イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

リトルウィッチアカデミア:第18話『空中大戦争スタンシップ』感想

見えるものと見えないものの狭間で道を見つけていく少女たちの歩み、今週はTRIGGER謹製ロボアニメ。
第4話、第8話、第17話と続いてきた学友個別回の最新版であり、ドイツ出身のメカニカル、コンスタンツェに切り込んでいくお話でした。
言葉で自分の内面を説明しない(できない、のかもしれない。基質と性質の違いは今回の話では重要ではないし、重要視しないそのスタンスはとても大事だと思う)コンスタンツェが『ああ、こういう子だったんだな』と納得できる、意外性と喜びに満ちたお話でした。
夏至の空を舞う異境の狩人・ワイルドハントという渋いオカルトネタを触ってきたかと思えば、『ロボが描きてぇ』と集まってきたグレンラガンスタッフが大暴れしたり、賑やかで楽しい話でした。


ロボも魔法も目立ってましたが、やっぱ根本にあるのはコンスタンツェという少女の個性と、アッコとの交流。
学友個別回は、普段は話を引っ掻き回してばかりで未熟なアッコが導き役となり、成熟した部分を見せるのが面白いです。
役割分担の妙味というか、お姉さんぶってるアッコ最高というか、身長差というか、とまれ自分の世界からでてこないコンスにグイグイ迫っていって、お互いの得意分野を組み合わせて一つごとを成し遂げる流れには、非常にオーソドックスな強みがありました。
内面が見えにくい子のナイーブな側面を感じ取るという意味では、やっぱ第8話スーシィ回に近い印象ですね。

アッコは空気の読めないお節介で、未熟者故に失敗もたくさんします。
今週もロボは壊すわ、初代マックは壊すわ、料理は失敗するわ、善意を押し付けての大暴れ。
それはアッコの欠点であると同時に、『世の中そういうもんだよね』という行儀の良い諦めを乗り越え、新しい可能性を開くきっかけにもなります。
『コンスはそういう子だから』で諦めていれば、アッコはコンスと自分が『夢に向かってまっしぐら』という共通点を持っていることにも、一緒に船を造ることも、ド素人の日本人だから思いついた『変形ロボ』というアイデアを届けることもなかった。
コンスも、とんでもなく大きなロボットを作り上げることは出来なかったし、誰かと一緒に成し遂げる喜びを知り、不慣れな笑顔をアッコのために浮かべることもなかったと思います。
他人の心の内側……インサイドに切り込んでくるアウトサイダーとしての撹拌作用は、今週もお話を回転させているわけです。

最初はアッコを拒絶し、檻に閉じ込めていたコンスですが、アッコはネズミに変身(これまでの学習の成果)して、コンスが一番大事にしているものにたどり着きます。
闇の中の光として描かれている巨大な船は、子供っぽい嗜好を持つアッコにとってとんでもなく『ドッキドキーでワックワクー』な代物で、あれを見た瞬間、コンスの夢はアッコの夢にもなったのでしょう。
結局追い出されて怪我をしてしまいますが、優しいロッテがケアしてくれてそれは治るし、コンスの夢を見ていたおかげで、代わりに交渉してミキサーを手に入れることもできる。
そのことで、コンスにアッコと自分が似ていること、自分にできないことをアッコが可能なことを納得させられた事を考えると、『檻に閉じ込められたら、黙って動かない』という固定観念に支配されなかったのは、大事なことだと思います。


今回の交流はこれまでの個別回の流れに沿っているのですが、同時にアッコの変化も強く出る回でした。
物を壊す粗忽さはいつもどおりでしたが、非を認めて素早く謝ったも、苦手な分野と特異なジャンルをちゃんと把握し、渉外・実務担当という居場所を自分から提案していたのも、結構意外だった。
ドタバタ同じことを繰り返しているように見えて、今ままでの物語はアッコの中で積み重なって、ちょっとずつ変化を蓄積させているのでしょう。

言葉をうまく扱えないコンスは、オリハルコンのミキサーを手に入れることができません。
でもアッコがコンスの事情を代弁し、的確に伝えることで、ミキサーを手に入れると同時にゴブリンの料理人さんが支援者になってくれる。
魚と話したり、妖精と労働争議したり、イエティと仕事したりしてきたアッコにはコミュニケーションの才があり、それを的確に活かすことで、コンスの夢(それは『ドッキドキーでワックワクー』なアッコの夢でもあるのですが)を前進させることができます。
失敗しても、拒絶されても前に出るバイタリティと同じくらい、言語を始めとしたコミュニケーションメディアに親和性があり、異なっている(と思い込まれている)存在を繋ぎ合わせる才能が、アッコの強みなのでしょう。

ミキサーを手に入れた後、地下基地の『外』に出ていきバロメッツの木を獲得したことで、コンスはアッコに信頼を寄せていきます。
『I work alone』という文面から、自分が欲しいもの、夢のかけらをアッコに預けるコンスはとても可愛らしくて、アッコでなくとも抱き上げて頬ずりしたくなってしまう。
『外』と『中』、『口』と『手』、『他者』と『自己』という役割分担を活かしつつ、一心同体のバディとして関係を深めていく描写もテンポが良く、非常に充実感のある展開です。
あれはアッコがコンスと仲良くなると同時に、コンスがこれまで遠ざけていた『外』と融和し、知らなかった感情を学んでいくシーンだとも思うんですよね。
過程を手際よく描いたからこそ、パパとママとの写真の中ではぶーたれる表情しか作れなかったコンスが、最後アッコへの返答/返礼として笑顔を見せる場面が、最高の見せ場として機能するというか。

コンスと言語にまつわる描写としては、スタンボットが彼女の友人であり代弁者でありつつも、完璧ではない描写が面白かったです。
スタンボットを間に挟んだミキサー交渉は上手く行かないし、彼らが腐したアッコの変形ロボで、コンスのやる気は一気に火がつきます。
自己の延長線上にある創造物は非常に便利で心地よいけども、あくまで弱点含めたコンスの分身であり、そしてコンスそれ自身でもない。
むしろ正反対に見える(そして魂の奥底では共通している)アッコと結びつくことで、コンスが想像していたよりも遥かに高い場所まで、イマジネーションと結果を飛び立たせることが出来た。
ボットが完全に無力なわけではなく、むしろ働き者の良い隣人として描かれているからこそ、コンスの『内側』にいた彼らと、『外側』からやってきたアッコとの対比は、なかなか興味深いですね。


真逆だからこそ惹かれ合う二人を補強するように、ワイルドハントとクロワ先生の物語が展開していました。
コンスもクロワ先生も『魔法と科学の融合』をキャラ属性として持っているわけですが、不可視にして超常的なワイルドハントという『純魔法的な存在』と対置することで、クロワ先生が狙っているものがよく見えた気がします。
アマンダの聖杯探求にも通じますが、『物質的なもの/精神的なもの』『過去/現在』『魔法/現実』の境界線を侵犯するキャラクター、というか。
彼女の願いがどんなものかはまだ明らかになりませんが、閉鎖的に滅んでいくことを是認してしまっている魔女界に対し、強引にでも風穴を開け変革と融合を狙っているのは間違いなさそうです。

ワイルドハントと彼らが追いかけるゴーストは、ヨーロッパ各国にある『超自然的な、嵐とともに空を飛ぶ猟師の集団』という原典に忠実に、普通人には見えない存在です。
現実と隔絶してしまっているルーナノヴァでは一大イベントだけれども、そこから一歩出た世間では全く知られていない、霊的で閉鎖的なイベント。
一般人にとっては、目の前に超常的存在があっても『ただの風』であり、あやふやな霊障を小銭稼ぎのチャンスに変えるような、実態も責任もない絵空事です。
しかしクロワ先生がSNSで情報的に拡散し、ゴーストにキューブを憑依させ物質化することで、ワイルドハントは目に見え、手で触れ、危害も娯楽も与えてくる可視的存在になります。

ゴーストもハンターも見えない、霊的に閉じた視界を持っていた観客たちですが、コンスたちの船はクロワ先生の介入以前から見えることが出来ます。
クロワ先生のカラスは一般人に危害を加えますが、コンスの船はゴーストを打ち破り、ロボットに変形して人々を守り、楽しませる。
不可視の存在が可視化され、霊的なものが物質化されることは、善悪両方の可能性に対して開かれているわけです。
それは絵空事だったゴーストハントを体験可能なエンタテイメントに変え、魔女以外にも魔女の世界を共有してもらえる、解放の可能性なのでしょう。

魔法の新しい可能性を切り開き、みんなを喜ばせるエンタテインメントにする。
これはシャリオが目指し、おそらくは挫折し、今では魔女たちに唾棄される『間違った可能性』になってしまったものでもあります。
変身と戦いををエンターテインメントに変えたシャリオに導かれ、魔導学校にたどり着いたアッコが、船をロボにし、悪しきカラスを打ち倒してみんなを喜ばせているのは、世代を超えて受け継がれるものを強く感じます。
冒頭のTV中継を見ても、魔女の世界ではワイルドハントは一種のスポーツ娯楽であり、今回のロボバトルはそういう楽しみ方が一般人の世界まで貫通した/アッコとコンスの新しい可能性が貫通させた、ということなのかもしれませんね。

見るものと見えないもの、魔法的と現実を結びつけるのはエンターテインメントの喜びであり、現役時代の芸達者をアーシュラ先生が発揮し、ミラクルライト的に魔法エネルギーを集約していたのも、必然的な流れでしょうか。
コンスの船といい、今回は映画版へのオマージュがそこかしこにあった回ですが、ハンターたちが思いの外話せる人たちで助かりました。
考えてみれば、顔も見せずに地上を徘徊するゴーストと戦い、雲の切れ間に去っていく無辜の戦士なんだから、基本人格者だよね。
熊の毛皮を着ているのは、オーディン(ワイルドハントの首魁)の戦士であるベルセルクと重ねたのかなぁ。


後半は今石と雨宮のやりたい放題し放題ロボットバトルが楽しかったですが、また引用が多いのなんの。
"勇者特急マイトガイン""天元突破グレンラガン""トップをねらえ!"辺りをモティーフに捉え、『ロボットが描きたいんじゃぁ!』『画面を爆発と飛び散る立方体で埋め尽くしたいんじゃあ!』という欲望剥き出しの、いい展開でした。
思い返すと、コンスの秘密基地、アッコのドタバタした出入り自体がロボットアニメの発進シーケンスをなぞっているわけで、船がメカになるのは必然だった……のかなぁ?

莫大な作画力でアクションシーンを盛り上げつつ、もっとも重要なロボアニメの引用を、戦闘シーンの外から持ってくるのはなかなか凄いと思います。
アッコの「ありがとう」に対し、コンスがことばはなく表情で気持ちを伝えようと、なんとか表情を探して浮かべた笑顔。
それは"新世紀エヴァンゲリオン"第6話『決戦、第3新東京市』のクライマックスで、シンジがレイを助けた後のやり取りを引用しているように、僕には見えました。

ラミエルとの死闘をくぐり抜け、自分の命を守ってくれたレイの無事を確認したシンジは、「別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」と心をぶつけ、涙を流す。
他人の心に触れたことのない、自分の心の表し方も知らないレイはそんなシンジに「ごめんなさい、こんな時どんな顔すればいいのか分からないの」と、ひどく無邪気な言葉を返す。
それを受けてシンジは「笑えばいいと思うよ」と告げ、レイは初めて人形のような表情を壊して、不器用に笑顔を作ります。
過酷な戦いのなかですれ違い続けたチルドレンと、一歩ずつ理解と成長を積み上げている魔女たちとでは色々事情も異なりますが、あの表情の探り方、不器用な女の子がようやく見つけたアンサーとしてのとびっきりの笑顔は、やっぱりあのシーンに通じているなぁ、と思いました。
元々コンスは感情豊かな子だと思うんだけども、今回のことで表現方法を学んで、より善い実りあるコミュニケーションが可能になったと思う。

笑顔の前段階として、『あまり早く飛べない箒』をコンスが送っているのも、最高に良いですよね。
第3話を見ても、コンスは『早く飛ぶ箒』を機械技術で作ることは可能なわけです。
しかしアッコに散々振り回され、彼女の強さも弱さも学び取ったコンスからすれば、『早く飛ぶ箒』は危なっかしすぎて、アッコへの贈り物(つまりコンスの真心)としてはふさわしくない。
アッコが安全に、楽しく飛べるあの箒こそ、コンスが今回の冒険を通じて見つけた、最高の相棒への返礼なのでしょう。

アマンダが『おせー』とくさすあの箒は、ずっと箒で飛べなかったアッコにとって、魔女としてのパスポートであり、苦労も喜びも共有した親友からの想い、そのものだったのでしょう。
機械と魔術を融合させた箒は、魔力のないアッコでも『箒に乗って飛ぶ』魔女のスタンダード・スタイルに追いつけるように、『内側』に憧れ続けるアウトサイダー・アッコのプライドを満たし、癒やすエンタテインメントなわけです。
アクションシーンで起こっていることを、形を変えて物語の締めにしっかり再演する構成もいいし、周りの成熟した友人はバカにする『あまり早く飛べない箒』をアッコが最高に喜んでいるところが、ホント最高にいい。
あそこは感謝と喜びが幾重にも増幅していく幸福の園過ぎて、ホント最高だったなぁ……。

クロエ先生の謀略が精神の物質化の危うい可能性だとすると、コンスの船と『早く飛べない箒』は、夢や憧れ、協調や娯楽、感謝を形にする、とてもポジティブな可能性だと思います。
それは職人気質なコンスタンツェの個性が形にしたものであり、同時にアッコの行動力とお節介が突破し、研ぎ澄まさせた共同作品でもあるのでしょう。
二人で作った船は形のないものになってしまうけども、箒という新しい思いの結晶体を作り直しているところも、物質の破壊から始まった物語には相応しいと思います。
可視化され物質化するということは、作り直し、癒やすことができるようになる、ということでもあるのですから。


一人が二人になるには様々な衝突も誤解もあるし、その道程の中で傷つきもします。
でも正反対に見えるからといって距離をおかず触れ合うことで、思いもしなかった変形ロボットを作り出したり、とびきりの笑顔に出会うことも出来る。
自分らしさを守ったまま学び、変わる道程を歩んできたアッコが、その成長をコンスタンツェと共有し、自分自身も、背の小さな親友も一歩先に進めることが出来た。
賑やかで楽しく、穏やかで実直な、素晴らしい青春のエピソードだったと思います。

やっぱこういう形で『ああ、この子はこんな子だったんだなぁ』と思い知らせてくれると、最高に素晴らしい。
今回は言の葉集めから完全に外れたエピソードになったわけですが、あまりに真ん中に話を集めすぎるとダンドリ感が出てきて、せっかくの物語に入り込めなくなったりします。
コンスの内面に切り込む最高の変化球で、しっかりバットを振らせたのは、シリーズ構成としても良い話数、良いエピソードだったのではないでしょうか。
来週のリトルウィッチアカデミアがどのようなスピードで、どこに食い込んでくるのか。
非常に楽しみです。