あさがおと加瀬さん。(’OVA)を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
少女の恋と青春を一時間、みっしり追い続ける映像作品。当方原作未見のまま見たが、冒頭からどんじりまで延々心臓を殴られ続けるような、甘さと衝撃に満ちた作品だった。
起きている事自体はオーソドックスな青春恋愛劇なのだが、解像度が凄い。
色々凄いところのある映画なのだが、まず絵がいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
坂井久太のこだわりと愛情を一身に受け、少女たちのフォルムはスラッとしつつ軽やかに色香を匂わす。清潔感とエロティシズムが同居したデザインは、そのまま作品の空気を支え、ドラマの基盤になっている。
眼の繊細な表現力、シンプルながら言葉豊かな線の選び方。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
全てがドンピシャに作品に食い込んでいて、キャラデザが原案に名を連ねているだけはある。どんなアニメを作るのか、原作の魅力がどこにあるのか。徹底的に読み解き、解体・再構築して生み出された絵の強さが、アニメを支えている。
山田も加瀬さんも、パッと見でキャラの魂を伝える強いデザインをしているのに、記号でとどまらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
守られるべき綿菓子みたいな女の子、カッコいいボーイッシュな女の子。その対比を軸足にしつつ、しかしそこを踏み越えて混ざりあうところに、この物語の妙味はある。その確信が、デザインに既にある
仕草や芝居もひっくるめて、とにかく山田が可愛い。感情が毛穴から溢れ出して、小さな駆動を全速で駆動させている、生き物としての可愛らしさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
自然目を引かれ、前のめりになり、加瀬さんと同じ気持ちで”私の恋人”を見守れる。そのパッと見の好感が、裏切られることなく最後まで続くのだ。
もう一人の原案、”シュタインズ・ゲート””selector”の佐藤卓也監督らしい、美術へのこだわりも素晴らしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
水彩でサラリと描かれたファンタジーは、青春の美麗を徹底的に輝かせる。透明度が高く、しかし柔らかく、幼い感情が背伸びする様子をしっかり受け止めてくれる背景。幻想譚としての青春。
それを基調にして、ドラマの起伏に合わせて色合いが変わる。ハイコントラストでパキッとした、厳し目の背景が厳し目のシーンにしっかり来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
すれ違いの痛み、ズレる気持ちと思い込み。恋をすれば必ずつきまとう影は、ファンタジックな背景を時に塗りつぶし、明暗をはっきりさせる。
重要なのは、ファンタジーが必ずしも“陽“ではなく、ハイコントラストのリアリティを”陰”でだけ使っていないことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
バス停でのキスシーンは、現実が愛の夢に飲み込まれる瞬間のスローモーションを、凄まじい圧力で切り取ってくる。水彩のぼやけた調子ではなく、パキッとした筆で描かれる衝動の強さ。
あるいは、離れ離れになる苦しみに思い悩む夢のシーン。水底で溺れながら、妄想に苛まれる山田を取り囲むのは、優しくない水彩だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
自分の気持を閉じ込め、出口のない思いが渦を巻く。ファンタジー…というかデリュージョンの毒気が、柔らかくもどす黒い色合いで活写される。
豊かで強い、よく磨き上げられた表現手段を選び取りつつ、一本調子ではない。シーンの雰囲気、描くべき題材に合わせて、自在にパレットから色をすくい取れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
この表現力の高さが、驚異的な解像度で少女と少女の青春を、二人の恋をブーストしていく。何も起きていないようで、何かが前に進んでいく。
これは音楽にも言える。静かな二人の関係を壊さないように、ミニマムに抑えられた音。しかしそれは豊かな表現力を有していて、二人の青春を時に弾ませ、時に重く沈ませる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
コミカルなシーンで、音のはね方に合わせてキャラが動くシーンの、根源的な気持ちよさが良い。ちと、古いディズニーっぽい。
おそらくこのアニメをジャンル分けすると”百合アニメ”になるんだろうけども、”百合”というジャンルは定義が曖昧…というかもはや不可能な言葉だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
実は個人的な思い込みなのに、あたかも巨大な定義のように産業化してしまった、形のない怪物。それにつきまとう思い込みと束縛。
それを静かに、力強く解体していこうという意志も、随所に見えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
恋の始まりをOPに超圧縮し、こっちの心臓を殴りつけてくる大胆な構成。二人がどういう関係なのか、台詞で解説されるのは開始10分以上過ぎてからだ。
つまり『感じろ』ということだ。言語化出来ないものを、肌で啜れ、と。
田中は女と女であることよりも、はじめての恋であることを気にかけている。三河っちも親友の恋を、性別で線引したりはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
そういうものがあろうとなかろうと、恋は思春期を駆動させる。それに悩んでも良いし、悩まなくても良い。そこがジャンルを定義する足場にはならないのだ。
その上で二人の恋は特別で、キラキラしつつ身体性を持つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
バス停のシーンのスローモーション、白く白く輝く新大阪駅。恋は現実を、夢よりも美しい瞬間に変えていく。
水彩調の優しい日常の中で、積み上がっていく感情の水位。心の緩急…というより相転移の書き方が、とてもうまい。
すれ違いや薄暗さ含めて、溢れ出る感情の瑞々しさこそがこのアニメなのだと、アニメ自身が語ってくる。それを”百合”と呼ぶか、別の名前でいうか、それは視聴者が好きに決めればいいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
定義論にこだわるよりも、このアニメに流れる清らかな水を浴びたほうが、多分楽しい。
いかにも漫画然としたコミカルな演出がうまいのも、このアニメの特徴だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
顔から火が出る。アタマから若葉が生える。フニャッとした描線で描かれる”抜き”の笑いが、テンポも品も良い。クスリと笑わされて、その動きを生み出したキャラが好きになる。
同時に凄く生々しい身体と感情のお話でもあるので、コミカルがリアリティを壊さないよう、慎重に扱われてもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
その丁寧な取扱がリズムを生み、60分の間になめらかな起伏を生み出す。感情の起伏、関係の起伏、自己発見の起伏。派手ではないが、だからこそ親しみやすい青春の起伏。
山田と加瀬さんが、性欲に思い悩む描写がとても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
自室に無防備に彼女を呼び寄せる山田は、セックスの意味も知らない。『ちゃんと付き合いたい』と願う加瀬さんとの間にあるギャップは、沖縄で加瀬さんの”女”を…豊かな胸を確認することで撹拌され、埋め立てられていく。
溢れる恋のしずくは、胸の堤防を飛び越え涙となる。恋しているからこそ苦しい。愛しているからこそ触れ合いたい。でも、どうすればいいかわからない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
そんな揺らぎと断絶が、思い合う二人の間にはあり、付いたり離れたりしながらクライマックスへと進み続ける。
山田は沖縄で、自分の中の性欲と出会い、巧く付き合えなかった。傷ついた加瀬さんに本音を言ってもらうことで、加瀬さんとも自分の性欲と和解できた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
その間違えと訂正は、凄く普遍的なものだと思う。初めてであって戸惑って、付き合い方を間違えて傷つき、傷つける。でも、取り返しは付くのだ。
時に絶対的な正解として、あるいは悪魔的な間違いとして描かれる”性欲”を、生きていれば必ず生まれる必然の鼓動として肯定すること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
恋の果てにある抱擁を、自然なものとして受け止めること。その姿勢に強張りが一切なく、時にコミカルでもあるのは、非常に良かったと思う。
純粋無垢な山田が性を知るのは”汚れ”とも取られるだろう。しかし山田は加瀬さんに興奮し、興奮した自分に戸惑うことで、変化しつつある自分と真実出会い直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
その時生まれるのは”汚れ”ではなく、新しい色彩なのだ。成長、とシンプルにいってもいいけど。
同様に、男女の性差を輪郭として、しっかり見据えているのも良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
加瀬さんは自分の豊かな胸が、少女の幻想を壊してしまうことに気づいている。男の代用品として平たい胸を望まれ、それに答えられないことに傷ついている。
そういう幻想を性欲で踏み越えて、山田は加瀬さんこそを求める。
舞台が男女共学であること含めて、”性”というものに緊張せず、軽視もせず、綺麗だけど体温と重量のある書き方を貫いていて、非常に誠実だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
それは綺麗なファンタジーだけども、嘘っぱちってわけじゃない。どこにでもある思春期の中で、迷ったり傷つけたりしながら、答えを探す話なのだ。
その道の果てに、砂糖菓子みたいな女の子は自分の足で走り、自分で決めて飛び込む。東京で加瀬さんと一緒にいる未来を選び取って、生活していく道を選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
待ってるだけの”恋人役”に、主役を押し止めない。ほんの小さな、だけど人生の大きな決断を果たして物語を終えさせる。
そのクライマックスが、とてもいいなと思った。恋の話で、青春の話で、綺麗でぐじゃぐじゃした感情のお話が収まるのに相応しい、小さく力強い跳躍だと感じた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
別に世界は危機にならない。ドラゴンも異能も出てこない。でも、ここで起きたのは掛け値なし、本当の冒険なのだ。
そういう普通で特別なものに、様々な人の人生は満ちていて、だから特別キレイな筆でこのアニメは描かれ抜く。輝くものが、実はそこかしこにあると気づかせてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
そのコンパクトで力強い注意深ささが、60分の間途切れないことが、とても良かったです。
私だけを見てほしいのに、”みんな”に繋がってしまう”みんな”の加瀬さん。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
それを羨む山田の描写が、このアニメには多い。狭いところに閉じていく意志と、広い場所へ飛び込む決意は、少女の唇を通じて幾度も交換され、しかし山田の背丈をなかなか伸ばしてくれない。
山田さんにも、独占欲という毒は渦を巻いていて、しかしそれに支配されることはない。母からの電話という形で”外部”から釘を差されれば、自分の中のマグマを抑えて、山田の幼さを優しく抱きしめられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
二人共恋と公平、大人と子供の間に揺れつつ、恋人と触れ合う中で少しずつ変わっていく。
その一つの帰結として、”東京の大学”へと向かう新幹線がある。山田はそこに飛び込むことで、加瀬さん的なかっこいい自分、大人に近づいた自分を抱きしめに行く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
それは百合の一歩であり、恋の一歩であり、成長の一歩なのだ。そういう多様なものを、このアニメは抱擁している。
そんな多層性が重たさにならないよう、慎重に慎重を重ねて選び取られた映像のフォルム、演出の妙味。シンプルさを軽やかに踊らせ、ときめきの甘さでコーティングして、過不足なく視聴者に食わす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月9日
色んな意味で強く、豊かで、野心的であることを覆い隠せるほどに野心的なアニメでした。面白かったです