かくしごと を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
世間様には顔向けできぬ、端た仕事と己を蔑み、それでも譲れぬ画業の意地。
プライドと自虐の間で揺れ続ける可久士センセイ、今日は晴れのサイン会。
いらぬランドセルを送りつけてくる義父との確執、バレちゃいけない親父の仕事。
悩みは多いが、姫が笑顔ならオールオッケー!
そんな感じでまとめるには、未来編が湿っぽすぎて重すぎる、約束された幸福の破綻第6話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
一本繋ぎの勝負エピに、義父とのギクシャクした関係とか、漫画稼業への屈折した思いとか、相変わらず可愛い姫ちゃんとか、色々詰め込んだエピソード。
呑気ばかりでやってけない、可久士の暗さが良く見える。
『あ、連載当時の流行り拾ったな…』とすーぐに判る、ダテナオトとランドセルネタから今回は開始。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
毎年毎年投げつけられる、匿名希望のランドセルを”箱”にしまい込んで、可久士は姫を1人で支え、また独占する。
相当、嫁の実家とこじれてるなコレ…。
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可久士が姫に過保護なのも、漫画家業を誇れないのも、何らか理由のあることだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
そこに不在の母=妻は強く関わっていると思うが、それは意図して箱の中の隠しごと、興味を引くミステリとして隠蔽されている。
姫とのなんてことない日常を繰り返すなかで、その曖昧な輪郭はジワジワなぞられている。
義父が顔を見せることでまた一筆、失われたものの正体は少し顕になり、しかしすべてを見通すことは出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
このチラ見せ加減がなかなか絶妙で、先を見たくなる気持ちを煽ってくる。同時にその真相は未来の破滅にも直結しているので、悲しいことなら見たくないという気持ちも働く。
見たい、見たくない。知りたい、知りたくない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
箱の中に隠された秘密を前に生まれるジレンマを、笑いとホッコリに混ぜて巧妙に煽り、物語の推進剤にする。
ここいらのさじ加減がやっぱり上手く、絶妙なバランスといえる。
『姫ちゃんが可愛い』つうシンプルな幸福も、切なさに直結だからな…。
今回は可久士先生(あるいは、彼をアバターとする久米田先生)の屈折した自意識、社会とのネジレた向き合い方がよく出たエピソードだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
『どうせ俺なんて、世間なんて』とひねくれ、姫だけいればいいと拒絶しつつも、どこかで認められ報われる日を求める。
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優しい世界とはつまり、誰かに都合の良い世界なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
家畜のようにスケジュールを詰め込んで、パンク寸前まで自分を追い込むことが優しさなのか。
コミカルな描写の奥に、擦り切れたプライドが世界と生み出す摩擦が、冷たい火花を散らしている。
ここら辺のシニカルな視座は、久米田先生の本領やね。
ポンチ絵書き、下ネタ大臣と後ろ指をさされ、それでも漫画家業からは手を引けない現状。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
『普通のサラリーマンより稼いでるよ!』と豪語する自尊心、そこから手を引けば娘と暮らせない現実。
色んなものを夕景に背負って、顔を合わせぬ”身内”との会話が重く、冷たく刺さる。
娘にすら顔向けできないから、二重生活という箱に真実を隠し生きている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
そんな自分を誤魔化し誤魔化し、なんだかんだ売れっ子漫画家として世間に認められ、ペン一本で食ってもいる。
可久士先生が生真面目に仕事し、弟子の面倒を見てる姿は、ここまでもシッカリ書かれてきた。
しかしそんな自分を、可久士は客観視出来ない。どれだけ自分の外側がOKを出そうと、自分自身が大丈夫だとは思えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
ギャグとして扱われてきた心配性が、その地金をぬろりと見せてくる瞬間で、なかなかに”凄味”がある。
時分が”ここ”にいていいという、人を定位する安心感。
己のアイデンティティを”かくしごと”にしなければいけない揺らぎは、おそらく妻が消えたときから強くなっているのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
そこら辺の真相を隠したまま、取り残され姫を抱えて1人でフラツイている、可久士の無様と必死だけを見せられると、こちらもどうにも落ち着かない気分になる。
『どうしてこの人は、こんなに自信がないのだろうか』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
『どうしてこの人は、こんなに懸命なのに未来に消えてしまうのだろうか』
そういう疑問と感情が、コミカルな無様さを笑っているうち自然、心の中から湧き出てくる。
そういう描き方が出来ているのは、上手いし人間よく見てるなぁ、と思う。
話はゴロリゴロリと転がり、キッザニアとサイン会の同時開催へと移る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
スーツとだらけた仕事着、真実と嘘に分裂した”自分”を行き来しながら、可久士は娘から少し離れて、でも目の届く距離で”かくしごと”をする。
姫ちゃん、色んなおべべ着て可愛いねぇ~
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可久士は『どうせ俺なんて』という自虐をフルボリュームに、目の前の列…自分(と自分の漫画)を求める人を信じない。全部嘘っぱちで、作られたものだと歯ぎしりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
そこには、”なんでもない俺”を木に認められた過去…愛した人の喪失が、静かに影を伸ばしているように、僕には見えてしまった。
妻消失の真相が(未来編における可久士自身の消失と同じように)隠されている以上、状況証拠からの推測にしかならないのだけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
このひねくれ加減の一因は、奥さんいなくなったことがデカいと思う。過去エピの挿話を見ても、凄く大事なものを預けれる関係だったっぽいし。
大きな愛おしさと裏腹な、大きな喪失感。それをハラワタの底で煮詰めながら、可久士は姫を『育てさせてもらっている』という意識で、『いいお父さん』を決死に演じている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
それは箱の中の嘘っぱちであるが、世界にそれほど貴い”かくしごと”もないだろう。マジ偉い。
露骨東山魁夷モデルな、日本画の巨匠。ポンチ絵描きと己を比べ、浮き出る卑屈な笑顔。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
それを、山盛りのバーガーを姫と一緒に食べるとき、可久士は絶対に出さない。
父でいること、尊いウソを付くことが、彼の危うい輪郭線を保っている。
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おそらくこの画家が”ダテナオト”であり義父なんだろうけど、まぁそら軋むよな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
沢山のプレゼントも、親子で作品を愛してくれるファンも、可久士の感情複合を完全には解きほぐしてくれない。
それを救済してくれる人は、今は遠いのだ。
しかしそれでも、彼は客観的には立派だし、愛されてもいる。
その客体を自分に引き寄せて、『まぁまぁ俺も上手くやれてるな…』と納得できない所に、可久士のままならなさ、作品に面白さがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
素直な正解がどこにあるか、見通す知性と客観性はある。でもそれを、己ごとと引き受けるにはひねくれ過ぎている。
そのギャップが、シニカルな作品に投影され味になる
ある意味『判っちゃいるけどやめられない』人の業を、コメディやエッセイやミステリ、様々な切り口にまぶしながら斬りつける鋭さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
可久士のフラツイた歩み…と、その外側にある彼の頑張り、それをちゃんと評価している世界の描き方は、そういう強さをよくあぶり出す。
このズレと不安定が行き着いた先が、鎌倉の”箱”であり可久士の不在、姫の孤独なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
ミステリの中核、現在と未来を繋ぐ輪っかはまだ埋まらず、魅力的な判断材料がどんどん溜まっていく。
これを頭のなかで料理して、『こうなのかな?』と色々推察する楽しみも、子の作品の強さだろう。
隣接しすぎた嘘と真実は危うく衝突しかけ、先生の機転もあって、なんとか”かくしごと”は守られる。あと姫がバカだから…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
ここで『どりゃ~!』と大慌て、不格好に必死に、嘘を付く手伝いをしてくれる先生の人情が、僕は好きだ。いい人だなぁこの人…。
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ドタバタなんとか繕って、コミカルに守っていく”かくしごと”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
そこに宿った手のぬくもりと、つまらない、なんでもない、でも世界で一番大事な”おくりもの”。
そういうちっぽけな幸福が、決定的に破綻し消失する未来は、もう確定している。それが、しみじみ哀しい。
薄汚れ空虚な”17歳の箱”に閉じ込められていたのは、平凡な日常の、つまらないポンチ絵。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
それが絵空事でしかない世界に、背の伸びた姫は生きている。青く、あまりにも美しい鎌倉の夏が涙に揺れている。
やっぱこの落差が”強い”な…。
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あり得たかも知れない幸福を閉じ込めた漫画が写った瞬間に、僕の脳内では名曲”カレンダーガール”が流れ始め、無条件の涙腺崩壊にマジ困ったものである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
”アイカツ!”のオタクは『なんてことない毎日が かけがえないの』って言われると、すーぐ想起再生号泣の1ループだからな。パブロフのオタク!
というわけで、大地丙太郎コンテで踊る小気味良いコメディに、ジワリと薄暗いコンプレックス、ままならない自意識、それを支える愛が入り交じるエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
危ういながらも満たされていた日々が、必ず消え去り暴かれる。その残酷が描かれているからこそ、喜劇めいた日常がまた、切なく愛おしい
そういう作品の絶妙な味わいを、色濃く伝えるエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
可久士の面倒くささを笑いつつ、それが生まれる源泉に前のめり、思わず想像を伸ばしてしまう作りになってるのは、まぁ強い。
『バカだな~』と笑いつつ、どっか他人事ではない痛みが届くよう、リリカルにシニカルに紡ぐ物語。
合間合間に挟まれる、凄く詩的な情景もよく生きて、明るく楽しく、冷たく長い影が伸びる人生劇場となりました。切り分けにくい人の複雑さを、ポップに乗りこなせるのは、やっぱ久米田先生の”才”だと思うね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年5月8日
アニメもそれを、最大限アニメートしている印象。良いアニメ、良いアニメ化だ。次回も楽しみ