3月のライオンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
かくして、重たく苦しい嵐の季節は終わり、日差しの照る季節が戻ってくる。そしてその前に、自分が語った物語にちゃんとピリオドを打つべく、何を手に入れたのかを確認するべく、このエピソードがある。
そういう感じの回。壊れたもの、変わらないもの、手に入れたもの。
AパートもBパートも、BGMなしの静寂から始まるわけだが、その意味は百八十度異なる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
めぐみと国分の陰鬱で重たい睨み合いには、どうやっても乗り越えられない無理解の壁が。
日差しの中で眠りこけるひなちゃんと、それを見守る零くんの共有する沈黙には温もりが、それぞれ横たわっている。
零くんもまた、めぐみが身を横たえる膠着したアパシーに支配されていた人間で、川本家に出会い、将棋と出会い直し、ようやくひだまりにたどり着いた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
めぐみもまた、幸運と出会いに恵まれればああいう場所にたどり着ける…かもしれないし、そうでないかもしれない。
頼りがいに溢れた厳父たる国分の登場により、ワリと強引にいじめ編は終わる。暗闇が避けて光が溢れるが、しかしまだ影はわだかまっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
いじめを書かなければ収まらなかった羽海野先生の筆は、そういうどうにも動かないものを、最後に描かないと収まらない。前向きな主役たり得ない凡愚の肖像を。
冒頭五分の、暖簾に腕押しな重たい沈黙。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
無理解の殻に閉じこもることで自分を守り、加害の鋭さを見るまい見るまいとしているめぐみの姿は、とても醜い。後半零ちゃんがひなちゃんに見た崇高な光とは、全く正反対の場所にある存在だ。
でも、それはある。哀しいかな、そういうものは在り続けるのだ。
物語の中心に存在し、ストーリーを牽引していく主役たちは、どうにも動かない不条理にちゃんと向かい合い、歯を突き立てて噛み砕く。その硬さに血を流しつつも、諦めず前に進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
その不屈が、この薄暗い物語を照らす大きな光だ。でも、そこから溢れてしまうモノがある。
零ちゃんの献身、ひなちゃんの不屈を描くための対照として在った、卑近で醜いちっぽけな中学生。狭い世間のエゴにまみれ、他者を傷つけ自分を囲い込むことしか出来ない、当たり前に存在するつまらない悪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
更生の機会すら手放してしまうつまらない存在を主役に据えても、当然お話は面白くならない。
でも、前を向いていくども歩き直せる特別な存在を主役に据え、その特別性を際だたせるために凡俗を配置したとしても、ありふれた悪は当然のように存在していて、存在し続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
エピソードが閉じられたからといって、消えてなくなるわけじゃない。そこは僕らの世界と同じだ。
そういう創作的リアリズムに嘘をつけなかったから、今回のAパートが書かれたのかなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
先週退場した先生に感じていた、スパッとした切断面の先鋭さ。それとはまた違う、歯切れの悪い継続性を込めて、めぐみの出番は(一旦)終わる。
それは身近な悪が、そういう終わり方しか出来ないからだ。
そこをわざわざ語り直し、そのスッキリしなさをひなちゃんに直接言及させることが、この長く不穏なエピソードのピリオドとして選ばれる所が、僕は結構好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
苦しみつつ正しい選択が出来る存在と、当たり前の苦しさに飲み込まれとんでもなく間違えてしまう存在。それは交わりつつ、また離れていく。
カメラは希望を込めて、正しい存在を追う。置き去りにされる間違えてしまった存在は、ステージの端に流れていくが、間違えたなりに彼らの人生は続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
そこにはキャラクターと、彼らが作り出すへの一種の敬意があるように思う。そうなるように生み出したのは作者でも、そう生きているのはキャラ自身だ
過ちに凛然と抗議し、正しい道を歩いたひなちゃん。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
誤ったまま、不実な世界に行き続けるだろうめぐみ。
その中間地点で、ぶっ壊された精神をリハビリし、なんとか生き直そうと藻掻いているちほちゃんを描いたのも、またそういう敬意の表れだと思う。
壊されたものも、また再生できる。
あの診療所は、一歩間違えば零くんやひなちゃんが落下していったリンボであり、また今彼らがいる日差しの中にちほちゃんもまた帰還できる(かもしれない)希望でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
かなり遅いかもだが、ちほちゃんは父母に医師、職員と、人に恵まれた。それが一番のきっかけになることはこの物語が示している
でも、ちほちゃんが喪ってしまったものはとても重くて、それを描くために長いエピソードがあり、どうにも変わることが出来ないめぐみの肖像画がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
だから、魔法のように心が治るわけじゃない。じっくりと時間をかけて、ちほちゃんは再生する。寛解するかもしれないし、壊れたままかもしれない。
未来は良くも悪くも不定形で、どうなるか判らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
クラスメイトと関係性を快復させ、楽しい学校生活を再獲得できたひなちゃんと同じ場所に、ちほちゃんが立てるかは明言されない。
そこで口ごもりつつ、『でも、もしかしたら』と添えることが、この作品のリアリティであり、誠意なのだと思う。
そんな不定形で明暗入り交じる世界の中で、零くんは勝った。大切な人を支え守り、平穏をもぎ取った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
のだが、自分を好きになりきれない屈折少年は、それを信じきれない。自分は大したことなどできなかったと、くっそ面倒くさい寝言を吐く。そら、ひなちゃんも噛む。
家族と死に別れ、新しい家族と関係を構築できなかった零くんは、自分と誰かがつながっていること、直接矢面に立たなくても支える戦いが在ることを、なかなか実感できない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
川本家や将棋と向かい合うことで、じっくりそういう自分を作ってはいるのだが。
人間関係のマトリクスの中で成立する、価値のある自分。零くんが『何もできなかった』というのは、そんなセルフイメージを獲得できていないからで、今回ひなちゃんにガブリとやられたことで、少しは『誰かの間にある自分』を好きになれるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
ちゃんと言ってやらんと、わからんからなぁ。
零くんはどーにも優しすぎるから、自分が将棋や人生に向かい合うときの尊厳在る孤独感を、親しい人に適応できない感じがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
ここまでが愛情の範疇、手を出して大丈夫な距離という見切りが、なかなか出来ない。冷たい失意で押さえ込んでいた分、温もりに手を出す時ボリュームが壊れている。
それはまぁ、一回壊れてしまった人間の在り方として当然だ。ちほちゃんの苦しい生き直しを描く筆と、多分共通なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
でもそっからはみ出して、他人を尊重できる自分を尊重できるようになっていく。10代の少年として、だんだん強くなる。それが棋士としての強さを裏打ちもする。
ひなちゃんがまとう陽だまりの気配を、鋭敏に察知できる感性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
それは零くんの中にずっと在ったもので、紫斑の浮いた妹の小さな腕を握った時、一回壊れてしまったものなのだろう。
それが回復し、非言語的なオーラを受け止め共有できるようになる。これも、クソ理屈人間には得難い変化だろう。
苦しくて、無力に苛まれて、必死に考えて。キモいくらいに付きまとって、密着して痛みを肌で感じて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
そんないじめにまつわるエピソードをくぐり抜けて、零くんが何を手に入れたかを丁寧に書くBパートであったと思う。Aパートの冷えた感じとの対比が、とても良かった。
恋心ともまた違う、崇拝に近い尊敬。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
零くんがひなたちゃんに向ける視線も、非常に鮮明に描かれていた。一手間違うと大惨事になりかねない感情だが、その危うさを正してくれる人も周囲にたくさんいるので、まぁなんとかなるだろう。
時間飛び越えて過去の自分を救われちまったら、まぁああもなるわな。
色々在ったが一つのエピソードが終わって、変化し成長した部分も、どうにも変わらない部分も、不明なままの期待もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
それをじっくり確認していく、贅沢なエピローグだったと思います。ここでしっかり変化を描いておくことで、今後にも繋がるしね。ゆったりとムーディーなのがとてもグッド。
ここで手に入れた(あるいは失った)ものが、過ぎゆく時間の中で何を生み出すか。冷たさと温もりの余韻を味わいつつも、先の展開に目を向けたくなる作りでもありました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月16日
エピローグでこういうイントロが流れ始めているのは、やっぱとっても良い。来週も楽しみです。