スーパーカブを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
椎からのSOSを受けて、小熊はカブとともに闇を行く。
冷たい水底に置き去りにした挫折感と、すくい上げた命。
泣きじゃくる椎に、子熊は手渡す言葉を持ち得なかった。
笑顔の仮面をつけ直し、繰り返す日々に埋もれる二人に礼子が呟く。
冬に殺される前に、春に会いに行こう。
そんな感じの小熊 VS 命! スーパーカブ VS 冬! パンクス達の戦いは、遂に概念領域まで吹き上がってきたぞ!! な、スーパーカブ第11話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
物語は椎の救命自体をクライマックスにするのではなく、窮地を脱した後現実を飲み込んでいくやり取り、そこに生まれる摩擦と感情にクローズアップしていく
子熊達の背中を追いかけるように、夢に進んでいた椎が水底に置いてけぼりにしたもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
そうさせてしまった自分と、何かを助けられた自分。
色んなものをむっつりと噛み砕きながら、小熊生来の不器用が冬に身じろぐ。
椎の涙も笑顔も、しっくりこなくて正しくない。
それが解っていながら、どうするべきか出口は見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
フラストレーションともまた違う、羽化の方法が解らないひな鳥のような身じろぎが、礼子の一言で出口を迎えていく爽快感。
一度は出来ないと跳ね除けた、季節すら超えていける奇跡の乗り物に、自分は乗っている。
三人の桜狩りがどうなるか、どこまで行くかは判らないが、しかし今週静かにたゆたった冷たい悲しさを、春の嵐と吹き飛ばしてくれるのは間違いなかろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
いわゆるタメ回に分類されるのだろうが、陰鬱よりももう少し透明度の高い色彩で描かれる失敗の後始末が、印象的なエピソードとなった。
椎のSOSを受け取って、小熊は張り詰めた顔で現場に向かう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
この時小熊は『スーパーカブが行く』という言い回しをする。『私が行く』とは言わない。
そこに、彼女にとっての”スーパーカブ”がどんなものか、見える気がする。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/PPfrfdFEZC
元ないない少女は命の危機を救えないかも知れないが、しかしスーパーカブに乗っていれば話は別だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
それは人生も変えられるし、誰かを助けることだって出来る。自分の行きたい場所にも、失いたくないものにも手が届く。
スーパーカブに乗っている間は、小熊は自分を無敵のヒーローと見れる。
しかしカブに乗って冷たい水の中に足を運ぶのは、他でもない小熊自身である。カブと進んだ日々はそんな風に、ないない少女を鍛え上げたし変えてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
外部にある無機物によって支えられ、半ば融合したアイデンティティが、何かを為し得る自分を現実化していく。
ここら辺、ある意味サイボーグ的とも言える在り方で大変面白いところだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
カブに体重を預けつつ、”結局は自分”という感覚あればこそ、小熊は自分の手でカブを整備できるようになり、行ける場所も増やした。
震える椎にも、そんな在り方を望んで、自力で這い上がってもらうことになる。
無力感のどん底にいた小熊が、崖から這い上がる手助けをしたのがカブであるなら、冷たい水に心身を浸した椎にとっての”カブ”に小熊はなりうる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
前かごに小さな椎を押し込み守って、無骨に家へと帰っていく小熊は、もう誰かを背負える存在になっている…し、それは孤独な行いでもない。
警察よりも病院よりも、頼りにできる存在。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
椎が極限下で家族ではなく小熊を呼んだように、小熊も礼子に連絡を付ける。
椎が守りたかったもの、子熊が守ろうとするものの繊細さを、ちゃんと大事にしてくれるカブ・パンクス。
それに頼って、命がけの時間が温まっていく。
切りつけるようなヴィヴァルディが終わって、パンツ漫才する余力も出てきた、暖かで明るい空間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
礼子が回収したモールトンの残骸を、見る子熊の視線は重い。
口で思いを表現するのが下手くそな彼女が、何を考えているかよく判るクローズアップだ。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/Ns0lxJo8xO
そこで壊れたのはただのモノではなく、椎をもっと自由で広い場所に連れて行ってくれる可能性だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
そこに十分寄り添わなかったことで、今回の挫折が生まれたのかもしれない。
一緒に走れなかった…走らなかった意味を、小熊は冷えて傷ついた椎のケアをしながら噛みしめる。
三人が危機を脱したことを、ずぶ濡れの靴が新聞紙を突っ込まれ、しっかり整えられている様子で判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
風呂に入り服を着替え、暖かなものを手ずから作って口に入れさせることで、ひとまず状況は落ち着きを手に入れる。
だが、何も終わっちゃいない。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/QQaKs05rSE
理想に胸を弾ませ、夢に心を踊らせていた時間は、冷たい水をぶっかけられた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
だからこそ、自分が何もできないとは思いたくなくて、椎は何かをする。
卵一つ付け足す優しさと、あえて明るく戯ける気遣いを見せつつ、礼子は暗いキッチンにあえて進んだ椎に、モールトンが終わった事実を告げる。
小熊は椎が身を置いている冷たく暗い領域に、意を決して踏み込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
丼に溜まっていく水は、椎の思いそのものだ。
溢れるそれを独りで受け止めなくて良いように、元ないない少女は友達のいる場所に、無言で隣り合う。
ここがカブが小熊を連れてきてくれた距離だと、僕は思う。
崩れ落ちる椎の体重を、滴り落ちる無力な雫を至近距離で、受け止める距離。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
それは小熊には踏み込めなかった間合いで、しかしスーパーカブに乗る小熊には乗り越えられる間合いだ。
すがる椎を、抱きしめられない小熊が良い。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/WgzsPUBi7M
小熊自身もこのキッチンで、冷たい食事を作りながら世の理不尽を、冬の長さを嘆いてきただろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
だから、この暗闇に踏み込む権利がある。椎に隣り合う共感を持っているし、背負おうとする勇気もある。
だけどそれだけじゃ、越えられないものがある。カブに乗っても、克服できない当たり前の不幸。
それを小熊自身越えきれてないから、まるで子供のように無茶をいう椎に、慰めを言えないのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
自分たちを覆う壁を前に諦めきれないから、耳障りの良い嘘もつけない。
都合よく手を伸ばして、綺麗な夢で壊れた心を繕ってあげる事もできない。
しかしそれは、小熊が冷たいことを意味しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
この躊躇いに至るまでに、小熊はカブを飛ばし凍てつく水に入り、震える命を前かごに載せて夜を走った。
風呂を沸かし着替えを用意し、食事を作って泣く少女の隣に立った。
それで十分であるし、しかし小熊自身が、それでは足らないと思っている。
長い冬をぶっ飛ばし、全てに打ち勝ってどこにでも行ける存在でいたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
自由に、力強く、カブのような存在として生きていきたい。
敗北に打ちひしがれ、震える子供の魂を引き受けて、より広く明るい場所へと切り開いていく存在でありたい。
そういう思いが、ふつふつと静かに湧き上がる。
一生タダ飯チャンスに吹き上がるパンクスを尻目に、椎は沈んだ表情をして、それを気にかける小熊を見かけると笑う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
日陰に置かれたモールトンの残骸を、似合わぬママチャリに乗る椎の日常を、軋む敗残の痛みを、小熊はずっと見つめ続ける。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/2FScQtuX2U
友達にそんな顔させたくないし、そんなかおをさせている自分でもいたくない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
その思いはラジオから伝わる遠い春に火をつけられ、メスティンの中で沸騰している。
この段階で、既に小熊は答えを捕まえかけている。だが、まだ形にはならない。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/olCDDpjX39
礼子もまた、友達がぎこちなく繰り返す冬に囚われ、当たり前の諦めに飲み込まれようとする姿をちゃんと視ている。そういう人間じゃないと、カレーうどんにゆで卵を足そうとは思わないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
季節を追い抜いて、春へ飛び出す。
そんな無茶を言葉にして、礼子は二人に火種を投げる。
ここで小熊が、一度はキッチンで出した結論に交代しようとするのが良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
そこには、カブがなかった。何もかも諦めていたないない少女が、閉じ込められていた暗い子宮から、彼女を連れ出してくれる存在がなかった。
しかし、今目の前にそれがある。無言で語りかけてくる。
これまでそうだったように、これからも、何処までも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
内心では既に沸き立っていた思いが、カブに乗っかって外側に飛び出す。
それが、椎の希望だ。おかっぱ頭のヒーローが”出来る”と言ってくれれば、椎は冬が終わると信じられる。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/4FeC9lS0B5
そんな爽やかな憧れは、けして一方通行ではなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
軽快に坂道を登っていく、アレックス・モールトンに憧れた。自分にも、何処にでも行ける魔法が無償に欲しくなった。
そうして選び進んだ、いつもと違う道の先でカブと出逢った。
あの春の日既に、運命は交わっていたのだ。
一瞬遠くに見つめるだけだったあの背中が、どれだけ冷たく震えていたかを小熊は知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
どれだけのちっぽけな夢が、冷たい冬の沢に沈んでしまったかを小熊は知っている。
水色少女がようやく取り戻した、何かを諦めて自分を守るためじゃない笑顔。
自分が手渡したそれが、小熊自身に春風を吹かす友情の不思議を、小熊はもう知っているのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
それはカブが連れてきてくれたものであり、小熊自身が掴んだものである。そしてまだ、完全に掴みきれていないものでもある。
そういう不確かなものを確かめに行くのに、小熊のカブほど適した乗り物はない。
征く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
私達を殺す灰色の季節を、自分の意志と足で踏み越えて、確かにそこにある春をつかみ取りに行く。
それは不可能ではない。
カブとともに、カブが連れてきてくれるものと一緒に、何処までも私達は進んでいける。
(画像は"スーパーカブ"第11話より引用) pic.twitter.com/6xyzKZxXW6
そういう期待と確信を込めて見上げた世界は、もうくすんでは見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
やっぱ、小熊が一回春を諦める所が良い。
カブが縁で知り合ったぶっ飛び娘が無茶苦茶言い出さなきゃ、小熊は自分の周囲に広がる灰色に引っ張られて、結構諦めてしまうのだ。
でも、友情はそれを振りちぎっていく。
三人は形のない、だからこそ強烈に自分たちを追い詰めるモノたちをカブで振りちぎりながら、春を目指す旅に出る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
言葉にならない衝動を共有して、確かに自分たちには何かが為し得るのだともう一度確かめるために、カブはもう一度動き出す。
その野放図な自由さが、たまらなく眩しい。
青春を包囲する、形のない灰色。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
その手触りをより鮮明にするためにも、この作品は寡黙で思弁的な筆致をわざわざ選んだんだろうなー、と思わされる回でした。
水底に椎が置き去りにしたもの、小熊とカブが引き上げきれなかったもの。
暗いキッチンで抱きしめられなかったもの。
その感触が、語らないからこそよく伝わってきて、それに殺されるわけにはいかない三人の、魂の熱量、焼け付く切迫感もよく見えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
それを振り千切るために、小熊はカブと出会い、礼子と出会い、椎と出会ったのだ。
そんな三人が、冬を終わらせる旅に出る。次回も大変楽しみです。
追記 諦めを踏破し進む人道は、運命も時間も越えていける。カブは冬に勝つのだ。
俺が”スーパーカブ”好きなの、根本的にEmpowermentの話だからだと思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日
時と運命を超越したいっていう、椎の頑是ない願いを小熊が一回諦めちゃうこと、それをカブと礼子が再発火させて顔が上がることで、か細い魂が諦めを踏破する物語の骨格が、グッと際立った。
自分の中でのジャンル分けとしては、コレと同じレイヤーにある。https://t.co/ncd4TkQv1J
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月17日