虚構推理を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
ヌシと呼ばれる大蛇の根城に、投げ込まれた謎と死体。それをあるべき場所に定めるべく、少女は協会の上で終わる。
事実も真実も、あやふやな前提の上で踊るのであれば。
噂がさまよい出し、鉄骨を持って人を殺めることも。
また、”ある”のでしょう。
そんな感じの怪異ミステリロマンス、本筋始動の第三話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
今回はヌシさま事件の始末と、鋼人七瀬にまつわる物語の始まり。
硬い現実を侵犯する怪異のルールに、踏み込む特権と対処法を見せていくお話だ。あと紗季さんの紹介ね。
お話はヌシ様を納得させるマジックワードを、琴子が開陳するところから始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
見つけて欲しかったのは、死体ではなく遺骸。思い込みの裏にあるもう一つの真相を、琴子の弁説は滑らかに並べ立てていく。
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後に解るとおり、琴子は人間サイドの真実もしっかり知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
知った上で、怪異サイドを納得させ、穏健に調停する言語的実践として、推理を披露(あるいは創作)している。
大事なのは法を守ることでも真実にたどり着くことでもなく、怪物の納得。
そのため、琴子の話法はとても個人的だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
相手の反論を先取りしたり、受け止めた上で発展させたり、ヌシさま一人を言い組めるために必要なレトリックを、総動員して丸め込みにかかっている。
そのために必要な、ショッキングな嘘。存在するはずのない嬰児の遺骸は、よく刺さる毒だ。
社会の成員が最大限納得しうる、公平で明朗な弁説。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
闇の濃い中世の”語り”を引き継ぐものとして、琴子はそういうパブリックな論法を否定…はしない。
納得しうる物語は、ある程度以上ロジックが通っていないと成立しない。近代理性の光を利用して、蛇が飲みやすいお話を破綻少なくまとめていく。
嬰児が見つからなければ、ヌシさまは琴子が差し出した物語を安心して飲み込み、腹を収める。祟りもなく、闇の秩序は維持される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
その実効こそが、琴子が語りによって手に入れたいものだ。
闇の中の事実がどうであるかという、啓蒙の光ではなく。あやふやな闇を、仕える形に整える。
それを見定めるための一眼であり、そこに近づくための一足である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
同時にその仕事を果たすためには、完全な怪異にならず、人の倫理とロジックを保ったまま、危うい際に立ち続ける必要がある。
九郎への恋は、彼女をヒト足らしめるアンカーかもしれない。
琴子は見てきたような推理(あるいは推測、嘘)を的確に並び立てて、『上手く見つけてくれるといいのだけど』を、収めるべき場所に収めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
それは生と死、大人と子供、水と大地、嘘と真実、人間と怪異の境界線上にある。
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琴子は怪異の力を使って、”真実”の方にもたどり着いている。しかしそれを持ち出したところで、ヌシのプライドを不要に煽り、収まるべき話が収まらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
そもそもにおいて、怪異は人の世からはみ出した、埒外の存在だ。しかしそこにはルールがあり、人の領域に侵犯/審判してくる。
そのあわいを定め、線を引くためには、自分自身曖昧な戦場に立つ必要がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
九郎の恋人のようで、どーも無条件にラブラブともなり難い不思議な距離感で、フラフラさまようのも。
万事を知りつつ自分の足では進めない、案山子神の末裔の宿命か。
人が納得するために、事実ではなく物語を持ち出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
これは科学以前の古いロジックであり、近代啓蒙の光で焼き尽くされた…ように見えて、しっかり生きている。
噂が生み出す怪異、都市伝説。
古いアヤカシと話をつけた後は、そんな最新鋭の闇と向き合う話が始まるのだ。
と、話は公権力、紗季さんの視線で始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
彼女は怪異と行き交いつつ、その領域に踏み込みきれない犠牲者だ。
琴子が片目と片足を差し出して、境界線上を自在に行き来する軽やかさを手に入れたのに対し、彼女は人の法を定める理性の城に足を置きつつ、怪異に心を囚われている。
昔の男に、でもあるけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
色んなものがごたまぜになった、牛カルビ定食。怪異が存在しうる現実の不確かさを、頑張って飲み込もうとする紗季に対し、極めてロジカルで現実的な寺田はカレーパン一個で昼を済ます。
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それがロジカルで適正な、昼の世界の身の処し方だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
噂が独り歩きして、鉄骨持って暴れまわる危うさを知らないまま、”警告”を突き刺す愚かさを、紗季は認めないまま肌で知っている。
だから全てがない混ぜになった混沌を食べようと頑張り、飲みきれずに吐き出してしまう。
何故”牛”かは九郎くんに混じったもう一つの肉に係るので、一旦保留。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
とまれ、紗季さんは怪異の怪しさ、危うさを失恋によって思い知らされ、それに囚われたまま、人間世界の理性にも適応しきれない。
境界線を認識しつつ、そこで上手く踊れないのだ。ま、負けヒロイン…。
衝撃的な遭遇と失恋を経て、紗季さんは警察という仕事、理性で善悪の境界線を引く職能を、必死に頑張っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
それは人の領域では有効な”真実”だが、寺田が首を突っ込んだショッキングピンクの闇の中では、時に無効化される。
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制帽…紗季さんが”警官”という形を取り戻すための境界線を受け取りつつ、彼女は理性と真実の無力を思い知らされた過去を、鮮烈に引っ張り出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
”やつら”は、確かにいる。だが、どう受け止めていいか分からない。
そういうあやふやな場所で、元カレへの想いを抱え込みウロウロする。
牛鬼と大蛇の事件を経て、琴子が片足で軽やかに踊った場所に、踏み込めなかったもう一人の女。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
恋敵が主人公のシャドウとして、どういう顔をしているか…なんで恋が破れたかをじっとり見せる、上手くて意地が悪いシーンである。
まぁ、”そこ”に踏み込めないなら、隣りにいることは出来んわなぁ…。
そして紗季さんは坂の只中、光と闇の中間点で再び、怪異に行き交う。坂もまた、”上と下”を繋ぐ境界線、その只中である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
ちんちくりんの自称・今カノと紗季さんは、坂道の勾配と帽子を合わせて、ギリギリ対等な距離だ。そのため、勾配がむっちゃキツい
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破瓜とかなんとか、ノンキに突っ込める愉快な日常は、ショッキングピンクの衝撃で一気に色を変える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
坂の上にある、深い闇から這い出してきた怪異。紗季さんは過去(を殴り飛ばすべく、光の方に下がるのではなく、思い切り前に突っ込む。
だが、怪異の方法論を身につけていない拳は、怪物をすり抜ける
おひいさまが眼と足を捧げたように、九郎が怪物の肉を食べたように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
怪異の領域に踏み込むためには、犠牲と狂気がいる。紗季さんはマトモでいい人で、優れた警官だからこそ、”そっち”に入る資格がない。
近代に過剰適応した存在は、境界線を越えれないのだ。
そんな紗季さんを置き去りに、琴子は片足でハイパーアクション、喰らえおひいキック! である。これが勝利ヒロインの力だッ!!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
超越者っ面で坂の上(闇の方向)に去ろうとする琴子を、紗季さんは人間の腕で捕まえる。琴子の足場は、”こっち”にもある
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『帽子を拾い、手渡す』というアクションが、寺田さんとシンクロしているのも面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
それは怪異に魅入られ、境界線を越えようとするものを、人間の岸に引き止める動作だ。
紗季さんは警察手帳という明瞭なアイデンティティを突き出し、弱者を守る法の番人として、傷ついた少女を癒そうとする。
そんな光の側からの働きかけを、ひょうひょうと交わすのが我らがおひい。舐め腐ったことぶっこいて、元カレ相手にナメた口聞く大人こどもを、紗季さんの拳は確かに射抜く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
今度は、透明に突き抜けはしない。相手は人間だ…一応。
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紗季さんは法(近代理性)で処理しきれない鋼人七瀬を、どうにか自分の職能に引き寄せようと足掻く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
その奮戦を片足で、軽やかに飛び越える琴子とのバトルは、九郎くんを間に挟んで、さらに加熱していくだろう。
そして、新たな時代の怪異、都市伝説・鋼人七瀬を巡る推理と”語り”も。
ロマンスとミステリ、怪異と理性、シリアスとコメディ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
その境界線は思ったほど明瞭ではなく、むしろ積極的かつ的確に”際”を撹乱していくことで、あるべき秩序を手に入れられる。
そういう作品のビジョンが見えてくる、面白い第三話となりました。ふーむ、マージナル・ミステリやな。
それが形をなすという畏れのないまま、無責任に垂れ流される噂という”語り”。それは形をなし、人を闇から食い散らかす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月26日
人と魔の境に立ち、その秩序を守る神と己を定める琴子は、事件にどう立ち向かうか。紗季さんは、身軽なおひいさまをどう相手取るか。
恋の火花もバッチバチ、次回が楽しみ。