イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

映画"プロメア"感想

今石洋之監督、中島かずき脚本、TRIGGER×XFLAG×サンジゲン制作で送る異能力火消アクション超大作劇場版”プロメア”を見てきました。
上演初日の感想となりますが、バリッバリにネタバレしていくので以下折りたたみで。
バレないように感想を言っておくと、非常に面白かったです。
座組から推察される熱血勢いアクションとしても、二時間の映画体験としても、新しい映像を浴びたい人も、色んな角度から満足できる、いい映画、いいアニメだったと思います。
臥煙のケレンを借りるだけかと思っていた火消し設定が、非常に上手く叙情と抽象的テーマに絡んで、凄まじい勢いとクールな落ち着き、ヒロイズムへの信頼が同居する、大満足の二時間でした。
『いつものTRIGGER』『いつもの今石』が苦手と自認する人(まぁ僕です)ほど、細かい丁寧さが刺さる映画じゃないでしょうか。
野音楽のアガりっぷり、効果音と映像の迫力を映画館で楽しむ意味でも、今行くのがオススメです!!

 

 

 

というわけで、"プロメア"見てきました。
正直『ケレンと様式美に振り回されているように見える今石×中島作品のアクに、少々疲れている身で見るべきなのかなぁ……』と思わなくもなかったんですが、XFLAGが加わったことによる化学変化、テザーで見れた色彩とデザインの魔力、『最初から二時間』という枷がどう働くかを見たくて、映画館に足を運びました。

いやー、すいませんでした!
『ほほう……お点前拝見』などとナメてかかった思い込みは、最初からアクセルベタ踏みのアクション、輪郭線をあえて取らないベタッとした独自のデザインでバチンと粉砕され、ぐっと世界に引き込まれてしまいました。
延々コンセプトアートが動き続けるような特別感が、色んなシーンでぐわっと襲いかかってくるリッチ感は凄く新しい経験で、強い刺激を受けました。
サンジゲンの3D表現力、XFLAGの『ゲームっぽさ』がTRIGGERの派手派手な"血"と混ざりあった結果、非常に新しい映像体験が出来て、まず"絵"に引っ張り込まれました。
セガの名作"バーニングレンジャー"を思わせる、炎との大迫力格闘戦は、すぐさま炎を操るテロリスト集団"マッドバーニッシュ"との豪炎バトルに展開し、熱血漢の主人公ガロが突出しつつも、チームワークと地頭で戦えるとこを見せて一段落来ます。
ここでのポリゴナルな炎の表現、それを抑え込む氷の表現が、作品全体を包むレトロゲームな雰囲気と上手く噛み合って、非常に印象的でした。

このお話、”anime”の凄く根源的なパワーに信頼をおいて進んでいて、炎や氷がまるで行きているように踊る楽しさと、今まで見たことのない"アニメの中の炎""アニメの中の氷"を見せようという気概が、上手く噛み合っています。
ゴツゴツと硬さの残る、立体としての炎は様々に姿を変え、怪物あるいは強敵として主人公チーム”バーニングレスキュー”に襲いかかります。
ただの災害のはずなのに人格を予感させる炎は、その後ろにいる"バーニッシュ"の存在、そして彼らに宿る炎生命"プロメア"に繋がっていく。
新しい映像体験のショックが、しっかりSF的設定、ミュータントとの衝突と和解のドラマに繋がっているところは、表現と劇作がしっかり噛み合うグリップ感を生み出し、非常に楽しかったです。

もし炎がありきたりなアニメ表現でうねっていたら、すげー唐突にぶっこまれるプロメア真実はなかなか飲み込めなかった気がします。
というか今回、相当無茶な横車を押しまくって尺を圧縮してるんだけども、絵と台詞とケレンのパワーで強引に押し通して、『まぁ偶然じゃなくて、運命かもな』と無理矢理飲ます展開が多いのね。
それを意識してか、唐突にぶっこまれる巨大ロボバトルの主役機は”デウス・エクス・マキナ”をもじった名前だし。
プロメス博士(のAI人格)と遭遇することで、お話は一気に真相に近づきスケールもデカくなるんだけども、そうなる動因は基本的に『偶然』でしかない。
でもお話と絵にパワーがあるんで、『まぁそこはざっくりでいいや。先見せて』と開き直りを飲み込めてしまう辺り、ある意味ズルい作りでもあるなぁ、と思います。


イカすパワードスーツで鉄火場に飛び込み、うねる炎、凶悪カッコイイ超人種と向き合うバーニングレスキュー。
ノリと勢いと様式美に塗れた(けど、2Dと3Dの融合とか、"キルラキル"より更に洗練された『文字を実際に置く』演出のパワーとか、新しい要素もたっくさんある)冒頭のハードバトルから、画面は止まらずに転がっていきます。
『パワードスーツ』という要素もただのロボマニアの玩具で終わらず、それを脱ぎ捨てて生身で交流するシーンを印象づけたり、凶悪な暴力に立ち向かう叡智と勇気の象徴になったり、活きたガジェットとして作品世界を踊り回っていました。
ガロは纏を身にまとい、臥煙の気概で炎を憎みつつも、その奥にいるリオの顔、バーニッシュの命をちゃんと見据えている。
炎のヤバさを肌で感じつつも、それに立ち向かう"鎧"としてパワードスーツを使うことで、正義と悪のマスクの奥に人間がいることを忘れないガロとリオの人格、彼らを主役にする作品の息吹が、よく感じられました。
着たり脱いだり忙しいアクションはテンポが良かったし、最終盤バトルの予告としても、非常にいい感じでした。

熱量と勢いのあるシーンはいつものごとくパワフルなのですが、今回はその合間にあるクールダウンなシーンがかなりいい感じで、モチーフの活かし方、キャラの見せ方、叙情の作り方共に大変好みでした。
頭を冷やすための凍結湖(後にリオの憎悪で氷を溶かし、プロメア真実に"偶然"行き着くことになる場所)で、ガロとアイナが靴なしのスケートをするシーン。
ただの熱血バカと思えたガロが、実は恩人の立場を慮り、自分の熱血にちゃんと枷をはめられる頭の持ち主だと判る、いいシーンでした。
ガロは非常に制御の聞いた主人公で、ケレンの効いた節回しで画面の圧力を上げつつも、人間とバーニッシュにとって大事なものを忘れない、クールな冷静さも兼ね備えている。
彼が結構人の話を聞き、適切に人を動かす言葉も使えるクレバーな男であることが、あのスケートシーンからは見えてきます。
炎と氷が同居した主役はチャーミングでもあって、アイナが心惹かれていくシーケンスにも上手くシンクロできる。
凍結湖のクールダウンがあったおかげで、この映画は凄く良いところに自分を置けた気がします。


そこからバーニッシュの洞穴に迷い込み、クレイが隠す世界の真実、バーニッシュも飯を食い死にゆく"人間"なのだと思い知るシーンが来る。
ここはクールに思えたリオの血管に流れる怒りの炎、被差別民のプライドが生きるいいシーンでした。
早乙女太一さんがアフレコに慣れていく様子が、リオが激情を顕にし、ガロ(と、彼を通じて僕ら)に素裸の心を見せてくれる流れとシンクロした感じもあって、とても良い配役だなと思いました。
リオはこの時、自分の炎を命を繋ごうとして果たせない。
ガロもまた、レスキューとしての本文を果たしたかったけど、リオに信頼されていないので果たせない。
男達は共に洞窟に後悔を残して一旦別れるわけですが、これは後に決戦の後、リオの命を繋ごうとするシーンでしっかり回収されます。

この時命を繋ぐために使えなかった炎を、リオはクレイの炎からガロを守るため、地球の全人類をプロメアの烈火から守るために、しっかり使えるようになる。
リオもただのゴロン坊ではなく、力と意地の使い所を抑え、人の通りをわきまえ命を助けるレスキュー隊員としての本文を、太陽系規模で果たせるようになる。
そのための予告として、洞窟のシーンはなかなかいい仕事をしていたように思います。

ガロは鎮火をミッションとするレスキューなんだけども、血液と行動理念に炎を宿して、しかしどこかすごく冷静で客観的な部分がある。
レオは炎と生きるしか無い超人類なんだけども一見クールで、しかし魂には熱い炎が宿っている。
炎と氷は、二人の主役の間で渦を為して、人間とバーニッシュの宿命、プロメアとの向き合い方をしっかり見据える足場にもなる。
激しくぶつかりあう二人の男が、バイザー越しのお互いの目をしっかり見て、理解しようと頑張っている所が、彼らを好きになれてよかったです。
まぁ二時間しかないんで、コミュニケーションに耳塞いだキャラの目開かせるのに、時間使えないもんね。
長いとは言えない尺に貪欲にアクションを詰め込んだ結果、余計な軋轢や衝突を蹴っ飛ばして状況がゴロゴロ転がり、ガロの人格がいい具合に丸くなったのは、形式とドラマが噛み合った結果かなぁ。


ガロはバーニッシュの真実を自分なりに受け止めて、勲章を返す。
『与えるやつも、もらうやつも資格がねぇ!』と、過去の思い出、キラキラした希望をあえて蹴っ飛ばして筋を通すガロの姿は、粗忽さの奥に知性を感じさせ、やっぱり凄く良いです。
後に『魂の炎で、火を沈めてやる!』と叫ぶ彼がその結論に達する前に、細かい仕草、台詞の一つ一つで人格がしっかり見える。
その結果、大仰なパンチラインが上滑りせず等身大で胸に届くのは、凄く良いことだと思います。
『ガロがそう言うなら、まぁ納得するかな』という所まで、二時間でキャラクターを信頼させる。
これは結構難しいことだと思うのですが、若々しい激情と同時に、己を反省し周囲を見渡す視野を備えた青年を主役に据えることで、ちゃんと成功していました。

その輝きは巨悪があってこそ光るもので、クレイはとにかく堺雅人の怪演が大暴れし、非常に良い敵役でした。
ずーっと右腕に秘めたバーニッシュの力を隠し、同胞を虐げる巨悪。
糸目バージョンの静かな圧力も、目を見開いた後のデビルマンっぷりも、太めの存在感があり、主役のシャドウとして、大ピンチの呼び水として凄く良かったです。
冷静な仮面を脱ぎ捨てて、『私を旦那と呼ぶな!』とマジギレするシーンの圧力、ほんと良かった……悪党だろうと、クールガイが仮面を脱ぎ捨て激情に飛び込むシーン大好き。

クレイはガロを『え、そんなに?』と言いたくなるほど憎むわけですが、プロメアに取り憑かれつつその力を覆い隠し、むしろ同胞を虐待する方向、権力と栄光の鎧で邪悪を覆い隠す方向に進んだ彼は、パワードスーツで己を隠さない、むしろ向き合うための盾として使いこなすガロの、邪悪な影と言えます。
ガロは直情なバカだけど、自分に嘘はつかないし、他人の真実を見落とさない。
リオがデビルマン暴走した時の『この炎は、涙……?』とか、ホントガロの目の良さを活かしたいいセリフだと思います。
そういう明け透けな嘘のなさを、プロメス博士の功績を横取りし、放火の事実、バーニッシュというオリジンを覆い隠したクレイは持っていない。
正義と真実に恥じることなく己を晒すガロは、炎の翼で宇宙に羽ばたく救世主になりたかったクレイの理想であり、既に悪に見を染めてしまった彼にはけして届かない夢だった。
だからこそ、あそこまで憎悪するのかなぁ、と思いました。

悪役としてはヴァルカン隊長のマッチョな存在感、嫌味な極悪っぷりとかもいい仕事でしたね。
リオが誇りを込めて『バーニッシュは殺しはしない!』と吠えた後に、そのバーニッシュを"資源"として使うために『殺すなよ~』と蔑み、蹂躙するヴァルカン。
彼は常時スーツに身を包み、素裸で誰かと対峙するシーンがありません。
外付けの男らしさで身を鎧わなければ、とたんにパニックになってしまう彼は、纏の力に溺れず、裸の自分を守り支える鎧として使いこなせるガロの、良い影だと言えます。
ヴァルカンとバチバチすることで、妙にイグニス隊長(ラテン語で"火"を意味する名前から、心情と立ち位置が推察できて好き)のキャラが立ってたのも、なかなか面白かったですね。
楠大典の演技は往年の内海賢二を思わせる艶と伸び、憎たらしさとパワーと小物感で、彼が大好きだった自分としては全く関係ないところから不意打ちでした。凄く良かったです。)


バーニッシュの仲間を皆殺し(凍結銃は非殺傷兵器だけど、描き方としてはかなりエグい虐殺で、良いヘイトアーツでした)にされたリオは、憎悪の龍となって街を焼きにかかる。
高速道路の廃墟で暮らすバーニッシュのシーンは短いけど、生活感がしっかり刻み込まれていて、それを奪うフリーズフォースの極悪も際立ち、良い使い方でした。
『マジ許せねぇ……』ってなるもんな……殴り飛ばされるべき極悪人の、極悪な部分をちゃんと見せるのはやっぱ大事よね。

そんなリオは可能ならば人間と共存したいと願いつつ、身に宿ったプロメアの炎がそれを許してくれない、バーニッシュの哀しみを背負っています。
『相手の名前を覚える』という仕草で、他人の顔をちゃんと見ようとする彼の人格が垣間見える所とか、細かく巧いですよね。
冒頭の臥煙バトルでリオと向き合い、洞窟の中でその体温を感じたガロは、焔龍の涙をちゃんと感じ取って、街を焼き人を殺す前にしっかり受け止めてやる。
焦げ付いた差別の炎で、世界を壊し尽くすしかないバーニッシュのやるせなさをちゃんと理解し、炎を消す炎として殴り飛ばしてやる。

ここで一人のバーニッシュを止め、救ったガロは、後にクレイというバーニッシュにもしっかり向き合い、彼を焼く野望の炎を止めるべく立ち回る。
彼は軍人や暗殺者ではなく、あくまでレスキュー隊員なので、炎を受け止めて消し、盾となって守り、命を繋ぐことがヒロイズムなわけです。
二人の男の憎悪の炎、野心の焔をガロがしっかり受け止め、言葉と拳で応答することで、そんな救命の英雄主義はより強く見えてくる。
男ヒロインの力強い輝きが強すぎて、アイナがあんま目立たないのはご愛嬌かなぁ……良いケツしてるし、可愛いんだけどね。

つーかヒロイン特権として共有したムーディーな凍結湖、男ヒロインの激情を収めるために溶かされちゃう辺り、あくまでブロマンス主眼というか、"男"重点な話だなぁ、と思う。
アイナはエリスとの繋がりが最重要課題なんだけども、バチバチ物理でぶつかり合うオトコ達に対して、どーも圧力の弱いシーンしか用意されていない感じもあり……でも彼女が操るフライトキャリアがないと、状況が収まっていないシーンも多数あり……なかなか評価が難しい。
全面に出て暑っ苦しく暴れまわる役が多いと、話の焦点がブレると踏んで、男三人が目立つ構成にした、という感じかなぁ。
何しろキスシーンもリオに取られるしなぁ……あやねるの敗北者ロードに、新たな一ページ……。


んでこっからは驚愕のプロメア真実が明らかになり、巨大ロボバトル、ワープを巡る綱渡り、生身の殴り合いから恒星規模の救済まで、グーンとスケールが大きくなるのですが。
ロボットが"トランスフォーマー"テイスト漂う異形で、あんま日本のロボットアニメだと見たことのない(いい意味での)大雑把さ、ぶち抜けたスケール感が溢れていたのは、とても良かったと思います。
"クレイザーX"が打ち込む超兵器が、軒並みテラフォーミング用の民生ツールでもあって、クレイなりに人類救済を真剣に考え、努力していたと感じられるのもグッド。
いきなり巨大ロボバトルにぶっ飛ぶスケール感を、『俺は人一人ではなく、人類種をレスキューするために悪に染まったんだ!』と無言で語るトンチキウェポンが、上手く支えていたと思います。
人を助けるための道具を適切に使えない特性、人一人の顔ではなく巨大すぎる野望に流されてしまう弱さが、惑星規模まで拡大してビルを土塊に変え、人を害する。
ここでも鋼鉄のガジェットはちゃんとキャラクターとドラマを反映し、クレイとガロ(に殴られて、自分の力の使い方を覚えてきたリオ)の対比を強調してきます。

破壊に使っていたパワーを、誰かを守るために使う。
赤と青が混じり合うタンデムロボットは、燃やすしか能がなかったリオ(が代表する、バーニッシュという新人類)が、人類社会でどうにかやっていく未来を上手く暗示します。
かーなりシモンとヴィラルの"宿命合体グレンラガン"のセルフパロディではあるんですが、どうにかバーニッシュの特質を理解し、居場所を作ろうとしていたリオの努力が報われた形にもなっていて、良い展開だったと思います。
リオがエンジン担当であることが、後に一人でワープドライブ起動の鍵となる展開、そのことでプロテアに繋がって全ての解決策を見つける流れにも、上手く刺さってんのよね。

一回ぶっ飛ばされた後に、最初のシーケンスを再演するように仲間が駆けつけ、チームワークと不思議ガジェットで道を切り開く流れも、とても良かった。
何しろ男三人の存在がデカい話なんで、バーニングレスキューはあくまで添え物なんだけども、新谷真弓声のルチア筆頭にいい感じの存在感があって。
ピザ屋の会話シーンとかも、あくまで不幸な偶然、使い方を見つけるべき特質としてバーニッシュを見てるバーニングレスキューの善良さを強調してて、凄く好きなんですよね。
『バリスの怪力とおんなじさ!』とかね……そういう同僚に見守られ、育てられたからこそ、ガロは熱血に過剰に流されずに、相手の顔を見れる男になったんじゃないかなぁ。
あ、ドリルはご愛嬌です……オタクはセルフパロディを続けないと死んでしまう、マグロみたいな生命体なの。


最後は惑星規模まで話が拡大し、対話ツールとして巨大ロボットを使う"お約束"など踏襲しつつ、さらばプロテア展開に。
『俺が地球の火災、止めてやるよ!』と序盤で切ってた大見得が、実際果たされてしまう展開は非常にスカッとしました。
二時間状況を転がしまくるせいか、シーンにぶっ刺した伏線がかなり有効に機能して、充実感と満足度が高いのが良いよね、この映画。
何らか失敗したり、上手く行かなかったことも、ちゃんと後々リベンジされて、気持ちよく終われるという。
巧さが悪目立ちせず、勢いと熱量に乗っかって気持ちよく走っていく……文字通りの完全燃焼ムービー、というか。

高度異質知性体との出会いと別れは、まぁ中島かずきがゲッター線を浴びすぎた結果として。
まーじ急にプロメア真実に目覚めるリオ『ドワォ!』って感じだもんなぁ……。
同じ異質生命でも"キルラキル"の鮮血(コミュニケーション可能代表)・羅暁(コミュニケーション不可能代表)を描いたような時間はないわけで、まぁ個別の対話は描かず、その代弁者としてリオに任せる形にはなるわなぁ。
リオの熱血力が気持ちいいので、『まぁリオが言ってるなら良いか』で食えてしまう辺りは、キャラの書き方に成功している部分だと思う。
実際異質知性体とのコミュニケーションは、異形の炎と氷が踊る舞台立てのためのマクガフィンって部分も強くて。
『対話できないけどそこにいて、地球人類の在り方を変えてしまう無邪気な星の子供』っていうプロメアの書き方は、結構好きです。

リオは自分の血を焼くプロメアのメッセージを、自分と同じように受け止め、それを殺して生きてはいけないと吠えた。
その共感が地球大崩壊の危機を救い、不完全燃焼の暴力を制御された灼熱に導きもした。
バーニッシュである自分を否定したクレイは、自分の血から響くプロメアの声を聞けず、星を焼き尽くす解決策にしかたどり着けなかった。
こうして考えると、バーニッシュらしい生き様を貫くためには、バーニッシュの根源であるプロメアの声を聞くリオと、その声を絶対に聞けないただの人間・ガロが両方必要だったのだろう。

クレイは燃える右腕を隠し世界最高の英雄、選ばれた人間を装おうとして、全てを焼き尽くす最悪のバーニッシュになりかけた。
クレイ自身が夢見たヒロイズムは、ガロの拳に乗っかってその暴走を止め、人間とバーニッシュは手を携え、最後の火まつりに飛び込んでいく。
全てが終わった後、クレイの片手がないのが好きなんですよね。
虚栄心と嘘で自分を鎧ってた男が、ようやくパワードスーツを脱げた感じがして。
そこにクレイを導いてやることが、邪悪な偽りだろうとその助けを受けレスキュー隊員になったガロの"筋"だったのかなぁ、とかね。


プロメアが最後にたどり着いた"優しい火"が、あからさまに"水"としてアニメートされているのも好きです。
クレイの悪辣が表に出てきて、あえてずっと離れてきた身も蓋もない暴力……"火薬"が個人レベル(博士を撃った銃弾)としても巨人レベル(通常弾頭のミサイル)でも顔をだすのと、良い対比でした。
テロリストと消防士がぶつかり合っても、対話ができるファンタジーを成立させるためには、やっぱ"炎"と"氷"を独自の表現でまとめ上げて、異質な世界を"絵"で殴りつける必要があったんだと思う。
お話が人間(ガロ)とバーニッシュ(リオ)の衝突と対話から、共通の敵(クレイ)と共通の味方(対話可能になったプロメア)との衝突と対話にシフトした時、画面を埋め尽くしていた表現が変化するのは、なかなかに鮮烈でした。

凄くポリポリした固体として、画面に立方体を飛び散らしていた(スーパアニメーターには『思う存分画面に立方体を飛び散らせたい』という本能があると言われています)炎と氷は、流体としての滑らかさを取り戻して全地球、全人類に宿り、あるべき場所に帰っていく。
全地球規模のイニシエーションで、バーニッシュと同じ声を聞いたあの世界の人類は、力を失い人に戻ったバーニッシュと、新しい世界を作っていくのでしょう。
『消防士の仕事は火を止めるだけでなく、その後の再建も含む』と言わんばかりの前向きなラストカットは、色んな人後に宿った炎が完全燃焼し、居場所を見つけられた満足感に満ちていて、凄く好きです。


そんなわけでTRIGGER最新作、"グレンラガン""キルラキル"コンビの集大成は、非常にいい映画でした。
なんつーかな、今石×中島コンビが振り回されていた様式美への執着、ケレンと型が優先されすぎてキャラクターとドラマへのグリップが上滑りする感覚が、二時間映画というメディアと凄く良い化学反応をして、とてもスマートな使われ方を見つけた印象を受けました。
すげーキャラを好きになれるんですよね……尺が短いんで、余計なことをする余裕が無いからかもだけど。
でもクールな態度に熱血を隠したリオ、臥煙な魂に知恵と優しさを持ってるガロ、そんな二人のシャドウとして圧倒的な存在感を見せたクレイと、メインが非常に太いお話でした。
サブはサブなりの適切な尺で、しっかりキャラを立たせられて。
それを支えるようにお話の細かい業前、勢いのある絵と音楽がしっかり噛み合い、良い熱量で走ってくれました。

『いわゆる今石』『いわゆるTRIGGER』のエッセンスを煮詰めたようでいて、そのアクの強い部分を上手く逃した今作は、今でこの制作集団が出せるベストなのかな、とも思います。
形だけの熱血を踏襲するのではなく、むしろ熱血から離れる冷静さ、他人の顔をちゃんと見る優しさを色濃く描写することが、熱さを生み出す。
正直今までの作品に半歩足りなかったそんな踏み込みを、見事に完全燃焼させた映画だったと思います。
とても面白かったです。
ありがとう。