演技だなぁと思います……特に久美子。


既存のエンジンが使えなくなったという意味では、滝顧問との青春バトルも『府大会突破』という大きな成果が出た結果、軸としては機能しなくなっています。
『イヤなやつ』に思える滝顧問が実は、自分たちを『特別』に導いてくれる優秀なメンターであると気づき、その指導で飛翔していく変化が一期のドラマを大きく羽ばたかせていたと思いますが、それを体験してしまった二期では、単純に同じ立ち位置は望めません。
なので中村悠一声の橋本さんを投入し、滝顧問の意外な表情を引き出したり、滝顧問からは言えないツッコミを入れることで話をかき回しに来たのは、良い差配だと思います。

穏やかで鋭い滝顧問と、開けっぴろげで明るい橋本はいい対比をなしていて、かつ指導者として必要な明晰さ、必要な指摘を見つける目の良さは共通しています。
『もっと開けっぴろげになれ!』という指摘は音楽だけではなく、一年生を『一年前の事件』から遠ざける先輩たちの態度、物語全体を包んでいる閉塞感に対しても圧倒的に正しいわけで、こういうことを言える存在が大人サイドにしっかりいるのは、今後の展開への安心感を強めてくれます。
彼が言っていることが正解なことを、低音パートに即座に拾わせ、セリフとして補強するシーケンスの作り方も含めて、橋本は良い新キャラだなぁと感じました。
一期の物語を通じて『仲間』『信頼できる大人』に変化した滝先生から、明るい表情や反応を引き出す意味でも、橋本の陽性のキャラクターは時流にマッチしてますよね。

これまで滝顧問は北宇治吹奏楽部をより高みへ導き、子どもたちを『より自分らしい、特別な自分』へと目覚めさせる物語の大枠を担当はしていましたが、個人的な物語はあまり語られませんでした。
今回『一年前の事件』をひっくり返し、メインエンジンに据えたように、滝顧問個人の物語に切り込んでいく展開があるか、ないか……。
個人的に滝顧問のことを空いている視聴者としては、彼がどんな人物なのかもっと知りたいという気持ちもありますし、ちょっと期待したいところです。
しかしまぁ、子どもたちのフレッシュな感情(ところどころ毒入り)を切り取る精度を維持するだけでも、相当な負荷だろうしなぁ……今後どこをどう掘っていくかも楽しみだ。

映像表現としては山田シリーズ演出のフェティシズムが迸り、レンズ効果が多用されていたのが面白かったです。
『特別』なものを追いかける彼女たちの世界が、映像としても異質で『特別』で美しいのは、テーマと表現が噛み合っていて凄く良いなと思います。
傘木の訪問から逃げて水飲み場に下がった所とか、『二人』が話し合っているシーンの自然光の輝きとか、明暗が明瞭でシーンの意図をしっかり反映していたのも、ユーフォっぽい画作りだと感じました。
やっぱ良いなぁ……この情景の精度と、セリフの外側に込められる情報量の多さ。


というわけで、高まった期待に違わない、丁寧さと重たさ、体温と感情の篭った第一話でした。
青春ど真ん中を突っ走る少年少女の輝きを大事にしつつも、これまでの物語が何をしてきて、これから何が起こるのかというストーリーラインを明瞭に示せている所が、流石の二文字です。
『二人』の関係を切り取った縦幅の物語としても、部活という『場』を巡る横幅広い群像劇としても、やはり別格の仕上がりで、良いもん見たなぁという気分です。

こっからしばらくは、傘木先輩の復帰願いがもたらす波紋と、鎧塚先輩が仮面の奥に隠し持っている重力、そこに切り込んでいく久美子の姿がメインになりそうです。
『特別』であることから『逃げた』女、置き去りにされた女が絡み合う瞬間のスパークは、『引力』に縛り付けられた『二人』を描くのと同等に重たく、強く、濃い感情とドラマを見せてくれると思います。
二期目のユーフォニアム、非常に面白く、今後が楽しみですね。