BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
山猫(リンクス)は空を夢見る。青く、高く、自由で正常な世界を。
抑圧と虐待、搾取と略奪に満ちたスラム。それでも善を求める青年の叫び。誰にも聞かれることなく、消えていくSOS。
それでも、山猫は吠える。透明な涙と共に、異国の少年がその叫びを受け取るのならば。
というわけで、相変わらずバッキバキな画面を贅沢に使い殺すアニメ、その第二話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
アッシュを押し流す悪徳の渦は、たくさんの血を流しながら加速する。罪あるものもないものも、無力なものも力あるものも、巨大なうねりの中で己を見失い、あるいは譲れない自分を吠える。
冒頭、薄汚いスラムが印象的だ。悪徳を煮詰めたような紫色は、アッシュが置かれている現実、逃げ出したくてもつきまとう暴力と抑圧の象徴と言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
赤い血と青い血、汚濁と清浄が入り交じる心臓を、引き裂いて混ぜた色彩。
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異国から来た青年は、そういうアッシュの現実を超越している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
体を売らなくても生きていけるし、人を殺さなくても自分を守れる。平和な世界の、平和な夢。
紫色の壁を前にして、諦めるものと飛ぼうとするものの断絶は、歴然と存在する。
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しかしえーちゃんは、アッシュと自分を隔てる鉄パイプをこそ武器に使い、平和と正義の側、青い空へと脱出しようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
純朴なスキップ少年ですら、鉄パイプを”人を殴り殺す道具”としか見れない世界で、えーちゃんだけは恵まれた過去を活かし、”脱出のためのツール”と認識する。
媚態と暴力に満ちた世界で、唯一優しい男。血を流す傷を気遣い、他人の過去のために涙を流せる青年。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
えーちゃんは地上の汚濁から開放された、特権的な天使であり、同時に自分の血も流す人間だ。
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そんなえーちゃんの飛翔を、アッシュは衝撃とともに見つめる。血が出るほど求めて、手に入らなかったもの。自由、正義、平等と愛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
その全てを背負い、紫色の悪徳から脱出していく鳥を、地上から高く高く見つめる。憧れは、遠いからこそ熱い。
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青く、高く、清浄で正常な世界。10代の子供が性暴力を受けなくても良いし、銃弾で殺されなくても良い世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
山猫と愚弄されるアッシュ・リンクスにとって、天は圧倒的に遠い。しかし周囲の大人たちのように、空の高みを諦めはしない。ガラス越しであろうと、自由な鳥を夢見ている。
欲望と衝撃を込めた視線を、アッシュもまた集める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
天然の媚態は男たちの欲望を集約し、狂わせる。そんな視線を、アッシュは避ける。
ベルトを外し、セックスを強要してくる大人たちへの、圧倒的な不信。それが山猫の視線を天に上げる。
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シャツとボトムスの隙間から挑発する鼠径部。柔らかな”しな”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
MANPAの動画力が、アッシュ天然の媚態を見事に表現し、彼が無自覚に発する無垢なる悪徳を強調する。
アッシュは誰よりも綺麗で自由でいたいのに、欲望を抱え込んだ堕落者たちはその姿に魅了され、興奮し、支配を押し付けてくる。
そこには断絶がある。自分たちと同じように汚れきって欲しいのに、自分たちと同じようにはならないからこそ、アッシュは男たちの欲望を刺激する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
そんな自分の媚態、己の中のセックスを、アッシュは嫌悪し、また悪用する。両腕を縛られ押さえつけられた時、使える武器は誘惑だけだ。
アッシュの無力は子供の、また『女性』の属性だと言える。(あるいはそう認識され、実力によってそういうことにされてしまっている)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
男なのに入れられ、組み伏せられ、しかし魂までは汚れない。巨悪に屈せず、自由を睨みながら、硬いガラスに憧れを阻まれる。
猫は飛べないが、だからこそ空を夢見る。
ゴルツィネが山猫を揶揄した後に、両腕を縛られたアッシュが”口”で拘束を噛みちぎるのは、非常に示唆的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
えーちゃんはホモ・サピエンスとしての特権…”道具”を使いこなし、正義に接近した。
アッシュは動物的な方法で、暴力的に自由を獲得する。
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二人の世界は断絶していて、だからこそ惹かれ合う。アッシュが求めているものはえーちゃんの中にあり、えーちゃんが助けたい存在は暴力と汚濁の彼方にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
二人はアメリカのどん底と日本の平和に分断された、国際的な恋(あるいは友情)の渦中にいる、とも言えるか。
断絶。善と悪の中間地点で、地上と天上の間で揺れるアッシュは、大人社会とも断絶している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
悪に取り囲まれているからこそ善を求める、アンビバレントな気持ちを、すでに諦めてしまった大人たちは理解しない。ただ欲望のままに、オマエも汚れろと手を伸ばし、鞭を奮ってくる。
圧倒的に仕上がったレイアウトを、惜しげもなく使い潰す。直線的にぶった切られた境界線が、アッシュと世界との裂け目を強調する絵面は、今回みっしりと画面を埋めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
主人公の社会的・心理的状況を絵に載せて、直感を殴りつけてくるのはとても強い。
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日本から異国にやってきたえーちゃんは、エトランゼの特権性故にアッシュの空たりえ、だからこそ無力だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
アッシュを包囲している大人は、彼を強制的に従わせる力を持っていて、だからこそアッシュの望む正義を与えられない。
性に狂ったマフィアも、無力な正義をかざす警察も、アッシュから断絶する。
現実の悪徳と癒着しきり、司法の追求を逃れているゴルツィネ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
その前にディキンソン刑事は無力なわけだが、彼と対面するシーンは光に満ちている。
それがアッシュにとって希望足り得るのか。はたまた、あまりに過酷で薄汚れた現実を前に、虚しい光と終わるのか。
そこら辺は来週以降、さらなる暴力と悪徳を煮込んだ刑務所で見えてくるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
えーちゃんが飛び越えた高い壁を、アッシュは超えられなかった。陰謀の長い腕、性暴力のトラウマに捕まって、出口のない場所に押し込められた。
それでも、山猫は吠える。
それは青く高い空が、あまりにも眩しいからだ。子供が犯されたり、殺されたりしない当たり前の世界が、あまりにも遠いからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
そんな光あふれる側に、幸運にして立ってしまっている英二や刑事たちは、アッシュに何が出来るのか。壁を乗り越え、血を流し、手を伸ばす力を掴み取れるのか。
このお話はそういう、現実と理想、善行と悪徳の中間点にあるし、おそらくあり続ける。このアニメーションの表現は、結構スマートかつストレートに、そういう真芯を捉えているとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
そこが巧く描けると、天と地に引き裂かれたアッシュ個人のドラマにも、熱量と勢いが出てくる。
同時にアッシュに狂った男たち、現実の汚濁を飲み込んでしまった敗北者たちの、凶暴な腕力も巧く見えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
それは生半可なパワーではない。銃弾となって人を殺し、陰謀に乗せて監獄に閉じ込める。悪徳は、現実的だからこそ強い。そして悪は、アッシュを愛している。彼が望まなくても。
はたしてアッシュは、己をすり潰してくる悪徳の世界に飲み込まれることなく、高貴な山猫でい続けられるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
青く高い空を望む彼に、善なる存在たちは一体何が出来るのか。
檻に閉ざされた悪意が、刑務所からアッシュを狙う。テンポよく状況が進むのも、なかなか興奮できて良い。
次回は舞台を監獄に変え、アッシュの物語はさらに加速していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
世界の色は暴力と犠牲の赤か、高潔と無力の青か、それが入り混じった混沌の紫か。このアニメが睨みつけているものが、だんだん鮮明になってくる第2話でした。とても面白かったです、次回も楽しみ。
追記 視る前に跳べ
BANANA FISH追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
こうしてエピソードを見通すと、自分は人間であり続けたいのに世界/他者は人間でいさせてくれないジレンマこそが、アッシュのクエストであり物語の根底にある気がする。
銃と犯罪にまみれた環境、性的欲望と暴力を叩きつけてくる大人。
そこからジャンプして逃げたくても、壁は高い。居座って戦うべき相手も多い。だからアッシュは、アメリカから離れようとはしないし、出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
えーちゃんが部活動で培った棒高跳びの技術…子供がマトモに教育を受けれる”当たり前”で脱出した場所に、アッシュは留まる。
スラムで血を流して、えーちゃんは自分が取り囲まれていた”当たり前”が、けして”当たり前”ではないことを思い出した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
気のいい子供だったスキップは死んだ。アッシュは犯されていた。そういうことが”当たり前”に起こる世界に、えーちゃんは異国として足を踏み入れる。だが、拒絶はしない。
アッシュもまた、えーちゃんの特権的な”当たり前”に憧れ、そこに普遍を見る。誰もが自由で、尊重され、愛される世界の可能性を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
しかし二つの世界は、そうそう簡単には橋をかけない。暴力と無力に断絶された世界で、一体何が有効なのか。愛か、諦観か。
今後物語は、それを追うことになる。
追記 絵画的にキマった構図を、惜しげもなく蕩尽する。『こんなん、何枚でも造れるよ』と言わんばかりに、投げ捨てて次を叩きつける。その惜しげもなさが、悪徳のNYで必死に生きるアッシュとシンクロし、妙なグルーヴを産んでると感じる。
BANANA FISH追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
内海版は凄くキマったレイアウトを、凄い短い時間ササッと写して、次のカットに繋いでいく。そのこだわりのなさ、量と質の怪物的な同居は、英祖作家としての内海紘子の特質なのかもしれない。
ぶっちゃけ『普通もうちょい長くホールドするかな』ってシーンで、とっとと手放す。
その冷淡さがテンポと濃度を産んで、アッシュがいる世界の存在感がこちらに伝わってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年7月13日
取り巻く悪徳の匂い、圧力。だからこそ善を希求する切迫感。特別な場所で、特別な何かが進行している感覚。それを毛穴から摂取できるのは、BANANA FISH見ていて一番気持ちがいい部分だ。