イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター SideM:第8話『海・合宿・315の夏!』感想

夏だ! 海だ! 合宿だ!!
例の合宿場に今年もアイドルたちが集う……汗と友情の大☆宿泊合同訓練~!
チームの結束を高めるために一つ屋根の下、衣食住とトレーニングを共にする賑やかなエピソードとなりました。
ここまでユニット単位でキャラを掘り下げ、魅力を高めてきたことが最大限に生き、彼ら『らしさ』に溢れる元気な表情……だけでなく、意外な組み合わせ・意外なシチュエーションから立ち上る意外な魅力も、どんどん投擲。
汗を流し、笑顔を見せあい、みんなで同じ方向を見て楽しむ陽性な多幸感がエピソード全てに溢れていて、『エンドルフィン、ドーパミン、エンケファリン……脳内麻薬ドバドバ出させて、廃人量産する! 幸せでお前ら全員、殺すッ!!』っていう、濃厚な殺意を感じる回でした。
制作スタッフのみんな……俺を殺してくれて、本当にありがとう……(ハッピーゾンビ爆誕)。
ただただ幸せな柔らかい描写の中に、象徴と意味を濃厚に詰め込んだ圧縮率の高い画作りが的確に芯を作り、楽しいだけではない充実感溢れる仕上がりに。
最高の場所に集った最高の仲間達が、ここまでどういう道を歩いてきて、ここからどこに旅立っていくかを、原液そのままのキラキラで喉奥に流し込まれるような、パワフル&テクニカルな回だったと思います。


というわけで、色んな事がギュッと詰め込まれ、非常にカロリーが高い今回。
『此処に意味がありますよぉ!!』と声高に叫ぶシリアスなトーンではなく、あくまで『明るく楽しい合宿』をボーっと楽しめる圧力に抑えつつ、しかし細やかな意味で画面を満たしていくことは忘れない。
年齢と前歴がバラバラである豊かさ、周囲をよく見て自発的に困難を乗り越えていく頼もしさ、山はありつつ必ず幸福な結末にたどり着けるという甘い予感。
このアニメの強い部分をフル動員して、多くのキャラクターがどんな人間であるか、今どんな状況にいるのか、そしてこれからどこに走っているかを、しっかり見せる回でした。
こんだけチャーミングでアツく、惹きつけられる魅力と多幸感にある話で流し込まれると、意識しなくても脳みそに情報が焼き付いちまうからな……物語やキャラの配置を理解させるのに、最高に巧妙な手段だ。

今回の話は男たちの夏、一瞬のきらめきを切り取る『今』の物語であると同時に、過去が未来を連れてくる『昔と先』の話でもあります。
『昔』というのは外科医の前歴がWのテーピング・ケアに生きた桜庭のような『小さな過去』の話でもあるし、『アイドルマスター』という巨大な流れに乗っかっている『大きな過去』の物語でもある。
画面に映るもの全てが『あの扇風機』『あの縁側』『あのポンプ』『あの水鉄砲』と、語らずとも意味を持って立ち上がってくる特別な場所。
アイドルマスター、そしてシンデレラガールズに続く作品であるSideMを個別の物語としてしっかり立てつつ、過去作への目配せ、作品を超えて受け継がれる『みんな』への強い視座がグッと表に出てくる、立体的な話でもあったと思います。

過去作からの構図・モチーフ引用も非常に多く、アイドルマスター第5話、劇場版アイドルマスターシンデレラガールズ第12話と舞台(あるいはシチュエーション)を共有している利点を最大限に活かしていました。
今回の合宿は、シチェーションとしては劇場版ですが、溢れる楽しさと未来への展望という意味では第5話に通じる部分がでかいかなぁ、と思います。
あの時旅館の寝室で少女たちが語った夢を、今回男たちは砂浜で語り合い、夕日と一番星というをみんなで見つめ、目指す。
劇場版で春香と仲間が探した朝日と、輝と仲間が飛び込んだ朝日の違いはあれど、その先に『輝きの向こう側』があるのは共通でしょう。
あるいは個別のユニット活動を通じて個性を描写し、それが一つにまとまる全体曲練習という構図は、やはりデレマス第12話に通じるものがある。
その上で、非常に凸凹した状況をときに薄暗く描いたあの話に比べ、全体的に底抜けに明るく楽しく陰りなく展開し、前向きに前向きに進んでいくSideMの味も濃く漂っています。

『みんな』で食べるメニュー(例によって、翼の『運命共同体として、一つになるための食事』ですね)は、同じようにカレーですが、それは同時に『カレー作り』という天ヶ瀬冬馬の趣味描写でもある。
ただファンサービスとして文脈をなぞるのではなく、あくまで自分たちの物語、自分たちのキャラクターの生きた躍動として、文脈を活かしてくる使い方は、非常に野心的かつ健全だと思います。
同時に自分たちの物語が『歴史』の中にあることを意識し、過去作へのリスペクトをしっかり込めて絵を作っていく意識の高さには、感謝と尊敬がある。

性別や年齢、原作メディアやメイン客層の違いはあってもやっぱりSideMは『アイドルマスター』であり、非常に曖昧とした、でも力強い『アイマスらしさ』を継承し拡大していくことで、自己のアイデンティティを確立している。
そんな過去と現在、そして未来への響き合いを、過剰にならないように心を配りつつ丁寧に描いてきた筆は、最後まで震えることなく力強かったです。
輝が『みんなだから出来ること』を求めた時、僕の脳裏には"The world is all one !!"のイントロが流れ始めて、♪ひとりでは出来ないこと 仲間となら出来ること♪と続いていきました。
彼らはあの砂浜を超えて、団結(Unity)を力(Strength)にして、手を繋いで進んでいくのだろうなぁ。

あくまで明言を避ける筆運びで来て、最後の最後に『色紙』を直接見せるストイシズムの爆裂、ホント良かったです。
女の子たちはそれぞれカラフルに自分を飾り、それぞれの色を出す中、アホバカ男子は色気のない黒一色で自分たちを刻むという対比が、アイマス史にSideMを刻み込む、自尊に満ちたスタンスを表現していました。
やろうと思えばもっと、過去作の引用で埋め尽くすことも出来たけども、あくまで315プロの『今』を描きつつ、同時に『歴史』の中にある彼らに嘘はつかない。
ここら辺のバランス感覚は今回だけでなく、シリーズ全体に通じる一つの哲学だと思っています。
それが非常に良い形で発露した今回、やっぱ猛烈にハッピーな感覚で視聴者を押し流すためには、幸福を徹底的に分析し洗い直す冷静さが絶対必要なのだと、認識を新たにさせてくれました。


アイドルマスター』という大きな外枠の中の位置づけはこんな感じですが、ではSideMとしてのポジションはどういう話なのか。
ここまで7話(EoJ合わせれば8話)、ユニット単位でキャラを掘り下げて、視聴者の中に架空の人物を侵入させてきた成果を活かす回だといえます。
それぞれの前歴、能力、好み、悩みがある男たちが『一人』としてそれぞれ存在感が在ることを、しっかり説明しているからこそ、彼らがユニットとして、そしてユニットを超えて『みんな』になれる喜びが、スッと胸に入ってくる。
童心に帰って遊び、あるいは本気で競い合えるライバルとして切磋琢磨する爽やかな汗を、心地よく感じる。
そしてここで手に入れた団結が、後半戦をぐっと高みに引っ張り上げるパワーに、間違いなく変わる。
そういう力強さに溢れた、見事な全体回でした。

今回は非常に沢山のキャラクターが描写されるのですが、細やかな部分でこれまでの描写をうまく反映・継承していて、そのことが単話の火力を上げています。
細かい仕草や描かれる長所は今回急に出てきたわけではなく、各キャラクターを掘り下げたユニット回の中で見せた『らしさ』の延長線上にある。
例えばHigh×Jokerの劣等生な四季のウザイ前への出方、そんな彼を気にかける次郎ちゃんの教師力、『みんな』に溶け込めきれない桜庭の孤独、自然と真ん中に立つ輝のセンター適正。
そういう『らしい』描写で、今回のエピソードはみっしりと埋まっています。

その統一感がリアリティを高め、フッと『らしさ』の外側に出る描写……意外と体力在るピエール、ねぼすけな恭二などが、アイドルの意外な顔を見れたサプライズとして嬉しい。
それは新しい彼ら『らしさ』として僕らの中に蓄積され、彼らをもっと強く好きになる足場になります。
『みんな』で同じ飯を食い、同じ風呂に入り、同じ浴衣を着る『合宿』という新しい日常。
そこにどっしりカメラを据え、二十四時間どっしり追跡するセッティングの妙が、古い納得と新しい驚きをどんどん供給して、脳髄を幸福感で満たす。
とにかくチャーミングなシーンが途切れず、可愛く幸せな時間が流れ続けるラッシュの激しさは、非常に巧妙な連打でした。

ただ可愛いだけでなく、汗を流しアイドルとしての高みを目指す修練の場としても、『合宿』はよく描かれていました。
物質としての汗もかなり強調されていましたが、それ以上に自発的にチームを組み上げ、競争意識を利用しながらモチベを高め、全体曲を最高まで完成させる……そして輝の一言を切っ掛けに最高を超えていく展開は、確かな手応えがありました。
エンターテイナーとして、アスリートとしてちゃんと努力しているからこそ、おバカ本能全開で遊びまくるメリハリも心地よく伝わる。

これまでも『アイドルの天上』として描かれてきたJupiterに作画カロリーをつぎ込み、『目指すべき理想』『思わず目を奪われる華』を具体的に描いてきたのは、とても上手いところです。
315のアイドルたちはJupiterの発案でチームに別れ、それぞれの弱さをお互い支え合い補い合い、Jupiterと同じ領域までパフォーマンスを高めていく。
まだまだ出来ていない時の『Reason!!』は声なしの仮歌だったのに対し、皆がパフォーマンスを高めあった後の二回目は自分たちの声が入っているという演出も、彼らがこの合宿で何を手に入れたか言外に説明する、見事なものでした。


ここまで出番が少なめだった分、今回はJupiterが非常に目立つ回でした。
出だしの超絶浮かれポンチ野郎な冬馬でひとしきり笑った後、プロアイドルとして先を走っている頼もしさ、意識の高さが随所でほとばしります。
Jupiterはアイドルとして先をかける導きの星であり、各チームにあった指導を行う先生であり、この合宿場でようやく『仲間』を手に入れた迷い人でも在る。
High×Joker(最終的に隼人がリードを取る描写、感動を臆せず伝える描写は、第5話・第7話と共通ですね)に『Jupiterにダンスを教えてほしいんだ!』と言ってもらった時、手のかかるスタミナチームの面倒を見てる時、冬馬はとても幸福そうに微笑む。
今回の合宿で、冬馬はようやく二年間の空白を埋めて、天海春香に近づけたのかな、と思いました。
765のような『仲間』がいないからこそ961から落ち延び、孤独な風に傷ついて、ようやく見つけた315の居場所。
その暖かさを、衣食住と夢を同じくして高め合う今回の合宿で、冬馬はほんとうの意味で実感したのかな、と。

冬馬だけでなく、年齢的には中間層なのに圧倒的な指導力、分析力、包容力を誇るプロフェッサー北斗も、朝が弱い自由人ながらも圧倒的なパフォーマンスを誇り、仲間に夢を見せる翔太も、非常に頼もしかった。
S.E.MもDRAMATIC STARSも、Jupiterの緑の光に眼を焼かれてアイドルを志し、今もなお彼らを目印に走っています。
それに相応しいだけの圧倒的な実力、実績、そして後ろをついてくる仲間を見落とさない優しさと眼の良さがJupiterには在ることを、今回の描写は丁寧に積み重ねていました。
太陽と星を追いかけて走る仲間(あるいは肉とビールでワイワイ騒ぐバカガキ)を、後ろでどっしり見守る北斗のパパ力(そしてそれに寄り添うPちゃんのママ力)は、やっぱ凄かったなぁ。

後輩が苦戦する『Reason!!』を踊りこなすシーンで、同じくアイドルであるのに手を止めて『見て』しまう華をJupiterが持っている描写が好きで。
それは961を追い出されてもなお、歩みを止めずアイドルを続けていた彼らの道だけが与えてくれる『華』でして。
ファンを前に、見られる存在として戦い続けたプロのアイドルとしての経験の差が、実際のパフォーマンスと同じくらい視線を引きつける引力の差として現れている。
そういう意味では、315のアイドルたちはまだまだアマチュアというか、アイドルとしてファンを引きつける伸びしろを残しているわけです。
そしてそれが、北斗が取りまとめたチーム制度によって的確に分析され、克服され、結果を出す。
だけで終わらず、315の振り付けを追加してその先を目指していく。
Jupiterが牽引し、後輩たちがその背中を追いかけていく315事務所の基本形と、ただそれだけで終わらない相互支援、競い合う成長が感じられて、とても良かったです。

今回の話しが多幸感を醸し出しつつ、現状をダダ甘に肯定する緩さに落ちていないのは、やっぱアニマス後半、EoJ前半のJupiterの苦労が、後景として場を占めているからかな、と思いました。
始まったばかりの315のアイドルたちにとって、この合宿は途中経過、あるいはスタートなわけだけども、『仲間』を追い求めて長い道を歩いてきたJupiterにとっては一つのゴール。
そこを踏み越えてまた、新しい道を走っていく時、Jupiter(というか天ヶ瀬冬馬)はもう一人じゃなくて、これまで見ていたのとは全く別の景色を体験できる。
裏切られたこと、辛かったこと含めて必死に頑張って、支え合ってきたからこそ、ダチと馬鹿騒ぎして、枕投げに水遊びに砂浜ダッシュに遊びまくる幸福な日々が、報酬として待っている。
エピソード単体で見ると徹底的に明るいこのお話に、遠い遠い陰りを添えて陰影を付ける仕事は、『先輩アイドル』であるJupiterだけが可能な遠近法だと思います。
ほんと良かったなぁ冬馬……北斗や翔太もこの光景を楽しんでいるだろうけども、誰よりも強くて優しくて、だからこそ妥協ができない不器用な冬馬に、慕ってくれる『仲間』が出来たのって、ほんと素晴らしいだと思う。
何よりもここが幸福の頂点ではなく、『Reason!!』をみんなで披露するステージ、その輝きの向こう側まで道が続いているって判ることが、やっぱ良いな。


そんなJupiterを指極星に、青春とアイドルのど真ん中を疾走する後輩たち。
まずユニットから初めて、それを解体して新しい組み合わせで魅せ、最後にユニットに帰還する。
この描き方は第5話のランニングで既に使われていたもので、今回が過去リソースの有効活用だとも、あの描写がリフレインを前提とした布石だったとも言えるでしょう。
やっぱキャラクターの人間関係、個人のキャラクター性はユニットを基調に展開するわけですが、せっかく多くの仲間が一つの事務所/合宿所に集ってるんだから、混じりあう過程は見たいわけです。
そこら辺の期待をきっちり拾い上げ、それを遥かに超えた快楽を叩きつけてくる手腕は、やっぱプロはスゲーわと感じました。
ここでも、ユニットの枠を崩し弱点を補強していくチーム分けが、最大限に生きていましたね。

今回は『みんな』を描く回なんですが、それはけして均質に個性を塗りつぶすことではないということも、丁寧に描かれています。
枕投げで盛り上がる奴らがいてもいいし、縁側でお酒とスイカを楽しむオッサン達がいてもいい。
走ってスタミナを付けても、笑顔の練習をしても、踊りまくって調子を整えても良い。
バラバラだからこそ、それが響き合う強さを手に入れることが出来るし、自分を殺して生まれるパフォーマンスは観客をひきつけもしない。
だからバラバラであることを許容できる豊かさと、それでも一緒のものを食べ、風呂に入り、衣装を着て、星を見上げる統一性を両立することが大事。
エピソード全体で、このアニメが目指す『最高のみんな』とはどういうものなのかを、楽しい合宿描写の通奏低音として奏でていた気がします。

バラバラを寿ぐシーンとしては、あえての飲酒描写を楽しく描いて年齢差を強調したり、桜庭の治療シーンで『前歴があることの意味』を肯定したり、細かく描かれていました。
オッサン達がお酒で繋がる描写は、成人以下がほとんどである旧作ではなかなか描かれなかった(アイマス5話だと成人組の酒盛りシーンあるけども)楽しさで、SideMらしいなぁと思いました。
第3話にしても第6話にしても『ペットボトル=確固として立つ潤い』って凄く象徴的なアイテムとして描かれてるんですが、今回のビール(とやっぱりペットボトル)も似たフェティッシュなのかなぁ。
飲めば乾きを癒し、他人に手渡して共有できる心遣いの象徴であり、地面に対して垂直に立ってゴールを示す目印にもなるアイテムなので、砂浜にビール埋まっててそれを手に取るシーンはついつい深読みしてしまった。
汗迸る夏と努力の描写が上手いんで、喉を滑っていくビールの気持ちよさもいい具合に想像できんだよね、今回。

高まる団結力を表現するアイテムとしては、段々書き込みが増えていくホワイトボードも象徴的でした。
最初は日付しかないんだけども、段々関係が柔らかくなっていったのを象徴するように書き込みが増えて、賑やかになっていく。
そういう開けっぴろげな関係の描写と同時に、年上のW相手には冬馬が敬語を使っていたり、リスペクトで一線を画する描写もしっかりやる。
『あ、こいつらいい関係なんだな』と伝わってくる指標が多くて、とても良かったですね。

冬馬と輝のWセンターが物語の真ん中に立って、話を引っ張っていくんだ!という暗示が濃かったのも、とても楽しかった。
最初の階段ダッシュから二人はずーっと一緒にいて、これまでは一人だっただろう冬馬の早朝マラソンにも輝が追いついてきて、『みんなだから出来ること』というクリティカルな変化も、輝が思いつく。
『Jupiterに最も近い存在』として輝はかなり特別に切り出されているし、しかもそのスペシャルな立ち位置は、あくまで楽しく賑やかに描かれている。
ピエールにペットボトルを取られて、ムキになって勝負を挑む二人のアップを見れば、『赤』い二人がどういうものを背負っているかは、おぼろげながら感じ取れます。
まだまだアマチュアな輝の思いつきを、プロである冬馬(と翔太)が『使える武器』として受け入れ、ブラッシュアップさせる過程は、合宿を離れたアイドルのステージでも、二人のセンターが後半アニメを引っ張っていく予兆に満ちていました。

Jupiterが全体を巧くリードするという意味では、夢を聞き出すシーンも良くて。
あれは未来への期待に満ちた、多幸感急上昇のハッピーハードコアな見せ場であると同時に、合宿で培った身内の絆を、もっと外側に拡大していく儀式でもある。
今回手に入れた仲間の実感を支えに、もっと大きなステージをやりきり、『みんな』の定義を315事務所ではなく観客席まで巻き込む。
輝く夕日と星、『アイドル』としての夢を聞き出すことで、Jupiterは自分たちが立っている広くて厳しい、そして何よりも楽しいステージへの道を、巧く整備しているわけです。
ココらへんが自発的にできるのは、キャラが過剰に悩みすぎないSideMらしい運びだなぁと思いました。
ここで狭い身内の自己満足積み重ねても、『合宿』の狙いは果たせないわけで、『なんでここでみんな一緒にいて、その先何がしたいのか』を具体的に聞き出すのは、合宿のまとめとしてはベストだよなぁ。
そして観客に思いを届ける、アイドルとして輝くための『広さ』ってのは、今回確認したような『狭い』信頼感に後押しされなきゃ、絶対不可能なわけで。
そういう一見相反するものを融合させ、新しい奇跡を引き寄せていくパワーみたいの発散されていたのも、今回Jupiterに感じた頼もしさ、アイドルたちを見てると高鳴る期待感の理由なのかなぁ。


混じり合う可能性と同時に、未だ混ざり合わない違和感も細かく描写されているのが、この話の巧妙なところです。
文句は言わないけど一緒にバカやるわけじゃない桜庭は、一人蒼い世界で意味深に黄昏れ、『はい! 後半はこのイルカのブレスレットがですね、このクッソ面倒くさい乙女眼鏡を攻略するキーアイテムですから!!』というメッセージをドアップで垂れ流す。
Wを繋ぐへその緒は未だ切れず、絶対一緒に画面に写り続ける唯一のユニットになります。
お互いのイメージカラーを、衣服という『身体に一番近いもの』に取り込んで身につけているユニフォームのデザイン、あまりによく出来てて悪魔が思いついたのかと思った。
あのお互い侵食する黄色と緑(それを取り巻く黒い空疎)こそが、Wそのものなんだと感じました。
そこを切り離して、一個人としての悠介と享介を描く時間は……あるのかなぁ。

あとHigh×Jokerも出題編の満ち足りた不穏感を引き継いで、バカ三人と旬&夏来の間に溝がある描写を、そこかしこに入れてきました。
旬が不器用に作ったサラダをまるごと飲み込めるのは夏来であって、他のメンバーでも、ましてや別のユニットの仲間でもないのよね、現状。
あそこで例えば四季とか、隼人とかが向かい合って『運命共同体として、一つになるための食事』を共有できる段階まで、High×Jokerは進んでいない。
同じように、四季と隼人が隣り合って鏡に向かう(つまり飾らない自分を見せ合う)シーンで、旬は四季のワックスを手に取らない……寝癖が立っていて、ワックスを必要としているのに。
元気でハッピーで満ち足りていて、でもどこか寂しい距離感の描写は第7話をみっしり埋め尽くしていたものなので、これも今後掘っていくポイントなのかなぁ。

とは言うものの、Wがみんなと少し離れたところでお互いを不器用にケアするシーンに、桜庭は寄り添ってテーピングをしてあげる。
頑なに自分を守りつつ、融和の可能性と喜びは彼にも届いていて、一人でいることを徹底的に望んでいるわけではない。
そういう面倒くさいポジションを、暗くならずにあくまで明るくしっかり切り取ってくるのは、流石の一言ですね。
輝とも相っ変わらず、一生イチャイチャしてたしな……桜庭の面倒くささ、ナイーブな乙女のように繊細な距離感を理解しつつ、踏み込めるギリギリまで接近してる天道、やっぱ人間関係の視力が異常に良い。
司法試験に合格してるんだから知力は高いし、熱血だけどその熱量で他人を無遠慮に炙るわけでもないし。面白いキャラ造形してるよね天道さん。

あ、みのりさんが『Beitのおかーさん』という仕事から離れて、酒は飲むわ限界ドルヲタ全開で写真は撮るわ、全開ではしゃいでいたのは素晴らしかったと思います。
Beitは恭二がお酒飲める年だったり、ピエールがフィジカルエリートでタフだったり、個別回で描いたものの裏をキレイに照射して、新しい可能性見せる感じだったな。
こういう意外性が描かれると、キャラの陰影は深くなるし、特定の役割を演じつ続ける不公平感も薄まるので、とても良いですね。
カタい連中はカタイなりに、浮かれポンチ軍団は最高にウェーイな感じで、凄く楽しい時間を共有する今回の合宿は、そういう意外性も浮き彫りにしてくれるんやね。

んでPちゃんは相変わらず影に徹して、最初に目標設定だけして周囲を見守っていました。
目立つところにはいないけど、場所と方向性はしっかり準備して、アイドルが自分で歩ける道を用意するバランス感覚は、やっぱ強いなぁ。
Wと桜庭、315事務所でも最高級にバリアが高い三人が交流しているシーンを見て、フッと微笑むのは、何が問題点なのかをしっかり調べて、自分がどこまで手を出すか常に考えている証明だと思う。
プロフェッサー北斗が現場指揮官をしっかりこなして、自発的に成長のための環境を作っていった時、Pちゃんとっても嬉しかったんじゃないかな。
それは自主性と尊厳を重んじる優しさだけでなく、アイドルという厳しい仕事に必要な実力は、他人が押し付け引っ張り上げるのではなく自分の足で歩いてもらったほうが効率が良いという、プロの計算も働いている気がする。
そこら辺の、ベタベタしすぎず見放さずの間合いの上手さが、また信頼感を強化しますね。


というわけで、楽しい楽しい合宿回でした。
全盛期のマイク・タイソンばりの密度で乱打(ラッシュ)される、アイドルたちのチャーミングな仕草、俺達が待っていたキャラの掛け合い。
幸福感に窒息寸前に追い込まれ、脳髄を破壊され『ありがとう……ほんまありがとう……』しか言えない生き物を量産してくる、見事な感情の回でした。

それを成立させているのは、やっぱり自分が積み上げてきたもの、今描いているもの、これから描くものをしっかり把握した眼の良さ。
『SideM』という現在進行系の物語と、その船が乗っている『アイドルマスター』という大きな流れにも目配せをして、ハードコアな幸福がどっしり乗っかる土台を組み上げていました。
やっぱ理性と共感、2つの車輪を最大限ぶん回すことで、物語は加速するのだなぁ。

楽しいだけではなく、しっかり汗を流し、団結を深め、最高の先へたどり着く『合宿』を描いたことで、アイドルとしてのレベルアップにも説得力が生まれました。
この素晴らしい時間はゴールではなく、新しいスタートライン。
SideMアニメ後半戦が、一体どんな素晴らしい物語を展開してくれるのか。
信頼と期待がグンッと高まる、素晴らしいエピソードでした。