BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
積んで、崩して、積んで、崩して。
暴力と愛情、陵辱と正義の、終わることない砂遊び。フォックス大佐を新たなプレイヤーに、幾重にも繰り返す宿命が、再びアッシュを襲う。
犯されようと、殴られようと、獣は傷つかない。
そんな強がりに憧れるもの、優しく手を触れるもの。
そんな感じの、レイプと暴力と愛情の最終盤である。アッシュは話の半分ぐらい殺すか犯されるか拷問されてる気がしてくる、『またか…』な展開…ではあるのだが、”器”にまつわる描写がスパイスとして加わり、違う味がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
器量は運命が乗っかる土台なので、それが収束するタイミングということだろう
アッシュは幾度も彼を追い込み、また救っても来た蠱惑でフォックス大佐を惑わして、己を犯させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
これに『またか…』と思うのは、展開が重なり過ぎなのもあるが、なにより痛ましいからだ。ジェシカや英二が見抜く、性により深く深く傷つけられた少年の顔が、ずっと泣いているからだ。
『それを覚えてしまっていては、とても生きていられない』と、アッシュはうそぶく。レイプ被害の先輩として、暴行にすら人間は慣れ、生き延びてしまうのだと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
でも先週顕になったように、アッシュは陵辱を絶対に忘れない。忘れることは出来ないのだ。それでも、なんでもないと強がる。
それが呪いなのか救いなのかは、とても難しい問いだ。多分、作品が終わっても答えは出ないし、出してはいけない気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
悲惨な現実に噛みつかれた後、その悲惨さに悶ながら死んでいくのか、傷ついた自分を置き去りにして強がるのか。アッシュは後者を選び、ゴルツィネに押し付けられた悪徳を拒む。
犯されるままに”親父”の価値観を受け入れ、悪の王子として才能を発揮していれば、今のような苦しみはなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
でもそれだと、アッシュは飢えて死んでしまうことは描写済みだ。人はパンのみにて生くるにあらず。良心が満たされなければ、アッシュの心は乾いて死ぬ。
それを満たしてくれる英二は、常に喉を潤す液体とともに描写される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
あり得たかもしれない未来。傷が傷のまま抱擁され、傷つけられた子供がそのまま泣ける世界。青い青い”異国”の水は、常にアッシュを潤してきた。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/1kKRUaE5Zf
犯されたのどうの、軟弱なことを言ってられない修羅場の中で。ストリートキッズが人間になるか、奴隷になるかの瀬戸際で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
英二とジェシカ、二人の”母”だけがアッシュのあまりに人間的な傷を抱擁し、肯定する。先週”父”であるマックスが、写真を焼き捨てたように。https://t.co/mcgeNWIl2H
忘却も記憶も、地獄では贅沢品だ。痛みも死も、何でもないとうそぶいて鎧に覆うのが、戦場では当たり前だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
でも、それでは人間は死んでしまう。キリマンジェロの豹のように。
だから『思い出さなくていい』と『覚えていていい』は、同じ優しさの二つの顔なのだろう。人間が人間でいていい、という。
英二がアッシュを引き留めようとする、人間性の岸。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
年頃の少年のように、お互いの母国語、新愛の言葉を交換し合う二人がそこでじゃれる姿は、迫り来る破滅を反響させて残酷ですらある。
それは遠い遠い場所だからこそ、獣が憧れた空。届かないからこそ、手を伸ばした場所。
『そうじゃないだろ』と、月龍もフォックス大佐もゴルツィネも手を伸ばす。俺たちが堕ちてしまった場所へ、お前も堕ちてくるのが当然だろうと、性と命を苛む暴力を振り回す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
大佐…ブランカのように欲望をコントロールできていれば、強キャラのままで要られたものを…。
月龍は『ぬるい友情ごっこ』をぶち壊すために、陰謀と銃弾を使う。大佐はアッシュを無力な子供時代に引き戻すために、彼を犯す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
自分の傷なら耐えられる。だが、愛するものを奪われた時、アッシュの牙は際限ない凶悪さをむき出しにする。
英二が撃たれてからの、暴力行使のシーケンスが面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
一発で額を抜き、溢れる憎悪(月龍やフォックスやゴルツィネと、確かに同種なもの)を叩きつけるようにオーバーキル。逃げ出したもうひとりを追いかけ、やはり一発で殺して、死体を辱める。(ショーターを辱めた過去を、主客を入れ替え再演)
命を顧みず間に入ったシンを見て、銃弾が止まる。ラオが構えた悪意だけを撃ち抜く、コントロールされた銃弾。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
英二が撃たれた時、彼が担保していたアッシュの人間性もまた、打ち砕かれる。しかしそれは、完全に消失するわけではない。”銃”で殺さずにすませることも、難しいが可能なのだ。
無力な被害者か、制御の外れた獣か。フラフラと弱々しく揺れる人間性は、簡単にどちらかの極に落ちてしまう。そのアンバランスを維持するのを諦めた結果が、月龍でありゴルツィネでありフォックスだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
アッシュはどちらにもなりたくない。しかし、現実の無残で長い手は常に、彼に触手を伸ばしてくる。
その防波堤たり得たのが英二だが、彼は英雄的に赤い戦場にのぼり、当然の対価として撃ち抜かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
ヒロイン顔で無力でい続ければ、つかなかったかもしれない傷…でもないか。ジェシカは無関係な存在だったのに、その尊厳を踏みつけにされたものな。
尊厳の対価は常に、血で贖われる。
これで月龍が望んだ通り、アッシュの逆さ鱗は撫でられた。龍は山猫が同じドブにまで堕ちてくることを期待しているが、それは多分叶わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
英二が見せた青い空は、まだアッシュの中で生きている。それはアッシュが、陵辱と暴力に押し流されながらずっと夢見てきた、彼自身の夢でもあるから。
そして多分それは、月龍自身の夢でもある。けして認めることはないだろうけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
可能なら『ぬるい友情ごっこ』がしたかった。兄を殺し、父を憎む”血”の地獄から這い出したかった。特別な誰かに、優しく抱きしめて欲しかった。
でも、そういう”器”が月龍にはない。
敵味方に別れつつ、ブランカとアッシュの師弟(あるいは親子)が、同じように一線を越えるのが面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
アッシュは傷を置き去りに闘争へ、ブランカは悪に流されるのを止め、己の良心へ。向き合うものは違えど、力強き獣は力強く歩む。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/lROjuQJEnW
月龍がブランカに求めた、アッシュにとっての英二の役割。泥の中で沈みゆく魂を、なんとか人間の岸に留めてくれる存在。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
それが去っていくのが、月龍自身の悪徳と、アッシュが諦めなかった善なる輝きの果てだというのが、なんとも皮肉である。その無残な別れに『器じゃないからなぁ』と納得できるのも
悪ぶってワインに赤を見たし、”血”の中に魔王の幻影を見る月龍。しかしそのギラついた悪がブランカを遠ざけた時、文字通り『後ろ髪を引かれ』ることになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
この直球ど真ん中の演出、俺大好き。ホントバカ様はバカだなー…自分の望みすら、理解ってねぇや。
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望んだものが手をすり抜け、現実の残酷さだけが加速していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
そういう状況はシンにも同じで、龍声一喝で荒れた状況をまとめ上げてしまうアッシュに、諦めと憧れを再確認する。
ラオが求める”器”が、自分にはないと冷静に見抜くその手は、不甲斐なさで震える
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”血”で、あるいは暴力への適性で。”器”でもないのに玉座に祭り上げられ、しかしそれでも同胞を守り、幸福にしたいと願う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
背伸びした少年王達の心の距離を、正確に反映した青い階段が好きだ。二人共、王様なんかなりたくない。でも、自分がやるしかないのだ。諦めれば、この世は悪徳の地獄だ。
アッシュがひと足先に登っている高みは、キリマンジェロの雪のように彼を苛む。シンだってその辛さが理解っているから、月龍のように引きずり落とすのではなく、その高みへと自分も進もうと、惨めさに震えつつ足を進めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
その人並みの一歩が、僕は好きだ。
逆鱗を貫かれ、魔王に堕するアッシュを止めたのがシンなのが、僕は好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
『器じゃない、追いつけない、諦めたい』と愚痴りつつも、いざ運命の決断が迫った時は、我が身を顧みず飛び込める。人間を人間たらしめる尊厳を、アッシュに思い出させることが出来る。
あそこでシンが体を張らなければ、(裏切り者とはいえ)同胞は辱められ、アッシュは”銃”の正しい使い方を忘れてしまっていた。あれだけ憎み傷つけられたショーターをいたぶった側へと、堕ちてしまっていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
それをシンは、しっかり止めたのだ。そこで前に出れるなら、”器”は充分ある。英二のように。
ショーターの死は(視聴者、つうか俺にとってそうであるように)長く長く残照し、ズキズキと傷む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
どうにもならなかったからこそ、どうにかならないかと悔やむ過去。殺される側、汚される側だけでなく、犯す側、殺す側にも、暴力は傷を残す。忘れないのが正解か、思い出さないのが答えか。
アッシュのカリスマは善かれ悪しかれ人をひきつける。ラオにしろ月龍にしろ、その存在が巨大であるからこそ、幾度も突っかかってくるのだ。ここら辺は、オーサーを通じて描かれたもの、その再演であろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
巨大過ぎる才は、必ず不幸を呼ぶ。王冠は祝福だけでなく、羨望と呪いも引き寄せるのだ。
様々なものに引き裂かれながら、アッシュは前に進む。奴隷のように押し倒され、好きに使われる立場から自分と同胞を引きずり上げるために。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
その戦いも、もう佳境だ。最も大事なものを奪われたアッシュは、それでもなお、彼が見せてくれた青い空を忘れずにいられるのか。
”銃”を正しく使い、”器”の求める重責に耐え、”血”の宿命を乗り越える。人が人であり続ける対価はあまりに重たくて、それを諦めてしまった人間のリストで、このアニメのキャスト欄はいっぱいだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
それでも、不屈を魂が要求するのならば。決意を込めて、一線を越えなければいけない。
それが必ずしも人殺しを意味しないこと、善悪の逆転した場所では善にこそ決意がいることは、これまでも、今回も描写されたことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
ブランカが月龍と袂を分かち、己の良心に飛び込んだシーンは、個人的に深く刺さった。彼もまた、自分の中の青い夢に従い、荒野に踏み出す男なのだ。
そして異国の青い空を、細く頼りない体で背負っていた少年は撃たれた。ヒロインに物理的圧力が押し寄せると、まさにクライマックスって感じするな!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月8日
緩みなく善悪の彼岸を問い続けてきた物語も、そろそろ終わり。血と涙と愛をインクに何を描ききるか、本当に楽しみです。