グランベルムを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
月色の眼球が見下ろす世界で、最後の戦いが幕を上げる。
一千年の渇望と怨嗟を、溜め込んだ魔水晶。
月に愛された子供と、その思いの結晶たる人形。
試すものと、抗うものと。むき出しのエゴをお互い叩きつけながら、死闘は白熱し、加速する。
さようなら、私の人形。
そんな感じの、激! 最終決戦前編!! というお話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
バッキンバッキンに動き回るロボバトルの中に、それぞれの激情と象徴性が踊り狂い、魂を乗せた一撃が交錯する。
アクションそれ自体がキャラクターとドラマを表現し、研ぎ澄まされた運命が火花を散らす。
非常にグランベルムらしい描画でした。
今回はとにかく”眼”の話で、具象としての眼球のドアップ、瞳のメタファーに重ねられた星や月が画面を専有するエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
時に口より物を言う、感情の表出機関。愛を伝えることも、呪いを発現することも出来る複雑な装置。
その多様性が、高速で展開するロボバトルの中で大暴れであります。
お話は水晶が涙雨に濡れ、一千年の徒労に星を見上げるところから始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
選ばれない無念、終わらない闘い。それでも求める魔力の源を、選ばれた主人公は瞳に宿す。水晶が聞けない魔力の声を、水晶は特別に聴いてしまえる。
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水晶が悪魔的な存在であるのは、悠木碧フルスロットルの最高演技を聞けばよーく判るけども、それは非常にキリスト教神秘主義的な、あるいは上座部仏教的な”悪魔”だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
それは人の聖性を試すために神に寄って創られた、生来の試練。その役割を果たすべく勤勉で、仕事をおろそかにせず”悪”を為す。
悪徳に人を引きずり込む使命を帯び、同時にそれを否定されることを最初から約束された存在。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
怠惰を弄びつつ誰よりも勤勉。神の子たる人間の敵対者として設定されながら、誰よりも神を愛す。
生まれついての矛盾存在。袴田水晶はポップなイメージからかけ離れた、非常にストイックな”悪魔”である。
水晶は己の神たるマギアコナトスに選ばれることを焦がれ、しかし試練として設計された以上絶対に選ばれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
課せられた使命は、立証があまりにも困難な”悪魔の証明”だ。
『全人類が魔術師不適であることを証明しろ』という命題は、全人類をグランベルムに参加させなければ終わらない。
一方、神に愛された新月が背負う命題…『人類は魔術師に適していることを証明しろ』は、新月が座にたどり着けば終わりだ。そして神は、新月が魔術師たることを強く望んでいる。
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その出来レースは、しかし楽なものではなかった。
家族、友情、平穏、愛。月の子が望んだものは、全て手から滑り落ちた
お互い望むものを、けして掴めぬ鏡合わせ。神の子と悪魔の最終決戦は…まぁ大概悪魔の負けで終わるんだが、悪魔には悪魔の意地と悲しみがあることを、大暴れ水晶先生がよーく教えてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
正体いろいろ考えてたけども、試験役にして勝利者であり、ループ経験者だったわけか…欲張りてんこ盛りだね。
水晶は求めて届かぬ月を、必死に求める。彼女を駆動させる愛という名のエゴは、勝利者の条件を満たさず戦いは終わらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
その表情にある悲痛に、同情したものか嘲笑したものか、なかなか迷う。彼女もまた、ヒトという名前の怪物なのだろう。
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月追いて、求めて答えぬ想い人。孤独な水晶に対し、主役たちは背中合わせにお互いを支え、瞳を交錯させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
白紙の起源に、日常という奇跡を焼き付けた満月はもう迷わない。自分が生まれた意味も、求めるものもその手の中にある。
アルマノクスと魔術師のシンクロが良い。
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しかし奮戦届かず、試練者の圧倒的な実力は新月を消す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
Bパート入ってからはマジで眼球祭りで、『バタイユかよ』と思わず突っ込んじゃった。
絶望を煽るように、蛇の瞳に人形が映る。絶望に吠え、世界を切り裂く漆黒の刃。見開かれる肩口の”眼”。
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『世界なんてどうでもいいくせに』
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
魔力に満ちた世界、世界に満ちた魔力を誰よりも愛する悪魔の言葉を追うように、黒い刃はマギアコナトスを壊す。
エゴを暴走させ、我欲に突っ走る。大抵のフィクションだと否定されがちな黒い一撃を、白い人形は強く強く掴む。
それこそが、答えだと。
ちっぽけなエゴイズムにしがみつき、特別な誰かを愛する。
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それは新月の人形として生まれた少女には当たり前の生き方であり、同時に特別な奇跡だった。
家族、友人、世界への愛情。白紙の自分がそれを掴めた思いがあれば、それが消え去るとしても悔いはない。
世界を引き受けるには足らない凡人だったから、ありふれた日々に満ちた奇跡に出会えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
つまらないエゴを振り回すから、ここまで戦えた。
今まで瞳がなかったアルマノクスの”眼”に意志がやどり、満月は悪魔に肉薄していく。
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ここでロボデザインをシフトさせることで、エゴイズムに特別な価値を与えるドラマの熱量を加速させるのはホント天才の所業だな、と思うわけだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
無機の白い瞳に、人の光が宿る。それは新月の人形(アルマノクス)である満月の意志とシンクロするわけだ。
それが見つめる魔力の精髄も、瞳に似る。
見る/見られる。相互反射であり、相互侵犯でもある関係は刃に変わり、激戦はホワイトリリィを削り取っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
両腕をもぎ取られた人形が、花のように咲いていくのが悲しかった。新月の魔力は、いつでも咲くはずのない蕾を開花させてきたから、新月のお人形も”咲く”のだ。
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最初は人形を見下ろす位置にいた悪魔が、定められたルールを乗り越えて咲き誇る満月に追い抜かれ、下につく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
その激戦に隠れて、新月は静かに星を目指す。今までの闘いが積み上げたもの、世界が残酷に忘れていくものを集めて、天を掴むために。
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その犠牲となる人形の言葉を、瞳の中に捉えながら。新月は天を仰ぎ、涙を振りちぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
泣けない主の代わりに一筋、光の涙滴をこぼすヴィオラカッツェが忠義者である。人間味のあるアルマノクスのデザインが、『願いの結晶』という設定を反射して、非常によく機能している。
その身を砕く激戦にも、満月は微笑む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
己が生まれてきた意味は、既に掴み取った。これから先進むべき道は、新月が果たしてくれる。
主のために生まれた人形は、微笑みながら壊れていく。その忠義と友情が、あまりに痛い。
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ここで一瞬、水晶の眼が狂的ではない強い光を宿すのが、悪魔の献身に報いているようで好きだ。彼女もまた、定められた運命に抗いつつ、手の届かないものを求め走ってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
人形は、造物主に忠実に仕える。それは確定したルールであり、同時に強い意志を秘めた決意の果てでもある。
アルマノクスの人形と、新月の人形。二つの忠義と欲望が衝突する時、そこに満月の顔はもう無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
人の形をしていることが、愛を証明する唯一の条件ではない。機械人形でしかなかったとしても、全てを賭して掴みたいものがあるのならば。
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それでも、ヒトとして触れ合った一瞬の奇跡は、余りに甘く痛い。一千年の慟哭を乗せた嵐に引きちぎられる時、新月は振り返る。約束を破る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
思いの結晶たる魔石が砕け、満月は人の形を捨てていく。最後に一瞬見えたのは、あなたのお人形。
散るべくして、白い百合が散る。
顕になった星への路(パス)で、新月は瞳を隠し、再び見上げる。涙の先にあるのは、無情に輝く天の瞳。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
月を掴み、月を否定するためには悪魔を超えなければいけない。試練者として定められ、誰よりも星に焦がれたものを。
月の子たるものは、一体誰か。
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最終決戦が、共にアルマノクスに愛された宿命の姉妹なのが、運命のうねりを強く感じさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
片方は勝利を約束されながら、人である幸福を求め弄ばれた。
もう片方は敗北を与え続けながら、掴めるはずのない勝利、月による肯定を待ち続けている。
新月が一番欲しかった”普通”は、思いの結晶たる彼女の魔石は砕かれてしまった。涙を闘志に変えて、救世主は悪魔を睨めつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
水晶は嘲笑う。それが悪魔の生まれた意味だからだ。試し、立ちふさがり、いつか破れることを約束しながら、神に焦がれる。
歪んだ鏡に反射した、忌むべき月光。マギアコナトスの無言の愛は、誰も幸福にはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) September 24, 2019
それでも、魔術師は月を求める。激情を込めて、その輝きを見据える。
次週、最終回。哀しみも理不尽も、愛も夢も全てを見据えてきた瞳は、何を見、何を見せるか。非常に楽しみです。
追記 僕と悪魔と千の恋文
グランベルム追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
マギアコナトスに試験官として製造された水晶と、新月の渇望が生み出した満月。
二人の人形は世界とエゴ、どちらが真実なのかをぶつけ合いながらバチバチ戦っていく。
ラスボスが超公平で、私欲を超越した倫理を背負っているのは凄く面白い転倒だと思う。
ここで満月がエゴの側、水晶が世界の側に立つのは、それぞれが人形として生まれた根源をそのまま反映している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
新月の個人的な寂しさ、人間的な”普通”への渇望を背負った満月は、主の願いを叶えるべく一個人としての愛を貫き、散っていく。
水晶は抽象的な力のために、それを背負うに足りる魂を試す。
それが顔のない現象ではなく、”袴田水晶”という名前と人格に固定されてしまったのが水晶の悲しさであり、『世界全てを引き受けうる人格を探す』という公平さは、彼女個人のエゴとして発露するしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
エゴを公平さで塗りつぶすエゴという、根源的な矛盾。それが彼女がプリンセプスになる道を閉ざす
創られたときから、お姫様(プリンセス・エプス)に絶対なれない宿命に囚われた魔女。その矛盾を呪いつつ、1000年誠実に人間を試し続けた、グランベルムの付属装置。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
その個人的な絶望と渇望がよく見えたのは、最終話一個前としてとても良かったと思う。彼女が悟った装置なら、こんなに盛り上がらん。
エゴを否定し、魔力に満ちた世界を無私に見ることを望みつつ、エゴの塊として変顔し、絶叫する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
袴田水晶はとても人間臭い。その人間性は間違えたり、開き直ったりという方向性ではなく、絶望してなお希望と愛を捨てられない、報われない願いに全てを賭ける尊さで支えられていると、僕は思う。
人間の悪性を罵りつつ、いつかそれを乗り越える日を待ちわびる。やっぱ”悪魔”だなぁ、と思う。その言葉の一般的な意味ではなく、聖人譚で幾度も描かれた、非常に正統な意味での”悪魔”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
そしてエゴの超克は、一個人としての記憶と奇跡を噛み締め、己を捨てて道を開いた満月の在り方で果たされている。
敵対者として製造された悪魔にとっての救済は、つまり聖者によって打破され、エゴを超越し世界と対話しうる奇跡を証明されることでしか為し得ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
水晶が報われずに倒れていくのは、ドラマとしても文脈としても必然なのだが、僕はやっぱり満月の献身に向けるのと同じ視線を、”悪魔”に向けたい。
舌鋒豊かに人間の傷をなぶり、煽って倒す。弱さを抉り取り、強さを見せろと迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
しかしそこに、奇妙な人工性があるような気もしつつ袴田水晶を見ていた。彼女もまた一人の人形であると見えた今回、その違和感が腑に落ちた感じもある。
多分、人間の弱くて汚い部分を見ても水晶はあまり楽しくないのだ
人間試練として機能するためには、それを快と感じるよう設計されないといけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
だから人の弱さを収集し、醜さを加速させる”仕事”を誠実に頑張るんだけども、水晶自身は人間に価値を認めていない。弱く、醜くなるほどの相手がいない。いるけど、手が届かない。
ここら辺、思う存分醜くエゴをたぎらせ、漆黒の暴走フォームを『これが私の力だ!』とばかり堂々吠えた満月とは正反対である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
個人のエゴから生まれた人形は、主としっかり抱擁し、別れることも含めて己達の愛(エゴ)を証明しうる生き方へ、たった二人で進むことが出来た。
負けることで人形の本分を最高の形で達成し得た満月に対し、水晶の本分は敗北と勝利に分裂する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
勝って神に愛されることを望みつつも、人形としての仕事は敗北することにある。
負けたくないが、勝てもしない。悪魔は矛盾の中にあり、人形は矛盾を超越した。
その渦の中で、新月という人間は何を見る
今回満月の物語を最高に燃やし尽くし、その反射でもう一人の人形、袴田水晶の矛盾と誠実がよく見えたのは、とても良い作りだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月24日
もう語るべきは、世界と個人しか無い。
神に向き合う資質を持った唯一の人間として、新月はいかなる契約を結ぶのか。十分時間はある。むっちゃ最終回楽しみ。