スーパーカブを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
秋深まる北杜で、カブ戦士たちは吹き付ける風と闘っていた。
特製の内張りを着込み、風防を付ける。
カブとともに在る時間を冬でも愉しむために、様々な人と交わりながら、小熊と礼子は工夫を重ねる。
それを見つめる椎の視線は、水色の湿り気を軽く帯びて…。
そんな感じのカブ・パンクス VS 冬の訪れ! スーパーカブ第9話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
すっかりBUERREをホームに定め、肌を突き刺す冷気とのバトルに勤しむ小熊と礼子が、晩秋の北杜を元気に駆け抜ける回だった。
春の終わりの第3話、思い出旅行の第6話に比べると、『いい最終回だった…』感はやや薄め。
しかし気ままに走り回りつつも、色んな人に助けられ、また頼りもする二人の冬対策をどっしり描いて、しみじみと見応えのあるエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
ちょっと表情の変化があざとく大きめで、彼女らを不思議な動物っぽく描くシーンが沢山あったのは、このアニメでは珍しくも嬉しかった。
同時にカブで自在に駆け巡るパンクスに、椎が微かな羨望と寂しさを滲ませる描写も多くあり、冬はここが軸となっていくのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
『アレックスくんも良い乗り物だよ!』と言いたくなるが、やはりカブに乗り、小熊たちと隣り合う自分というものには、特別な価値があるのだろう。
『そいつら、マジでブッチギリ人間だからあんま憧れないほうが良いよ…』とも思うが、椎の心が動き出しちゃってんだから、それはしょうがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
弾みだした衝動にカギをかけることは、可動性(Mobility)の物語であるこのアニメにとってはタブーなのだ。俺達に鎖はいらねぇッ!
というわけで、今回のお話は小熊達が寒気と闘う話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
←で始まったAパートが、→で終わるエピソードである。
やっぱ小熊がなにかに感動したり、心に新しい経験を瑞々しく収めた時、画面の彩度がぐんとアガる演出はわかりやすくて良い。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/YdawjqBqdg
この変化を生み出すのはアブラッシブ・ウールのインナー武装であるが、それは様々な縁を手繰り寄せて生まれてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
ブランドと実用力のあわせ技で、モノの持つ魔力に結構溺れる話ではあるのだが、それがモノとして孤立せずヒトのふれあいの中で定位される様子も、丁寧に描き続ける。
モノとヒトの関係で作中一番大きいのは、小熊とカブである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
私が乗るカブと、カブに乗る私は相補的な関係性で、カブによって拡張される物理世界は同時に、広く新しい場所へ漕ぎ出していける自分への喜びと誇りを、強く補強してくれる。
今回の寒さ対策にも、モノが持ってくる体験、関係が刻まれていく
奮発して買ったメスティンで食う飯は、小熊の生活に微かな…そして確かな充足を与えるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
ないない少女は厳しい財布に思い悩みつつ、それでも私だけの特別な道具、それによって縁取られる特別な渡しを求め、寒さに負けない燃料を悪友と溜め込む。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/W93TEM6tgB
そんな小熊と礼子が身を置く日陰の領域に、椎は温かい飲み物を差し出しながら近づいてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
ぶっきらぼうな小熊は両手を広げて大歓迎とはいかないが、しかし静かに感謝しながら体を温め、まーたろくでもないことを言い出した礼子にため息を付く。
人間をティーサーバー扱い…本物のパンクだぜ!
さておき、椎は学園祭で助けられたクラスのアウトサイダーと距離を縮めるべく、健気に色んなものを差し出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
温かい飲み物であるとか、二人がくつろげる窓辺だとか、アブラッシブ・ウールのセーターだとか。
そこに込められたものの重さを、どうも小熊は分かりきってない感じも漂う。
小熊が感情表現と関係構築が下手っぴな、ないない少女であることは既に書かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
カブがそれを補い、小熊もそうして手に入れたものを嫌っていないことも。
小熊と礼子のカブ同盟に接近しつつ、しかし混ざりきれない水色少女との、今ひとつ噛み合いきらない微笑ましい交流。
これが今後どう変化するかが、冬の眼目となろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
今はちょっと変な匂いのするセーターをモコモコと着込み、その実力に目を細めて喜ぶまでだ。
外から見てるときのためらいが、実際に体験してみて問答無用で踏み越えられ、『善いもの』として実感される様子。
これは礼子がクソダサとDisりまくっていたウィンドシールドと同じである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
自分の中に巣食っている偏見やためらいも、実際体験してみると形が変わって、思わぬ喜びに姿を変えていく。
こういう実感ある変化を、丁寧に積み上げるから、小熊達が歩いていく四季に確かな手触りがあるのだろう。
手芸下手くそ人間達には解決できない問題も、スペシャリストを頼れば乗り越えられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
小熊はカブと出会ってから、『誰かを頼る、誰かに助けられる』という体験へのハードルを下げているように思う。
欲しい物があるなら、手を伸ばしたほうが良い。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/mvcCNauZCe
そう思うようになったから、手芸部の先生に頼ってライナーを作る知恵も出てくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
初の後部座席にヒーヒー言い、予期してなかったポットウォーマーも貰ってホクホク顔の椎が大変可愛い。
レア素材に目の色変わる先生は、生徒の個性見てモノ作ってくれる、良い教師やね。
椎は暖かな飲み物とウールのセーター、BUERREという”家”を差し出すことで、小熊と礼子の特等席に混じっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
その内側に入りたいと思う気持ちが、少しアンバランスな様子はBパートで強調されていく。
無論、小熊たちに搾取の意図はない。椎も脅されて差し出しているわけではない。
しかしこう…隣り合って一緒に進む礼子とのマブな感じとは、どうしても一拍ズレてる感じが椎の前のめり、小熊の冷淡からはかすかに香る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
そういうとこ器用に出来る人間じゃないからこそ、物言わぬカブが連れてくる景色に目を開きもするんだろうが…ここら辺は、持ち前の人格だわなあ。
さて小熊の冬闘争はまだまだ続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
深まる寒気はライナーを容易に貫通し、小熊の世界は再び灰色に染まっていく。
耐えきれない極寒、新武装へのためらいを共有する二人は完全にニコイチで描かれ続け、椎はそこから締め出される。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/MzfV3WjOdq
自分が知らない場所、行けない場所にズカズカ進んでいく二人に、椎が向ける視線の湿り気。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
それは小熊と礼子のシンクロが強いほどに際立っていく。
つーかお前ら、完全に”マブ”の距離感なんだよなぁ…酸っぱいぶどうを一緒に腐して、心の平穏を保とうとする動きとかさぁ…。
椎は自身の体験から、『実際に使ってみて、ぶどうが酸っぱいか確かめればいい』とアドバイスを差し出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
それは小熊と礼子が連れてきてくれたかけがえのない思い出で、椎にとってはとても大事なものだが、生粋のアウトローはそこに拘泥しない。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/zKcbdkAZMG
思い立ったが吉日、フルスロットルで突き進む二人が、もう一度自分の近くにいてくれるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
椎はカブの縁を共有しない自分が、二人と同じ速度で、肩を並べて進めない状況に不安をいだいている。
だから『雪が降ればいいのに…』とか言い出すのだ。健気なちびっ子に見えて、かなりの”病み”が薫る。Good…
人情の湿り気漂う場所に定住しきれない、ノマドの気質。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
自分の夢が潰えるピンチを颯爽と乗りこなしてくれた二人の、そんな部分に椎は惹かれている。
だからどっしり腰を落として自分の側に居続ければ、それで満足、というわけでもないのだろう。
あくまで、風を切って走っていて欲しい。
でも自分を見て、側に居続けてもほしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
なかなかに複雑な思いを込めて、椎は色んなものを差し出している。
そして自由な遊牧民達は、そういう湿度には疎い。神器・ウィンドシールドの威力を実際に体験し、大はしゃぎするのに忙しい。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/zIlPPl8xTe
日が暮れる頃に押しかけてカブを出させ、我慢できずに駐車場で装着する衝動主義。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
小熊もにっこり満足な冬戦争の決着だが、やはりそれを外辺で見つめ続ける椎に、小熊の視線は向いていない。
…向いてはいるか。
椎が欲しいだけ、たっぷりは見てない、のだ。
厄介な相手に惚れたね、椎ちゃん。
小熊は心の赴くまま、カブと自分を強化しながら駆け抜けていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
それがたった一人で成し遂げられる、孤独な歩みだとは思っていない。
カブが繋いでくれるもの。
誰かが差し出してくれるもの。
自分が掴み取るもの。
(画像は"スーパーカブ"第9話より引用) pic.twitter.com/F9Fl6Dr70U
その全てに感謝しながら、小熊は吹き付ける風に震えない走りを噛みしめる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
そこには当然、小熊もいる。
カブが連れてきた縁、自分からは遠く苦手だと思っていた大事なものの、その大事な一つとして。
そしてあくまで、一つでしかない。
椎は人生を変えてしまったたった一つ…小熊にとってのスーパカブの重さで小熊を見ているのだが、小熊にとって椎は(まだ?)オンリーワンではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
誰かが自分に差し出す手を、同じ重さと強さで握り返す体験は、元ないない少女には遠いのだ。
このギャップを、どう埋めるのか。
あるいはこのズレと断絶が、何を生み出すか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月2日
豊かな晩秋の景色、寒さに立ち向かっていく頼もしさと併走して、そういう部分も気になるエピソードでした。
カブと走ってきた小熊の四季も、ついに冬。また、なにか大事なものを手渡される季節になるのでしょう。
次回も楽しみですね。