イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プリパラ:第122話『姉妹でかしこまっ!』感想

繰り返す時間の牢獄で展開する少女アイドル地・プリパラ:第122話『姉妹でかしこまっ!』獄篇、今週はらぁらちゃん12歳の誕生日(一年ぶり二回目)。
去年は過去を紐解きつつ、なおちゃんとの友情、らぁらの成長を叙情的に振り返る名エピソードでしたが、実質主役が映った三年目を反映し、お話のかなりの部分をのんちゃんに明け渡すお話になりました。
物語を積み上げて『追いかける側』から『追いかけられる側』になったソラミの過去を振り返りつつ、今まさに姉を、新しい仲間を『追いかける』真っ最中ののんちゃんに、険しい道を乗り越えるエナジーを与える感じですね。
同時に現在進行形で主人公ならぁらのパワフルな姿を確認して、これまでプリパラが何をやってきたか、今どんな姿で輝いているのか、その先に何があるかをしっかり描ききる、メモリアルなお話になったと思います。

というわけで、迫るらぁらと逃げるのん、二軸で展開する今回のお話。
既に二年強物語を積み上げてきたらぁらは、第71話で己の軌跡はほぼ完璧にまとめてしまっているので、自分自身の物語はやりません。
では今回何をやっていたかといえば、一つはのんをバカ真っ直ぐに体当たりで追いかける、パワフルな主人公。
『妹が好きすぎる姉を見ていると、寿命が三年伸びる』と故事にはありますが、のんが好きすぎて暴走気味なパワーは微笑ましく、彼女の根本を再確認させてくれます。
いやマジよ~、のんちゃん好きすぎだろらぁらよ~……自分の『好き』を一切隠さない素直さはお話を加速させるエンジンだし、見てるコッチも幸せになるし、ええことだなヤッパ。

とにかくまっすぐに、『プリパラが好き』『アイドルが好き』『友達が好き』という気持ちを全開にして走ってきたらぁらが、このお話の主人公だったという事実。
それはプリパラを二年強引っ張ってきた猛烈なエンジンであり、らぁらというキャラ個人の強さであると同時に、プリパラという作品それ自体の魅力でもあった。
あじみ先生のトンチキな導きも受けて、らぁらの牽引力を再確認する今回は、ソラミ結成の回想を随所に挟む構成もあって、『プリパラってこういう話だったね』という述懐に満ちた、まさに誕生日の物語でした。


自分の『好き』にまっすぐならぁらの姿は、自身や作品を照らすだけではなく、これから自分とユニットの物語を走っていくのんにとっても、強い導きになります。
らぁらが持ち前のエネルギーを持って、(当然迷走もありつつ)物語を走らせてきた実績をのんが再確認することで、相変わらずバラッバラなノンシュガーをどうまとめていくかの方針を手に入れ、気持ちを新たにする。
今回の話は過去への懐かしい視線が伸びると同時に、三期の主人公とも言えるのんちゃんが未来を切り開いていくために、姉の偉大な背中を見つめ直す回でもあります。

その過程で、『お姉ちゃんはライバル!』というわだかまりが溶けて、素直な気持ちでステージに向かう気持ちが作られていくのが、なかなかに巧妙ですね。
過去を振り返りつつ未来を目指し、現在のステージで二つが接点する構図は見事なんですが、そこにキャラクターの感情が伴わなければ、巧妙な構造はただのダンドリになってしまう。
らぁらと肩を並べて歴史を作ってきたお姉さんたちに導かれ、『お姉ちゃんたちも、私と同じ苦労をしたんだ。その時、あのパワーが役に立ったんだ!』という共感と発見を積み重ねることで、のんは不要な力みを捨て去って、ありのままの『妹』としてらぁらに向かい合うことが出来る。
そういう気持ちがお話の中で自然と流れることで、過去と未来が同居する見事な構図が視聴者にすんなり入っていくわけで、理性と叙情は対立項ではなく、物語を走らせる両輪なのでしょう。

というか、のんちゃんが独自に悩む展開にお姉さんたちが切り込む形になって、『先輩としての頼もしさ』という要素がグッと前に出たのは、今回非常に良かった。
らぁらだけではなく他のみんなも、二年分の蓄積が当然あるわけで、自分の物語を走るだけではなく、追いかけてくる後輩に手を差し伸べる頼もしさを発揮する今回は、彼女たちの新しい魅力を堪能できました。
その上で急に『大人』になってしまうわけではなく、今までどうりのトンチキ人間のままのんちゃんを助けていたのは、キャラの同一性を大事に話を運んできたプリパラらしくて、とってもグッド。
オイは『血縁のない仲間に、年下がチヤホヤチヤホヤ大事にされているシーン』が三度の飯より好きでなぁ……そういう意味では、真中家にソラミが何の緊張もなくスルッと乗り込んでいる出だし、控えめに言って最高でした。


二年間物語を牽引してきたらぁらは、開始当初の『なんにも知らない、ただ気持ちだけがある素人』という立場から、『幾度も奇跡を起こしてきて、それが周囲に評価されてもいるトップランナー』へと姿を変えています。
ガムシャラなスタイルに変わりはなくて、それはとても魅力的でパワフルなものなのだけども、常に先頭に立って物語を引っ張るには、白紙のページが少なくなってしまった。
なので三年目は『赤ん坊ジュルルという、他者と向き合う』新しいページを継ぎ足し、存在感はあるけど話のメインには関わっていなかったのんちゃんを新しい牽引役に据えるという、構造的革新が起こっています。
今回の姉妹ステージは、そういう明言されていなかった主人公交代を『誕生日』という特別な儀礼に重ね合わせて印象づける、過去と未来の接合点なのかもしれません。

らぁらの人格的成長・プリパラ内部での社会的成功をリセットして、一年ごとに新しいページを作ることでお話を続けていくことも出来たんでしょうが、プリパラはそういう選択はしませんでした。
電子の祝祭の中で、友達と一緒に笑って泣いて、自分らしさを保ちつつ積み上げてきた成長には嘘をつかない。
それを踏まえたまま、物語が走れるスペースを様々に用意し、なおかつこれまでの物語やキャラクターをフェイド・アウトさせずに新しい物語も探す。
そういうスタンスで進んできた三期を象徴するように、先頭に立ちつつパワフルな魅力を残っていないらぁらも、そんな姉を見上げつつ自分の物語を走るのんも、お互いがお互いを輝かせるような物語だったと思います。

真中姉妹を軸に進んだ今回ですが、迷えるのんにアドバイスするお姉さんたち、トンチキだけど真心満載の両親、らぁらに奇っ怪な悟りを与えるあじみ先生と、周囲のキャラも光っていました。
オヤジのJS女装は二重の意味でキツかったですが、今のらぁらにとって一番大事な物をちゃんと見つめて、形に縛られず祝福してあげる優しさ、俺やっぱ好きだよ……キツいけど。
のんがらぁらの愛情を受け止めて一緒にステージするのは、らぁらだけではなく彼女を愛する両親の望みでもあったはずで、そういう幸せを二人で噛みしめるシーンがちゃんとカットインしてくれたのは、横幅広い良い書き方だなと思います。

久々に大暴れしたあじみ先生ですが、脳内麻薬全開のドラッギーな宇宙旅行で、らぁらを導く大活躍。
学校が宇宙旅行になってしまう子供の感受性と想像力を、一切欠損することなく大人になった(なってしまった)彼女にしか出来ない、横に並ぶ形での指導方法だと思いました。
いや、あじみはあじみらしく、一切周囲見ずに超暴走し続けているだけなんだけどさ。
プリパラのキャラは軒並み性格悪いんですが、らぁらは非常に例外的に素直に他人の言葉を受け入れ、共感できる性質があります。
『子供っぽい』とも言えるらぁらの個性と、イマジネーション豊かなあじみの個性がうまく噛み合った結果、想像力で世界を塗り替えていける子供の特権が、気持ちよく暴走するシーンになったと思います。

冒頭でらぁらがのんちゃん相手に膝を曲げたように、あじみが意識して自分の『子供っぽい』部分をドライブさせて宇宙旅行……てわけでもなくて、あじみはいつものようにただただ大暴れして、偶然噛み合った形なのが、まぁあじみだなと。
らぁらの両親のように、意識して子供と同じ装いをして見守るスタンスも、何も考えず子供に同調できてしまえる個性、その結果生まれる導きも、同じエピソードで切り取ってきたのは面白いなぁと思います。
『誕生日』が特別な日になるためには、祝われる子供たちだけではなく、それを祝ってくれる大人も必要なわけで、見守り導く人たちにも細やかな筆があったのは、今回本当に良かったポイントですね。


というわけで、妹が好きすぎる姉と、そんな姉の行為が照れくさい妹、二人の誕生日でした。
頼れる主人公として物語を牽引してきた過去、これからノンシュガーとの関係を作っていく未来、二つが『ステージ』で交錯するのは、プリパラが『アイドル』の物語である以上、凄く象徴的で大事だなと思います。
彼女たちが(例えデジタルテーマパーク内部の『ごっこ遊び』だったとしても)表現者である以上、主人公の特権移譲は最も大事な場所で行われなければいけないし、新録の"ま〜ぶるMake up a-ha-ha!"には、話をまとめ上げる説得力がちゃんとあったなぁ。

姉から真っ直ぐなパワーを継承したのんちゃんが挑むのは、不協和人間どものディスコミュニケーション地獄。
無人島で干からびてる予告編からは、『とりあえずハード・コアな状況に追い込めば、人間素直になるだろう!』というスパルタな思想が見え隠れします。
こんだけチャーミングな話をしっかりやりきった直後に、キャラを餓死寸前まで追い込むプリパラ……やはり信頼できるアニメだ。