キャロル&チューズデイを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
生きる伝説、デズモンド。
デビュー曲を見初められ、彼の聖域に呼ばれたキャロチューチームは、植物と蝶が光の中に踊る場所で、その歌を聞く。
一方ヴァレリーは地球との対立姿勢を強め、群衆に向けて強い言葉で演説する。
炎と光は、混ざり合わないまま響き渡る、
そんな感じの不可思議なるアクセント、キャロチュー第15話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
かなり詩情に満ちたというか、芯が無い(ように見える)話で、急に山ちゃん声の不思議ちゃんがスルスル近寄ってきて、いい歌歌って何かを託して死んでいくという、受け身が取りにくい話…なんだろう、一般的には。
個人的にはよく刺さるエピソードで、なんとなく言いたいことが判るようでもあり、言葉にしたら蝶のように逃げていく感じでもあり、その不確かさが好みでもあり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
ヴァレリーの排外主義を対置することで、デズモンドが最後の歌に込めた思い、それを繋いで欲しいという願いは、解りやすかったように思う
デズモンドが(つまり今回の話しが)言いたいことは結構セリフで言ってくれているので、あんま深読みする必要は無い気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
全体的なムードは幻想的だけど、メッセージは直線的というか…目と耳を塞がず、思いを歌に乗せて繋いでいって欲しいという、甘ちょろくて強い祈り。歌の意味。そこらへんか
ヴァレリーは身内であるスペンサーの忠言に目を塞ぎ、ジェリーが差し出す毒酒には目を開く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
『地球が敵だ、悪だ。火星だけが未来の希望だ』と大胆に切り捨てる言説そのままに、見るべきものと見捨てるものを切り分けていく。
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軍神マルスの名を背負う、赤い大地。そこから遠く離れた地球は、戦乱に汚れ混乱だけがはびこっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
演説中に背負う炎のイメージは、例えばキャロルが先週繋がったダンの雪を、淡く消し去ってしまう。
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沢山の存在に向けられ、貪欲にカメラに切り取られる強い演説は、『私達とお前達』に世界を切り分け、争点を鮮明に捏造していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
たった四人のために歌われるデズモンドの歌をBGMに展開する、冷たい炎の言葉。それは燎原の炎のように、世論を焼いていく。生まれる上昇気流が、母を大統領に押し上げる。
これまでの描写で顕になっているように、地球排外主義はヴァレリーの信念ではなく、政治に勝つための方便である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
数を頼んで権力を握り、己を高めに押し上げるために信じてもいない炎を撒き散らす。あるいは、炎を言葉に乗せている内に、それが自分(達)の中の真実になってしまう。
誰かから受け継ぎ、繋ぐための歌とは真逆の、誰かを傷つけるだけの音楽。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
デズモンドが引きこもったガラスの卵は、そんなノイズから自分を守るための砦なのかもしれない。そこで最初で最後の薫陶を受けるチューズデイは、母の背負う炎を知らない。
同じ方向を向けていない兄と母に対し、娘は相棒と同じ空を見上げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
お互いの父がいるはずの、青い星。遠い遠い地球。
そこでチューズデイは永遠の現在を夢見て、キャロルは高みを願う。天に届くまでのし上がれば、あの青い星まで歌が届く。
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地球から見上げた空に浮かぶ赤い星のように、火星からは地球が見える。立場が違えど、なにか似通ったものが見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
それと同時に、一足先に一つの結末にたどり着いたキャロルは、チューズデイよりも広いヴィジョンを持っている。同じ音楽を聞き、同じ世界を見ながら、少し違う祈り。
その断絶が、均質ではない面白さ、様々な音色が混ざりあった歌を生むのであれば。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
母が言葉にする摩擦や雑音以外のものが、多分火星と地球の間には満ちている。
どうやっても、母が振り回す欺瞞を娘は共有できない。だからこそ、”家”を出たのだ。そういうことが確認されるエピソードだ。
デズモンドの聖域は、人工物と自然物が入り混じった不思議な空間だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
透明なガラスに包まれ、しかし解放はされていない。自分が出会いたいと思ったものだけが通れる、微かな警戒に満たされた世界。
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『第2話のグランドピアノはデズモンド・モデルなんだな』などという、不思議なリンクを感じつつ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
そこに蝶はいても鳥はいないし、木はあっても土は見えない。人工によって奇妙に調整された楽園は、不可思議な光に満ちている。ガラスによって光源を制御する発想は、ちょっと教会建築に近いか。
蝶。プシュケーと読むならギリシャ語で魂、息を意味する生物。人が死んで心魂が抜け出した後、変貌すると言われる動物。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
愛する者の死により、そこに閉じこもったデズモンドの世界は蝶に満ちている。恋の残滓が羽ばたいて、常時視界を埋め尽くす。ガラス製の棺、長い喪のための建造物。
しかしそこはただ閉じるのではなく、選択的に中に入れるものを選び取り、死を前にして何かを伝えるために開け放たれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
ひび割れた卵のような外観は、閉鎖系でありながら開放され、呼吸する意志を感じさせる。
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選択的に何かを透過し、内側に取り入れて外部に出力していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
目を見開いて真実を見ているようで、それを内側に入れる前に拒絶し排除してしまうヴァレリーの立ち位置と、このガラスの世界卵は正反対だ。
AIと蝶と植物だけで構成された、隠者のエコシステム。そこは孤独で、しかし繋がっている。
キャロチューは(ガスが代表する古い世代とは真逆に)都市伝説的なイメージに物怖じせず、どんどんデズモンドに尋ねる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
大体は嘘。でも両性具有(アンドロギュノス)であることは本当。
”ママ”ダリアにも通じる、火星特有の祝福と呪いを、デズモンドは静かに語る。
二つの対極を己の中に受け入れることで、変化が心に染み渡り、自分が変化していく。それは片割れを見つけた充実感に満ちて、悪いものではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
プラトン”饗宴”をおそらく下敷きにした両性具有論もまた、未知なる異性に対し開かれている。
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異性は異星でもあって、アンドロギュノスたる自分を肯定するデズモンドの言葉は、火星と地球を引き裂こうとするヴァレリーの言葉に、静かに対置される歌でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
同じ性を持っていても、他人は他人。肌の色も生まれた環境も違う二人は、しかし”ロンリエスト・ガールズ”としてお互いを見つけた。
違うからこそ判り合おうとして、バラバラだから繋がろうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
有史以来、歌を文化として積み上げてきた人間の不思議を、死を前にしたデズモンドは静かに差し出し、新しい世代は受け取る。
数多の名前が刻まれた場所で、高い場所を見上げる
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物語の前半では、イヤホンで繋がれた二人が地球を見上げていた。それは三人になりえて、地球が見えない昼間でも、なにか同じものを見上げることは出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
異質なものを弾き飛ばす生物的反応を超えて、何かを受け入れ繋がり、共有し変化していくこと。
少女たちはガラスの世界卵で、そんな歌を聞く。
家から飛び出した妹を肯定し、その歌を静かに聞いてくれたお兄ちゃんは、”家”の光と闇に挟まれ、受け入れるのではなく排除する言葉の中で、届かぬ歌を抱え込んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
妹にちょっかいかけるヤツは、俺が許さねぇ…!
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相変わらずお兄ちゃんは苦しい立場で、それでも優しくあろうとして、その優しさはぜんっぜん母に認められず、悲しい立場である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
カイルがメディアの目でその矛盾と苦闘を見守っていることが、吉と出るか凶と出るか。
大統領選と排外/融和を巡って唸るだろう今後の物語は、お兄ちゃんの肩に重い。
チューが”家”から出て、魂の片割れを見つけ自分の思いを発表するメディアにも出会えた『恵まれた子供』であるのに対し、お兄ちゃんは自分の本性を母のため覆い隠し、冷え切っていても”家”を守ろうと必死で、しかし報われない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
自己実現全然出来ない苦しさを抱え込みつつ、黙って頑張っている。
アンジーを筆頭に、苦しい思春期を送る子供の描写が多い(そして巧い)このアニメでも、お兄ちゃんは一等応援したくなるキャラクターである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
今回照らされた母と娘の対比、歌と演説の対立に挟まれ今後さらに苦しい立場だろうけど、いつかお兄ちゃんが自由に報われてほしいと願っている。マジ可哀想…
デズモンドは失った恋人から何かを受け取り、歌として放った。それを聞いた者たちは蜜に誘われる蝶のように、彼のもとに集い名前と歌を残した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
その繋がりが、今まで自分を生かしてきたと、アンドロギュノスは語る。
だから、この絶唱を受け取って、あなた達も誰かに繋ぎ、繋がって欲しい。
言うべきを言い切って、伝説は瞳を閉じる。存在感が強すぎるキャラなんで、この一話で退場しないと話に影響デカすぎるからな…(良くないメタ読み)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
少女たちが初めて直面する”死”。写真に切り取られた永遠が、もう思い出になるしか無い切断
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これを受け取って少女たちがどう変わるか、変わらず自分たちの中にあるものを補強していくかは気になるところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
音楽家たちの聖域から切り離された裏方も、異質な存在と触れ合い、理解を深めていく。AI介護師の静かなキャラクターも、いぶし銀の魅力があった。
かくして、チームは伝説と一瞬触れ合い、硝子の世界卵から羽ばたいていく。夢のように預けられた祈りと歌が、彼らの中でどう育まれ、いかなるプシュケーが生まれるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
それは今後の物語である。確実に、ヴァレリーのポピュリズムと戦う話になっていくだろうな…。
母娘の桎梏を、他者性をシンプルに雑音と切り捨てる排外主義との闘いに重ねる展開は、多分アニメで食べるには政治性が強く、説教臭さが濃いネタになるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
しかしその根っこには、歌を求めざるを得ない人の性、多様な音素が混じり合いハーモニーになっていく面白さと詩情がある。
そういうことを事前に行っておくためのエピソードだったのかな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
今後展開は具体的で激しく、生っぽい方向に加速していくだろう。そうなった後でこういう、テーマをダイレクトに言ってるのにトーンは幻想的なお話を挟むと、すげぇ浮くと思う。このタイミングでしか出来ないエピソードと思う。
今回デズモンドの口を借りて紡がれた歌と祈りは、多分この作品のコアだ。それを現実の政治的、経済的潮流と重ね合わせたいのか否かは、今は問わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
そうであっても、そうでなくても。物語として太いパワーを持ち、少女と音楽のお話としてグッと胸に迫る馬力が出せるか、出せないか。
物語として面白いか、面白くないか。結局そこに帰結はするのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
その上で、かなりデカいヴィジョンがある話だと思えるエピソードだった。俺は好きだし、良い詩だと思いもした。
お話としてどう生きてくるかは、今後の展開次第か。結構刺さると思うんだが、さてはてどうかな。
サブタイトルはビーチボーイズの名曲。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
デズモンドがなぜキャロチューを呼び寄せ、自分の命を横においてでも伝えたかった祈りがどこに飛んでいくかは、解釈が分かれるところだ。
『神のみぞ知る』と訳すか、『誰も知らない』と受け取るか。デズモンドの過去を書きすぎない筆が、上手く謎を残した。
蝶たちはガラスの楽園から飛び出して、厳しい風が吹き荒れる火星で何かを届けられるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月1日
デズモンドの祈りがあくまで、無風の温室から生まれた微かな歌であることも、今回のエピソードは冷静に見据えている。
そこから出て歌で世界を殴りつけるのは、若い世代の物語であろう。次回も楽しみ。