イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルタイムプリパラ:第11話『投げろ!アイドルタイムグランプリ』感想

白球に込めた青春、過酷な試練が本物の情熱を生み出す本格的ソフトボールアニメ、アイドルタイムプリパラ第11話であります。
ぶっちゃけ二週またぐとは全く思っていなかったわけですが、これまで強い面ばかりが表に出ていたにのの弱点が見えてきたのは、とても面白い傾向。
勝ちしか知らないがゆえに脆いにのに、挫折しか知らない超ポジティプ人間・夢川ゆいが味方サイドから、エグい陰謀もやるけど行動に一理ある地獄委員長が敵サイドから、それぞれキャラを掘り下げる展開となりました。
思いの外試合もシーソーゲームで、プリパラらしいトンチキな障害も立ちふさがり、嵐の如きシオンの乱入もあったりして。
荒れ模様の試合からにのが何を学んでいくか、そしてそれが『アイドル』にどう繋がっていくか。
なかなか面白い展開になってきました。


というわけで、これまで人格的にも能力的にも隙がなかったにのちゃん。
今回地獄委員長が本格的に立ちふさがり、人生で初めて失敗や敗北を知ることで、調子を崩してしまいます。
『勝ち続けることは、敗北から学ぶチャンスを奪われること』という視点は、物事の長所と短所を一面的に判断しないプリパラらしいもので、『これをにのに背負わせてきたか!』という意外性と納得がありました。
なんだかんだ、勝った負けたが人生に及ぼす影響について、プリパラはいつでも真剣なのだ。

地獄委員長が言い放つように、にのはこれまで一本気に何かに打ち込むことなく、勝てる範囲で助っ人稼業を続けてきました。
地頭が良く、人間関係の押し引きもナチュラルにこなせてしまうクセの少ない人格ゆえに、今回のように明確に敵意をブツケられることも少なかったのだと思います。
なまじっか優秀なので、『アンタなんで委員長なんかやってるんだ?』と思わず聞きたくなる地獄委員長のような、強者と相対して自分の未熟を知ることも少なかったのでしょう。
ここら辺は、前回さっくりとシオンに負けた描写から繋がるものですね。

地獄委員長のスーパーソローボール("ドカベン"の不知火かよ)と聴覚打法で、にのの自信は見事に粉砕されてしまいます。
順風満帆に勝ち続けてきたということは、足場が崩れたときの対処法を知らないということ。
そこで崩れたメンタルが、『自分がやらなきゃ。失敗できない』という孤独な方向に追い込まれていくのは、彼女の助っ人稼業と合わせて考えると面白いところです。


スポーツが内包する健全なコミュニケーション性を楽しみつつも、にのは特定の相手と長く付き合い、弱さを補ってもらったり、逆に補ったりという関係を経験したことがなかったんだと思います。
頼れるスーパーエースとして、常に一番高い場所から勝ちを与えてきたにのにとって、自分が負けるということは、挽回できない失態。
優秀なだけに他人に頼る方法を知らないにのにとって、スポーツは『チームのため』ではなく、『自分のため』が一番最初に来るものだったのかもしれません。

そんな状況に追い込まれつつ、ゆめとソフト部、チア部の仲間は『ピッチャー打たせろ!』と声をかける。
人間なら当然あるミスや敗北を、集団で補えるのがチームスポーツの魅力であり強みだということに、にのはまだ気づいていません。
『にのが負けたらもうお終い』ではなく、『にのが負けても仲間が勝つ』という発想まで開き直れれば、地獄委員長によって実力主義の広大な海に引っ張り出されたことは、大きな財産になると思います。
まぁその前に、ゆいが足をくじいてしまったわけですが。

今回は個人主義的な側面が強く出ていましたが、にのはかなり人間関係の視野が広く、的確に他人を助けることが出来る子供です。
失敗に追いつめられたのも自分のエゴを守るというより、『自分が負けたら『みんな』が負けてしまう』という意識が、かなり強い。
自分が打たれてゆいが怪我をしたのは、優しい彼女にとってはかなりのダメージになると思います。

しかしシオンが正しく言い切ったように、『疾風に勁草を知る』という諺もあります。
負けの苦さ、強敵のプレッシャー、自分の失敗が仲間に累を及ぼすこと。
順風満帆に進んできたにのの人生には、初めての逆風がふいてきましたが、そこから学べるものは凄くたくさんあるわけです。
仲間の大切さ、自分の未熟さと可能性、逆境をはねのけるメンタルの強さ。
試合を乗り越え、仲間と勝利を掴んだときに、その手がかりもまた手中に収めていたら、それはとても素敵な青春の1ページでしょう。

急にソフトボールアニメ始まった時は正直ビックリしましたが、『まぁプリパラだしな』と受け流していくうちに、アイドルの華やかな舞台ではなかなか描きにくい、泥臭く汗塗れのベタ足スポ根が展開され、面白く見てしまいました。
根っこにあるものは当然同じなんですけども、やっぱ競技によってニュアンスの違いというものはあるわけで、特にソフトボールがチームスポーツであるのは、にのの明るい孤独を浮き彫りにするために、とても良いチョイスだったと思います。
話がいつ本筋である『アイドル』に戻ってくるのかさっぱり読めませんが、しかし今回掘り下げられた欠点と、それを埋め合わせる成長の可能性は、にのが『アイドル』に向かい合う時も強力な武器になるのではないか。

にのに『夢』がないことが今回描写されてきましたが、スポーツでは埋まらなかったにのの欠落が、『アイドル』を唯一絶対の本気として選び取ることで、埋まる気配を見せるのではないか。
様々な競技に触れつつ、唯一絶対を選ばなかった助っ人気質がワザワザ選び取ることで、『アイドル』の値段もぐんと上がるのではないか。
ソフトボールばっかやってる今回のお話に込められたものを見ると、そういう期待も高まります。

にの編はかなりどっしりした話運びになっていますが、それだけに彼女の強さも弱さも明瞭に描けています。
来週で一旦収めるのか、クール終わりまで引っ張るかは読みきれませんが、とまれ『アイドル』ナメてたにのが正式に『アイドル』と出会い、世界最高の『夢』として追いかけるきっかけを、しっかり走りきって欲しいなと思います。
今回弱さや脆さが描かれたことで、わざわざ『アイドル』に本気にならなきゃならない理由がしっかり把握できて、必然性が見えてきてるのが凄く良いんですよね。
今回盛り上げたものを巧く活かし、最大級に盛り上げて1クールを終えて欲しいものです。


そんなにのの隣で、ガヤガヤやかましかったり、必死に応援したり走り回ったりなゆめ。
『夢/妄想』に振り回されてばかりで、確かなことは何も出来ないけれど、それでも『アイドル』にだけはいつでも本気。
成功者であるがゆえに脆さを抱え込むにのと、敗北者であるがゆえに強靭なゆいの対比は、今回かなりの魅力を放っていました。

『アイドル』というゆめの夢は、『アイドルは男の子のもの』という常識/偏見に常に挑戦されてきました。
にのが社会的に価値があると認められたスポーツで、助っ人として結果を出して賞賛されてきたのとは正反対の道を、ゆいは歩いてきた。
アイドル一直線のドルキチだからこそ、明確で強い意識をもって『夢』を語れるし、さんざんバカにされ、逆風の中を歩いてきたからこそ敗北の御しかたを知っている。
これまでのエピソードで見せた『優秀なにのと、ダメダメなゆい』という構図を反転させて、ゆいが持っている長所を目立たせる展開は、非常に良かったです。
やっぱ諦めずに前に進み、自分なりに必死にやって他人に影響を与える姿を見れると、グッと『主人公』って感じが増すね。

にのとゆいはこれから先、長いシリーズを相棒として走っていくことが予見されています。
なので、お互いの長所と短所、凸凹が巧く噛み合い、自分にないものをお互いから吸収できるようのだと今回示されたのが、凄くワクワクするわけです。
それぞれ違った個性があって、その良いところも悪いところも補い合いながら、高みを目指していく。
そういうお話は非常にベーシックで強靭な面白さを秘めているし、今回ゆいが必死に走り回り、にの初めての敗北をケアしようと頑張っていたことは、そういう物語への期待感を高めてくれます。
ここまでゆいとらぁらが見せたようなコンビネーションを、にのとの間でも見せてくれたら面白いだろうなぁ、とも思うしね。

とは言うものの、『形にならない夢はただの妄想で、未来を引き寄せる力にはならない』という描写は今回も維持されています。
アバンで夢見ていた順当な展開は、和牛が道を塞いだり、地獄委員長が乱入したり、にのが精神的不調に陥ったり、チョウチョを追いかけてメンバーがいなくなったり、謎の虚無僧が乱入してきたり、予期せぬアクシデントでガンッガンひっくり返されます。
自分に都合の良い夢を見るだけでは結果はついてこないし、そういう夢は現実的な対応を妨げる足かせにすらなる。
ゆめの虹色アイを描く時、アイドルタイムはずっとそのことをカメラに入れてきました。

今回のにのの挫折は、ゆいの属性だと思われていた『妄想でしかない夢見がちな夢』が実はにのの中にもあったことを、巧く示しています。
『常勝無敗、常に完璧な自分自身』という夢を砕かれたからこそ、にのはあそこまで動揺したわけです。
なんども夢を砕かれているはずなのに諦めず、粘り腰でプリパラ宣教を続けているゆいが異常ってことかもしれませんが。
とまれ、正反対のように見える二人が『脆い夢』という共通点を持っていて、そこへの対処が問題になりそうというのは、関係をぐっと深めてくれそうな面白い要素ですね。


ソフトボールを軸に、二人の主人公が様々な陰影を見せる今回。
その他のアイドルは舞台裏を支えたり、ワンポイントリリーフで存在感を見せたりしていました。
らぁらは三年分の蓄積があるので、今回にのとゆいが果たしたような挫折と成長、相互理解の物語は繰り返しになっちゃうんですよね。
なので、目立たないところで信じて待つ動きになったのは、新主人公を立て、物語リソースを集中させる意味でも巧妙だと思います。

メガ兄が久々に前説したり、観客席にじわじわ人間が増えてきたり、目立たない所の描写がステージサイドは良かったですね。
いつものダンプリの男臭いノリをぶつけてみたもののドン引きされ、正統派イケメン路線を思い出して掴み直す所の逡巡とか、なんか体温のある描写で好き。
メインのはずのステージがあくまで本命待ちの舞台裏になるところが、にのの裏側を掘り下げていく回らしい構成だったと思います。

先週ざっくりと顔見世したシオンは、先輩キャラっぽい動きを短い手番で、嵐のように叩きつけてきました。
『負けムードを実力でひっくり返し、後輩が試練に立ち向かう状況だけ作って去っていく』というとかっこいいんだけど、やってることは虚無僧で囲碁ソフトボールだからなぁ……"アイアンリーガー"の極十郎太かよ。
シオン自身も、二期でさんっざん負け、ドレッシングパフェを始めとする仲間との絆で、挫折を乗り越えてきた天才。
初めての敗北で脆くへし折れそうになってるにのの気持ちが結構判るからこそ、手を差し伸べたのでしょう。
あの子極めてトンチキだけど、人情はちゃんと分かるし行動もできるの。

そんなシオンを求めてパパラ宿までやってきたドロシーは、目先の銭に溺れて、再開の奇跡を取り逃していました。
これもある意味『妄想でしかない夢』の描写ってことかなぁ……むっちゃ汚いグヘヘ笑いに、『あ、いつものドロシーだ!』と嬉しくもなったが。
こっちも顔見世だけでは終わらず、後輩に道を示すいい感じの見せ場が欲しい所ですね。
そういう部分も、来週楽しみ。

そして実力ある敵役として異常な存在感を出してきた、地獄耳子委員長。
彼女がにのに突きつける挫折と『お前は井の中の蛙だ』という事実は、味方でありバカでもあるゆいにはなかなか出しにくいトスです。
敵対者だからこそ出せる試練に向かい合うことで、これまで見えにくかったにのの弱点(つまり個性)が浮き彫りになるし、それをより良い方向に変化させていくことも可能。
上田麗奈の怪演もあって、悪いこと沢山やってるはずなのに憎みきれない、なんか面白いキャラになったと思います。
試合の外側では色々やりつつ、試合自体は超人的実力で真っ向勝負ってのがいい塩梅なのかな。

無印は『みんなトモダチ』が作品全体としてのモットーだったので、対立した人ともわかり合い、『みんなアイドル』として取り込んでいく動きが幾度も繰り返されてきました。
アイドルタイムは三年間作品を支えたそのモットーをあえて外しているので、アイドルを憎む委員長が『みんな』の一員になってくれるかは、未だ読み切れない部分だと思います。
グランプリとか神アイドルとかのでっかい話もスケール上できないので、実質地獄委員長との対立が話のかなりの部分支えてるからなぁ……委員長がちょっかいかけてこないと、『社会的に認められていないからこそ、頑張って認めさせないといけないもの』としての『アイドル』もぼんやりしちゃうし。
ババリア校長や時計塔のボーカルドールしばらく地獄委員長には、『良い敵役』を頑張ってもらうことになりそうですね。


というわけで、ソフトボールとアイドルステージ、主客を入れ替えて展開するにのエピソードでした。
完璧であるがゆえの弱さや脆さが、濃口の超人野球パロで笑いを取りつつちゃんと描かれ、それを埋め合わせる道程もしっかり暗示される、食べごたえのあるお話。
にの単品で終わらせるのではなく、彼女の脆さを支えるゆめと仲間たちの表情がしっかり見えたのも、とても良かったです。

すっかりソフトボールアニメと化したプリパラですが、この試合はグランプリに繋げるための前段階。
その中でとても大切なものを学ぶとしても、『アイドル』のお話である以上結末はステージで語られるべきです。
その過程で何を描き、どういう結論をキャラクターに背負わせるのか。
来週も楽しみです。