BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
巡礼者を載せて、船が行く。銃を櫂に、国道の海をおんぼろ車で進んでいく。進む先は故郷。僕が見捨てられ、僕が見捨てた街。
アッシュの幼少期に仲間が踏み込む話で、銃とアメリカのスケッチでもある回。
" 人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない"
今回アッシュは故郷に帰るが、風光明媚な田舎町は彼を拒絶し、孤立させる。NYから追い立てられ、故郷に帰っても居場所がない。アスランは孤独である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
それを強調するように、アッシュを切り離すレイアウトが冴える。
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画面を縦にさえぎる柱、酒瓶、草、柵。アッシュは常に切断され、孤立し続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
七歳で強姦され、社会にも父親にも守ってもらえなかった過去。自己防衛のために銃を取り、殺される前に殺すしかなかった経験。破滅を引き押せる魔性と合わせて、アッシュはただただ切り離されていく。
血の繋がった父はアッシュを淫売呼ばわりし、縁の薄いジェニファーは彼に優しい。血の呪いを意識しないですむ相手には、アッシュの受け答えは柔らかい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
兄弟二人で生きるしかなかった孤独な思い出に踏み込む時、ジェニファーは明かりをくれる。当たり前の愛情を、素直に届けてくれる人。
そんな彼女を前に、年相応の柔らかい対応をしているアッシュが微笑ましいし、そんな彼女がどうしようもなく死んでしまうのは、切なくて辛い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
スキップにしても、アッシュに関わった善なる存在は銃によって殺される。アッシュが身を護るために取った暴力は、アッシュの大事なモノを壊す。
そんな経験が彼を傷つけ、これ以上傷つかないように距離をとらせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
社会は強姦された彼を前に、(もしかしたら世界中の女にそう言っているように)『お前が誘った、お前が悪い』と言い放つ。
アッシュはそれを受け入れたふりをして、銃を手にして男を殺す。殺して生き延びて、遠ざけ遠ざかる。
そんな孤独に寄り添う特権は、既に死んでしまった兄(彼もまた、銃で殺されている)と、英二以外にない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
赤い夕焼けの岬。清廉な朝。アッシュは英二だけを境界線の内側に入れて、自分の体重を預ける。
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緑の葉が作り出す結界に、伊部さんが入れないこと。えーちゃんはそこから出て、伊部さんの方に歩きだすこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
銃が当たり前にあって、銃から身を護るために銃を取る国と、自己防衛のために銃を握らない、握れない国。異国との国境線を、軽々飛び越えられる存在。"アメリカ"に縛り付けられた存在。
アッシュと英二は触れ合いつつもバラバラで、根源的に混じり合わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
アッシュが慣れ親しんだ殺戮の道具は、やっぱり英二には巧く扱えない。前回他人の命を奪ったときと同じように、誰かの手に操作権限を預けても銃弾は酒瓶を撃ち抜かない。
英二は銃のあるアメリカから、特権的に自由だ。
アッシュが酒瓶を撃っているのは、なかなか面白い。人を狂わせる危ういドラッグを、アッシュは憎む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
"バナナ・フィッシュ"もガンパウダーもアルコールも、兄を殺し、ジェニファーを殺し、スキップを殺した。しかしアッシュは、憎みつつその力を使わなければ、自分を維持できない。
アッシュ自身がアルコール的な存在で、世間を誘惑し酩酊させる、とも言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
『酒が俺を誘ったんだ。俺が酒を飲んだんじゃない』
酩酊者の言い訳は、個人を離れて組織や地域に飲み込まれると、巨大な正義になってしまう。いつの間にか当然化して、飲まれるドラッグの孤独や痛みは無かったことになる。
アッシュの銃弾はそんな、巨大な暴力へのレジスタンスであり、しかしそれを握ってしまっている以上、銃も麻薬もコントロールを離れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
アッシュは一発、銃弾を外した。
それは平和への希望なのか、力及ばず暴力に飲み込まれる予兆なのか、運命を制御しきれず悲劇を生む前兆なのか。
おそらく、その全てなのだろう。"バナナ・フィッシュ"的なもの、アッシュ的なものは世界に蔓延し、コントロールを離れて暴走する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
アッシュを殺そうとした銃弾は、彼を殺さずジェニファーを捉えた。誰もが、本当に狙った的を撃てるわけじゃない。
そういう必然的な不自由から飛び立つべく、人は空を見上げ、鳥を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
暴力の気配のない青い空は、英二がかつて飛んだ飛翔で、薄汚れた地上と繋がっている。その特権的な自由を、アッシュも伊部さんもうらめしく見つめる。
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空を舞う自由に憧れつつ、そこから阻害されている。天使のようなえーちゃんもまた、失敗とトラウマに繋ぎ止められ、自分を開放できずにいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
現実の重たい泥の中もがきつつ、それでも自分らしく自由に。開放を求める巡礼者達の船は、街を追放され、アメリカを横切っていく。
マイ・ロスト・シティ。それはかつてアッシュを見捨てアッシュが見捨てたケープコッドであり、仲間を手に入れたはずのNYであり、そこからもう一度訪れた故郷でもある。アッシュの天性は、安住することを許してくれない。腰を落とせば、誰かが死に追放される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
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自然と人間が共存した、古き良きアメリカの気風を残すケープコッドの朝から始まり、LAの人工的な夜景で終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
時間的にも距離的にも、"街"が内包するものとしても正反対の風景で、物語が始まって終わる今回のエピソードが、僕は結構好きだ。その2つの光景、両方が"アメリカ"なのだろう。
行って、帰って、出ていく。同じ場所を行き来しているようで、その景色は大きく異なる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
それはケープコッドへの旅だけでなく、父との再開に置いても同じだ。
悪徳の予感を宿して紫色のダイナーは、激しい暴力を経て洗礼され、オレンジに塗り替わる。
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二人の間にある拒絶とすれ違いは、仲間を介した歩み寄りと、ケープコッドの静かな自然と、しつこく追跡してくる悪徳と暴力で埋まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
大人を信じず、暴力とセックスを忌避し、しかしそれに魅入られる。
アッシュの起源を語る時、男たちに境界線はない。
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際を乗り越える。同じものを口にする。同じ感情を共有する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
マックスと伊部さんのシーンでも、同じモチーフはリフレインする。枝は二人を冷たく切り裂いているけど、人間を信じるマックスはそれを乗り越えて、伊部さんに接近する。同じ飯を、肩を並べ食べる
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伊部さんの中のコンプレックスを、マックスは笑い飛ばす。よくあることさと受け流して、歪みを一緒に背負おうとする。
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父が息子を淫売呼ばわりする不正義に、一番最初に怒ったのもマックスだ。そういう当たり前で、しかしとても大事な自然な善に、アッシュはなかなか踏み込めない。
えーちゃんも、アッシュの父親に怒る。アッシュが越えられなかった境界線を超えて、頼れる大人たちに接近し、何かを素直に学んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
アッシュはそんな英二を羨ましく見つつ、大事なモノが失われ、手の届かないところに離れるまで、その愛おしさに気づけない。気づいた時は、いつも手遅れだ。
求めるもの全てが逃げていくアッシュの宿命と、求めるものを素直に受け止められる英二の天分。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
何気ない日常の中で、さり気なく描写されている二人の断絶は、今後どういう形に変化していくのか。
アッシュが英二の天使性を学ぶのか、英二がアッシュの悪魔的な部分に染まっていくのか。
そんな相互作用の象徴として、銃を練習するシーンはあった気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
銃が当たり前にある異国に身をおいた英二は、暴力からもう無縁ではいられない。先んじて傷つけられ、自衛のために銃を取ったアッシュは、それをコントロールしきれていない。
英二もまた銃を取るのか、はたまた遠ざけ続けるのか。
あるいはアッシュも、武器を手放し空を飛べるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
ショーターとアッシュが身を置く、暴力のリアリズム。血の赤だけが現実の修羅界に、英二はまだ踏み込めないし、少年たちはなんとか、英二をその泥から遠ざけようともしている。
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世界は悪に満ちている。
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退役軍人(グリフやマックスと同じ属性)の性暴力を語る時、ひっそりと切り取られるおもちゃの複葉機。空を飛ぶものが、みな無垢なのではない。戦場を舞う鳥は、人を殺す道具だ。
そして世界は、ときにそれを肯定すらする。
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自分のために怒ってくれる元軍人。自分を犯し殺そうとした元軍人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
自分を淫売と罵る父。自分のために血を流した父。
自由に飛ぶ鳥。地面に縫い留められた、おもちゃの飛行機。
様々な矛盾と対立が、ケープコッドの静かな風景に閉じ込められ、温度を上げていく。
打ち捨てられた思い出の家で、アッシュは兄との写真を手に取る。過去と未来、善と悪徳が交錯するフェティッシュは、やはり紫の色合いを帯びている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
取り返しがつかないほど損なわれ、失われたもの。マイ・ロスト・シティの、幽き羅針盤。
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アッシュが求める、幸福だった時代の幻影。ゴルツィネの妄執はその青さを許さず、ケープコッドを超え、ロスまで長い手を伸ばす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
チャイニーズマフィアとの冷たい会食を、紫の絵画が見守る。船は沈むのか、進むのか。
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ロサンジェルスでも、アッシュの魔性に引きつけられ、暴力が踊るのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
善なるものをどれだけ求め、他人を信頼できる未来を掴みたくても、世界はアッシュを放っておかない。
『お前が誘った、お前が悪い』と、呪詛を撒き散らしながら、銃を握って追いかけてくる。
それに殺されないためには、銃を握るしかない。しかし銃を握る間は、愛するものは死に続ける。兄、スキップ、ジェニファー。その葬列に、今度は誰が加わるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
悪徳は生贄を求め続ける。アッシュは戦士として戦い、死んで正義を証明することすらゆるされない。ボスの命令は"生け捕り"だ。
そういう厳しさに追い立てられて、アッシュはNYを離れ、ケープコッドを離れた。流れ着いたLAも、彼を安住させないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
"バナナ・フィッシュ"の巡礼の中で、アッシュのマイ・ロスト・シティは増えていく。そこに埋められた、百万の悪人と数少ない義人達の屍も。
作品と主人公がたどるべき宿命、それが生まれた起源について、静かに緊張感を込めて語るエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
画面の情報圧縮率が高く、ケープコッドの風景が持つ詩情も噛み合って…綺麗でやるせないお話でした。アッシュが求めるものは、すべて失われていくのだな。
喪失を積み重ねる日々の中でも、出会いはある。同じ船に乗る人がいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月12日
それがアッシュにとって救いなのか、略奪される絶望の種火なのかは、物語を最後まで見なければわからないでしょう。
まずは西の果て、ロス・アンジェルス。天使の名前を関する街で、以下な悪と暴力が待ち構えるか。来週も楽しみ。