ケムリクサ 第8話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
ハチジマへの道を塞ぐ、赤い霧と死の危険。それを避ける知恵は、シロムシの形で舞い降りる。
ディスプレイに現れる”好き”を受け取り、わかばは絆と責任を知る。生まれてきた意味を果たし、舞い散るケムリクサに涙を流す。
その重たさだけが、教えるものがあるのなら。
という感じの、わかば船長出会いと別れのエピソード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
第1話から自分の命に無頓着すぎ、少し”非人間的”な印象を受けるキャラクターだったわかばが、船のシロムシを通じて責任の重さ、離別の痛みを我が物にしていくエピソードである。
それはヒロインたるりんちゃんが、ずっと抱えていたもの。
姉妹の外側からやってきた異物たるわかばは、姉妹の家族史を共有していない。僕らが知らない死の真相、痛ましい記憶は、彼にとっても他人事である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
他者として最大限の共感を寄せつつ、あくまで実感がない”記憶”でしかなかった絆と離別。
それが今回、シロムシを通じてわかば特有の傷になっていく。
シロムシという存在を通じて世界観の奥行きを見せる回であり、りんちゃんが自分を固く覆った鎧を引っ剥がす前段階として、違うけど同じ痛みをわかばが思い知るエピソードとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
この話があることで、二人の接近は偶然でも他人事の同情でもなく、同じ欠落を抱えたモノ達の共鳴へと、より深まる。
そういう物語的な機能を果たすためには、シロムシを健気で共感できる奴らと描かなければいけないのだが…セリフもない機械存在に上手く可愛げのある芝居をさせて、しっかり仕事を果たしていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
仕草でキャラ性を見せる動画表現力の高さは、このアニメ沢山の強み、その一つだなぁ。
さてお話は、厳しい試練を省略したところから始まる。まぁバトル作画は、マネーゲージが一気に削れるからなッ!!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
バトル本編を省略しても、それが一行に強いる消耗はよく判る。それを書いておかないと、迂回へのモチベーションが共有できない。
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この段階で、リーダーとして一行を率い、危険に飛び込む重責をりんちゃんが背負っている描写があるのが上手い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
それは後にわかばが”船長”として、シロムシ達最後の奮戦に責任を感じ、離別を痛みとして受け取る道糸だ。
巻き込んでしまってすまないと思う。
だから、私は頑なで強くなければならない。
りんちゃんが集団の免疫系として、戦士であることを自分に任じている土台には、そういう責任感と痛みがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
だから一人で抱え込んで頑張ろうとするのだが、彼女を愛する社会の成員はそんなことを望んではいない。
力こぶ作って、一緒に戦いたい。
重荷も辛さも背負いたい。
そういう共感が、人を繋ぐ
そこに割り込んでくるのが、機械存在たるシロである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
発話器官を持たず、ディスプレイに文字を出すしかないシロの言葉が”判る”のは、わかばだけである。
彼は通訳としてシロと赤い姉妹の間に立ち、彼が差し出してくる地図…わかばの役に立ちたいという”好き”を媒介していく。
わかばが間に立つことで、シロムシの言葉はヒトに届き、地図は危険を避ける知恵として機能する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
もしわかばがいなければ、(これまでそうであったように)姉妹は『アイツラは話が通じない』と決めつけて、コミュニケーションは成立せず、危険の多い道を進んでいくしかなかっただろう。
異物であるわかばと出会うことで、死に満ちた運命が変わっていく描写はこれまでも沢山あった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
”敵”であるアカムシに容易に変わってしまうシロムシが、彼らなりの”好き”を持って(あるいはプログラムされて)いて、自分たちに役立つものを差し出していることは、わかばを介しなければ伝わらない。
自分自身も異質なわかばは、赤い姉妹の小さな社会をより良く変化させうる、新しい可能性へと繋ぐメディアである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
そしてわかば自身も、赤い姉妹に接続されることで自分を変え、社会に馴染んでいく。メディアを通じたコミュニケーションは、メディア自身も共鳴/変化させるのだ。
シロが提出した地図に基づいて、一行は危険を避けていく。りんちゃんが今回、常時警戒を解いていないのは面白いポイント。免疫系の仕事も大変だね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
シロは焼き付けられた好意と奉仕意識を、わかばに向けてディスプレイし、わかばもそれを受け取る。
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シロを生み出した歴史的・技術文化的背景が分からないので、彼が自発的意志を持つ”人間”なのか、ヒューマニティを装うことで利用がスムーズになりよう設計された”機械”なのか、判断をしかねるけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
発話し、意志を繋げるそのあり方に、僕らは素朴な共感と同族意識を持ってしまう。
似通って見えるものと同じであることの間には、確かな断絶がある。その間に橋をかけることが出来るのも、ヒトの資質の一つである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
シロの”好き”が”本当”かどうかを、判断することは出来ない。しかし”本当”に見えるように、作品は巧妙にコミュニケーションの蓄積を演出する。
上手いのはわかば-シロが文字で行うコミュニケーション(識字能力がない姉妹には認識できない)が二人で完結せず、”好き”を交換する姿をりんちゃんが見ているところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
シロムシの言葉は、りんちゃんには判らない。しかし、そこで自分の中にもあるもの…それに似たものが交換されているのは判る。
このぼんやりとした共鳴は、つまりわかばが姉妹のことを思い、自分を寄せていったここまでの物語の逆写しである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
りんちゃんが溢れんばかりの共感能力を殺し、必死に戦士をやってる”元泣き虫”であることは、これまでも描写されてきたが。
今回彼女は、腕組み警戒したまま、遠くから解らないものを見る
他人のことは分からない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
生まれ方も在り方も、背負った歴史も痛みも違う”私達”が、しかしより善く生きていくためにはその”分からなさ”を乗り越えていく必要がある。
ケムリクサというSF的ガジェットを、存在の根幹に背負うわかば達は、明らかに”人間”ではなく…
しかしその行いにヒューマニティを宿し、我々の同一視を引き出すように演出されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
今回はその座組が反転し、見る役だったわかばが当事者となり、見られる側だったりんちゃんがわかばとシロムシのコミュニケーションを、共有できないまま共感する立場になっていくのだ。
この相互の役割交換が、相手の立場になって相手の気持に共感する…した気持ちになるという、コミュニケーションの土台にもなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
シロムシの死は、姉妹の死と=ではない。
しかし≒ではあって、そこに生まれる痛みにも、それを生み出す絆にも、心は寄せられる。
存在が離れつつ、橋がかかっている。
そんな状況を主客入れ替えつつ、掘り下げていくのが今回のお話…なのではないかと、僕は見ながら思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
わかばは文字化された世界の謎を読みつつ、りんちゃんのコアたる赤いケムリクサに触れようとする。
それは恥じらいに阻まれる、微細な接触である。
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このコミカルで心温まるやり取りに、恋の結果としてのセックス、交合の結果広がる家族概念などを見て取れるのが、なかなかに面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
今はまだ、りんちゃんは”妻”になることは出来ない。謎は多く、鎧は外れきっていない。
だから、わかばが赤いケムリクサにふれるアプローチは拒絶される。
しかし、満更でもない。もうちょっと深く踏み込み、隠しているものが共有されれば、赤いケムリクサに封じられたりんちゃんの心…”始まりのヒト”から続く世界の謎も、甘やかに暴かれていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
ここら辺、ロマンスとミステリが上手く共犯してる演出で、なかなかいい。
りんちゃんの存在を規定する赤いケムリクサに触れた時、そこに封じられたあまたの歴史を共有した時、異物であるわかばは真実共同体の一員…”家族”になるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
共同体の外部から配偶者を呼び込み、遺伝子プールに好ましい撹拌を生み出す。
婚礼儀式の実利的側面とかも、上手く取り込んでるなぁ…。
そうしてトンネルを超えた先には絶景と危険、新たな出会いが待っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
シロに導かれるまま危険を避け、行き着いたのは役目を終えた船。沢山のシロムシが避難する、丘の上のアークである。
りんちゃんの腕組みが、彼女の警戒を具象してて良い芝居。
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わかばは表記文字というコミュニケーションメディアを共有しているので、シロムシへの共感は強い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
このお話、各キャラクターごとに使える五感≒見えてる世界が違うので、似通った認識が共感を生む構図がより分かりやすくなってるけども、シロムシのディスプレイもその一環なのだな。
りなちゃん達は共同体において”子供”なので、背負う記憶と責務は比較的軽く、無警戒にシロムシに近づける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
わかばへの信頼を、そのまま『わかばと話しているやつ』に延長できる。
しかしりんちゃんは腕組みをして、そういう共鳴から慎重に距離を置いている。
それはリーダーとして共同体の安全を守り、有害な異物を跳ね除ける責務があるからだ。べったりと体重を預けていては、いざという時危険を避けれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
その頑なさが、自分の”好き”も遠ざけているところに、りんちゃんの健気と哀しさがある。”正しい”所が厄介だよなぁ、りんちゃんの警戒心…。
シロムシたちから情報と彼らの”好き”を受け取りつつ、わかばは存在意義を奪われた彼らの”船長”になっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
赤霧が変えてしまった世界で、それでもなんらか意義のある生き方を求める同志として、機械存在は居場所を求める。
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それが誰かにプログラムされ、半ばで放棄された理由なき衝動にすぎなくても。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
自分なりの”好き”を持ち、そのために命を燃やし存在を証明しようとあがくシロムシたちの姿は、言葉よりも雄弁に共感を引っ張ってくる。
より一行に近いシロが、船のシロムシの通訳やってる描写も良いね。
船のシロムシはハチジマへと通じる道を教え、それを塞ぐ赤い根っこを、合体重機と化して取り除いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
それは彼らが自発的に行動した結果であり、”船長”であるわかばが決断・許可した結末でもある。
何かを選び、舳先に立って先へ進む。その行為には、責任が伴う
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船のシロムシの命が残り少ないことに、わかばは気づかずりんちゃんは気づく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
それは重責を背負いつつ看取った”死”の重さが、生み出す差異だ。
姉妹を砕く世界の厳しさに立ち向かえなかった後悔が、りんちゃんを責任を背負うリーダーに、頑なな戦士に変えた。
わかばはそうではなく…ここで決断を果たしたこと、その結果散りゆく命を間近で背負うことで、そこに近づいていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
自分の指先が導く結果を知らなくても、決断は常に重い。そこには、”船長”でも忽せに出来ない特別な”好き”、最後の輝きがある。
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船のシロムシ達は本来の居場所を赤霧に追い出され、人を襲う怪物に変わる危うさを抱え込んでいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
その運命を拒絶し、最後の力を振り絞って根っこを切り離した。
機械存在である彼らは、わかばの許可がなければ死地に赴く事はできない。そういう風に、存在を規定されている。
しかしわかばの制止を振り切り、己の命の使い方を全うする生き様には…身勝手な幻影かもしれないが”人間”が見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
ヒトは時に、”好き”を貫いて消えていく。それは哀しく、尊い。
ポストヒューマンの巡礼を描くことで、ヒューマニティの諸相を暴いていくお話に、新たな人間定義が刺さった瞬間だろう。
沙羅双樹の花のように散っていった、シロムシ達の命。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
泣くことはないと言われても、わかばは泣く。その過剰な共感能力が、彼の優しさであり強さなのだ。
リーダーの責務、別れの痛み。
溢れる涙を拭い、心を新たにわかばは前に進んでいく。
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そこに自分の過去を重ねつつ、りんちゃんは死を拒絶する強い意志を、共同体を守る責任感を言葉にしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
そこにわかばも含まれているのは、やはり今回、自分に親しい存在…リーダーであり決断者であり、離別の痛みに涙するモノとして、わかばを認識し直した事が大きいと思う。
今回のお話は、主役とヒロインがそれぞれの立ち位置を取り替えることで、お互いの心に寄り添っていく過程を描いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
同時にその媒介となった船のシロムシたちの、機械存在としての在り方、そこに宿るヒューマニティとプライドも、しっかり描かれていた。
お話は結局の所、わかばとりんちゃんを巡って進んでいく。周囲の世界もキャラクターも、彼らの補強材として機能し…しかし、それでは終わらない。終わってはいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
特異な世界を生み出し、そこに生きるキャラクターを描いたなら、そこに宿る意志や生き様に、敬意を抱き書ききって欲しい。
そういう願いを抱きながらフィクションを見ている身としては、今回のお話は非常に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
一話で退場するゲストキャラなんだが、物言わぬ船のシロムシ達の存在感はデカい。
彼らがいることで、このアニメをもっと信頼出来る気持ちになった。そういうのマジ大事よ。
去っていったものの尊厳と意志で舗装された、未来に続く道。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
ハチジマを超えて更に進んでいく一行が、何を知り何を掴み取るのか。
そろそろ終盤が見えてくるケムリクサ、非常に面白い。次回も楽しみ。
追記 あまり表にゃ出さないけども、僕は結構な陰知主義者なので、こういうオカルティックな読解もやるのだ。
ケムリクサ追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
オカルト的な目線で見ると、数字で呼ばれるシマ達はセフィラであり、一行の旅路はパスを抜けマルクトに至る道のりとも見れる。ジュウジマで終わるんだろうなぁ…。
カバリストがちゃんと解析すると、結構面白いこと見えそうな感じではあるな。
居場所を追われたシロムシたちが”船”にいるのも、洪水を逃れ種をつないだノアの再演と見れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
約束されたつがいであるわかばとりんちゃんが、洪水の瓦礫から文明を復興させてく兆しを見せて終わる気配を、勝手に感じている。
新世代のデウカリオンとピュラ。新たなリーブとリーブスラシル。そんな感じ
ノアとの照応で見ると、シロムシ達は未来への航路を教える鳩であり、赤い戦争を超えた先にある青い平和を予兆する、大事な隣人でもあるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
命を燃やし風に散っても、魂はわかばに刻まれた。
彼は”船長”であることを、もう止めれない。りんちゃんが”戦士”であるように。十字架を背負い旅路は続く
…りんちゃんとわかばを洪水型兄妹始祖神話に重ねると、恋に導かれていく二人はどこかで血を交えた兄妹でもある、ということになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月8日
そこら辺の答え合わせは、白紙の過去が個人レベルでも、世界レベルでも明らかになった時判るんだろうなぁ。
世界崩壊とインセスト・タブー、と。