BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
シチリアンマフィアとの全面戦争に突入したアッシュだが、敵の謀略が楔を打ち込み、愛を人質に取られ、長い手でじわじわと締め上げられる戦いが続く。流れる血、消えない過去。
かくして最後の指し手、フォックス大佐が盤上に上がる。山猫は、狐の餌を食べない…。
そんな感じの終盤戦、BANANA FISH21話である。皆脆さと呪いを抱え込みつつ、銃弾による裁きの前に身を投げ、決着を待っているような状況。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
知略と暴力の限りを尽くし、お互いの喉笛を狙い合うような血腥い状況だが、不思議とこれまでの蓄積が爽やかに香り、読後感は悪くない。
絶望と無残をミキサーにかけてぶちまけたような状況なのに、どこかひとしずく、希望が残っているような。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
そんなパンドラの箱めいた状況は、様々な悪徳を掘り下げつつ祈りを込めて描かれてきた、この作品それ自体のテイストと言えるかもしれない。
制服されざる人々、破れざるものたちの挽歌、というか
最後の駒にして優秀な指し手、フォックス大佐が盤上に上がったことで、状況は加熱を続けている。死人は積み上がり、皆が抜き差しならぬ状況へと追い込まれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
フォックスとリンクス、同じ野生の獣。彼らが裏をかきあう戦場は、『素人は弱い』という冷厳なルールに支配されている。
元軍人のマックスやフォックス、正式な訓練を受けたブランカやアッシュ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
狩り、生き残る側の人間は系統立てて戦争を…人を殺す手段を学んできた。その冷たいロジックは非常に厳密に、生死を分ける。強いやつは強く、弱いやつは弱いのだ。
軍人崩れはアサルトライフルを持ち、ガキはハンドガンだけ。
兵装に反映される、殺しの学びに投資した結果。寄せ合い世帯のヤングギャングたちは、”プロ”相手に冷たく追い込まれ、殺されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
幼く無邪気なシンが身内を的にかけられ狼狽し、弱々しい姿を見せるのは印象的だ。系統だった殺戮教育を、彼は受けていない。半端な場所で悩むしかない苦しさが見える
しかし殺しに染まりきらない半端さが、人間が生きていく上での死線であることも、このアニメは描き続けてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
ショーターの尊厳を守るための、優しい死。それを前に来し方に悩むシンの姿は、平和な”異国”から来て銃を取り、”アメリカ”的に運命を切り開く道に進んだ英二と、どこか響き合う。
アッシュは、フロッグに犯された過去を捨てられない。ブランカに磨かれた戦術、ゴルツィネが育んだ知性が今、彼を生かしているように、性を略奪された過去はカチコチカチコチ、時限爆弾のように彼の中で音を刻み続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
それが撃鉄を上げる音とシンクロした時、”親父”は彼を止める。
マックスがアッシュを止めなければ、犯された過去は彼を切り刻んだだろう。犯されたまま諦めれば死に、銃を握って相手を殺しても魂が死ぬ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
そういう極限の戦場の中で、取れる手筋は多くない。マックスはアッシュの過去を、優しく燃やし尽くす。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/jtnDqz74it
アッシュは冷徹に、自分の過去から収奪しようとする。もう傷つき、汚れるものなどないから、敵を追い詰めるために俺の魂を汚せ、と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
しかしマックスは『そうではない』と、火によって示す。それは浄化をもたらす炎であり、温もりをもたらす優しさでもある。人を傷つけるばかりが、火の使い方じゃない
忘れることは出来ない。刻まれた痛みは長く長く後を引き、血の呪いはべっとりと染み付く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
それでも、思い出さないことは出来る。呪いを切り捨て、他者を愛することで、”父”から刻まれた過去から変化することは出来る。
そのためにはまず、自分を大事にしろ。お前の痛みを、俺が背負ってやるから。
英二の優しさとはまた違う、マックスだけが可能な癒やし。この炎には彼の善性、果敢なる”父”の強さと優しさが全部詰まっているようで、非常に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
マックスは今回、犯されてもなお戦場に舞い戻った彼の配偶者、ジェシカと通じるものを、犯された少年の自暴自棄に見出していたのかもしれない。
あるいは遠い”異国”に置き去りにした、愛する息子を。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
そうやって思いをつなげていくことで、呪いに打ち勝てる。打ち勝ちたいという祈りを足に込めて、マックスもアッシュも前に進んでいく。
傷だらけに追い込まれ、時に敗北の味を舐めても、屈服することなく前へ、前へ。
そんな動きと逆向きに、月龍は”血”の呪いをシンとラオにかけ、フォックス大佐は死人の生を謳歌する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
ブランカが指摘していたとおり、李家の血を根絶やしにするほど憎いでいた月龍は、まるで兄弟の絆を弄ぶかのように同胞を殺し、罠を仕掛ける。
その悪辣の奥には、この世に綺麗なものがあってほしいという祈り、自分が飲み込まれた濁流だけが世界の全てではないという願いが、痛ましく光っているようにも見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
月龍は業に流され、血で血を洗い愛を暴力で破壊する道に腰まで浸かってしまったけども、そこから抜け出す術を探している。
それはアッシュも同じなんだけども、山猫が素直に握りしめた救いの手を、月龍は跳ね除けてしまう宿命にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
血は傷つけるだけでなく、美しく救いもする。シンとラオを試して確認したいのは、本当に異母兄を殺し尽くす道以外、自分にはなかったのか、という問いかけだろう。
そういう気持ちに素直になって、悪の中の善を掴むように…アッシュのように生きれるのならば、月龍も楽だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
だが、そうは出来ない。ブランカの指摘に激高するのは、それが真実だからだ。体重を預け、全てをさらけ出し愛を受け取る素直さが、どうしても月龍にはたらない。それが彼の業だ。
月龍が過去に囚われすぎるのに対し、フォックス大佐は過去を消し去る。どこにも倫理の置き場がない、死人の生。ただ殺し、殺されをゲームのように愉しむ、歪んだ喜び。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
公的には死んだ人間であるアッシュは、フォックス大佐を憐れみ、恐れる。鏡に写った歪な自分は、いつでもおぞましい。
『野生の獣は、悪人から餌を取らない』というルールは今回も健在で、アッシュはフォックス大佐の素性を知らないまま、その盃を蹴り飛ばす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
月龍の眠り薬入りの餌を、LAで拒絶したように。ゴルツィネの食事を拒んで、死の寸前まで弱ったように。
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彼らの食事はヨモツヘグイであり、悪徳を口にすれば簡単に染まる。アッシュは食べるべき餌を峻厳に選り分けてきたからこそ、血みどろの地獄の中でも”人間”であり続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
ゴルツィネの力を借りて兄弟を殺し、利と悪に飲み込まれてしまった月龍とは、逆向きの生き方である。
アッシュが生き延びるための餌はやはり仲間の中にあり、なによりも英二の手の中にある。過去を再演するように、差し出される暖かい白湯。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
大佐との共通点はおぞましいだけでなく、死中に活を求める決定打にもなる。
『俺がアイツの立場なら』
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そう考える優しさは倫理の現場だけでなく、戦場でも有効だ。英二は常に、アッシュに陰りの中の光、混沌の中の意味を教えてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
アッシュは白湯と一緒に、そういう英二の強さを体に入れる。自分ひとりでは乗り越えられないものを、高らかに飛び越える。マックスが燃やした写真のように。
一人きりでは、死地に追い込まれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
人種の過去も様々な少年たち、大人たちが呉越同舟肩を並べ、明日を生き延びるために戦場に向かうクライマックスは、殺しの学習が生き死にに直結する冷たいルールとは別の顔を、現実に与えてくれる。
確かに、世界は糞の掃き溜めだ。だが、それでも。
そう思える青い空を、アッシュは英二のジャンプに見たし、自分自身もそれを掴むために高く高く翔ぶ。まだ完全に自由に離れないし、悪辣な狐に追い詰められもするけど、”異国”の少年が見せた美しいものへの飛躍を、それに憧れる自分を諦めない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
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運命が巡り巡って、第2話で英二が見せたジャンプをアッシュが果たす(そして英二のようには、綺麗に飛びきれない)今回、あの時死んじゃったスキッパーのことを思い出して、少し涙が出た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
あの子がたどり着きたくて、しかしたどり着けなかった場所。ショーターと肩を並べた夢https://t.co/9ogxoITsUz
その青臭い願いは、ひどく高値だ。現実を諦めた亡霊たちが、嫉妬を込めて足を引っ張る。銃弾で貫き、『諦めろ』と囁いてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
それは、いつだって重たい。正義は無力で、暴力は諦めているがゆえに容赦がなく、有効だ。とっとと膝を屈して、青い空なんて忘れちまったほうが良い。
だが、諦めきれないものがある。それでも、と呟かせて、不屈を瞳に宿らせるものがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
そのためにこそ、スキッパーもショーターも死んでいったのだ。人が人である証明、愛とか夢とか、そんなこっ恥ずかしいキラキラした名で呼ばれるもののために。
果たしてアッシュは、悪徳にまみれた世界の中で”青”を守りきれるか。ジェシカや英二、犯され無力なものたちの祈りと決意は、戦士たちの危機を乗り越えうるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月2日
全てが試されるクライマックスは、静かに熱く燃えていく。真実を試す筆は、炎のように苛烈で純粋だ。次回も、とても楽しみである。