ケムリクサ 第3話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
座して美しき死を待つよりも、道に踏み込み先に進む。
りんの決断により、一行は島を巡る旅へと漕ぎ出していく。
語られる過去と喪失、赤い危険に包まれた世界。
崩壊した世界の意味もわからぬまま、今を生きる者たちは先へ…ただ先へ。
そんな感じの、新世代巡礼物語第三話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
ニノシマ、モロにスペースワールドだったので、やっぱ崩壊後の地球、日本、北九州が舞台っぽいなぁ…。
ホモサピエンスに似つつ異なる生物たちが、過去を思い、死を悼み、誰かのために命を賭す。そんな歩みが、謎と伏線山盛りで進んでいく物語であるな。
キャラにも世界観にも作品のムードにも慣れてきて、今回は色々キャラを掘っていくエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
赤髪の姉妹は”人間”とは異なる特徴を持ち、しかしその心性においては非常に”人間らしい”ところを見せる。
家族を思いやり、過去と未来を認識し、より善い可能性のために前へと進んでいく。
怪力の持ち主だったり、鉄を食ったり、聴覚が異常に優れていたり、ビーム出したり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
物理的な表れとしては”人間”の条件に当てはまらなくても、彼女たちの行いに僕らは(ともすれば僕ら以上の)”人間”を見る。
多くの者達が失われてきた、生存の旅路。
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それを思い出すたびにりんは心が辛くなり、そんな妹をりつ姉は思いやる。体の自由が中々効かない姉の異能に頼りつつも、りんはしっかり休憩を取り、水を与えて慈しむ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
そこにはとても素朴で、だからこそ力強い…”原人間的な風景”がある。CGの素朴さが、そこら辺際立てるいい表現になってる感じ。
極めて厳しい環境の中で、身内をもぎ取られつつも必死に生きてきた姉妹。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
わかばはそこに混じった緑色の異物であり、”好奇”というもう一つのヒューマニティを、集団に与える存在でもある。
未だりんちゃんの警戒は解けず、奴隷の鎖が胴体に巻き付いたままではあるが。
しかし彼の無防備で無邪気な”知りたがり”は、集団に新しい視座を与え、(先週りんが述べていたように)生存にも役立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
姉妹が人間集団として繋がれているお互いへの思いやりも、彼は持っている。というか、それが強すぎて自分の命を顧みないところがある。
わかばの無貌な好奇心が道糸となって、色んな事が視聴者にも判っていくのだが、この剥き出しの世界では何かに興味を持つ…”好き”であることは命がけである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
赤い地獄に落ちかけたわかばは、ギリギリで地上に引っかかり、姉妹が身を守る”家”へと向かい入れられる。
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島から島へと移る、美しい地獄のような風景。僕らが知っている北九州とは違う景色に、ただ一つ残ったヒューマニティの城。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
キモい動きで前へ進むミドリちゃんは、気づけば奇妙な信頼感を預ける大事な存在へと、僕の中で変わっている。
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植物とバス、野蛮と文明、生物と無生物のハイブリッドであるミドリちゃんを、危険から自分達を守り思いを育む”家”としている、わかば一行。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
彼ら自身が、それぞれ別の能力と生態を組み合わせ、生存集団として一体化した、ある種のキマイラだと言える。
”みんな”でいることで弱さを補い、強みを伸ばす。
りつ姉は世界を”聞く”ことで把握している、集団の耳である。同時にミドリちゃんを操作できる”足”でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
怪力を活かし、外部作業に勤しむりなちゃんは”手”、リーダーとして決断を果たすりんは”頭”…そして好奇心で世界を見つめ、色んなものを見つけるわかばは”眼”と言ったところか。
均質化されないことで集団としての強さを確保している彼らは、しかし常に失われ続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
水はいつでも足りないし、りんとりつが語る思い出は、すでに死んでしまったものの記憶と繋がっている。
損なわれた部分を分割し、補強することで補うサイボーグ的な生き方を、赤い姉妹は選んできた。
そこに補充された緑色の異物が何をもたらし、何を生み出すのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
男性であり水を沢山は飲まない(恐らく、植物由来のヒューマノイドではない)みどりの異質性は、多分この話では重要な要素なのだろう。
赤い姉妹だけではどん詰まりだった世界が、生と変化に向けて開かれていく話。
…は同時に、謎に包まれた姉妹の起源、今は言及しかされない死せる姉妹の過去へと、逆行する物語でもある気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
いやだって…『”はじまりのひと”から分裂した』とかサラッと言われちゃうと、そらそこ掘ると思うじゃない。
実際、気になるけど説明されないポイントを後で拾う手際、精妙だしねこの話
姉妹の存在は脳や心臓ではなく、赤い葉っぱにその中心をおいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
そこさえ壊されなければ、命を繋げる要点。水さえ飲んでおけば、10日生きられる生態。
やはり彼女たちは”人間”ではない。植物由来の生物とは違い、わかばは水を(人間に十分なだけしか)飲めない
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しかし厳しい世界で必死に生きようとする姿、互いを思いやるヒューマニティが静かに描写されて、僕(ら)は彼女たちを”人間”だと…自分と通じるものがある存在だと思いたくなっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
ここらへんを補強するべく、生態的に僕らに近い属性と描写を、混ざり合う異物たるわかばに付与してるのは巧い。
『人間っぽい』わかばが異質なこの世界、赤髪の姉妹に興味津々混ざり合う、危険で愉快な歩み。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
そこに歩調を合わせることで、非常に独特で不親切ですらある物語に、一本の補助線が引かれる構造…なのだと思う。
わかばは僕らと同じく、何も知らず、水も沢山飲まないのだ。共感の器であるね。
そんな彼はとびきりの善人で、自分の中に生まれた(誰かが生み出してくれた)ポジティブな感情を、照れずに表に出していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
それが毒になって、りんちゃんを見知らぬ感覚に染めて、戦士の立場から落とそうとする。
…”神輿”を出しなッ! 北九州練り歩きだよッ!
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わかばにとって『知らない』は面白く興奮させられるものだが、りんにとっては警戒すべき異物である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
子供が苦い食材を吐き出してしまうように、異性たるわかばの優しさに触れたりんちゃんは見知らぬ感情に流されぬよう、己を遠ざける。
でも、それは否応なくそこにある。
そして恋はりなちゃんには生じない、りんだけの”好き”である。先週皆を守るために必死に遠ざけ、自分の属性ではないと諦めていた”好き”は、既にそこに生まれているのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
後はその変化を受け入れるだけ…なのだが、それを補助する社会はないし、生物種としても異質だし、道は長い。
自分の中に生まれた”毒”を警戒するりんに対し、わかばはヤバいかもしれないケムリクサをもしゃもしゃ食べ、味を確かめる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
そうせざるを得ない好奇が、彼の魂には焼き付いている。知りたいと思う存在。それがわかばのヒューマニティである。
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ケムリクサには様々な色があり、様々な機能がある。その可能性を引き出して生存に役立てている一行の旅は、そういう意味でもキマイラ的、サイボーグ的、あるいはブリコラージュ的だと言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
…読解のサプリメントとして、”野生の思考”とか引っ張り出してきたほうが良いのか、このアニメ。
ケムリクサを食べる行為は、未来を信じて新たな島に進んだ旅と同じように、吉凶定かならぬ賭けである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
りんちゃんが止めるその行為へ、無垢なるわかばは突き進む。止めたりんちゃんだって、未知へと進む決断を果たし…それはわかばのあり方を見て、背中を押されていたりする。
警戒しつつも、混ざり合う異物。そこから生まれる、新たな可能性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
男女のロマンスを一つのガイドとして進んでいく、崩壊世界の旅路。それはやはり、個体として集団としての喜ばしき変容を追うドラマになりそうだ。
それが生物種への内省と絡んでるの、好みのネタだなぁ…。
微かにほのめかされるだけだとしても、わかばに継承されたオレンジのケムリクサが”遺品”であり、りんとりつにとって非常に大事なものであるということは、よく判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
それがどんな機能を発揮するかは、まだ分からないが。
とてもいいものとなることを、僕は祈る。
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身を切るほどに大事なものを、与えても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
姉妹が遺品に寄せる思い、死と前進の歴史をわかばは知らないわけだけど、そこに”何か”がこもっていることは判るし、受け取った思いを守るために身を投げることに、躊躇いはない。
その捨身を、りんもまた見過ごさない。
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一度目は不注意から生まれた、落下と救命。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
それが今回は、誰かの大事なものを守るための保身なき飛躍と、その思いに応えるための救済へと変わって行く。
危険な世界で、奇妙に穏やかに流れていく旅路。それが積み重なることで、確かに生まれるもの。
それが鮮明になる、一連のアクションであった。
他人から受け取った物の価値を理解し、それに基づいて行動を規定する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
ある意味贈与論的な話であり、大事な”なにか”を受け渡しすることで関係が深くなっていく、集団形成の物語でもあったと思う。
わかばを起点に描かれる、出会いと変化と生成の未来。
それは常に、既に失われてしまったもの(喪失された姉妹、崩壊した世界、不明な過去)と対比・対応しながら描かれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
この旅は未来に向かう話であると同時に、過去へ遡る物語でもあるのだろう。ここらへんも、ハイブリッドな要素と言えるか。
そこら辺踏まえるとEDの赤い系統樹は示唆的で、”はじまりのひと”から分裂した姉妹の誰が砕かれ、どう変化し、何が継ぎ足されたかを暗示しているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
はじめは豊かだった枝が手折られ、塵に消え、異質なる緑が継ぎ足される。
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一本の柱に氏族の歴史全てを刻んだトーテムポールのように、物語が始まる”前”を語る物語の樹。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
そこに枝葉を付け、過去に何があって、死せる姉妹がどんな人達だったかを描写するエピソードも、そのうち来るのだろうか。
楽しみである。りん達が死んでった人たちを”覚えている”のが、人間的で切ない。
一瞬であり永遠でもある今だけを生きる、動物的な救済から姉妹は遠ざけられている。(りなちゃんSには、時系列から開放された白痴の救いの気配があるけども)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
大事な人だったからこそ、失われたら苦しい。大好きだったから、死んでしまっても忘れられない。
ふとした瞬間口をついて、思い出が今を走る
その何処にも行き場がない郷愁を、無駄だとは思わないヒューマニティーがあればこそ、わかばは迷わず赤い地獄に身を投げた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
それが何かは知らない。でも、大事であることは判る。
わかばの好奇心は場を引っ掻き回すだけでも、鋭い視力で新しい可能性を発見するだけでもない。
人が人として、集団が集団として機能しうる、形も名前もないとてもあやふやなものを、見落とさない情の視力もまた、優れてそこにあるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
しかしそれは、自分の命も他人の危機も、うっかり見落としてしまう。それは”好き”を諦め戦士の感覚を研ぎ澄ませた、りんの領分なのだ。
そしてその頑なな鎧も、”毒”で溶かされていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
隙間から溢れてきたのは、無私の献身にしっかりお礼を言い、相手を認める賢さと優しさ…”人間らしさ”である。
この赤く厳しい、潤いに欠けた世界を進んでいく彼らが、より善い場所へとたどり着いてほしいなぁ、という気持ちが強くなった。
厳しいサバイバル描写でわかばの実務的有用性を描きつつも、そこで立ち止まらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
生き延びるための行動(あるいは、生き延びるだけなら必要のない行動)が実は、物理的心身だけでなくとても柔らかな”魂”を守っているのだと描き続けているのは、思弁的で好みである。
しかし滅んだ世界に”樹”を母体として生み出され、水によって育まれる存在として姉妹とわかばが書かれてるってことは、彼らはリーヴとリーヴスラシルであり、壊滅した北九州はラグナロクを超えた新世界ってことなのだな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月4日
果たして、この世界に神はいるのか。
人の世をたどる物語は続く。次回も楽しみ。
追記 りんちゃんが頑なに強くあるからこそ、共同体はギリギリ赤い毒に侵されずに済んでいる。厳しく境界線を引く強さと、それを緩めて異物を内側に入れていく強さの共存。これを男女に分けて書いてるのは面白い劇作。
ケムリクサ追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月5日
各キャラクターが役割を分担する疑似人体として一行を見たけども、異物を警戒し威力を以て排除するりんちゃんは”免疫系”でもあるのだな。
彼女が誤作動したと感覚している変化は、わかばによる人間性治療でもあるのだが…さて、緑色の異質性は毒となるか薬となるか。