お久しぶりの露払い、アニメ映画をバッサバッサ見ていく企画の第十段は『バースデー・ワンダーランド(2019年)』です。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
俊英・原恵一が柏葉幸子の原作を、どっしりとアニメ化した作品になります。
公式サイトはhttps://t.co/BQG2YvyWrM↓
見終わった感想は…面白かったです!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
骨太であるがゆえの動きの重たさとか、徹底的にハイコンテクストに全てが動く分かりづらさとか、分かりやすいケレンやキャッチーさに背中を向けた故のフックの弱さとか、少女を少女として常時クローズアップで書き続けた結果主役が誰かわかりにくいとか。
『これ、評価されづらいだろうな…』ってポイントは正直沢山あるんですが、あえてそれをゴリゴリと押し込まなければならなかった”気組み”見たいのが映画全体に張り詰めていて、僕は非常に好きです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
『俺はスタンダードでしか戦れない…』という、原恵一の戯れの出来なさを食えるか、食えないか。
そこで大体評価が決まるかなー、という印象です。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
この企画、ポスト”君の名は。”の長編アニメ映画事情を自分なりにマッピングしたいって気持ちでも始めているんですが、今まで見た作品で一番、あの作品から生まれた巨大な”渦”を物ともせず、自分が鍛え上げた武器をブン回して闘ってました。
お話は望むように生きられず、世界が輝いては見えない小学生のアカネちゃんが、現世でも自由に生きまくってる”魔女”のチィちゃんの骨董屋から、地下室にある不思議な世界へ旅立っていくところから始まります。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
この前段階がじっくり進むんですが、無茶苦茶大事なパートで、しかし大事だと明言しない。
非常にベーシックな幻想児童文学であるこのお話、もう一つの世界に旅立って手に入るのは、世界を劇的に変える魔法だとかではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
友達を排除してしまう同調圧にNOと言えず、お母さんにも甘えられず、伸びてきた背丈と心を持て余しているアカネが、少しの勇気を魔法にする。
そのための切っ掛けとして、マエノメリのイカリもワンダーランドの冒険もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
つまりワンダーランドは現実そのものであり、闘うべき小さな一歩はその中にこそあるわけです。
しかしそんな小さなモヤモヤは、ハイクオリティな日常風景に溶かして、あまり説明無しで進んでいく。
何が大事で、何を伝えたいかあんま言葉やケレンで見せず、視聴者に考えてもらう(ワリに、時折急激にお話が突き進んで、ゴツゴツした説明ゼリフも飛び出す)話らしく、アカネが冒険の果てに乗り越える小さなモヤモヤは、あくまで小さく描写され、その解決もEDで小さく扱われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
その慎ましさが、伸びる骨に皮が追いついていない少女のリアルさをアニメに焼き付けるにに一切緩みがない、アニメとして記号化されていない(から、あんまりキャッチーじゃない)リアリズムと呼応して、僕は好きなんですが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
アカネちゃんの生っぽいローティーン力は、本当に凄まじい。
原恵一は凄く特殊なアニメ作家だと思っていて、映像が持つべきリアリズムが自分の中にすごく鮮明にあって、非アニメ的なんだけどもアニメでしか表現し得ないそのヴィジョンを、本当に緩みなく、圧倒的なクオリティでもって全領域駆動させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
冒頭の花の美しさ、猫の仕草の可愛らしさ、尋常じゃない。
ピンと張り詰めた糸が幾重にも重なったような、目立たない圧力のあるリアリティ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
これが非常に独特の歯ざわりで押し寄せてくるので、あんま気を抜いて見れない。アニメを噛み砕く歯、消化する胃袋を毎回新造しなきゃいけない苦労を、作品の作り方が要求してくる。
その揺るぎない硬骨が、独特の味わいでとても好きなのですが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
ワンダーランドが身近にあることをまだ知らないアカネは、話がかなり進むまで全然主役っぽくないです。子供らしくあんま力がなくて、流されつつ色んな美しさに目を開き、ヒカリムシの死に怯える。あるいはセーターの重さを知る。
その地道な発見は話の起爆剤としてはあまりに地味すぎて、”魔女”として現実にあるワンダーランドに飛び込みまくり、自由にマエノメリになってるチィちゃんのほうが、主役に見えてしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
いや、色んな人が主役の話であるのですが。あえてそういう軸を作りたくない、横幅の広い話にしたい意志も感じる
ヴィニクンカ山から曜変天目まで、世界中の美しい景色をパッチワークし、一つにまとめあげたワンダーランドの美術。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
そこを歩む中で、少女の世界は目立たないながら静かに変容し、それが最後に恐ろしい怪物の中の真実を見つけ、寄り添い飛び込む勇気に変わって行く。
大筋だけ切り取ると非常にベーシックな児童文学なんだけども、これが本筋として堂々お出しされるわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
一行はワンダーランドのいろんな景色をドタバタ走り、変容の魔術で分断され、しかし立ち止まることなく『ま、いっか』でドシドシ話は進んでいく。
ここら辺の話運びは、かなりヘンテコです
恐ろしいスチームパンク・サイボーグの外見と、荒くれた態度、藤原啓治の声を持つザン・グの正体、それを取り戻すためにアカネが果たす役割を思えば、アカネともうちょい交流しても良さそうなんですが、一行はとにかくワンダーランドを不思議に彷徨い、その色に身を染めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
蓮の一滴に魔法をかけて貰って、見通す池の景色。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
雪の宿で儚く点滅する、ヒカリムシの命。
ワンダーと受け取って欲しいものを、そのとおり美しく書き続ける筆の緩みのなさは、その奇妙な話に妙な説得力を(少なくにも僕相手には)与え、『景色見てるだけでも、まぁ良いかな』と思わされる。
しかしそれはあくまで、アカネの精神が小さな成長を果たすための触媒であって、最後に話はちゃんと、小さな魔法で収まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
自分だけが見つけた宝物を、新しい友情のシンボルとして差し出すことで、アカネは悪い同調圧の方向を正し、ワンダーランドを進んでいける。
そういう足取りを懇切丁寧に、描写にメリハリと優先順位を付けてハッキリさせてくれる作風ではないので、飲み込めない人はマジ引っかかると思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
どこに軸があって、何が中心なのかマジでわかりにくい。主題にひっそり、しかしクリティカルに目配せとかはあんましない。
寧ろ枝葉に目が行ってしまう…というか、主筋から豊かに伸びた枝葉こそが想像力のワンダーランドを支えるのだとばかり、リッチにどっしり描いてくる、ある意味不親切な筆致。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
魔術から産業史まで、圧倒的なリサーチとエスプリを分厚く積み重ね、やっぱ説明はしない過剰な豊かさ。
全部ひっくるめて、あまり親切な作品ではないと思います。しかし、とても豊かで美しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
アカネがヒカリムシの死にショックを受ける様子、赤いセーターをざっくり扱われて傷つく様子、どれもとても細やかで良いんですね。
なんも言わないけど、心の中を豊かに想像できる。
文明世界に住まう彼女にとって、夜の明かりはスイッチひとつで輝くもので。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
しかし魔法世界では、それはとても贅沢で残酷なものである。後に彼女とザン・グを襲うことになる、”水”の宿命を予告するように、ヒカリムシの儚い輝きは強く印象に残ります。
その静かな強さが、主役とヒロインが通じ合う…かなり唐突なシーンを僕には飲ませてくれもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
文明世界が相当に面白いワンダーランドだと、もう知ってるチィちゃんはズイズイと臆せず進んでいける場所を、小さなアカネはおずおずと、だからこそ新たな発見に満ちて進んでいくしかない。
それが結実するのがあのシーンなんだけども、そこに至るまでの道筋はかなりか細くて、拾い上げるのが難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
…んだけども、その慎ましさが好きなんだよなぁ…。
人生を変えていく変化は、あくまで心の中に起きる小さなものであり、その幽さこそが魔法の証明という、オールドスクールなファンタジー。
ここを分かりやすくしたくなかったのかなぁ、というのが、鮮烈なエンタメとは胸を張って言えないこのお話の、奇妙な矜持なのかなと感じました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
『何がそこにあるか』はとんでもない工夫と気合でガッツリ描くけど、『何を感じるか』はあくまで醸し出したい、みたいな。いや時折直球で言うけど。
色に満ちたワンダーランドの、近代化以前の絶景。そこを黒煙で塗りつぶす、蒸気の町のイヤーな退廃。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
近代文明を呪うかのように、ワンダーな現実世界もまた花に満ちて美しかったりするわけですが。しかしそんな文明批評も、あんま鮮明な言葉では語られない。俺もまんまる羊に埋もれたいよ…。
エキセントリックなチィちゃんが善良な人だと(そしてその善良さを、ザン・グとドロポが忘れていると)見せるために、ペリカンの卵を巡る活劇を見せるところとか、やっぱ好きです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
チィちゃんはまだ家庭を持たないけど、エプロンを広げて”卵”を受け取る気概はちゃんとあるのだ。
こういう、一見記号的に見えるけど人間の血がちゃんとあるキャラクターの書き方は、色んな所で元気で好きです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
偉そうなヒポクラテスおじさんが体を張って、雪から弱いものを守るところと、その気高さをアカネがちゃんと感謝する所、ホント真っ直ぐな善良さに満ちてて好き。
しかしやっぱりその善徳はなかなか目立ちにくく、しかし掘ってみれば骨太で、全編この調子で進むのがこの映画の良いところであり、わかりにくい所でもあろうなぁ、と思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
素直にアガるエンタメとして作ってないので、売る側は相当苦労しただろうなこれ…文法が正統な児童文学だもん。
姿形が変わることで、見落としてしまうものと見つけられるもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
ヒポクラテスが蝿になった事実に仲間たちは気づけないわけですが、頼れる錬金術師がパーティーから抜けたことでアカネは自力で進むことになるし、ハエの身軽さで真実に近づきもする。人参が好きな同志ハエの、真実にも気付ける。
『表面的な変容と、それがもたらす新たな知見、深層に生まれる喜ばしき変化』てのは、このお話の一つのコアだと思います。知恵を巡る話なので、かなり魔術っぽい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
学校という社会の同調圧に対抗しなければいけない”大人”だと自分を認識してたけど、お母さんの体温を本当は感じて眠りたかった。
お話はアカネが『自分は子供だ』と気づき直すことで、エンディングへと入っていきます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
ここでお母さんを愛おしく引き寄せ、絡みつき、肌と肌とが触れ合って感じる柔らかさ、ぬくもりがそのまま伝わるような柔らかな作画は、非常に良かった。
地下室の絶景よりも、僕にとってはワンダーでした。
あそこほんっとに凄く良くて、大人と子供の中間地点にいればこそ『お腹が痛くなっちゃった』アカネが、幻想の冒険で手に入れた魔法で真実の自分を認識して、そこに立ち返る喜びが、とんでもない濃度と精度で襲いかかってくるんですよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
あれを”動き”で魅せれるのが、アニメの強さだなー、と思う。
そこで一回赤ちゃんに戻ったからこそ、アカネは地下室土産の美しい貝をみんなと共有して、より良い形に社会を改善する『大人』に、一歩近づくことも出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
地下めぐりで生と死、驚異に目を開く率直さを手に入れて生まれ直すという、新たな『バースデイ』がそこにはあるわけです。
作中一回も明言されないチィちゃんのいい人が、冥府巡りの旅路から愛する人を呼び覚ます帰還の描写と合わせて、ここらへんがパチっとハマるので、自分的には凄くまとまった…って一瞬思ったけども、やっぱり不親切な作品には変わりがねぇわな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
でもその難しさが、僕には凄く良い。肌に合うし好きだ。
無責任な大人こどものようで、引きずり込んじゃったアカネの面倒は見るし、ワンダーランドの冒険がいい体験になるよう導いてるし、自分の仕事も恋も”魔女”なりに堪能してるチィちゃんも、凄くチャーミングなキャラでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
イリヤ・クブシノブの”アニメっぽくない”センスが、作風にマッチしてた印象。
とまぁ、あんまりに本気でスタンダードにやりすぎた結果、奇妙に不親切であり、豊かな混乱に満ちたチャーミングな映画です。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年7月14日
ドロポがザン・グに向ける巨大感情とかも、マジいきなり炸裂するからな…そういうの、事前に言っておいて!(不意打ちで片足なくなりつつ)
そういう所がいいアニメです。好き