ブルーピリオドを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
不良と優等生、どちらの顔にも生きる実感を得れない矢口八虎は、ある日天使にウィンクされる。
美術室にあった一枚の絵、様々な人の出会いから、開かれていく野望と感受性。
『描きたい』という思いが、青い炎となって街を燃やす時、高校二年生の無謀な挑戦が始まる。
そんな感じの青春美大受験群像劇、舛成総監督の元堂々のアニメ化である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
当方原作既読、とっても大好き人間であるが、第一話を見終わっての感想は…大変良かったッ!
八虎の人生が”美”との出会いによってグラリと揺らぎ、ゴロリと転がりだす始点のドラマが、心地よくアニメートされていた。
BGMを抑えた静謐な運びに、色と動きがついて更に魅力を増した物語が、しっかりグリップしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
既に何かが始まっている興奮、クセの強いキャラクターが何かを始めような期待。
高らかに青春を絶叫するよりも、もっと静かで確かな、潜熱が解放される喜びとその共鳴。
何事にも燃えられない、煙草の吸殻のような青年の”青の時代(Blue Period)”がどんな風に、誰と出会って燃え始めるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
その不安と歓喜が、物語の上で心地よく広がっていくスタートとなりました。
大変に良い。声…つうか音の効かせ方もドンピシャで、『アニメだ~~』って感じネ。
このご時世に堂々の、高校生喫煙&飲酒描写。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
しかしここをボヤかせば、不良にも優等生にも成り切れない…というか、そのノルマをこなし切れてしまうがゆえの、八虎の漠然とした不安は写し取れない。
(画像は"ブルーピリオド"第1話より引用) pic.twitter.com/QiMrNQIpTY
朝まで渋谷でサッカー見て、散々騒いで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
『けしからん!』となる所だが、八虎の内面は理由なき反抗に満足できるほど粗雑でも、暴走で傷つき人が見れないほど低劣でもない。
周りに合わせてしか、タバコを吸わない青年が確かに出会っている、鮮烈なる現実の青き美麗。
この話は絵画を扱う物語だが、風景の切り取り方は写真術的というか映画的というか、最高に映える瞬間を現実的に切り取るように、背景美術が駆動している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
シャープな造形と澄んだ色彩が、普段見ているよりも遥かに美しく、世界が輝く瞬間を捉えている。
それは八虎の外側にある客観的事実であり、同時に八虎だけが捉えられる主観的真実でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
悪友たちが誰も見ていない、青い渋谷の眩しい光。
その感性を孤立させることを、シャイで優しい不良青年は常に畏れている。
そんな彼に、天使はウィンクをする。
八虎はとても感じやすい青年で、頭がいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
目の前に在るものの何が特殊で、何が自分の感覚を生み出しているかを、適切に解体し発見できる。
この視線が、『高校二年からの美大現役合格』という無謀なチャレンジに、立ち向かっていく武器…の一つである。
他にも幾つか武器はあって、苛立ちに任せて他人の大事なものを踏みつけにしてしまったら、即座にちゃんと謝る誠実とか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
やるべきと己に定めたことを、着実にこなしていける勤勉さとか。
優等生でいることに熱はなくとも、その演技を可能にしているのは、彼の靭やかな天性である。
堅実に、夢を見ず、自分を素直に出さず。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
周囲が無言で期待する『上手い生き方』を感受して、高校二年生は塑像されている。
その固く歪なフォルムの奥に、燃えている柔らかな情熱。
それが、ダルいはずの美術課題から動き出していく。
龍二と美術への侮蔑は、自分でも信じきれてない安定…とされるへの自己暗示であり、”そちら”に墜ちかかっている自分を感覚していればこそ、『ぶどうは酸っぱい』と遠ざけようとした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
でも彼の誠実は、そんな自分を許してくれない。
謝罪し、訂正してしまう。
青い渋谷を埋め尽くす、”ピカソ展”のポスター。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
”美”は既に世界を埋め尽くしていて、八虎はそれに出会っている。
しかし、進みだしてはいけないと己に、鍵をかけている。
湿気たタバコと、量子力学の参考書。
(画像は"ブルーピリオド"第1話より引用) pic.twitter.com/8Q7AEQjUaX
学ぶ努力を、悪くなって馴染む苦労を、当たり前と言われるのは心外だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
森先輩(アニメになると、ホンマ最強可愛い)と彼女の絵の前で、八虎は緩やかに鎧を外し、自分が見つけたものに踏み込んでいく。
踏み込んで良いのか、大丈夫なのかと、震え戸惑いながら。
先輩の荷物を引き受け、膝を曲げて視線をあわせた時点で、八虎はまた半歩、”美”に落ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
変人のドロップアウト先と蔑していた場所に落ちていくのは、自由な発想、自分を伝えられる場所へと高く飛び上がっていくことだ。
自分だけが見つけたものを、もっと沢山の人に届けるために。
肌を緑で塗り、青に紫を混ぜる美のテクネーは、コミュニケーションの媒介として存在している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
学び、工夫をすれば、より良く伝わる。
参考書をめくって、調子を合わせて酒を飲んでも、ずっと見えてこなかったもの。
それが青に緑を混ぜて、青い渋谷を感じたまま描く自由と工夫から、立ち上がってくる
Artは手段であり、誰か特別な人が特別に使う、特別な武器。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
そういう一般的なドグマも、八虎を通じてこの作品は砕きにかかる。
絵を描く。美に挑む。
それが何を可能にするのかを、優しく賢く不器用な青年の身じろぎを通じて、キャンバスに焼いていく。
八虎の物語自体が、”美と人間”をより良く伝えるための、ある種のテクネーであり媒介だ、とも言えるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
無論そういう大きいものの象徴としてだけ、彼の青春があるわけではない。
そこには血潮と等身大の震えがあって、不良にも優等生にもなれてしまうからこその離人…そこから解放される喜びがある
一筆一筆、自分が見た青い渋谷を、青いままに描く中で、八虎はイマジネーションへと自分を進めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
目に見えて他人に共有できるものと、自分の中に捕らわれて形がないもの。
それが混ざり合う瞬間を探して、八虎は必死に鉛筆を滑らせる。
(画像は"ブルーピリオド"第1話より引用) pic.twitter.com/PZhv3FomfI
同じ空間を共有しつつ、同じものを見なかった悪友たちに。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
あるいは激しく衝突した、クラス一の変人と。
先輩の絵と言葉、存在に後押しされて八虎が生み出したメッセージは、伝えたいことを言葉よりも雄弁に、しっかり伝達していく。
その快楽。その自由。
涙も出る。
一見世の中眇めて、好き勝手やってるように見える八虎が非常にナイーブでシャイな青年であることを、この第一話はよく教えてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
解ってくれたら思わず泣いちゃって、大事なものを傷つけたら謝る。
ノルマと煙草に擦れているようでいて、非常に柔らかな感性を生かしている…可愛いやつなのだ。
進路調査票と、青く汚れた…汚れてくれた掌。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
こういうシャープな象徴を、良い画角で切り取るカットが頻発して、絵を描く人自体が”絵になる”絵作りに心を配っているのは、大変に良い。
青い泥まみれに、生きる実感をつかめた八虎の生身。
それはそのまま、彼の未来に繋がっている。
八虎は凄まじい速度で、”美”に捕まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
そんなことをしてても意味はないと、醒めた優等生のペルソナが囁く声を無視して、描いて、描いて、描く。
もっと上手くなりたい。そのためにはどうしたら良いか、考えながら独力で、努力をスケッチブックに刻む。
(画像は"ブルーピリオド"第1話より引用) pic.twitter.com/a32GKvo0RV
顔のない誰かが思いついた、より善い未来。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
借り物だった参考書の狭間に、すっかり定位置を獲得してしまったマルマン。
それが人生を歪める雑音なのか、自分をもっと生かしてくれる福音なのか。
判らないまま指は絵を生み出し、想像は窓の向こう側へと歩き出していく。
描くことで、額縁のように八虎を閉じ込める窓の外側にイマジネーションは進んで、等身大よりも遥かに自由な存在へと、変わっていくことも出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
自分が見つけた不確かな青の輪郭を、刻みつけるためのアーツ。
知らなかった場所へ、自由を羽ばたかせるためのテクネー。
ひどく現実的な手触りで背景を、美しく塗り上げているからこそ、八虎の想像力がそこに入り混じって広がっていくシーンの”伸び”が良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
自由闊達に、動かないものを動かせる。
Animationの強みが、とても活きた表現だと思う。
八虎の心が、”美”と出逢ってAnimaを手に入れたのだ。
もっと上手くなりたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
八虎は悩みつつも、自分の努力と悩みを佐伯先生に預ける。
教師として大人として、悩める若人に差し出せる最善。
不確かな己をより確かに表現し、燃え盛る炎に怯えず進むための杖を、言葉と態度で示す。
(画像は"ブルーピリオド"第1話より引用) pic.twitter.com/N45Wi5zoYt
遠近法、立体感。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
美術の技法は八虎が求める、もっと確かな表現を確かに後押ししてくれる。
学ぶことはもはや誰かのためのノルマではなく、自分が欲しい物に近づくための営みになっていく。
でもそれは、”こなし”ていた時よりも痛くて、致命的な道を開いていく。
それでも、より賢くなるための手段を既に知っている青年は立ち止まらない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
倍率200倍、超難関の無謀な挑戦に向けて、彼は踏み出す。
やりたい事を、泣けるほどに楽しいことを見つけてしまったから。
運命が動き出す瞬間を切り取るカメラは、窓を額縁にやっぱり。大変鮮烈だ。
という感じの、大変良い第一話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
八虎が中に秘めた感受性、それを紫煙で誤魔化す鬱屈。
様々な出会いが世界を広げ、物語が始まっていく。
その先には輝きだけでなく、分厚い暗雲とか、身を裂く痛みとかが待ってるけど。
しょうがない。それが、青い時代だから。
八虎のナイーブな青春がどんな温度で、どんな色彩で動いていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
それを切り取る表現のショーケースとしても、良い絵、良い音が随所に満ちていて、とても良かったです。
全体的に体温がやや低く、過剰に温めない感じが良かったですね。
青く冷えてて、でも切実に唸り声を上げている。
かくして、青く見えたものを青く描くことを覚えてしまった優等生は、”美”とどう出会い、どう向き合い、何を咀嚼して自分を作っていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
その疾走は様々な人との出会いを、摩擦を、それで彫り込まれる己の魂を、作品に刻みつけていく。
次回も、大変に楽しみです。良いアニメ化だぁ…(恍惚)
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月2日
3DCGを”画材”に使って、八虎が自分と世界に出逢っていくメディアの特殊な強さを際立たせる表現は、大変面白かった。
『そこに使うんだー!』という驚きと『確かに手書きは大変だ!』という納得、『でも疎かにしたら、作品が即死する!』という発見が綯い交ぜで、良い衝撃を受けました。