キャロル&チューズデイを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
夢のように降り注いだ火星の冬が終わり、破滅の季節がやってくる。
タオの逮捕。アメルとの再開と、エゼキエルの拘束。加熱する政治の熱量に反して、少女たちは全き黄金の中に立ちすくむ。
その幸福が、揺らぐときが近づいていた。
そんな感じの最終序章、色んなものが揺らめくキャロチュー第19話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
選挙屋と大富豪が手を結んだ、移民排斥のムーヴメント。ヴァレリーをカカシにおっ立て、火星の実権を握ろうとする動きが、タオを、エゼキエルを包囲していく。
彼らに眼差しを向ける少女たちも、政治の季節と無縁ではいられない。
そういう場所に、主役を追い込むエピソードである。権力の濫用と、倒れ伏す母。アンジー周辺が相変わらずハードコアで、キャロチューが呑気にアーティストやってる姿と、ちと懐かしい対比だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
が、そのキャロルも昔なじみがプロテスト・ラッパーとして政府に盾突き、拘束されたことで陰りに近づく
ずっとアバンで予告されてきた奇跡の七分間が、一体何を生み出すのか。その瞬間が近づいているのだなぁと思わせる、ジリジリとした息苦しさである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
お話はマーズグラミー新人賞を巡る、ライバルの対比から始まる。健全にライバル心を燃やすキャロチューと、ギラついた野心を宙に彷徨わせるダリア。
ブラックナイトが迫った時は、アンジーの方を確かに向いていた視線は、薄暗さを宿して虚空を見つめている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
自分の願いを叶えるための代理品。失敗を贖うためのコピー。それが損なわれることが痛かったから、守ってる素振りを見せた。
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後の衝突を思うと、なんとも哀しい視線のすれ違いである。体が弱って、一番黒い表情が出たんだと思いたいけど…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
タオの方も、どす黒い陽光の元”親”にあう。身寄りのない天才児を引き取り、野心のために再利用しようとするシュヴァルツ。その接近を、タオは蹴り飛ばす。
人間が分からなかったから、AIで分かろうとした。人間性のレプリカを作り上げる過程で、ヒトの在り方がわかると思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
タオが淡々と積み上げるオリジンは、人間の真似事でヒトになろうとするピノキオを思わせて、痛ましくも熱い。
冷静に人間機械をなぞる指には、”知りたい”という羨望が確かにあった
最後にダリアがぶっ放す、アンジー出生の秘密。それを思うと、シュヴァルツとの疑似親子関係は重要だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
共に、"親"の便利な道具として欲望に塗れ、それでも不器用に”私”であろうとした子供。彼らは共に”歌”を求めて、冷たく出会った。運命が、熱く燃え上がる。
しかし”親”は、子らの自由を許さない。
シュワルツが手を回した逮捕劇で、迫るのは生身の人間だ。これまでAI保安員がセキュリティを担当するシーンが多かったので、人が取り囲む姿は新鮮だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
それだけ、タオが抱える技術が権力中枢の願望に近く、取り逃がせない獲物だ、ということか
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シュワルツは火星全体をマネージメントするべく、選挙と民主主義をハックしにかかる。タオに迫った司法の手は、その尖兵だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
AIだけが道具的存在なのではない。人間ならば、無条件にハックを免れているわけでもない。
そんな危うさを知らないまま、キャロルは思い出に向き合う。
時間を簡単に飛び越えられると、挑んだ緑のリンク。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
青年はアメルとエゼキエルの間で揺れながら、崖っぷちに足をかける。安全圏で見守るキャロルとの断絶が、なかなか意味深である。
一足先にプロテストした親友が、足元の危うさを教える。
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あの時は同じ場所で、同じ風景を見てた。相棒から切り離された個人的体験を経て知ったのは、自分が何も知らないということ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
それすらも納得できないまま、キャロルは次ナル曲へと進んでいく。隣には、いつでも魂を分かち合える親友がいる。
その充足が、実は彼女を世界の中枢から遠ざけているのでは?
そんな疑念も湧いてくる、社会派ラッパーとポップシンガーのすれ違いである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
エゼキエルは”アメル”という本名を捨て、戦闘的な移民の代弁者としての名前を名乗る。別の人格、別のストーリーを名前と一緒に背負うことで、望むべき表現を掴み取る。
ナチュラルではなく、だからこそ強い闘争法。
キャロルはそういう風に、自分を鎧う必要がない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
アーティガンが”アーティガン”でなくなったことに思い悩む第17話、あるいは舞台裏で追い込まれていたヨシュアの苦悩に、多分彼女は共鳴できない。
ナチュラルなまま満たされ、別の誰かを想起する必要のない充足。それはつまり、欠乏の不足だ。
エゼキエルが指を突きつけるように、火星は欠乏で満ちている。自由の不足、言葉の不足。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
攻撃的なヴァースでそれを顕在化させたエゼキエルは、不法移民”アメル”として拘束される。その事実だけが、キャロルもまた崖の間近にいたことを思い出させる。
だがそれは、まだ対岸の火事だ。
みっしりと詩作に溺れ、お互い背中合わせに満たされて光を見続ける。かつてあり、今も損なわれていない幸福な充足。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
世界は悲惨で、政治は大変で、それはそれとしてわたしたちの夢は、現在進行系で走り続けている。
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第1クールなら、それを確認してサクセスが転がっていっただろう幸福を、エゼキエルの曲と遠い銃声がぶち破っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
不法移民を正当に吊し上げに来た移民管理局も、また生身の人間であった。
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メディアを通じて拡散する歌が、(たとえばN.W.A”Fuck the Police”のように)反乱の火種となるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
それが煽るのは直接的な暴力なのか、精神的な不撓なのか。
語る口を封じられたまま、エゼキエルは拘束され、歌が届かぬ地球へと送り返されていく。
果たしてそこに、どんな思いがあるのか。過激派ラッパー・エゼキエルの反逆が火の粉を飛ばさぬよう、昔馴染みを遠ざけた青年との友情は『古びたスニーカー』なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
チューズデイは確かめていくだろう。
それが、もう子供でない、一個人として影響力を持った彼女を反射する、重要な鏡になるだろう。
政治の季節は、静かにうねる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
第18話で妹の甘酸っぱい初恋(の破綻)の舞台となった『いつもの席』に、お兄ちゃんは足を運ぶ。自分ではどうにもならない巨大なうねりに、少しでも棹をさすために。
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カイルが嗅ぎ取った、対立の火種の出どころ。政治信条…ですらない、選挙屋の数字操作のためだけに破壊された天候プラントと平穏。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
身近な所で、崖っぷちから世界を覗き込んでいる男たちがいることを、チューズデイはまだ知らない。真実を問うための鏡は、存外近くにあることを。
そしてアンジーの鏡は、凄まじい速度で歪み、壊れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
タオが去ったあと残された、自分のレプリカ。真実を託された鏡像を、アンジェラは『偽物』と拒絶する。
だってそれって、ナチュラルじゃないわ。
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タオが人間の似姿に込めた思いを鑑みれば、そこにナチュラル/非ナチュラルという在り来たりの線引を超えた真実があることは、僕らには分かる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
でもアンジーもママも、そんな真実を知らない。少女は自分を見てくれない寂しさに、母は自分の代用を完成させる切望に突き動かされて、激しく軋む。
お前は何も考えず、誰かのコピーでありさえすればいい。それが”ナチュラル”なんだから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
ダリアの押し付けに、アンジーは涙ながら反抗する。自分の手を噛んだ人形を前に、ダリアの表情が歪む。
壊れる機械。叩きつけられる真実。
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『自分が何者かも知らないくせに!』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
ママの言葉は、アンジーだけに投げられたわけではない。皆、自分が何処にいて何者なのか、何も知らないまま加熱する世界に身を置いている。
みなし子として、”親”との関係に摩擦を高めながら、利用されるがままの生き方に背中を向けている。
真実そこから漕ぎ出したいのであれば、鏡をしっかり見つめなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
自分とよく似た、しかし”ナチュラル”ではない道を進んだ青年。
不器用な人間志願が願いを託した、鏡合わせのレプリカ。
あるいは、同じ音楽家の夢を見た兄。
目を向けるべき鏡は、そこかしこにある。
でも、あまりにも乱雑に加速する混沌を前に、少女たちは当然当惑する。ぶっ倒れたダリアを見下ろすアンジーの、硬直と当惑。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
それを置き去りに、世界は加熱する。孤独は加速する。アンジーは再び、どうしようもなく一人ぼっちだ。
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ここら辺、恋が破れようが、昔のダチとすれ違おうが、お互いが待ってるキャロチューと好対照だな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
同時に”みなし子”という属性が、静かに子供たちを繋いでもいる。
誰かの代用品として抑圧に巻き込まれるのと、特権的にナチュラルであり続けること。
光と陰りに分断されながら、アーティストたちの人生がうねる。それが何処に流れ着くのか。歌は何かを変えうるのか。誰も、知るものはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
ただ、それぞれの崖っぷちに足くらいはかかった。そこに追い込むために、それぞれの物語が転がった。
そういうエピソードでした。
第2クールでちょーっといい感じに浮上したと思ったら、まーたアンジーがどん底を走っており非常に辛い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
しかし満たされているものが見落としがちな陰りを、既に知っていることが何か、彼女にアドバンテージをもたらす…と良いなぁ…。
主役とライバルのバランス感覚は最後までハラハラしそうだ。
キャロチューだって彼女らなり、光の中の陰りを学んでも来ている。エゼキエル、あるいはスペンサーという鏡だってある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月6日
そこに己を反射して、自分自身を知ることが出来るのか。それを通じ、加熱する世界に飛び込めるのか。
少女たちの変化を問う最終章が、静かに滑り出しました。来週も楽しみ。