BEASTARSを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
学園という檻の外には、自由と欲望がある。
隕石祭打ち合わせのために、街に繰り出したレゴシ達肉食獣。
本能を吐き捨てる”裏町”に漂う、血の匂いをしたカオス。それを制御せんと奮戦する、力持ちのパンダ。
複雑怪奇な大人の階段は、上りか下りか。俺たちは、どこにいきたいのか。
そんな感じの、世界観がグッと広がるエピソードである。学園の清潔で統制された、あえて言えば生温い空気を物理的に突破して、見えた世界のスタンダード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
草食獣の指に値札が付き、大人へのイニシエーションとしてそれを齧る世界。そんなリビドーに押し潰されて、人間の輪郭が壊れてしまう世界。
ドギツいエグさがムワッと迫ってきて、世界のハラワタを覗き込んだような嫌悪と興奮が同居する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
この世界設定ならば、確かに存在していなければおかしいだろうな、という場所と人間。
大人と子供の狭間で迷う青年たちが、目を向けなければいけない”現実”が、残酷なイマジネーションで冴える。
お話はまず、善良な檻の中でスタートする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
TVの向こう側で起きる惨殺は確かに現実の側面で、肉食青年たちは遠巻きな空気に、悲しいかな慣れてしまっている。
肉食は草食を食う。建前じゃ存在しちゃいけないが、ガキでもそれが本当だってのは知ってる。
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同時に、フィジカルな強さだけが社会階層の全てを決めない所が、人の世の難しさだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
ハイイロオオカミは、最悪の食人種。そういう偏見をむき出しに、いたいけな少女を追い詰める時、弱いはずの雑食性動物は嘲笑っている。
誰かをいたぶり、踏みつけにするのは気持ちがいい。
強すぎる肉食の資質を型にハメて、なんとか同居している軋み。一見清潔で平穏な学園にだって、いじめや偏見や暴力が滲んでいるのは、今までも見てきたとおりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
肉食だろうと、弱そうなやつは餌食になる。『隣人を食わない』という社会のお約束が、クズを守るバリアーとして機能している転倒。
そこにレゴシは切り込んで、ジュノをヒロイックに救い出す。助けることは前提で、どう助けるかを悩むあたり善良な狼ね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
一年と二年、輝く正ヒロインと陰気なネクラのギャップを、レゴシは真摯に乗り越えていく。
本気で悔しがれるのは、とても大事なんだ
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訳知り顔で諦めて、理不尽や不快感を飲み下して。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
そうやって防衛策を覚えていくことが、大人になることじゃないのはレゴシも知っている。
でも真っ直ぐな光だけじゃ、明暗同居する複雑な世界を渡ってはいけない。身を縮めて、牙に鞘をかぶせて生きていくのも、無責任だと判ってきた。
そんな彼は、年下の同族異性の涙を真っ直ぐ見つめる。真摯な男である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
後々判ることだが、ジュノはルイにも似た生来のエリート気質というか、堂々真っ直ぐ立って生きることに躊躇いが少ないタイプである。
それを予見するように、彼女には天然のライトが付いて回る。生来の”主役”だ。
ハルちゃんともまた違う、ジュノのライティング。それがレゴシの未来をどう照らし、影を深くしていくかは先の話だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
まぁジュノー…ギリシャ神話で言えばヘラーが名前の元なんだから、見た目通りの綺麗なヒロインってだけではないのよ、この子。そこが好きなんだけどさ。
寮生活の息抜きも兼ねて、街へ繰り出すケモノ達。ルイ先輩が、裏方をしっかり見張ってるところに面倒見の良さを感じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
ガラスに反射する自己像、闇の向こうに輝く裏市。”外”への期待と不安が、曖昧なシルエットを描く夜。
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”食わない”ことを後に選ぶ二人が、曖昧で複雑な陰りを一緒に見つめているのは示唆的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
あまりにも広すぎる外界。学園では遮断されていたノイズ。開放感と孤独、居心地の悪さと広大さ。
街は青く、安全で多彩だ。
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ここで青く清潔で、整然とした多様性が息づく”街”を見せておいたのが、後々聞いてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
この清潔さは、リビドーを裏市に吐き捨てることで成立している。不都合な本能に蓋をして、キレイなものだけ寄せ集めたパッチワークの仮面。
それがこの青い街で、食うものと食われるものが同居する世界の理想だ。
本音と建前を両方システムで補強して、平然と運行されている大人の世界。そこに私服の少年たちは、上手く馴染んでいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
世界は広すぎて、子供たちは小さすぎる。空を飛ぶ自由、平和にやっていく成熟に憧れつつも、それを己の属性と引き受けるには、実感と成長が足らない。
そんな未熟さが、ゴツゴツ衝突するファーストフードショップ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
ビル・ザ・マッチョタイガーは捕食だけでなく、性に関しても開けっぴろげな態度を取る。あるいは演じる。
俺はナチュラルな肉食系。セックスの話もバンバンしちゃうぜ。
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殴り合いを陰湿に引きずらないマッチョ気質に救われつつも、レゴシの中にあの”赤”は刻まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
思い出の鮮血に引きずられるように、慣れない外界に子供たちは迷い、世界の色彩は夕景から夜闇へと変わっていく。
青く清潔な建前を抜けて、薄暗い本音に切り込んでいく。
それは赤い”匂い”として、ハイイロオオカミに知覚される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
肉食獣が本音を吐き出し、快楽を貪って仮面を付け直すための掃き溜め。嫌悪され、同時に必要不可欠と求められるリビドーの園。
指一本、七万也。それが楽園のハラワタだ。
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人体に値札が張り付く生々しさは、売春、あるいは臓器売買の悪徳を匂わせ、猛烈にエグい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
その対象が、魅力的とは言えない老人なところに、この作品の特殊性と普遍性があると思う。肉食が求めるのはまず”肉”であり、犠牲の性別も外見も、涎の後にひっついてくるオマケでしかないのだ。
背中を曲げ、対等な視線で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
ハルちゃんと名前を交換し、人として向き合った交流と、名前も知らない”肉”との接触が重なっていく。
目の前のみすぼらしい老人と、愛すべき白兎。それを分ける分水嶺は、一体何だ?
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結んだ手と手。食う/食われるを超越した、人間らしい関係。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
そういう綺麗事をぶっ飛ばす、否定しようのないグロテスク・リアルがそこにはある。臭気は鼻にまとわりついて、涎はいくらでも湧いてくる。
どう転がっても、俺達は動物に過ぎないのだ。
ビルはマッチョな自己像に駆け足で追いつくように、七万で肉を買う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
その”本音”を食ってしゃぶって血肉に変えることが、現実を諦めることが『大人になる』ってなもんよ、と。
緑の壁面が生み出す、光と影の分断。陰気なレゴシは、このとき光に身を置く。
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青臭い理想を投げうって、とっとと現実に白旗上げてしまうマッチョタイガーに、ハイイロオオカミは毛を逆立てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
アオバは間に入って、肉食のTPOを説く。
ここは学校じゃない。猥雑な輝きがギロリと輝く、裏市の真っ只中なのだ。”本音”の側の世界なのだ。
そう、自分に言い聞かせる。
この麻酔剤が、アオバの青臭い倫理観を麻痺させてくれなかったことは、物語の最後に判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
皆が大人になっていく。肉食のどうしようもなさを当然と受け止めて、”食うもの”として己を定義していく。
そこに取り残された孤独に、己の中で吠える獣の軋みに、
レゴシは身を丸める。エゴとリビドーが重い。
緑色の怪しい光。裏市の歓楽すら届かない深い闇の中で、レゴシは大量の涎を垂れ流す。それを生み出す赤い誘惑を、3Dの表現力を活かししっかり見せているのは流石だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
悩める怪物に、颯爽登場、謎のシルエット。無明の闇にも、光は差す。
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しかしそれが、優しい出会いとは限らない。縛られ、ぶん殴られ、ゴウヒンさんはクソガキにハードコアな現実を教えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
人を喰うってことは、自分を食い散らかすってことでもある。壁に貼り付けられた、心療内科医敗北の記録。
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ゴウヒンさんは学園の外側にある世界の本音を、レゴシ青年に(文字通り拳で)叩きつける教師だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
同時に優秀なカウンセラーでもあり、曖昧な青年の自己像を写真に取り、言葉と対話で輪郭付けていく。
フレームに切り取られた自己像と本気で向き合わない限り、待っているのは壁の犠牲者だぞ、と。
ビルが飲み込もうとした『肉食は装飾を食う』という本音が、ゴウヒンさんの登場で裏から照らされるのは面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
食った側の加害者も、強く傷ついて自分を殺してしまうことがある。
マッチョ志望の子供がシンプルに思い込むほど、世の中単純には出来ていない。人が人を喰うのは、重くて複雑だ。
ゴウヒンさんは食うことを当然視し、”肉”を提供する裏市の只中に身を置きつつも、希望を捨てていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
肉を食ってなお、獣になりきれない怪物を人間に留めるべく、体を張って戦うことを選んでいる。
それは暴力を上回る武力、本音を飲み込む理想を必要とする、厳しい道程だ。
あくまで医療従事者であり、本音と建前、理性と本能の狭間…レゴシが今グラグラ揺れてる足場そのものに身を置く同士だと、ゴウヒンさんを認めて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
レゴシは光溢れる私室、獣ではなく人間が住むべき場所に、居住まいを改める。
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殴られ、刺され、殺されかかる。そんな理不尽に対抗するべく、太くなった二の腕。顔の傷。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
世界の広さと醜さ、そこに反射した自分の孤独と本能にうずくまっていたレゴシに、ゴウヒンさんの生き方は何かを教える。『苦い笹茶も、飲み込んでみていいかな』と思わせる”何か”を。
”笹”というパンダの食物を飲み込ませることで、ゴウヒンさんの存在をレゴシが認めたのだと分からせる演出は、なかなか好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
本音で分かり合うってのは、必ずしも赤い血を啜ることだけじゃない。しかしそれと向き合わなきゃ、道は見えない。
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捕食本能が変形した、歪な愛情。ハルちゃんに向ける思いが、自分も他人も食い殺す怪物だと”大人”に指摘されて、レゴシ青年はシュンと耳を丸める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
性も暴力も、世の中のむき出しは良く分からない。そんなボーイに、パンダは草食エロティシズムをシリアスに差し出してくる。
異常性癖の変態なら、まだ処し方はある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
だが愛情と殺意が鋭く入り混じり、特別な”だれか”を喰いたいほどに求める牙になっているのならば、未来は険しい。
性衝動と暴力。『子供にはまだ早い』と遠ざけられがちな、R-18のリアルを、ゴウヒンさんは隠さず突きつける。
向き合い、闘い方を覚えろ、と。
上から”正しい”結論を叩きつけるのではなく、個別の難しさに当事者として向き合い、一緒に解決を引き寄せようとしてる所が、医療従事者だなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
悩めるレゴシに必要なのは、キレイなだけの理想でも、型に嵌まった本音でもない。同じ傷と苦しさに向き合ってくれる、不思議なパンダ医者なのだ。
世界。裏市。理想と本音。理性と欲望。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
複雑怪奇な”大人”の世界を一気に詰め込まれて、レゴシの脳髄はパンク寸前だ。粘つく雨を蹴り払って、真っ白でシンプルな答えに飛び込みたいと、衝動が吠える。
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でも世界は、そんな単一の答えでは描かれていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
万色が混ざり合わないまま、複雑な色合いで輝く夜景の只中で、友達が待っている。
食えなかった。”大人”になんてなれなかった。
アオバ…それでいい。それでいいんだ。
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清廉の青。欲望の赤。罪色の闇と、希望を捨てない光。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
レゴシが”外”で出会った複雑さを”白”で塗りつぶしたい、と願った後に、この美しい色合いを叩きつけてくるのは凄く良い。
色んなものがある。飲み込めないまま、その複雑さを一つずつ味わっていくのは、とても豊かなことだ。
自分の弱さを隠さず、食えないと吐露しつつ鋭く光る嘴。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
そこにどうにもならない自分たちのリアルを見つけたから、レゴシの瞳には涙が光るのだろう。
喰いたい。でも喰えない。
そんな俺達が、この虹色の闇の中でどう生きていくのか。さっぱり分からないけど、一歩ずつ。
そういうレゴシの迷いと発見に、優しく寄り添う外出エピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
グロテスクな裏町の”本音”で止まらず、そこでなお人間の証明と取っ組み合ってるゴウヒンさんと出会わせて、安易なニヒリズムに作品を落とさないのが好きです。
喰いたいのは事実。でも、喰いたくないのも事実なのだ。
両立し矛盾する、多彩な色彩。けして単一の色彩に塗りつぶされてくれない、複雑怪奇な自分と世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
レゴシと友人たちは、そういうモノに向き合う季節にいる。傍から見てりゃキレイかもだが、当事者としちゃまっぴら勘弁、厄介至極。
そういう青春の苦々しさ、生々しさが、ズイと迫ってくる。
今回描かれた”外”の事情から、学園に帰ったレゴシ達は隔離され、また接近していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月14日
モラトリアムの檻、理想を演じるステージ。物語は貪欲に広がりながら、新しい局面へと転がっていく。何かを手に入れ、何かを失いながら。
来週も楽しみです。