ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
かくして時は流れ、少年は戦士となった。
目の前に突きつけられた白刃にも、溢れかえる血潮にも動じない殺伐の剣士。擦り切れた自分を支える唯一の柱…”復讐”のため、トルフィンは薄汚れた戦火に身を投じる。
竜殺しの騎士、心せよ。
悪しき竜血を浴びれば、汝も竜とならん
というわけで序章終わり! イングランド殺伐戦争開始ッ! という感じの、漫画だと第一話なお話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
色んな場所を細かく書き込み、作品世界のリアリティを立ち上げてくる筆はあいかわらず元気で、こ汚ぇ中世戦闘がいい塩梅で堪能できた。その”質”が、キャラが身を置く時代の風と匂いを、よく教える。
今回はある意味チュートリアル的というか、キャラはこういう連中で、時代はこんな感じで、ヴァイキングの生き方はこうで…と、小銭稼ぎの略奪行で見せるお話だった。連載第一話だと、ある意味当然か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
デーン人のイングランド攻略という、大きなうねりから外れたフランク人の小競り合い。そこへの乱入
だからこそディテールに徹底的に拘り、キャラが身を置く場所と時代、その空気を細やかに伝えることが可能になっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
トルフィンくんがこんなに荒む前、アイスランドの厳しくも温かい日常の描写と、解像度としてはおんなじ感じ。だからこそ、その荒廃がジワッと痛いね。
お話は湖沿いの砦を巡って展開するが、そこには戦争以外の生活がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
人々は死体から矢を回収して糧に変え、肉の痛みを神に祈る。湖側を開放しているのは、そこを通じて兵站や交易を行っているからだ。
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砦も、そこにいる人も生きている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
しかしトルフィンもヴァイキングも、そこにある生命を思いやる余裕は持っていないし、むしろそれを蹂躙することを命の術として選び取っている。
砦を必要とするフランスの地勢とは、切り離された傭兵家業。デンマークとイングランドの政治事情にも噛めない傭兵。
根無し草の巨大な嵐として、殺し奪い殺されていく殺伐の輩。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
父の復讐にすがり、『アイスランド人』と己を定義しつつも、トルフィンはすっかり『ヴァイキング』になってしまった。
幼年期は分不相応だった長剣も、すっかり馴染んだ殺しの相棒だ。
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『親の形見』である短剣を口に加え、言葉を一切なくした一匹の狼。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
それさえ持ち帰れば、アシェラッドと決闘が出来ると、身を投げ捨てて水に落ちることもいとわない盲目の獣。
そういうものに、トルフィンはなってしまった。トールズが最も忌む存在に。
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トルフィンが大将首を落としたことで、砦の指揮はガタガタになり、二方向からの侵入を防ぎきれずに落ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
しかし当のトルフィンに、そういう戦術意識はない。
アレさえ落とせば、望みが叶う。そういう狭い視界で突っ走っていく。あくまで一個人の視界でモノを見ている。
アシェラッドは戦間期の”バイト”として、フランク人の内輪もめに横殴りかける目端を持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
不可能とされる湖攻めを、超フィジカルな奇策で実現し、守備兵を分散させて切り落とす戦術を成功させる。
その視野は少し、トルフィンより広い。だが巨大な歴史のうねり、全てを見通せるほどではない。
迫る白刃に眉一つ動かさず、見事に殺し文句を並べてみせるトルフィンは、頼もしくも悲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
よっぴいてひょうと射た火矢も、英雄伝説の一幕というには堅実で、殺し合いがすっかり日常になった”ヴァイキング”トルフィンの生き方を、よく伝えてくれる。
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殺すの殺されるのも引っ括めて、全ては退屈な日常の一幕で、敵も味方も飯を食う。飯を食う存在としての人間を食わせるために、殺戮もすれば詐術も使う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
余りに生臭い人間の巷を、腰まで血に浸かりながら皆歩いている。ひどく不自由な場所で物語は進む
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食事を貪る顎、噛み砕く歯、そこに接続された口蓋は少しグロテスクに強調して描かれる。代官の化け蛙じみた非人間性は、ユーモラスであると同時に醜悪だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
そういう生っぽさの中を、トルフィンは生きている。生きて何をするかは、さっぱり分からないまま。
仇を討つ。今はそれが獣唯一の願いだ。
そのためには一座付きの忠犬のように、野を駆け言葉を伝え、二刀で殺して殺して殺しまくるしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
アシェラッドを憎悪し、収奪される富に軽蔑を投げつつ、仇と同じ生き方に捲くりこまれている。
外套と王冠をまとったアシェラッドも、また道化だ。
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足元を忙しく鶏が駆け回る、血みどろの生活。龍が空を飛ぶスペクタクルに反して、男たちの生き方は矮小で不自由、どうにも出口がない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
このまま殺し殺されを続けるのか。仇を討った後、仇と同じ怪物に堕ちた自分を見つけて、トルフィンはどうするのか
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フランク人は夜を駆けるロングシップを、伝説の竜、キリストの対立者だと恐れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
しかしその足元にはガチムチヴァイキングが群がっていて、飛翔が疾走でしかないことをが判る。
トルフィンの飛翔もまた、いつか落ちるただの跳躍でしかない。殺すためのジャンプが、墜落にならないために形見を使う。
掟破りの陸の航行で、アシェラッドは一人だけ地面に足をつけない。船首に彫られたドラゴンと同質化するように、堂々略奪の先頭に立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
その歩みが、一体どこに進んでいくのか。道化の王冠を被ったまま、略奪者として走り切るのか。別のゴールがあるか
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蛙の化け物を見事に欺いた知略、暴力的なスペクタクルの奥に、それを地面に縫い止める限界点が同時に匂うような、不思議な味わいのエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
刹那的には痛快なんだけども、同時に『その痛快さに身を任せて良いわけねぇだろ』と、エピソード自体が無言で語ってる感じよね。
戦況を見ると、正面ゴリ押しで行ってる時は弩隊(やっぱフランス歩兵はクロスボウだよな!)が集中して、攻城槌が機能する時間が取れてない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
トルフィンの乱入、アシェラッドの側面攻撃で二分されると、足止めできず門を抜かれる羽目に。
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露骨にファリックな攻城槌が、血まみれで己を拒んできた城門を新鉢破りするところには、ちと暴虐なエロスも滲んでいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
殺戮、蹂躙、略奪、破壊。特に理想もなく、勝利もフランスに置き去りにしてお宝だけ盗む闘いは、泥にまみれてスケールが小さい。それが彼らの日常である。
アシェラッドは側面攻撃の効果を理解していたけども、トルフィンは自分の特攻が戦況を大きく変えた、立派な戦働きであることを認識してない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
ただ首を取る。ただ決闘をし、仇を討つ。軍事面での近視眼は、自分の生き方への盲目にも繋がっている。
殺して、仇をとって、それでどうなる?
この問は、故地なきヴァイキングが嵐のように暴れ狂う生活を、たっぷり描いてから答えられるものだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
愚かしさも残酷も、上から目線で断罪するのは簡単だ。確実に間違ってんだから。
しかしそこに実感と血肉を通すためには、分厚い描写が必要になる。たっぷり”間違う”必要があるのだ。
幼年期からの歩みがそうであるように、今後トルフィンは間違え続けるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
智慧と図太さで先を行き、憎みつつ影響を受ける”父”アシェラッドも、また間違え続けるだろう。
世は全て、愚か者たちの劇場。本当に大事なものを置き去りにしながら、ヴァイキングは時代と運命の荒波に揉まれていく。
そこを微細なディテール、美麗な美術、ダイナミックなアクションでしっかり補強することで、生々しい生の実感が生まれてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
間違えるしか無い人の愚かさ、空飛ぶ龍に離れない限界が、すっと腑に落ちる。物語に奥行きと面白さを感じながら、作品と一体になっていく。
そういう体験が出来るぞ、と。すっと作品が自分を差し出してくるような、焦りのない第二章開幕でした。やっぱこの重厚感と落ち着きは、この作品の強みだなぁ…マジ面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
アシェラッド(とその”子”トルフィン)が”竜”に擬されることで、彼が敵対するべきキリスト教が今後どう描かれるかも気になった
お話は北(ヴァイキング)が南(イングランド・フランス)を侵略する歴史のうねりにのっかって進行する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
ここには宣教の南北格差があって、将軍は『キリストの名にかけて、パンを分かち合う』ことを誓ってたりする。
一方ヴァイキングがキリスト坊主をどう遇していたかは、過去見ればよく判る。
キリスト教が完全無欠の”答え”ではなく、略奪のブラックジョークに堕ちた”間違い”であることを、今回のエピソードは教える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
果たして荒々しい”北”は、南下し略奪する中で触れ合う新しい考えを、どう受け止めるか。あるいは唾して、斧でかち割るか。後のキリスト教王、クヌート登場を楽しく待とう。
あとフランク人が『ノルマンニ、ノルマンニ』言ってるのが妙に面白くて。あんたらも約50年後、”ノルマン人”としてドーバー渡ってイングランド征服じゃん、みたいな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
でも盲目のまま生活を突っ走ってる当事者に、年表なんて見えるはずもなくて。だからこそ『ノルマンニ、ノルマンニ』なんだろうな。
あらゆる人が未来を知らず、鶏のように地面を駆け回る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月20日
王冠は道化の証、殺戮は無明への近道。張りぼての竜は地面に落ちて、愚かさの中を駆け巡る。
そんな狂奔の活力と、出口の見えない息苦しさが同居する、いいお話でした。
そんなどん詰まりから、運命はどこに漕ぎ出すか。次回も楽しみ。