バビロンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
世界を静かに侵す、自殺法の波。その渦中に揺らされるアメリカの王は、穏やかに黙考する。
賢人王の膝下に滑り込み、事件の現場へと再度流れ着いた正崎善。荒んだ瞳のままたどり着いたハートフォードで、彼は蛇の声を聞く。
囁きが忍び寄り、知らぬ間に世界は変わる。
つーわけで、バビロンアメリカ編第二章、一生喋ってるエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
元々ネームの多い話であったが、愛ちゃんは舞台裏に引っ込んで暗躍してるし、大統領はめっちゃ考える人だし、正崎さんもうっそりむっつりだしで、状況は静かに進行する。
その静けさが、むしろ怖くもあるが。
国家の中心に座る大統領は、頼りないほど慎重に情報を集め、静かに考え続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
その最中でも最高権威としての仕事はしっかり果たして、中央政府に必要な”穏やかな示威”はやっとるわけだが。
考えすぎて足が止まらず、必要なだけ足を進めつつ考え続けれる所が、彼と彼を取り巻くシステムの優秀さだ。
アレックス大統領は明朗に、慎重に考え続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
ハートフォード市長、フランス大統領、FBI長官。
様々な存在の意見を聞き、自分の考えを補強、あるいは解体していく。近代理性、自由意志の体現者。怜悧な思考と、果断な実行力。
愛はそこに、言葉一つで忍び寄る。
愛の囁きの特徴である、問答無用の強制力。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
自由意志を特定方向に捻じ曲げ(あるいは導き)、”死”あるいは”性”に引き寄せていく力。
その前に、近代が作り上げた自由意志は幻想なのか。
愛(あるいは彼女に象徴されるもの)が突きつける誘導は、自由意志を至上の前提とする世界を壊すのか。
セックスと自殺のショックが少し落ち着いてみると、ショッキングなネタを使って描きたいものは、ネタそれ自体ではない気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
死にたくない。セックスがしたい。
大体の人が身近に頷ける、一番重たい自由意志。それすら誘導してしまう巨大なパワー…一つの抽象にして具象として、愛は在る気がする
分かっていてもやめられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
生きること(あるいは、その重たさを自発的に放棄すること)、性を求めることは非常に強力な欲望で、簡単には動かない…と思われている。
だがしかし、それは当然と受け止めている以上に危うく、社会基盤として置くには脆すぎるのではないか。
意図せざる自失を生み出すものが、無邪気な悪によって振り回された時、人間(と近代が規定するもの)は非常に脆いのではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
そういう問いかけを突き刺すツールとして、自殺とセックスが選ばれてる感じを受ける。
選び取った武器のエグさ、ヤバさ、妖しい魅力をしっかり磨き上げてるのが偉いけど。
ここらへんは見る人によって絵の変わる部分で、色んなものが人によって見えると思う。そういう多彩さは、スペキュラティブなお話として善いところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
愛は問い続ける。サスペンスを成り立たせるにはあまりに圧倒的すぎる、匿名の誘惑たる自分を追い続けるように、正崎さんと僕らを誘う。
その先に何を見るかが、人によって多分大きく分かれる所が、このSFの良いところなのだろう。終わりまで見ないと、なかなか断言できないけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
諦めず考え、疎まず行動する。大統領に理想化される『人間らしいあり方』が、何処まで力を持ちうるか。無力だったとして、それでもそう有りたいと願うか。
そこら辺を、このアメリカ巡礼は書きたいのかなぁ、などと考えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
アレックスの体から迸る理性の光は、曲瀬愛が捜査線上に浮かび上がった瞬間、露骨に曇る。百万の顔をした、遍在する誘惑者。どこにでもいて、どこにもいない女。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/ewKDg7tJQw
それを追って米国に渡った正崎さんは、やはり法と秩序に身を置くしかない。根源的に、そういう男である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
”善”を名前に刻まれてしまった男は、諦めて自殺することも、組織だった秩序を放棄してアナーキーな正義になることも出来ない。
河岸を変えて、新しいバッヂを付ける。正しさが機能する場所に立つ
FBI長官が瞳の中に見つけた危うさは、まだタガを外れない。国家のタガ、法のタガ、自由意志と人間性への信頼。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
世界規模に拡大する、魔王の教説。世界を侵す毒としての自殺法。その中心に、個人的に見初められ届き続ける、宛名のない言いかけ。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/zItV2VYPE2
正崎さんは愛と触れ合わない。セックスにしても殺人にしても、直接出会うことは少なく、直面したとしても蜃気楼のように逃げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
間接的なメディアの奥に、愛と彼女が問いかけるものは居座っている。その”遠さ”自体が、超高度情報化社会…現在を切り裂く一つの題材なのかな、と思ったりもする。
雨の中、傘もささずに進む危うい旅路。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
ハートフォード市長の書斎には、マーク・トゥエインの遺作”不思議な少年”が、カタい法学書に混ざって置かれている。
アメリカの古典作家が、晩年に書いた未完のニヒリズム。
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サタンを名乗る少年が、巻き起こす現世の奇跡。それに踊らされる人々と、手放される自由意志。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
”正気の人間で幸福だなんてことはありえないんだよ。つまり、正気の人間にとっちゃ、当然人生は現実なんだ。現実である以上、どんなに恐ろしいものであるかはいやでもわかる。狂人だけが幸福になれる”
…と
悪魔は語る。曲世愛が引き寄せ、奪い、捻じ曲げる自由意志。飛び降りるもの、あるいはその肌を抱くものは皆、恍惚の笑みを浮かべていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
その自失を醜いと嘲るのならば、幸福はどこにあるのか。正しさと善は今、しかめ面で雨のアメリカを歩き続けている。
善良なFBI捜査官は、ターミナルケアとしての安楽死、そこで娘が見せた尊厳に涙し、光に寄り添う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
正崎さんは薄暗い場所で、延々事実を睨む。事件を追い、愛の痕跡を嗅ぎつける。センチメンタリズムとリアリズムの対比が面白い。
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そうしてたどり着いた、悪魔の囁き。既に愛に触れてしまった正崎さんには、自分に語りかけてくるとしか思えない誘惑。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
ピンク色に歪んだ波長が、『イッちまったら帰ってこれない領域』に誘う。射精をこらえる表情が、善に浮かぶ。
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誘惑を受けたことすら思い出せない、自由意志の塗りつぶし。愛の痕跡で背骨をなで上げられて、自分を失わずにいられる正崎さんが特別なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
あるいは、特別と見込まれたのか。
歪んだピンクに染まりきれない正崎さんは、傷つきつつ先に進む。自分の意志で。自分の意志で?
誘惑に、あるいは憎悪に身を任せてしまえば、正崎さんは楽だ。自分を失った笑みを浮かべて、幸福になれるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
しかし物語は、主人公にあくまで理性的近代人たれと鎖をつける。
考えろ。諦めるな。問い続けろ、と。
それは多分、正崎さんの肩越し、視聴者にも投げられている。
天国なし。死の国には空疎のみが待つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
録音された愛の所信表明は、ひどくニヒルな…ニヒルに思えるものだ。
『世に永遠に生くるものなし』という宣告が、正気を手放した幸福、死に飛び込む安らぎを世に撒き散らすために与えられているのか。
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はたまた、近代という巨人が倒れ伏した後、その死体から生まれる新しい価値観、新しい世界を見据えて投げかけられているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
そこはなかなか読みづらい。作品が投げているのはあくまで問いかけであって、それにどう答えを出すかは読者側の自由…あるいは責任、ということだろうか?
とまれ、正崎さんは愛の尻尾を掴んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
顔を変え、メディアの奥でうごめく蛇の毒が、行政主体を知らぬ間に動かしている。
そのうねりを知ったことで、正崎さんは、彼の上に立つ合衆国大統領は、どういう判断をするのか。何を是とし、何を否と定めていくのか。
あるいはその、自由意志に基づいた尊い決断…と思えるものが、どれだけ儚い夢かを。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
”ぼくが君に見せてあげたもの、あれはみんな本当なんだ。神もなければ、宇宙もない。人類もなければ、この地上の生活もない。天国もない。地獄もない。みんな夢――それも奇怪きわまる馬鹿げた夢ばかりなんだ”
、と。
”不思議な少年”の末尾で、サタンは語る。愛が電話越し、市長に囁いたように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
”存在するのはただ君ひとりだけ。しかも、その君というのが、ただ、一片の思惟、そして、これまた根なし草のようなはかない思惟、空しい永遠の中をただひとり永劫にさまよい歩く流浪の思惟にすぎないんだよ”だとも。
アメリカにオプティミズムを与えた作家が、最後にたどり着いた未完の遺作。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
死という虚無に人を導く物語の先に待つのが、ただただ孤独な思索だとするのならば、お話は相当に問いを投げて終わるだろう。
その準備を、結構しとかなきゃいかんかな、と思うエピソードでした。
ここで捕まえた愛の尻尾が、また正崎さんを惑わすだろう。そこに導きを与えるのが、近代理性の体現者、賢人王アレックスなのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
しかしその光は、圧倒的な誘惑に押し流されやしないか。愛が囁く自殺への誘惑に、大統領もまた抗せないだろう。
囁かれれば終わり。あまりにアンバランスに”悪”が強いこの状況で、ひどく近代的な”考える人達”を描く意味が、おぼろげに見えたようで、また逃げたようで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月6日
なかなか掴みどころのない、しかし面白いエピソードでした。こっからどう回し、どう落とすか。次回も、その次も楽しみ。