イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ドリフェス!!!!!!:第3話『2032』感想

男子アイドルアニメ戦国時代に着弾したド直球青春ストーリー、今回は及川慎・回答編。
ミステリアスでクールな及川くんの『謎』の種を撒いた前回を見事に発展させ、熱血主人公・天宮奏が一つの曲を読み解き、思いを伝え、止まっていた時間を動かすまでの奇跡を熱く描くエピソードでした。
慎と奏の心の交流をぶっとく真ん中に据えつつ、"2032"にまつわるミステリー、アイドルとメディア、スキャンダルとの付き合い方、作品に掛ける思いと、様々なものを一筆で描ききるパワー満載。
序章が終わって『ドリフェス』というアニメが何を扱うのか見せるタイミングで、こういう骨太なエピソードが仕上がってきたのは、本当に素晴らしいと思います。


褒めるべき部分がたくさんあるエピソードなんですが、何よりもまず心を震わせてくれたのは、主人公・天宮奏の真っ直ぐな気持ちの表現力と、それが世界を変えていくパワーの描き方。
自分の気持ちを閉じ込めずに、かと言って独りよがりに振り回すのでもなく、的確に為すべきことを言葉と行動に変化させ迷わず動くことに出来る奏は、見ていて気持ちの良いキャラでした。
彼の行動力が停滞していた状況を動かし、様々な間違いをただし、止まっていた時間を動かして、在るべきものを在るべき場所にしっかり収めてくれる過程は凄くパワフルで、そういう気持ちのいいやつがお話しの真ん中に収まっているということが、非常に頼もしい。

奏での行動を見ていて気持ちいい理由は幾つかあるのですが、一番大きいのは『見ている僕らがやってほしいことを、しっかりやってくれる』からだと思います。
前回Bパートから今回Aパートにかけてのストレスのかけ方は非常に巧くて、慎が知性とハートを兼ね備えた好人物だということをちらりと見せつつ、同時に何かに拘り、何かを隠していることで状況が悪化していく過程を、丁寧に体験させています。
それは非常にもどかしい視聴経験であり、見ている側としては『誰かすげーヒーローが、このもどかしい状況をぶっ飛ばして、話がスムーズに流れるようにしてくれねぇかなぁ!!』という期待を自然と抱いてしまう。

そしてその計算されたフラストレーションを、真っ直ぐにぶち抜いてお話を結末に引っ張ってくれるパワーと真っ直ぐさが、奏にはあるわけです。
俺達がほしい時に、欲しい行動を取ってくれるキャラクターには当然『信頼』が生まれれるわけで、主人公に対しこれを抱けるか否かというのは、作品全体を『信頼』出来るかどうかの、大きな境になる。
周囲の一歩引いた態度を気にせず、人間として正しく、自分の気持ちに素直に慎に向かって走っていくがむしゃらな誠実さ。
過去の辛い別れから、周りと距離を取ろうとする慎の心に思いっきり踏み入って、慎が葬ろうとしていたあの日の真心をちゃんと引っ張り上げてあげる熱意と優しさ。
ただガムシャラなだけではなく、自分の心中も人間としての正道も的確に言葉にする知性を持っていること含め、とにかく奏が好きになれ、信頼できるエピソードだったと思います。

奏が熱意とクレバーさを併せ持っている、バランスの良いキャラクターなのは非常に面白いところで、"2032"の謎解きも純哉くんとぶつかりあう中で自発的に気付くし、慎のナイーブな気持ちもちゃんと慮り、言葉を選んで接触できている。
そういう繊細さや優しさと、己の心の中の真実(それは大概の場合、本当に正しいことと一致しているわけですが)に後押しされるまま走るパワーが同居していることで、ただ気持ちだけが先行して世界がより良くなっていく展開よりも、話しを受け入れやすくなっています。
ここら辺の人間力の高さが非常に心地よくて、キャラクターと物語を『信頼』し、体重を預ける気にさせてくれました。


ただ主人公が突っ走っているだけでは、今回感じた満足感は得られなかったと思います。
慎が何に悩み、何を隠してあまり正しくない行動を取ってしまっているのか。
そしてその奥に、どんな瑞々しい情熱を隠しているのかをしっかり示せたからこそ、奏の情熱と知性が状況を変化させる展開が心地よく感じられ、最後の『奏』呼びに大きく頷くことも出来るわけです。

これは前回からの構成が非常にうまく効いているところで、"2032"を恋愛の歌と一度誤読し、スキャンダルとバイラルメディアによる心無い攻撃とこの誤読が重なることで、奏と視聴者は"2032"の真実を読解する必要にかられます。
慎のことを何も知りはしない無責任な連中と、自分たちは違うんだと示すためには、積極的に曲に隠された真実に潜り、慎のクールな態度の奥に分け入らなければいけない。
奏が慎に接近していく運動が、"2032"の真実に切り込んでいくミステリと巧く連動していて、物語の展開と視聴者の感情を的確にシンクロさせているわけです。

重ね合わせは視聴者と奏だけではなく、現在の奏と過去の慎の間でも発生しています。
ロッカールームで奏は、純哉くんと熱く気持ちをぶつけ合った果てに、『尊敬する戦友を失いたくない』という自分の気持ちに気づき、それが"2032"に込められていることに思い至る。
クールを装っていた慎はその実非常に繊細で熱い存在、吠えたけり走り回る奏と似通った部分のあるアイドルだと気づいたからこそ、奏はもう一人の自分に追いつき、自分の気持ちを伝え、慎自身が気づいていない気持ちを蘇らせるために、転ぶことも厭わず走るわけです。

雨の中を必死に走り抜けて友の手をつかもうとする奏は、圭吾の手を取ることができなかったかつての慎と同じ存在であり、だからこそ"2032"の真実も、慎自身が気づいていないこの局面での正解も、奏は掴み取ることが出来る。
そして慎も、奏の美徳である素直さを共有しているからこそ、奏の提案を受け入れ、ファンと圭吾に己の心中を言葉で伝え、誤解を解くことが出来る。
"2032"で時間を止めてしまったクールガイが、過去の自分の写し絵のような熱い男と出会い、その姿を見ることであのときは見つけられなかった星を見つける展開は、人間の心と心が響き合うドラマ、『歌』を通じて心を通わせるアーティストの物語に満ちていて、強い説得力がありました。
慎のクールさを強調していたからこそ、奏の体当たりで心の扉がぶち空き、秘めていた情熱が溢れ出す瞬間のカタルシスが本当に凄いことになってた。

奏が追いつき変化させる前の慎を、完全に間違ったものとしては描いていないところも、非常に優れた描き方だと思います。
『歌は一度世に出たら、聞く人の所有物になる』という慎の言葉には、たしかな潔さと誠実さがあります。
しかしその物分りの良さの奥には、パパラッチに思わず反発してしまうような熱い気持ちがあり、止まっていた時間を動かしたいという切なる願いがある。
完全には間違っていない『スゴいヤツ』の凄さを尊重しつつも、そのために犠牲になっている思い出や気持ちに辿り着き、蘇らせる奇跡を主人公に果たさせ、ただ間違いを正すよりも遥かに高い場所に二人一緒に立つ。
そういう話運びはお話しの到達点も、そこにたどり着いたキャラクターも『尊敬』できるものとして感じさせ、爽やかな読後感を与えてくれました。


赤と青、二人の青年が出会い、触れ合い、凍りついていた時間が動き出す物語は非常に骨太ですが、そこで終わらずに様々な場所に目配せをし、小気味よく描写してくれた技量もまた素晴らしかったです。
『アイドル』をテーマにした深夜アニメという作品定義を活かし、スキャンダルやメディアとの距離感、ファンとの向き合い方、楽曲と取り組む姿勢を、青年たちのドラマに無理なく取り込む手腕とか、マジ圧倒的に巧すぎる。
非常に沢山のテーマが掘り下げられているんだけど、ドラマの中で自然に語ることが出来ていて、硬さがないのが本当に凄い。

キャラ描写に関しても目配せが効いていて、奏の壁役になることで気持ちを引き出した純哉くんの使い方とか、真実に迷わず飛び込んだ奏と足踏みしてしまった純哉くんとの距離とか、凄く良いなと思います。
奏が主人公特権で迷わず辿り着く『正解』に、斜に構えた純哉くんは今回たどり着けないんだけども、彼が慎と同じように熱い思いを隠した青年だというのは既によく見えているし、距離が空いているからこそ奏に追いつく物語が今後展開されるという期待感も、グンと高まっている。
ここら辺は前回から今回、慎を主役に展開した見事な物語と同じ構図であり、今回と同じように食いごたえと誠実さのあるを純哉くんでも展開してくれるという信頼感が感じ取れます。
純哉くん、マジ必要なタイミングで必要なトス上げてくれる良いキャラだからなぁ……メイン回った時に、良い料理のし方して欲しい。

奏と慎の関係が変化するってところで止まらずに、成長した圭吾と慎がすれ違う所までエピソードに入れ込むのは、貪欲かつ冷静で最高の展開でした。
慎は今回奏と出会うことで止まっていた時間を動かしたけども、もうひとりの当事者である圭吾はどうなっているのかという疑問は、視聴者に自然と湧いてくるものです。
そういう余韻を目ざとく利用し、おそらくはライバルとして主人公に立ちふさがるだろう圭吾の現在の姿をちゃんと捕まえて、今後の展開への予感と期待を高めていくのは、奥行きがあって良い収め方だなと思いました。

OPでの暗示の仕方も巧くて、"KUROFUNE"の相方黒石くんが圭吾にとっての奏となり、また別の形で止まっていた時間を動かすんだろうなという見立てが、しっかり出来るようになってんのよね。
来週純也くんを足して信号機、緑と紫を掘り下げて"DearDream"が結成したあたりで"KUROFUNE"と向かい合うと思うんだけども、今回慎との因縁を見事に掘り下げたことで、その展開がとにかく面白そうに思えるもの。
メインストーリーを見事な精度と密度で仕上げつつ、ロングレンジで期待を煽ることも忘れないのは、とにかく図抜けたバランス感覚だなと思います。


というわけで、前回タメた要素を一気に爆発させ、主人公の真心がクールガイの熱い真実を掘り当てるエピソードでした。
キャラクターの優れた部分、尊敬できる要素をつなぎ合わせて話を作ることで、くすみのない爽やかなお話が組み上がっていくのは、非常にこのアニメらしい、心地よい真っ直ぐさでした。
凄く『正しい』ことをしているんだけども、迷いや間違いを丁寧に掘り下げた結果体温が失われず、真実味を込めて物語を語れているのが、とにかく強い。

かくして名前で呼び合う絆を手に入れた青と赤ですが、来週は黄色も足してまた一悶着っぽく。
これまでの出番で既に、俺は純哉くんのこと相当好きになっちまっているので、来週が楽しみでなりません。
社長と三神さんのお菓子コントが三度あるのかとか、細かい部分も気になりつつ、この骨太青春アイドルストーリーを真正面から受け止めたい。
そんな気分が満杯です。