ブルーピリオドを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
美大に行く。
そう決めてからの八虎の日々は、飛ぶように過ぎていった。
大量の課題を噛み砕き、不安を引きちぎりながらデッサンを積み上げる。
その視界の端で追いかける、憧れの人。
森先輩の背中を追いながら、八虎の指が、眼が、絵に馴染みだす。
そんな感じの美術受験青春絵巻、一気に春まで時間が進む第二話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
正直第一話の圧倒的な圧力は少し弱まったが、美大受験に向けて動き出した八虎の生活がどんな匂いで、何を積み重ねているかはよく描かれたと思う。
そこで彼が何を見ていて、何を作れるようになったか。
『親に進路を伝える』という、誰もが思い悩むだろうハンディな難題と向き合いつつ、彼の視線がずーっと、森先輩を追いかける様子が今回、切り取られていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
それは恋とは少し違い、尊敬というには距離が近く、友情と言うには微かに冷えている。
八虎と森先輩だけの、名前のない繋がりだ。
森先輩を追い続ける、八虎の視線。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
それをカメラに捉え続けることで、自分の人生を導いた存在に彼がどんな角度で向き合うか、視聴者に見えてくる。
そんな愛すべき青年の素描が、ありものではない体温を宿していて、この短く大事な繋がりはとても好きだ。
話数にして二話で、森先輩は大学へと進学し、八虎の世界から遠くに離れていってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
しかしそこで培ったもの、手渡しあったものはあまりに大きくて、今後の八虎を強く定めることになる。
そうなるのも納得な、強く響く追跡の視線。
八虎は森先輩と、森先輩の絵が好きなのだ。
ド素人の八虎は、途中参加のヘタクソな自分に眉をしかめつつ、自分のイーゼルよりも先輩をよく見ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
どう描くか。
その基本すら体に染み付いていない散漫と、全てを置き去りにした集中。
半開きの口が、絵に注がれる思いを教えてくる。
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/I4CcJ9huKz
八虎は佐伯先生の初心者対応に、安らぎではなく怒りを感じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
ノルマのように優等生をこなし、”出来る自分”にプライドがあるからこそ、ヘタクソをヘタクソと指摘されない扱いに…そうされている自分に苛立つ。
これが、八虎が上手くなるための焚き木になっていく。
カルチャースクールで満足は出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
せき止められていた情熱全てを叩き込んで、全霊を絵に叩き込まれる環境にまで這い上がる。
そのための自分を、徹底的な鍛錬で鍛え上げる。
そんな『絵を描くという行為は、そのぐらいやるもんだ』という認識は、森先輩を見つめる中で作られたのかもしれない。
八虎は出会いに恵まれ、その意味を自分の体に染み込ませる資質にはさらに恵まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
敬愛できる先達の教えを、体中バキバキになるほどしっかり受け止め、実際に裏打ちしていく。
最初は”なんで?”だった美大志願は、何より雄弁な努力の証明で揺らぎだす
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/9nlTLXQgYf
佐伯先生夏休みの課題が、なかなかのスパルタで目を剥くけども、八虎と龍二(あと海野さん)は見事に噛み砕く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
描くことに魅入られ、描けない自分に苛立ちつつも、一つ一つ積み重ねる描画筋力。
それは両手で作り出すモノに宿り、母は八虎の絵を見て声を掠れさせる。
『綺麗な絵』とつぶやいた時の掠れ声が、小林ゆうの新境地といった趣で、大変良い芝居だったけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
『なんで?』だった進路希望を、否定しきれない揺らぎを生み出すだけの説得力が、八虎の絵には滲んでいる。
お母さんは、それを感じる程度には息子を見ているのだ。
初級者特有の伸び、真摯さと情熱、何よりも圧倒的な”量”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
真っ白なままの八虎の肌は、彼が上手くなる説得力の一つだ。
書いて書いて書きまくって、でも追いつけない。
不定形の焦燥に焼かれながら、美術室で過ごす時間は過ぎ去っていく。
無事推薦も通り、森先輩との別れが近づく中で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
八虎はずっと彼女の背中と顔、指先とそこから生まれる絵を見続ける。
刷り込みを受けたひな鳥のように、”絵画”という未体験の領域におずおず飛び込む標を、その小さな勇姿に探すように。
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/1Ix8IdsFCp
自分の描けるものしか書けないから、推薦以外に勝ち筋はなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
卒業祝いに送られた絵には、自分の弱さと特質を認めた上で、それでも祈りを込めて筆を進める思いが宿っている。
森先輩は美術部の外に広がる、厳しくて大きな”美”のフィールドを、八虎に教える窓だ。
これだけ凄い人でも、下から五番目。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
これだけ凄い人でも、勝ち方を選ばないと受からない。
そんな美大受験の現実を、憧れの先輩越しに感じながら、八虎はそれだけで終わらない夢を…とても柔らかく、不確かでキレイなものを受け取っていく。
絵には、祈りが込められる。
そのことをニケの素描から学んだ八虎は、キッチンに立つ母の肖像を描くことで、言葉で伝えきれない己の祈りを、大事な人に分かってもらう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
描くということは見るということで、鉛筆を握って目を開くことで、母がどう生きているか、自分を思うかが判る。
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/mCbQ7qyc3s
掌の傷、当たり前に見過ごしていた気遣い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
それがとても大事なもので、だからこそ心配するだけでなく信用して欲しいと、全霊を絵に燃やしたい自分を信じて欲しいと、少年は真っ直ぐに頭を下げる。
尊敬できる誰かを見つめ、そのあり方を真似ることで、八虎は一歩、大人になっていく。
この作品にとって”絵を描く”とはそういう行為で、選ばれたものにだけ使える魔法でも、ただ美しいものを切り取るだけの技術でもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
描くためには見ることが必要で、それが見えなかったものを教えていく。
受け取ったものを噛み砕き、出力する技術は、思いと祈りを伝える助けにもなってくれる。
”母の日の似顔絵”という在り来たりな表現を捨てて、自分だけの本当を追い求め、祈りを込めて鉛筆を握る行為。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
それは同時に、母が何気ない日々に込めている自分への祈りに、気づく瞬間でもあった。
そういう双方向の可能性として、このお話は”絵”を…それに挑む少年を見ている。
かくして桜が咲き、別れがやってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
託してくれた祈りの返礼として、八虎が差し出したのは自分の原風景。
あの時ウィンクした天使と、その紡ぎ手の背中。
ずっと見続けてきたもの。
卒業ギリギリ、八虎の感謝も間に合った。
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/nButFeLmjz
『この人は二話で舞台を降りますが…決定的に大事なんです!』という”力み”が、今回の森先輩の描き方にはミシミシとこもっていて、大変良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
笑顔も本気も、皆魅力的いっぱいに描かれて『そらー八虎の人生もねじ曲がるわ…』って納得があったね。人間力がデカいッ!
見るという行為。描くという営為。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
そこに何が宿り、何が手渡されるかを、プレゼントされる三枚の鉛筆書きで鮮烈に切り取るエピソードでした。
美術にフォーカスしているようで、”学ぶ”育つ”という言葉の根源を、八虎の青春を通じて掘り下げている感じも強く受ける。
ここら辺、美術部員にヤンキーとビビられつつ、ピュアで誠実な努力でもってしっかり馴染み、学び身につけた技量で思いを伝えた主役の造形が、上手く増幅しているところでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
学習効率が高いんだよね、八虎。根本的な所で頭が良いし、人間はもっと良い。
だからよく伸びる。
母の”信頼”を背中に受けて、夜桜の美術予備校が一体、伸び盛りの青年に何を与えるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
次回、新章開幕。
クセの強い青春美術戦士達が、わんさわんさと押し寄せてきて大騒ぎ間違いなしである。
アニメが彼らをどう描くか、大変楽しみだなー。
(画像は"ブルーピリオド"第2話より引用) pic.twitter.com/A22YYMgEtZ
あ、一年近く同じ部活で生真面目な資質、美術への熱意を浴びせ続けた結果、龍二との距離が穏やかに縮まって、”友達”といえる間合いに静かに変わっていたのも、今回描写された部分かな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
先輩やお母さんほど劇的じゃないが、こういう関わり方も人にはある。
その多彩と颯爽は、とても豊かなことだ。
追記 ”子路、君子を問う。子の曰わく、己れを脩めて以て敬す”
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
僕は森先輩と八虎の繋がり、その書き方がすごく好きなのだけど。
それは”敬”というものがなかなか変わってくれない自分を揺らし、動かしていくとても大きな力を持っていて、尊敬できる誰かを真似ることこそが、人間をより善くするほぼ唯一の方法だと考えているからかもしれない。
男女ながら恋とは違う温度で転がる日々には、ピン留めされたようにその一挙手一投足を追いかけてしまう”敬”がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
天使にウィンクされて動き出した、八虎の人生。
ぼんやりと突破できなかったものを、前に進めてくれた特別な出会い。
そこに芽生えた静かな熱が、ド素人に美術の腕力を付けていく。
そういう存在に出会える特別なありがたさというものを、八虎はないがしろに出来ない誠実な子で、その素直さがまた、彼を前に進めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月9日
人間が変わる行為が、どういう力学で動くか。
森先輩との日々は、それを的確にスケッチしているように感じられて、だから好きなのだろう。