バビロンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
米国大統領の前に突きつけられた、究極の問い。
死に向かうものを引き止める言葉を、誠実に引き出す善の勝利。
だが心せよ。蛇は常に、影に潜む。
”続く”という価値観を守るために、正崎善は”終わり”に手を染める。銃弾は二発、行方は…
さて、終わったのかね?
という感じの、アニメバビロン最終話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
む…難しい…。単話としては圧力と緊張感のある画作りでハラハラしたし、やっぱり愛ちゃんが出てくると舞台に一気に”華”もでる。
…のだが、『やり尽くして終わった』と言うよりは、『なんとか終わらせた。終わったことにした』と言う気配は拭えない。
多分三巻以降続報がない原作を、どうにかアニメのパッケージに収めるためのかなり難しい選択を経て、この形だったのだと思うが…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
これまでの描写を拾い上げて、収めるべき所に収めるものをスポッと回収して終わるためには、やっぱり後一巻分必要…なんだろうなぁ。
曲世愛という存在は個人サイズに巨大な想念と圧倒的な力を詰め込んだ、歩く災厄みたいな女だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
ある意味抽象概念である彼女は新域という地域、自殺法という公法を巻き込み(あるいは生み出し)、そこを超えて全世界に自在に感染していく。
そういう巨大さと向き合うべく、三章は抽象思考に尺を回した…
と考えていたのだが今回の決着、愛ちゃんが背負う巨大さは横に置いて、(アレクサンダー・W・ウッドの影響を多大に受けた)正崎善個人との対峙に全ての力点がかかり、そこで終わっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
無論、彼は主人公であるし、彼の決断が最終的な答えになる。ならなければいけない。
しかし自分としては、途中まで膨らませたデカい風船(と、僕が勝手に見て取ったもの)は活かしきって終わって欲しかったし、得体のしれぬまま巨大であることが魅力(と僕は感じた)曲世愛との決戦は、もうちょい先だと思っていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
まぁ、『思てたんと違う』という感じか、シンプルにいうと。
自分の勝手な想定では、ウッドは愛の囁きで自殺し、メディアを通じて全世界に『終止=善』という望まぬメッセージが拡散。人類社会が自死を前提に変容するなか、姿なき中心として蠢く愛に正崎さんが最後の近代人として対峙する…みたいな話だと思ってた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
確実に、残り一話だと収まらない。
なので、正崎さんの決断を最終焦点になんとかまとめたこの”終わり”は、アニメとしては正しいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
”続く=善”という大統領の大悟には異論もあろうし、そういうデカい抽象に説得力を持たすのはなかなか難しいことでもあるが、より良く続くためには、より良く終わらなければいけないのは事実だ。
『考え続けること』を作品の背骨として是認してきたこのアニメが、疑念をあえて突き刺すスッキリしない終わりにしたことは、僕は結構良いと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
正崎善の遍歴としても、(まだ膨らみそうな期待感と、裏腹の残念さはあれど)一応の形は付いた…と感じている。
ただまぁ、”正解するカド”の終わり方が結構ショックだった人としては、『まーた大きく膨らみそうな風船(まど印)が、ハンパに納得できるサイズで終わっちゃった…』というガッカリ(終わるし、正直になろう)もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
同時に、作品を取り巻く諸条件のなかで選べる、ベストの最終回だとも思う。
そんな煮えきらない感覚を覚えつつも、『確かに楽しかったに怖かったな。良いもん見たな』という満足感はあり、それを生み出してくれた製作者に感謝もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
今後しばらく、腹の中に落ち着きどころを探す向き合い方にはなりそうですが、ともあれお疲れ様、ありがとうございました。
さてエピソードの方は、前回引いた”屋上の女”との対話から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
二章クライマックスの大殺戮を予感させる、イヤーな緊張感。覚悟と自己犠牲。取り巻くメディアの目と、それをハックせんとギラつく齋の視線。瞳に焼き付いた、赤い後悔。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/vpP4E1NlUY
置き去りにされ、一人生き続ける正崎さんの宿命を暗喩するように、翻訳ブースにはまた同志が入る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
声一つで狂い、死ぬ。意志を捻じ曲げ、真実を変える。
そうやって剥奪される痛みを、僕らはモニタ越しの安全圏で見続けた。
その遠い冷たさは、最初から続いている
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/B7bU29LDpF
フランス大統領がアレク強火ツンデレ勢過ぎて思わず笑ってしまったが、ここは二期の公開政治討論、その舞台裏で起こった大虐殺の再演であり、克服への期待が高まるところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
あの時出なかった答えを、勝利を、我らが大統領是非にでも掴み取ってくれ。そういう想いが、自然と高まる。
ホラー映画で恐怖をブチ込む時は、一回安心させるのが大事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
安全な所に逃げ延びたと一息ついた瞬間に、壁を突き破って怪物が襲いかかる。殺したと思った瞬間に復活し、惨劇は続く。
”女”の形をした存在への疑心暗鬼を活かして、偽物の勝利が静かに、希望に満ちて演出されていく。
生死と善悪とへの問いかけは、相変わらずの継続中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
それを誠実に差し出すことで、大統領は”女”に笑顔を取り戻す。
継続性の勝利、断絶の超克。これまでの人間の形を再確認する安心感も含め、人々はカタルシスに拳を突き上げる。
勝った、終わった、バビロン完ッ!
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/hOMJqxCthI
…とは、当然ならない。この作品の面白さ、その中心にいる大女優が出ないまま、終わるわけないじゃないの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
そんな予感を腹に抱えているのか、正崎さんも浮かない顔だ。まぁ、そりゃね…。
かくして蛇は囁き、幾度目かの惨劇が幕を上げる。
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”考える人”の面影が完全に蒸発した、浮かれポンチの猛ダッシュ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
『やっぱりこうなったか…』という納得感と、『こうなって欲しくなかったなぁ…』という辛さの只中を、アレクサンダーは駆けていく。
世界で一番マトモな人も、問答無用で狂う。そんな圧倒と、これから最後の勝負である。
ヘリが照らすスポットライトに、大統領と善人が二人。曲世愛が世界を捻じ曲げるために用意した、特大のステージ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
貪欲なメディアの眼をせき止めることは敵わないまま、正崎さんの善の根拠たる”家”にも”LIVE REPORTS”は届く。なーにが”LIVE”だ!!
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自分自身の強制された自死が、ついさっき交わした約束を裏切らないために。世界に致死性のメッセージをバラ撒かないために。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
”続く”ために、大統領は正崎による”終わり”を望む。人格の持続性を遮断し、『生き続けて答えを探す自分』を『終わる自分』に書き換えてしまう、曲世愛の悪。
この局面に追い込まれてしまった時点で、大統領と正崎さん(が代表する、近代理性人)の負けは確定している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
”続く”ことが善と繋がるのであれば、死という”終わり”は、たとえそれがより沢山の、大きな”終わり”を避けるためでも使うべきではない。
最悪の中の最善は、悲しいかな言葉を使わずとも判る。
判る程度には二人は似た者同士で、よく通じ合ったからこそ預けた銃で、その命を終わらせなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
後手に回り続け、負け続けた正崎さんがようやく追いついた、敗北の中の勝利。それがこういう苦味に満ちているのは…まぁ業か。損な立ち位置だよ。
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自分の夫が殺人行為という、一介の無邪気な善人(だからこそ、正崎さんの支えともなり得た存在)にはキツすぎる光景が”LIVE”で展開する中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
自分の決断の重たさを噛みしめる暇もなく、蛇が顔を出す。『待ってました!』と、言って良いものやら。
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大統領を”止める”光景は、スポットライトの当たる公的空間で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
最悪の女と決着を付ける瞬間は、カメラの届かない私的な空間で。
今まで付き重ねた情念が表情の作画に宿り、ここは渾身と言っていい仕上がりだ。凄く良かった。
明暗に分割された世界で対峙し、銃を突きつけ合う二人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
蛇の問う善悪に返された答えは、銃声を以て証明される。
愛は終わらなかった。善は終わったのだろうか?
苦い後味と答えのない疑問を焼き付けて、物語は幕を下ろす。
兎にも角にも、これでおしまい。
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というわけで、バビロンアニメ終了である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
ふーむ…『終わってねー!』と吠えたくもなるが、この終わらせ方以外なかった感じもするし、感想を連ねてみてもやっぱり、冒頭語った曖昧な感触は消えない。
多分これ、ズッと残るんだろうなぁ…そこまで悪くないズッシリ感で、俺は結構好きだよ。
自由意志やら近代システムやら、デカい話をゴンゴン回しつつ、正崎さんという主役、曲世愛という大悪役のキャラ立ちでぐっと引きつける劇作。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
エロスとタナトスが入り乱れ、スケールが凄まじい速度で肥大化しつつも、グロテスクと悪趣味が的確に踊って、こちらを殴りつけてくるマゾヒスティックな快楽
非常にいい感じに捻じくれていて、そのヒネリを美麗に届けるべく、画面の構成、色彩の冴え、演出と音響も非常に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
それがどう終わるのか、一ヶ月の休止を挟んだあたりから心配ではあったのだが…うーむ、なんとも言えねぇな…19年9月期、ホント激動だったな…。
先に述べたように、最終回手前までで想定していた完成形と実際の終わりがズレたため、個人的な違和感、収まりの悪さは確かにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
曲世愛を通じてかなりデカい思弁を広げたいから、法と権力、公平性と自由意志、近代とその破綻、あるいは善悪について、べらべら喋る話なんだろう。
そういう個人的な読み(あるいは期待)はそこまで間違っていなかったと思うし、それが結実しきった大スペクタクルを見通したかった気持ちは、確かにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
しかしまぁ、アニメが生み出された段階で、この終わらせ方以外なかったのだろうなという納得も、またある。
原作小説のほうがどうなってるか(そして、今後どうなるか)はさっぱり分からんけども、アニメにおいては正崎さんは大統領を終わらせることで、『続く=善』を前提として構築された人間社会を守った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
『終わる』という悪(愛ちゃんが好きなもの)を克服しうる、一つの答えにギリギリで指をかけた。
それを貫き通し、未来に継続させることが出来たかどうかは、暗転の奥に隠されて判らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
鳴り響いた銃声が虚空を貫いたのか、はたまた正崎さんもイッちまったのか。そこは僕らが考え、答えの出ない問いを悩み続けるところだ。
その投げかけが、果たして不誠実なのか、盤上この一手の選択なのか。
そこは人により、大きく答えが分かれるところだろう。そういう多彩な状況を呼びたいから、描かなかった部分だとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
『続く=善』という作中の答えに、分厚い納得を生みうるのは時間を使ったエピソードの蓄積でしかないから、そこが薄いのは残念…というか、必然か。
超ぶっちゃけると『なんでアニメ化したの…』と聞きたくもなるが、答えはもう作品の中に埋め込まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
このお話が面白かったからだ。
そこに嘘はない。確かに、面白かった。ドキドキさせられ、許せない気分になり、いろいろ考え、ヤキモキと待った。
そういう体験が出来たのは、やっぱ良いこと…
なのかと、自分のなかで答えを探し続ける事も含め、なかなか面白い作品だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
自分はやっぱ、触媒としての創作ってのをどっかで求めていて、他人が生み出したメッセージを通じて自分の色の付いた、自分なりの納得が出てくる手助けをして欲しいんだな…。
このアニメはそういう、思考の産婆役を良い映像と洗練された悪趣味で以て、しっかり果たしてくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
その有り難さをもって、『やっぱいいアニメだったんじゃないの』と、一応の結論を出したい。
製作者の皆様はお疲れさまでした。この結末に至るまで色々あったと思いますが、面白かったです!!