3月のライオンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
三界火宅なり。進むも引くも苦しい人生劇が、棋将戦の舞台に乗る。華やかな祝宴、青年の野心、少年の無垢。その裏側には、重くて長い影と、未練を宿した呪いの布が、べったりと伸びていた。
夢に縛り付けられたまま、男達は向かい合う。魂を絞り出して火を付けて、その先は。
というわけで約一ヶ月の3月のライオン、作画、演出、音響、撮影、声優と絵の芝居、ともに 凄まじい勝負回となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
世間には注目されない渋いタイトル戦、盤面解説による人波も少ない。だが、そこに込められた男たちの想いは、黒く熱く煮えたぎり魂を焦がす。老いと死の気配を漂わせつつ、対局は進む
良い所が沢山ある回なのだが、序盤いつものオトボケでジャブを打っておいて、がんちゃん登場からスッと冷え込むメリハリの付け方が、非常に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
島田さんが悩まされる、柳原王国の華やかさは嘘ではない。しかしその光は常に、ジジイが歩いてきた道、そこに埋まった夢の屍を燃やして発せられる。
島田さんが石にかじりついてでも勝ちを欲しがる貪欲さ、敵地に乗り込んだ孤独感は、柳原さんが背負うものの対比物ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
それはそれとして重たいもので、島田さんだって『頑張れ開』というタスキを預かっている。多分、みんながそうなのだ。そこが島田さんの土壇場で、引く訳にはいかない。
だから、島田さん(寄りの零ちゃん&ニカ)が見ている世界は、笑いにあふれて輝き、とても賑やかだ。慕われ、愛され、勝ちを望まれる。首獲る側としては居心地が悪い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
光の中の一点の滲み、挑戦者たる島田の鬱屈を、ミキシンが熱を入れてやりきってくれる。
しかしそこをフッと離れて舞台裏、がんちゃんと影の中柳原さんと話し始めたあたりから、島田さんが見れない世界がグワーッと広がりだす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
宗谷が閉じ込められた孤独な静謐とはまた違う、風と火炎が渦を巻く焼け野原。モノトーンの世界に立ち上る煙は、夢を荼毘に付した残り香だ。
それは黄金期を思い出させる香りであり、夢を預けて倒れていった戦友の死臭を漂わせてもいる。一人、生き延びた。戦って戦って、生き延びてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
残っているのは、思いを宿したたすきだけで、それは柳原さんにとっては『呪(じゅ)』だ。涙で編んだ側には『寿(じゅ)』であっても。
それがあるから、引けない。負けられない。身を賭した仕事を奪われ、代わりになるものが何も見つからない空疎を、がんちゃんは語る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
彼との接触が柳原さんの鎧を剥いで、ただの老人に変えるのだから、存在感は山盛り必要だ。そこで、中尾隆聖をこういう芝居で使う。ベストである。
過去から現在へ棚引く、虚しい煙。己の魂と、生き延びてしまえる才への祈りが、勝ち負けの炎であぶられて燃えだす時の臭い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
モノクロの世界にひどく生々しい臭気が満ちていて、非常に鋭い演出であった。今回は『水』ではなく『火』のアニメであり、また『風』のアニメでもあったと思う。
別の生き物のようにたなびき、老人を絞め殺すたすき。それはとても綺麗なものだ。負けて諦め、身を引いて。選ばれなかったものたちの最後の祈りを束ねた、希望の糸。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
しかしそれは、当然重い。憧れを手放した(手放さざるを得なかった)人々は、それを預けて楽になる。なったらなったで、別の地獄だが
しかし66才A級という実績を成し遂げている柳原さんは、歩けば歩くほどたすきを背負う。絡め取られ、目を塞がれ、喉が締め付けられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
重い。
妖怪のようにうねるたすきの表現が、綺麗な祈りが心を縛り付ける呪いになってしまう怪しさを、見事に表現していた。ホラーの文法を最適に使った感じ。
ここまで主筋を進めつつ、細やかに挟み込まれた柳原さん。老練で、軽快で、勝つための布石をぬかりなく埋め込む、楽しい男。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
軽くて強い。そういう印象を巧く作ってきたからこそ、たすきの鎧に押しつぶされかけ、騎士の礼装を脱ぎ捨てたただのジジイの素裸が、見事に胸に迫る。
ジジイが寝床から起きる。薬を飲んで、点眼する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
原作でも最高に好きなコマを、どっしり丁寧に描いてくれたのが最高に良かった。
言葉では言わない。だが、腰を傷めないよう気を使いながら起き上がり、折れそうに細い体で大量の薬を引き寄せ、しわくちゃの目ン玉に目薬を注す仕草で、その弱さが判る。
そこにいるのは、ただのジジイなのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
柳原王国の主でも、怪物でも妖怪でも、老戦士でもなく、当たり前の経年劣化に痛めつけられ、勝負の炎に火だるまにされて、それでも生きてしまっている老人が、死にかけながらなんとか起き上がっているのだ。
そのちっぽけで、可愛くもない体がすべての中心にある
そのちっぽけな身体性を、非常に丁寧に映像に焼き込むことで、弱っちいジジイが挑む勝負のデカさ、容赦の無さが見える。弱っちいのに、そこから退けないたすきの重さ、退かないジジイの決意が際立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
弱々しい人間が、必死に焼け野原に飛び込む尊さが、より鮮明に輝く。
そういう、ジジイの起床だ。
重ねて言うが、それは柳原さんだけの強さじゃない。決意を込め同じ火宅に飛び込む島田さんも、別の戦場でいじめと戦ったひなちゃんも、みんなちっぽけな体一つで前に出た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
それはこの作品のキャラ、人間存在全体に共通のものだし、同時にみすぼらしい体のジジイ、たった一人の戦いでもある。
ともすれば観念だけで進んでしまいかねない、『将棋』という遠い世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
そこに、仕事と居場所をなくしてしまう無明、奪われた夢を才に託す寿ぎと呪い、軋む体を前に出して火に飛び込んでいく決意を、分厚く描ききることで体温を宿す。
『お前の話だぞ』と、否定しようなく重たく投げかける。
そういうことに成功していた、非常によく出来たエピソードだったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
枯れてなお燃える柳原、練られつつも熱い島田、青春真っ盛りの零&二海堂と、世代ごとに違う重さと輝きを一話にまとめる構図が、主題を巧く際立たせていました。
それぞれ託されたもの、歩いてきた道の重さ、長さは違う。勝敗であぶられ、焼け残った魂の光も。しかし彼らは『将棋』の中にいて、その外側へ才の光を放ち、譲れないものを叩きつけ戦い続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月4日
その一つがぼうぼうと、強い炎を上げている。赤い火、荼毘か燈明か。来週も楽しみです。