イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

正解するカド:第11話『ワノラル』感想

ファースト・コンタクトSFからポリティカルサスペンスを経て超時空ラブ・ロマンスへ。
物語ジャンルが凄い勢いでグルグル回るトンチキSFアニメ、最終決戦直前の第11話です。
人類誕生の意味を『異方への到達』に限定するザシュニナと対等の交渉を果すべく、色々仕掛けを張り巡らせる真道さん。
一方、恋しい真道と決定的に決別してしまったので暴走に歯止めが効かず、コピーと遊んでも心が満たされないザシュニナ。
二人の男の温度がモリっと高まる中、徭さんは神ならぬ我が身を嘆くのであった……という感じのお話。
色々タネは蒔いていますが、それをどう刈り取りどう着陸させるかで、今回の価値も決まると思います。


さて、というわけで、ザシュニナと再び対等に向かい合うために、異方アーマーで武装を始めた真道さん。
あのデザインセンスがマジでカドだと思うわけですが、あくまで『交渉のための道具』として超兵器を扱うのは、真道さんらしいな、と思いました。
ザシュニナが強制的に人類をプレーンシフトさせるのは、彼が超越者だから。
異方から学び取った技術を人間が操り、対等の立場に並んで初めて、神の傲慢に物申せるって考えなんでしょうね。

ザシュニナが真道さんを低次元に干渉するためのデバイスとして選び取り、コピーしたことで、二人の関係は始まりました。
神様は人間の世界に介入し、自分の『正解』を押し付けるために人間と同じ姿を取ったわけですが、人間と混じり合う中で様々に影響を受け、異方的超越性を失う……平たくいうと『人間くさく』なりました。
それと同じく、人類も神様と触れ合う中で神の領域に手をかけ、異方的な認識と思考に触れつつある。
真道さんが人類産の異方技術で身を固めるのは、その相互作用の発露かな、と思ったりもします。

ザシュニナは異方のまま人類とコンタクトしようとして、無意識的に人類サイドに影響(もしくは侵食)される立場ですが、徭さんは意識して人間に近づき、人類サイドの思考法を体得した神。
その両方が真道さんに引き寄せられ、恋愛(のように見える)関係を結ぼうとしているのは、なかなか面白い所です。
真道さんを軸にした三角関係で、世界全体を巻き込んだ異方革命が収束してしまうシュリンク感は残念でもありますが、広げていく形での終わり方をうまく制御出来ないと見たのか、アニメ視聴者をフックするには身近な感情に寄せたほうが良いと思ったのか。
どちらにせよ、恋愛戦は同衾までした徭さんに、一見旗が上がったように見えます。

しかし異方アーマー身にまとっての横殴り大作戦は、神に殴り掛かる特攻であり、真道さんはザシュニナのために死んでやる覚悟がある、ということです。
徭さんとの幸せな結婚生活、人間としての普通で当たり前の幸福よりも、自分のコピー/ミスコピーであり、良くも悪くも影響を及ぼしあったザシュニナに『サプライズ』を与えてやること……情報を求める乾きを己の命を持って満たしてやることを選択した。
来週の決着を見てみないとどうとも言えませんが、これは徭さんが神格を落としてまで寄り添った人間的価値よりも、ザシュニナがカドとともに叩きつけた異方的価値に殉じる行動だと思います。
……『アイツありえないほど間違えてるけどダチだし、俺の命で少しでも目が覚めるなら、死んでやってもいいかな』と考えると、恋愛とはまた別の形で非常に人間的とも言えるか。
誰も勝者がいない三角関係だな……徭さんが、真道さんの行動の先に自分ではなくザシュニナがいることに気づいている辺り、どうにもなんねぇ。


ザシュニナは男性格なので、徭さんとの綱引きは『ホモがヘテロに負けた』とも取れるんですが、どーも自分はその見方がしっくり来なかったりします。
ザシュニナは生殖も保全も必要としない神であり、神ですら退屈と孤独に耐えられないからこそ、己のつがいとして真道さんを求めた。
その思いが純粋かはさておき、最初から生物の前提をぶっちぎってる彼にとっての恋は、性差で隔てられたものではない気がするわけです。
まぁアニメだし、見た目のインパクトは大事かつ重要なんだけどさ……ふたりともいい感じに美青年だしなぁ。

真道さんが徭さんと寝た(直接描写はねぇけどそれでいいだろ。野崎まどだし)のは、まぁ彼がおそらくヘテロだからってのもあるんでしょうが、徭さんが背負う『この宇宙第一主義』を、ザシュニナの『異方第一主義』より重視したって側面もあると思います。
同じように共通の要素(ザシュニナは真道さんのスキャニング・コピー、徭さんは交渉官)を持ちつつも、真道さんは異質な価値と出会い、対話し、交渉することを是としていて、あくまで『異方≒自分に親しい人間』として自分を求めたザシュニナよりも、『貴方と違う私』をデートの中で腹蔵なく見せて、そこから関係を作ろうとした徭さんのほうが好ましかったんじゃなかろうか。
ザシュニナくん……下手だなあ、アプローチの仕方が下手!!(唐突なカイジの班長ロール)

去っていった真道を思いながら、ザシュニナが弄ぶ折り紙が『タツノオトシゴ』なのが、このアニメらしいなぁと思います。
龍に似た形をしていてもどこにも飛び立てない不格好な魚は、子供を育む時育児嚢に閉じ込め、守り見守ります。
それは宇宙繭から人類を採取する『正解』にしがみつくザシュニナの現在でもあるし、真道さんとの性交渉に失敗したザシュニナの夢でもあるのでしょう。
そういう目線で見ると、確かに『ホモがヘテロに負けた』話でもあんのか……ナチュラルなルート持ってるやつは強いなぁオイ。

箱の中で空っぽの真道コピーを玩弄する姿を見ても、ザシュニナはかつて完璧なコピーとオリジナルの差異……今そこにいる一個人の唯一性に、価値を見出していませんでした。
しかし自分の手で真道さんをえぐってみて、情報の総和にとどまらない世界の不可思議に思い至り、困惑しているように思えます。
コピーで満足できるなら、あそこで人形を弄んで『何か』を待ち続ける理由はないわけで。
真道さんが徭さんに隣り合った『私のコピーではないあなた』という性質に、ザシュニナもまた惹かれたわけですが、それを認めることはかつての異方存在・ワと同じように超越者の特質を捨て、人間に堕ちていく道でもあります。


真道さんがクソダセェアーマーで特攻することで、ザシュニナの中の人類性を気づかせるサプライズを達成できるのか。
なーんかとんでもないどんでん返しを用意している気もしますが、ともあれ世界の命運は勇者・真道幸一郎の双肩に委ねられました。
序盤あんだけ壮大なビジョンとスケール感を出しておいて、異方によって変貌した世界や価値観ではなく、箱の中での個々人の接触と決断で話が進んでいくのは、かなり方向性が変わった印象もあるがね。
この揺り動かしを視聴者への不実と取るか、奇矯ながら面白い挑戦と取るか……すげぇ人によるアニメになったと思います。
自分はネジが飛んでて面白いので好きです。

際限なくガンッガン思考の枠が広がって、箱の外側の世界がまた別の箱になっていくSF的ダイナミズムを味わいたかった気持ちもありますが、とまれ状況は男二人の殴り合いで決着が付きそうです。
異方と人類の出会いをどうまとめるか、という複数ジャンルをワープしまくったこの話自体をどう落とすのか。
泣いても笑っても残り一話、どんな核弾頭が落ちるやら。
楽しみですね。