BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
かくして、ソドムは栄える。
過食、貪婪、荒淫。悪徳を詰め込んだゴルツィネの館で、人知れず進行する悪趣味なパーティー。友が友を殺し、善が膝を屈する瞬間を見るために、悪党どもがせせら笑う。
悪魔の薬に壊されて、それでもなお一欠片残る光を護るためには。
さらば、友よ。
というわけで、ショーターが死んだ。知ってはいたが、やっぱすげぇ辛いし、辛くて大事な話をしっかり圧力あるアニメにしてくれたとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
宍戸監督の演出力が冴え渡り、粘性の高い絵面が状況の重たさをしっかり伝えてきた。溢れかえる感情、むせ返るような執着。ただ殺す、ただ奪うでは飽き足らない
愛に似ているのに、遥かにおぞましく遥かに破滅的な感情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ゴルツィネもオーサーもエイブラハムも、それに支配されてアッシュたちを試す。善などしょせんこんなもの、希望などどこにもなく、世界は悪徳に支配されている、とでもいうように。
そうしないと、悪党は安心して生きれないのかもしれない。
エイブラハムは今回、言い訳を重ね続ける。『仕方がなかった、正当な復讐だ』と自分の欲望を飾り、薄っぺらい正当性を貼り付ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
思う存分他人を蹂躙したい。それが不幸を呼ぶと知っていても、研究の成果を見たい。そんな本音と真正面から向き合えない凡庸な悪。エイブラハムの姿は、僕らの鏡だ。
マフィアとして悪を内面化し、欲望の赴くまま生きることを肯定しているオーサーやゴルツィネも、アッシュの心を折ろうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
親友が親友を殺すのを阻止するために、親友を殺す。修羅界すら生ぬるい生き地獄にアッシュを叩き落として、悪の勝利を高笑いする。
彼らがそこまで、善なる人々の魂を陵辱するのはなぜだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
反逆する力は奪った。麻薬で、セックスで、暴力で、自分の意志を押し付けるパワーは存分に証明した。それでも、悪なる人々は自分を信じきれない。どれだけ悪逆を尽くしても、やり尽くしたという安心感を得られない。
だから、アッシュに特別な輝きを見て取って、それを泥まみれに汚すことで己を正当化しようとする。黄金の魂も錆びるのだと証明することで、現実の重たさに膝を屈し、自分の魂を錆びつかせてしまったことを肯定しようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
そのためには、どれだけ他人が傷つこうが関係ない。お前らは俺の踏み台だ。
そういうドロリと重たい欲望が、ゴルツィネの館にはみっしり詰まっている。共犯者共が吐き出す、臭い息で充満している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ふんぞり返った悪党どもは、その実不安で繋がっている。己を世界に対して誇れない不安。青い空を前に、一切負い目なく胸を張れない自覚。それが過剰な攻撃性へと転じる。
他人と心を通じ合わせる食事ですら、悪徳の館では攻撃行為だ。ワインの銘柄を当てるゲームで、自分がアッシュにどれだけ影響力を残しているかを確認し、汚い手で掴み取った富を誇る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
アッシュ達がゴルツィネの餌を食べる描写が、一瞬たりともないのは示唆的だ。そこには善を腐らせる毒が混ざっている
悪の挑戦に対し、善は脆い。縛り付けられ、意思を曲げられ、殺される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
スキップやグリフィン、ジェニファーのように、ショーターもあっけなく死んでしまった。アッシュは殺す以外の選択肢を見つけられず、英二も自分の命を守りきれない。
陵辱される子供たちを、縛り付けられた大人たちは見るだけだ。
今回はそんな、善の無力を書くお話である。厳しい世界の中で、自分の欲しいものを手に入れたいなら汚れるしかない。きれいで脆いものを投げ捨てて、手軽な悪に手を染めるしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
それでも嫌だと叫ぶなら、それなり以上の代償は払ってもらう。親友の命とかな。
思い返せば物語の開始時から、アッシュはそういう挑戦を受け続けてきたし、物語が開始される前からそうであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
人を魅惑する黄金のようなアッシュは、善を望んでいても悪の誘惑と挑戦を受ける。青い尻を犯され、銃を手にとって陵辱者を殺し、父との絆を失う。
英二とショーター、どちらを活かすか銃弾で判断させられる試練は、その最新版と言える。言えるのだが、あまりにもキツすぎる…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
英二とショーターとアッシュ、三人のトライアングルがとても眩しくて、当たり前の青春を楽しそうに過ごしていた思い出が、こうなってみるとズキズキ刺さる。
どうにか普通に当たり前に、セックスも暴力も介在せずに暮らせなかったのかと夢を見るが、それが夢物語でしかないことを叩きつけるのも、今回のエピソードの大事な仕事である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
殺されかけ、犯されかけ。平和な"異国"にいたはずの英二は、アッシュやショーターや月龍が身を置く悪徳の国に接近する。
当たり前の平和や平等、善なるものが平気で踏みにじられる世界は、遠い"異国"の物語ではなく、現在進行系で自分が当事者となるリアルなのだと、ショーターの死体が思い知らしてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
現実を思い知らすというには、重すぎる通過儀礼。羽の生えた天使も、青いままではいられない。
それでも、英二はナイフを突き立てない。突き立てる実力がないというのもあるけど、握ったナイフをあくまで自衛のためにつ描い、言葉でショーターを説得しようと試みる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ナイフも言葉も結局無力で、全てをアッシュが変えるところに英二の立ち位置が見える気がする。清潔な傍観者の安全圏から出れるか
迫り来る暴力を前に、英二は拒絶していたナイフを握る。それはアッシュ(あるいは"アメリカ")が当たり前に肯定する、自衛のための暴力だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
それを制御できると信じればこそ、修正二条は憲法に刻み込まれている。だが、本当にそうなのか。
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絶望的に圧倒的にリアルな、死の恐怖。自分が生き延びるためになら、他人を踏みつけにしても"仕方がないんだ"と言い訳する、ありきたりの自己防衛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
あまりに人間的な弱さを、英二も当然持っている。それでも、友情を信じて刃を収めることは可能か。それは実際の力に変わりうるのか。
ここら辺のためらいと無力感を、ナイフを握る手の細やかな芝居がしっかり見せている所が、とても良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ショーターが振るう(振るわされる)刃も、己を苛む世界への抵抗にも見える哀しい一撃で、悪いことを強制されている子供たちの辛さが、画面にしっかり滲んでいた。マジ許せねぇ…。
英二の言葉は、"バナナ・フィッシュ"に犯されたショーターには届かない。刃は自分を守るのに足らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
問題を解決するのはアッシュの言葉と、握りしめた銃弾だけだ。そうする特権と悲惨をアッシュは持っている。持ち続けてしまっている。
アッシュの叫びを受けて、一瞬の正気を取り戻したショーター。見上げた天使の像は、かつて鮮明に焼き付いたアッシュの存在そのものか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
苦しみを告白しながら、己の胸に山猫の爪を刻む。お前がここに居続けて、どうにも突き刺さっちまっている、と。
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そういうあまりにも真摯で強烈で、無力で真実な繋がりは、セックスにも暴力にも砕かれない。悪党が自分の安心を得るために、どれだけ汚そうとしても、世界にかすかに残った光は、確かにそこにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
だが、それはショーターの命を救わない。はたして、アッシュとの友情は、彼の魂を救ったのだろうか。
それは今後、友殺しの刻印を額に刻んで、クソ以下の世界で生き続けなければいけないアッシュが、己の物語の中で証明するしかない問である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
どれだけドブにまみれても、生き延びるためには銃を取らなくてはいけないとしても、善を貫くことはあまりに難しくても。それでも、少しでも青い空へ。
子供たちを守りたいと願っているのに、彼らの魂が陵辱されるされるのを見せつけられる大人たちも、相当に辛かったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
何も出来ない無力感、縛り付けられたいらだち。彼らの前を、暴走する悪意がただ飛び回る。そこに手をのばすことは出来ない。
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見ることしか許されない無力な人たちを後ろに固定し、その前でアクションが勝手に進行する映像造りが、アッシュやマックス、伊部さんの無力感と無念をしっかり伝えてきて、良い演出だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
『マジ許さねぇ…』という腸煮えくり返り感にシンクロさせることで、今後の展開を飲ませる大事な描写よね。
アニメにリファインするにあたり、ショーターをモヒカングラサン野郎にしたのも、今回効いていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
少年の強がりと粋を象徴するような、バチッと決めた髪型。魔薬と暴力でそれが踏みにじられた時、ヘアセットは乱れグラサンはない。
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グラサンで感情を隠し、頼れるタフガイを演じてきたショーターが魅力的だったからこそ、この迷子のような表情、苦痛の眼光は痛ましい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
『苦しむガキを、誰か助けてやってくれ!』と心底思うが、"誰か"はあの地下室にはいない。傷つける悪党と、傷つけられる無力な善人だけだ。
そんな鏡合わせの構図の中で、人々はそれぞれに何かを投影し、感情をほとばしらせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
緑色の瞳と金色の髪。男娼の値段を図る記号が、アッシュとオーサーには共通している。片方は自分を磨き上げたクソ野郎に中指を突き立て、片方は膝を屈した。
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明暗分かれた、魂の兄弟。尻を売っていないオーサーのほうが、ゴルツィネが押し付ける悪の圧力を従順に受け入れ、陵辱を前にとっとと諦めているのは面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
魂の処女性は、セックスの有無で消え去るものではないのだ。寝れば屈服させられると思ったら、大間違いだぞ。
ドースン兄弟も明暗がクッキリ別れていて、科学の悪魔にとりつかれた弟と、良心に従おうとした兄は鏡合わせに対峙する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
悪魔に魂を売り、自分に優しくしてくれたグリフを殺すのも『仕方がなかった』と言い訳するエイブラハムに、アッシュの視線が刺さる。
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自分を、あるいは自分に近い他人を、別の他者に投影する行動。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
アッシュが英二に青い空を、ショーターがアッシュに天使を見つけたような感情の動きは、しかし同様に悪を加速させ、どす黒い欲望と自己正当化の道具にもされる。
誰かを思うということは、時に暴虐ともなりうるのだ。
その権化として、吐き気をもよおす執着を隠しもしなくなったゴルツィネが、今回目立つ。アイツほんと尋常じゃないよ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
アッシュを自分色に染め上げようとして、ことごとく反発される。陵辱することで自由意志を奪い、都合のいい道具に他人を変えようとする"父"あるいは"男"の、悪しき象徴。
それはもっと巨大な国家装置に拡大し、軍と議会は共犯者として、悪趣味な剣闘をせせら笑う。国家中枢にある存在が、"バナナ・フィッシュ"の実地試験として、あの地獄を消費する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
悪党どもの欲望のまま、物語が進んでいけばどうなるか。それを象徴化するシーンだと言える。
そんなことは当然許しちゃいけないが、善は無力である。鏡写しの自分に嬲られ、縛り付けられ、いいように暴力を制御されて、アッシュはショーターを殺した。自分の魂の一部、譲ってはいけないものを踏みつけにされた。悪はそれを見て安心し、高笑いする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
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主役たちの敗北感、無力感、視聴者のフラストレーションと地獄絵図は、今まさに最高潮である。こっからどうひっくり返し、物語に必要なカタルシスを与えるか。あるいは、悪徳の栄えに更に深く切り込んでいくか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
おそらく、両方やるのだろう。善は無力であり、しかし真実でもある。そういう話を。
あまりにもクソな状況に、アッシュの奮起を期待したくもなるが、しかし今はとにかく、一人の青年が死んでしまったことを悼みたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
さようなら、ショーター。キミはとても素敵な男の子だった。青い空が広がる街なら、友達と楽しく笑い合って、お嫁さんを見つけて、平和に生きられたかもしれない。
そうあってほしかったが、そうはならなかった。アッシュが常に願っていて、そして叶わない気持ちへと、僕は少し近づいた気もする。そういうふうに心を動かせるのは、いいアニメだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ほんとクソ野郎共マジ許さねぇからな…ぜってぇマジ許さねぇから。来週も楽しみ。
追記 生が生まれる場所(ベッド)も、維持される場所(食卓)も、終わる場所(葬儀場)も、全部大事にできない。マトモにやれない。人間の当たり前から外れちまった連中の描写がうまいアニメ。
BANANA FISH追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
ショーターの死体を乱雑に回収し、実験材料としてバラバラに切り刻む展開をまで見せる所が、クズどもがマジ地獄の底まで落ちきってるのを見せて、強い描写だった。
セックスも大事にできねぇ連中は、死体の弔い方も知らねぇな!!
アブラハムが魂の抜けた死体を、ただのパーツ、ただの数字として見る姿は、科学が行き着く果てをグロテスクに描写している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月31日
人間らしく生ききれなかったとしても、せめて遺骸を人間らしく弔いたい。そういう当たり前の感情すら、悪党どもは踏みにじる。マジ許さねぇからよ…。
追記 "連邦政府に対する自由権を確保する必要から、正当に組織された義勇軍は禁止されてはならず、 義勇兵となるべき民が、自己の武器を保有し携帯する権利もまた、連邦政府によって侵害されてはならない。"
BANANA FISH追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月1日
腐った権力がクソを押し付けてくるので、それをはねのけるために銃を握る。アッシュと暴力の付き合い方はプロテストに満ちていて、非常に"アメリカ"的である。
世の中善くするための、制御可能なツールと信じて銃を握って、その制御不可能性に自分の魂を壊される部分も含めて。
銃を握ってダチを殺すか、銃を握らず犯され続けるか。わりと最悪の二択でアッシュは銃を取り、英二はナイフを握って振るわない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月1日
そこに"アメリカ"と"異国"が(国家的)暴力に対して選び取った二つの道を見て取るのは、ちと過剰な読みか。そこに写し取られているものが、30立っても健在と見るか。