輪るピングドラム 第11話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
冠葉は夏芽邸を訪れ、真砂子と対峙する。
狩人の気迫をむき出しに、冠葉を圧倒する真砂子。
一方苹果は晶馬の静止を振り切り、プロジェクトMを遂行する。
望んでいた結末が訪れた時、少女の胸に去来する想い。
君は、君以外の誰にもなれない。
そんな感じの、物語が暗い核心へと沈み込んでいく端緒たるエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
ヒメホマレガエルの超強引なパワーで、苹果ちゃんは望んでいた”M”を(途中経過をスキップして)手に入れる。
しかしそれを、彼女は震える両手で遠ざけてしまう。
与えられた結末は、望んだものとは違うのだ。
『なければならない』で壊れてしまったものの代理として動く苹果ちゃんに、これまで通り晶馬は一対一で向き合い、他の何者でもない荻野目苹果をしっかり見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
桃果にはなれない、家族は元には戻らない、考えてみれば当たり前の道理。
これをひっくり返すために、苹果ちゃんは狂っていた。
その狂気が、『ムリムリゼッタイムリ』だったカエルの粘膜を顔面にひっつけ、妖しい汁を採取して毒を盛る計略を可能にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
今まで散々失敗し続けた”M”は、至極あっさり狙い通りに進行し、多蕗は唐突に恋に乗っ取られる。石田彰面白すぎるな…。
求め続けていたペラペラの紙芝居が現実となり、ひどくエロティックな素足が闇に艶めく中で、苹果ちゃんは自分が生み出した都合のいい現実を、結局跳ね除ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
その決断が何に由来するか、解っているのはゆりであって苹果ちゃんではない。
ようやく、君は気づいたのさ。
晶馬が言っていたとおり、誰かに成り代わり過去をやり直そうとする試みは間違っていて、成功はしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
『苹果は苹果にしかなれない』という言葉は、生まれた時から誰かの代用品であると己を思い込み、そう生きてきた少女の呪いを解いて、新しい呪いをかけていく。
苹果ちゃんがなぜ桃果になろうとしたかと言えば、姉が繋いでいた家族の鎹としての仕事を、自分がなし得なかった敗北感が、結構大きいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
姉が生きていた時は繋がっていたものが、自分が活きている間は壊れてしまった。
ならば、自分ではなく姉になれば、壊れたものも繋がり直すはずだ。
短絡的で狂った認識だが、そこには壊れたものを取り戻したいという強い意志がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
しかし同時に、人は掛け替えのないたった一人として活きていくしかなく、誰かの代理は何処にもいない。
正確には、いてはいけないはずなのに、皆代わりを求めて、歪んだ試みに己を投げていく。
掛け替えのないたった一人を、理不尽に奪う運命。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
その象徴として、95年の事件がある。
それは呪われた王子たる晶馬に深く関わっていて、今回その因縁が一気に表に出てくる。
全てを串刺しにする呪いの刃として、地下鉄に漂う禍々しさが、鋭くて良い。
ようやく、君は気づいたのさ。
ノンキに生きてるように見えた高倉家に濃厚なスティグマと狂気が存在していて、それが過去から現在までぶっとく、彼らを刺し貫いていること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
狂って呪われているように見えた荻野目家が、全然”マシ”であったこと。
それが、このエピソードから一気に暴かれていく。
激ヤバストーカー女としての役割が、今回の失敗を契機に苹果ちゃんから真砂子に移るように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
”家”に愛され呪われ、失われたものを取り戻すとする狂気の中心も、苹果ちゃんから高倉家へ…そこから炸裂し飲み込まれた沢山の人へと転移し、拡大していく。
ゲシゲシと晶馬をデコピンする、ノンキなコメディの一幕と思えた暴力は、一気にその洒落にならない顔を顕にして、牙を突き立てだす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
テロル。
不思議で不気味なファンタジーだったはずの物語は、”95年、地下鉄”というキーワードを媒介に、現実への介入度を高めていく。
ようやく、君は気づいたのさ。
ペンギン女が叫び、ARBが鳴り響き、ポップに狂った幻想が暴れまくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
何処か遠くのお伽噺と思えた物語は、じっとりと重たく暗い感情、凶悪なテロルと運命を足がかりにして、一気に観客席に這い寄ってくる。
恋の破綻、荻野目苹果の救済という物語が、別の物語の扉を開けてしまった衝撃。
それをヴィジュアライズするのに、あの漆黒の地下鉄、不気味に輝く”95”はとても良い武器だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
散々おもしろ女やってきたプリクリ様が、一気に冷えたリアクションでもって、晶馬の告解を見守っているのもよく聞く。
もう、洒落にならないところに来た。
それが判るのだ。
自分の本当の気持ちを思い知らされた苹果ちゃんに、思う存分叫んで泣くことを許したのは、姉の情だったのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
なにしろプリクリ様はよく分かんねぇ女なので、色々推察するしか無いのだけども。
とまれ、女王の結界が二人を守ればこそ、日常で吐き出せない想いは共有され、物語が動き出す。
さて、そんな深く暗い場所に進んでいく物語とは別の場所で、しかし強く連動しながら動き出す物語。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
狩りの獲物がこれ見よがしに飾られた夏芽家で、ペンギン2号は常時エスメラルダに圧倒され、武装解除される。
窒息するほどのキスを受けて、負けて逃げ帰る。
真砂子と冠葉の関係、顕になってはいけない関係性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
これは後半もう一つのエンジンとして、物語を牽引していく。
高倉、夏芽、荻野目。
複雑に絡み合うきょうだいの距離感は、愛憎の鎖になって運命を縛る。
簡単には解けず、呪いであると同時に自分を支える柱でもある。
冠ちゃんは真砂子が押し付けてくる事実を、腰を落として受け止める気概がなくて、あくまで”高倉冠葉”としてのアイデンティティにしがみついている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
しかし”弟妹を守る兄”という自我は、”父の継承者である息子”という、また別の自己規定によって揺らいでもいる。
揺らいでくれなくては困るのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
だって”高倉冠葉”であっては絶対に掴めないものをこそ、冠ちゃんはずっと求めているのだから。
晶馬がたった一人自分自身でしか無い誰かを常に見つめるのに対し、冠葉は常に多重に揺らめきながら、誰かの代理でしかない誰かを見せつけられている。
真砂子はそこらへんの秘密に深く分け入りつつ、自分の欲しい物を掴み取るために、果断な戦いに挑む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
それは苹果ちゃんと晶馬が前半クール駆け抜けたような、甘ちゃんで可笑しくて腰の座らない青春コメディではなく、殺意と暴力に満ちた揺るがぬ道だ。
『実は皆、既にそこに立っていた』と解っていくのが、中盤の大きなカタルシスだったりもするが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
真砂子の登場で、冠葉は否応なく自分の求めるもの、脅かされているもの、愛という名の鎖の重さを思い出す。
ようやく、君は気づいたのさ。
大きい象を撃って、小さい象を一人にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
夏芽邸でモニターに幾度も写った奇妙な映像は、歪んだ”我が家”と重なりながら、物語のコアを顕にしていく。
たった一人取り残された、寄る辺なき子どもたち。
孤独な子象がフラフラと、確かなものを探して彷徨う物語。それがピングドラムだ。
真砂子は冠葉を、氷の世界に立ち尽くすペンギンに例える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
勇気あるファーストペンギンではなく、周囲に押し出された犠牲者。
なんとはなしの圧力で押し出して、透明な嵐に噛み砕かれる贄。
世界はいつでもそれを求めているし、コソコソ色々やってる冠葉は”それ”でしかない。
犠牲を覚悟に、世界の果てから飛び出す勇気は誰にもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
皆消えたくはないし、そうしてあげる義理も愛もない。
そんな認識を飛び越えて、蠍の炎に己を焼いた少女がいた。あるいは、その決断を己に引き受ける少年たちがいる。
答えは見えている。でもそこに辿り着くには、長い物語が必要だ。
苹果ちゃんが、自分の意志で”M”を諦めること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
その決定打が『他の何者にもなれない君』を撃ち抜く、晶馬の言葉であること。
とても正しく尊い、自分と他者の尊重が青年たちの間に確立された所で、物語は一気にジャンクションを変える。
無邪気な王子は呪われた過去を顕にし、支援者は加害者になる。
すべてがその薄暗いレールの上で走っていたからこそ、この物語は地下鉄で進んでいた、と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月22日
後出しで納得していくような物語は、深く深く、後戻りをしない道へ突き進んでいく。
そう、元々そういう物語だったのだ。
ようやく、君は気づいたのさ。
次回も楽しみですね。